電力ニュース

2017年12月号

地上用電力貯蔵装置の国際規格の概要

 近年、国内外において、省エネや停電時救済運転の目的で地上用電力貯蔵装置(ESS: Energy Storage System)が多く導入されています。国際電気標準会議(IEC)において、2017年1月にESSに関する国際規格IEC62924“Stationary energy storage system for DC traction systems”が発行されました。本規格は日本主導で審議を進めて発行されたIEC規格ですが、これは鉄道電力分野のIEC規格としては初の事例です。ここでは本規格に示されている評価、調査、設計、試験方法の一部について紹介します。
 ESSの基本構成は、図1のように定義されています。ESSは電池やキャパシタのような電力貯蔵ユニット(ESU:Energy Storage Unit)、ESUと直流き電回路間を接続する機器一式(ACTB:Apparatus for Connecting the ESU To the DC Bus)の2要素を共通構成としています。さらに電力変換装置(チョッパ)の有無による基本構成の違いも示されています。
 ESSの導入前調査として、設置場所や容量の決定、評価を行うために、き電回路のシミュレーションを行うことを原則としています。なお、現地に一時的に設置したESSから得られる測定データに基づいて決定することも認められています。また、き電高調波や信号/通信システムに与える影響については、シミュレーションもしくは現地測定で評価を行うことが規定されています。電力変換装置なしの場合でも、充放電時のき電回路の過渡現象が他システムに影響を与える可能性があるため、その影響に対する評価を実施することが必要とされています。
 ESSの性能上の要求事項として、負荷サイクルを設定することが規定されています。線区条件に対する典型的な負荷サイクルはサンプルとして本規格に例示されています。ESSの温度上昇試験や効率測定試験等の試験に関しては、設定した負荷サイクルに対して実施するものと定められています。
 本規格は海外に導入するESS向けへの活用が始まっていますが、今後はESSの国内規格(基準)にも反映されることが予想されます。ESSの新規導入を検討される際には、本規格の内容を参考に進めることが望ましいと考えます。

図1 ESSの基本構成

(記事:き電  小西 武史)

パンタグラフ高さによるパンタグラフ揚力の推定手法

 パンタグラフは鉄道車両の屋根上に設置され、高速の気流中にさらされる装置です。そのため、パンタグラフ周りの流れ場の影響によりパンタグラフには揚力が働き、その平均値は一般に流速の2乗に比例します。パンタグラフの揚力特性はパンタグラフの外形形状やリンク機構により決定され、適正な揚力特性となるようパンタグラフの外形形状が設計されています。しかし、パンタグラフすり板の摩耗による舟体断面形状の変化や、トンネル突入時などのパンタグラフ周りの流れ場の変化により、想定外の揚力が発生することがあります。過大な揚力はトロリ線に著大な応力や、押上量の超過などの現象を発生させ、揚力係数の過度の低下はパンタグラフとトロリ線の安定した接触状態を阻害し、最悪の場合はパンタグラフの降下などの現象を引き起こします。そのため、パンタグラフの揚力は集電性能を議論する上で非常に重要な値です。
 一方、現在の高速鉄道では空力騒音低減が重要な課題ですが、今後さらにパンタグラフ舟体の低騒音特性を重視した場合、舟体の揚力特性は一般に敏感になりがちです。そのため、さらなる高速化を目指す場合には、パンタグラフの揚力を逐次モニタリングし、安定化をはかるなどの対策が必要となる可能性があります。このためにはパンタグラフの揚力を何らかの手段で測定する必要がありますが、トロリ線としゅう動しているパンタグラフの揚力を測定するのは容易ではありません。これはパンタグラフの舟体に作用する揚力の反力がトロリ線から作用するため、見た目上キャンセルされ、舟体の支持部などでパンタグラフ舟体に作用する揚力が観測できないためです。これに対し、舟体内部のセンサと架線偏位の情報から舟体揚力を推定する手法や、電車線に取り付けたセンサからパンタグラフの揚力を推定する手法などが提案されていますが、前者は適用可能なパンタグラフ形式が限定されること、後者は地上設備で測定するため、パンタグラフの揚力特性の変化を離散点でしか検知できないという問題がありました。
 そのため、鉄道総研ではレーザー変位計や画像などで非加圧側から測定可能なパンタグラフの舟体高さ(以下、パンタグラフ高さとする)のデータから、パンタグラフの揚力を推定する手法について提案しています。本手法の大まかな流れを図1に示します。本図に示すように事前に当該線区の電車線とパンタグラフの条件で、パンタグラフの揚力係数を変更し、揚力係数毎に径間内のパンタグラフ高さの高低差(以下、パンタグラフ高さの差とする)に関するデータベースを作成しておきます。その後、実際の車両でパンタグラフ高さの差と列車速度を測定し、これらの信号と先のデータベースから当該パンタグラフの揚力係数を推定します。本手法を新幹線用パンタグラフの現車試験データに適用した結果を図2に示します。本結果から、風洞試験において揚力の異なる2つの条件のパンタグラフについて、パンタグラフ高さの差から各条件における揚力を推定できていることが確認できます。

図1 パンタグラフ揚力の推定法

図2 パンタグラフ揚力の推定結果

(記事:集電力学  臼田 隆之)

