アークによる舟体損耗の再現試験手法

 冬季の晴れた夜間には、トロリ線の表面に霜が発生することがあります。この区間を電車が走行すると、パンタグラフとトロリ線の間に霜が介在することでアークが多発し、特にパンタグラフが顕著な損傷を受けるため、鉄道事業者にとってトロリ線着霜は深刻な課題となっています。そこで、アークによる舟体損耗を定置で再現する試験手法を検討しました。

 電車走行時のアークを模擬するための試験装置を図1に示します。パンタグラフ総合試験装置の模擬架線の一部を銅からFRPに変え、一定周期で強制的に離線アークを発生させます。ただし、本装置の印加電圧はDC100Vと営業線に対して低いため、アークが消弧し易いことから、図2のような小型の縮尺舟体を新幹線用パンタグラフ枠組に設置しました。模擬架線の周速度を50km/h、模擬架線の左右動の動作範囲を片振幅100mm、電流400Aとして1分間通電したところ、舟体後縁部材の溶損防止剤より下の部位にアークスポットが観測されました(図3)。これは、現車でよく観測される現象と同じです。舟体の条件を変えて試験した結果(図4)、舟体の溶損防止剤高さが小さいほど、無次元化アークスポット数(アークスポット数/離線回数)が増加することが分かります。このように、溶損防止剤の形状とアークによる舟体の損耗との定性的な関係を定置で調査可能であることが分かりました。今後は印加電圧の増加などにより、アークによる舟体の損耗をより定量的に評価することを目指します。

  • 図1 アークによる舟体損耗を模擬する試験装置
    図1 アークによる舟体損耗を模擬する試験装置
  • 図2 縮尺舟体(左:外観 右:側面寸法)
    図2 縮尺舟体(左:外観 右:側面寸法)
  • 図3 観測されたアークスポット
    図3 観測されたアークスポット
  • 図4 舟体後縁部材板厚とアークスポット数の関係
    図4 舟体後縁部材板厚とアークスポット数の関係

(記事:集電力学  久家 広嗣)

両端の構造が異なる架線の温度変化による張力変動計算

 電気鉄道の架空電車線(以下、架線)の張力は、架線とパンタグラフが良好な接触状態を維持できる性能(集電性能)と密接なかかわりを持ちますが、外気温による線条の熱膨張の影響を受けて常に変動します。したがって、これまでにも温度変化による電車線張力計算法が提案されてきました1)。この計算方法は架線両端の張力調整装置やヨーク等の種類が一致している、すなわち構造が対称な架線を想定して架線の中央から半分のみのモデル化に基づいたものです。しかし、実際の設備ではトンネル区間と明かり区間をまたがる場合等に両端で構造が異なる(非対称)架線が見られます。そこで、このような架線にも対応できるよう計算手法を改良しましたので紹介します。

 明かり区間、トンネル区間をまたぐ架線の張力計算モデルを図1に示します。図1にあるようにトンネル内では位置により温度が異なるため(温度勾配)、今回の計算手法ではこの影響も考慮しました2)。外気温が変化すると、①熱膨張による線条の伸縮②ヨークの傾斜による張力分配③張力変動率(WTBとTTBで異なる)による張力変化④線条の伸縮による張力変動およびトロリ線の断面積変化による弾性伸びの変化が同時に作用します。実際の架線張力の計算は上記に関する連立方程式を立てて、数値計算等にて解くことができます。

  • 図1 電車線張力計算モデル
    図1 電車線張力計算モデル

 例えば、上記の連立方程式の一つに左右それぞれの伸び量ΔLの関係式があります。

  ΔLL = βRL・STL/STR・ΔLR

 ここで、β、STはそれぞれ張力調整装置の張力変動率、可動長、とし、添え字のL、Rはそれぞれ図1において左側、右側を差します。この式より、左右それぞれの伸びは張力調整装置の組み合わせによってその割合が決まることが分かります。例えば新3号-TTB-3の組み合わせならΔLL: ΔLR = 1.8:1となります。図2(a)に断面積変化や張力調整装置の組み合わせによる温度特性の違いを示します。(b)にはトンネル内温度勾配の有無による温度特性を示します。このようにWTBとTTBを同時に利用した場合の温度特性はそれぞれの張力調整装置の温度特性の中間となり、温度勾配がある場合は傾きが緩やかになります。

  • 図2 トロリ線張力の温度特性
    図2 トロリ線張力の温度特性

1) 鉄道総合技術研究所:電車線とパンタグラフ、研友社、pp.1-33~1-36、2009.11

2) 常本瑞樹、清水政利、齋藤寛之、梶山博司:温度変化やトロリ線摩耗が集電性能に与える影響、鉄道総研報告、Vol.29、No.12、2015.12

(記事:電車線構造  佐藤 宏紀)

電車線コネクタの耐疲労性評価マップ

 電車線コネクタのリード線は、列車通過時の架線振動で疲労損傷する場合があります。特にM-Tコネクタには2つの疲労要因があります。1つ目は「トロリ線とちょう架線の相対変位」です。図1に、ある営業線の架線振動変位とその相対変位、さらに、同架線振動をC型コネクタに与えた場合の推定ひずみ1)を示します。相対変位のピークでひずみが大きくなることがわかります。2つ目の要因は「共振」です。架線振動の振動数がコネクタの固有振動数と一致した場合、コネクタに共振が発生します。すると、列車通過後もコネクタの揺れが収まらず、大きなひずみが連続的に発生する恐れがあります。

  • 図1 架線振動波形およびコネクタ推定ひずみ波形
    図1 架線振動波形およびコネクタ推定ひずみ波形

 コネクタの耐疲労性向上には上述の疲労要因の評価および対策が必須です。従来、コネクタの振動耐久性評価はJISの振動試験に準拠してきましたが、これらはコネクタの動特性を考慮しておらず、耐疲労性を適切に評価しているとは言えませんでした。これまでの研究で、リード線(より線)を、それと同じ動特性をもつ仮想的な単線に置き換えて解析することにより、リード線のひずみ推定および固有振動数推定が可能となりました1)。そこでコネクタの2つの疲労要因に対する耐性を図示した耐疲労性評価マップ(図2)を作成し、これを用いたコネクタ選定手法を提案しました。

  • 図2 コネクタ耐疲労性評価マップ
    図2 コネクタ耐疲労性評価マップ

 マップの縦軸は、図2上部の各有限要素モデルに相対変位を与えた際に、リード線に生じるひずみです。安全側の評価を行うため、実架線で想定し得る中でも大きな40mmの相対変位としました。破線はリード線疲労試験から求めた疲労寿命200万回相当のひずみであり、破線以下のコネクタは相対変位に起因するひずみに対して十分な寿命を持ちます。

 マップの横軸は各モデルの固有振動数です。図中橙色の領域は、径間50mのシンプル架線直線区間、列車速度50~150km/hにおいて発生が推定される架線振動の振動数範囲を示しており、この領域内に位置するコネクタは同条件下で共振する恐れがあります。

 よって、マップ中の破線以下かつ橙色領域外に位置するコネクタは耐疲労性が高く、この条件を満たすコネクタを選定、あるいは設計することが疲労損傷対策に有効と考えられます。今回の例では、C型・高さ650mm(緑色、三角形)がそれに相当します。

 現在、上記条件を満たす耐疲労性の高い新型コネクタを試作し、フィールド試験を行っています。その詳細については、今後の電力ニュースでお知らせいたします。

(記事:集電管理  小原 拓也)

耐雷性に優れた新しいメッシュ接地の開発

 接地システムは雷対策における基礎技術です。変電所等の地上電力設備では、一般的に地中埋設のメッシュ接地(図1)が適用されます。近年の電力設備では、ME化配電盤やIP形遠方監視制御装置など、雷に対して脆弱な電子機器が一般化し、耐雷性向上が求められています。しかし、低周波(直流や商用周波)に最適化された従来のメッシュ接地は、高周波現象である雷に対しては、1μs程度の短時間における接地インピーダンスの過渡的上昇による雷撃点の過大な電位上昇や、メッシュ接地全体が十分に等電位化されないための機器間の大きな電位差発生など、雷特有の課題がありました。

  • 図1 従来のメッシュ接地の構造
    図1 従来のメッシュ接地の構造

 そこで、JR西日本殿と共同で図2に示す構造の新しいメッシュ接地を開発しました。従来は銅撚線やIV線を用いていた接地線(連接線と立ち上げ線)に裸の高周波電線(平編線など)を適用し、高周波でのインピーダンス低減を図りました(図3)。さらに、電圧伝達特性に優れた被覆線を並列し、高周波におけるメッシュ接地内の等電位化を図り、裸線と被覆線の長所を両立させました。

  • 図2 新しいメッシュ接地の構造
    図2 新しいメッシュ接地の構造
  • 図3 新しいメッシュ接地の開発コンセプト
    図3 新しいメッシュ接地の開発コンセプト

 新しい方式の導入効果を、鉄道設備内での現地試験で確認しました。従来方式で発生した、雷撃から1μs程度後の接地インピーダンスの過渡的な上昇が見られなくなり、ピーク値では約50%に低減できました(図4)。メッシュ接地内の電位差(図3の注入点と端部の間)も、ピーク値で約60%に低減されました(図5)。これらから、耐雷性は約2倍程度に向上すると想定されます。現在は、実用化に向け開発・試験を進めています。

  • 図4 接地インピーダンスの短時間過渡特性
    図4 接地インピーダンスの短時間過渡特性
  • 図5 メッシュ接地内電位差の短時間過渡特性
    図5 メッシュ接地内電位差の短時間過渡特性

(記事:き電  森田 岳)

トロリ線摩耗形態の見分け方と対策

 トロリ線の摩耗対策をする上で、注意しなければならないことがあります。それは、摩耗形態によってとるべき対策が異なることです。そのため、検測車などでトロリ線の摩耗が大きい箇所を見つけた時は、現地でトロリ線の摩耗形態を調査することで、対策の方針を立てやすくなります。

 トロリ線の摩耗形態は大きく「機械的摩耗形態」と「電気的摩耗形態」の2つに分類でき、摩耗面を観察することで比較的容易に判別できます。ここでは、摩耗面によるトロリ線摩耗形態の見分け方と、その対策について紹介します。

機械的摩耗形態

 機械的摩耗形態の摩耗面は、図1のようにトロリ線摩耗面が比較的平滑であり、しゅう動方向に線条痕が観察できます。この形態では、トロリ線とすり板の接点同士の機械的な結合(凝着)によって摩耗するため、凝着の抑制が摩耗対策となります。

 機械的摩耗の対策としては、架線の高さや偏位を適正化し、パンタグラフの過大な接触力を抑制することが挙げられます。これは、凝着の強さが接触力に比例するためです。またトロリ線の塗油や、パンタグラフの固形潤滑材併用、カーボン系すり板の適用など、接点同士を滑りやすくし、凝着を妨げることも有効です。

  • 図1 トロリ線摩耗面(機械的摩耗形態)
    図1 トロリ線摩耗面(機械的摩耗形態)

電気的摩耗形態

 電気的摩耗形態の摩耗面は、図2のようにトロリ線摩耗面が荒れ、クレーターのような凹部が多数確認できます。この形態は、トロリ線とパンタグラフの離線箇所で発生し、集電電流が大きいほど摩耗量は増加するため、離線の抑制が摩耗対策となります。

 電気的摩耗形態の対策としては、架線高さや硬点の適正化によるパンタグラフ接触力変動の抑制など,架線―パンタグラフ系の動特性を改善し、離線を低減することが挙げられます。設計では、張力T(N)とトロリ線の線密度ρ(kg/m)からC=(T/ρ)0.5で計算できるトロリ線の波動伝播速度C(m/s)を、走行速度の約1.4倍に保つことで離線を低減できます。また、パンタグラフの静押上力を大きくするなど、接触力の増加によって離線を抑制することも有効ですが、トロリ線の押上量やひずみへの影響を考慮する必要があります。

 複数のパンタグラフが搭載されている車両では、パンタグラフ間を高圧母線で接続することで、ひとつのパンタグラフが離線しても、離線したパンタグラフに発生するアーク放電を低減でき、電気的摩耗を低減できます。

  • 図2 トロリ線摩耗面(電気的摩耗形態)
    図2 トロリ線摩耗面(電気的摩耗形態)

(記事:集電管理  山下 主税)