剛体電車線のしゅう動面の切削による波状摩耗対策

 剛体電車線は、摩耗管理等のメンテナンスを軽減できることや、トンネル断面を小さくできる等の特長があり、地下鉄やトンネル区間等で多く採用されています。しかしながら、電車線とパンタグラフ間の接触力変動が大きくなりやすいことから剛体電車線はカテナリ式と比較して波状摩耗が発生し易いといわれています(1)。波状摩耗がひとたび発生するとトロリ線やパンタグラフすり板の摩耗を進行させ集電性能に対して悪影響を及ぼしてしまいますので、これを抑制する必要があります。
 波状摩耗の発生を抑制して接触力変動を小さくするためには、しゅう動面の凹凸ができるだけ小さくなるように剛体電車線を架設することが有効です。剛体電車線におけるしゅう動面凹凸は、支持点間のたわみや、トロリ線のくせ、その他の微小凹凸などによって生じます。これらに対する対策として、剛体電車線を軽量で曲げ剛性が大きい形状とすることや、横巻トロリ線の採用等の凹凸低減対策の実施(2)などがあり、いずれも凹凸を軽減できることを確認しています。
 接触力変動は、しゅう動面凹凸の波長が短いほど大きな影響がある(3)ため、支持点間たわみ等の波長の長い凹凸だけではなく短波長の微小凹凸にも留意する必要がありますが、微小な凹凸に関しては、これを完全に除去をすることが容易ではありません。そこで、しゅう動面切削装置(4)を用いて剛体電車線のしゅう動面の微小凹凸を除去することを提案しています。
 しゅう動面切削装置は、高速で回転させた円形砥石をしゅう動面に押し当てることにより、しゅう動面を平滑化するものです。本装置を作業台車に搭載して速度3km/h程度で走行しながら切削を行います。このしゅう動面切削装置を用いることにより、新設・張替初期の微小凹凸や、既に発生している波状摩耗の除去が可能です。
 実際にしゅう動面の切削を実施している営業線では、波状摩耗対策として有効なことを確認しています。横巻トロリ線採用等のしゅう動面凹凸低減対策と併用すればより効果的です。なお、一度発生した波状摩耗を除去することはメンテナンスの面から効率的ではないため、新設・張替初期時にしゅう動面の切削を実施することがより効果的です。

図1 しゅう動面切削装置の外観

図2 切削前後のしゅう動面

参考文献:

(1)網干、他:剛体電車線における波状摩耗発生機構、電気学会論文集D126巻2号、pp.109~115、2006
(2)清水、他:剛体電車線のしゅう動面凹凸低減による波状摩耗対策、鉄道総研報告、20巻9号、pp35~40、2006
(3)網干、他:剛体電車線のしゅう動面凹凸とその低減手法、鉄道総研報告、25巻4号、pp.29~34、2011
(4)清水、他:剛体電車線の離線低減方法の開発、鉄道総研報告、16巻6号、pp.33~38、2002
(記事:電車線構造  佐藤 修平)

電車線コネクタの疲労対策

 これまでの研究により、電車線コネクタ、特にちょう架線とトロリ線を接続するMTコネクタの疲労要因を明らかにするとともに、その対策を行ってきました。ここでは、主要な疲労要因である「相対変位」と「共振」の簡易な対策について紹介します。
 相対変位とは、パンタグラフが通過する際のトロリ線押上量とちょう架線押上量の差です。JIS E 2002の振動耐久性試験は、20mmの相対変位を模擬しています。コネクタは相対変位が大きいほど大きな曲げ応力が作用するため、相対変位を小さくすることが疲労対策となります。
 図1に、径間内の相対変位をシミュレーションにより求めた結果を示します。ここでは在来線を想定し、架線の張力や線種を変更しています。この結果より、どのような張力や線種においても、径間内の支持点後方第2もしくは第3ハンガ位置において、相対変位が小さくなることがわかりました。一方、支持点近くはちょう架線の動きが制限されるため、相対変位が大きくなる傾向があります。
 共振は、コネクタの固有振動と電車線の振動数が一致したときに発生します。特に、振動が長時間持続する残留振動は、1~2Hzで振動するため、コネクタの固有振動数を1~2Hzから遠ざけることが必要です。
 図2に、コネクタの高さ(トロリ線イヤー部からちょう架線クランプまでの高さ)と固有振動数の関係を示します。一般的に使用されているJ型、S型、C型の固有振動数は、形状に依存せず、コネクタ高さに依存することがわかりました。また、コネクタ高さが増加すると、リード線の長さが増加し、固有振動数は小さくなることがわかります。コネクタ高さが約1500mmの場合には、架線の残留振動で共振する可能性があります。
 以上のことから、現場でコネクタの疲労損傷が発生している場合の簡易な対策を以下に挙げます。
 ・コネクタを径間内の支持点後方第2もしくは第3ハンガ近傍に設置し、相対変位を低減する。
 ・コネクタ高さが小さい位置に取付け、固有振動数を増加させ、共振を防ぐ。

図1 径間内の相対変位発生分布

図2 コネクタ高さと固有振動数の関係

(記事:集電管理  山下 主税)

GPSを活用した複数の変電所間における時刻同期電力測定

 き電研究室ではこれまでに、運転電力シミュレータの検証などを目的とした変電所電力の測定を行ってきました。このような目的で電力測定を行う場合、き電回路内の電力の流れを正確に把握する必要があることから、関係する変電所それぞれにおいて時刻と測定のタイミングを高精度に同期させることが求められます。そこで、汎用のGPS受信モジュールを活用することにより、距離の離れた複数の変電所間においても容易に同期測定を行うことができる手法を考案しました。
 図1に、本手法で用いる機器の構成を示します。使用したGPSモジュールはNMEA0183という規格に定められたフォーマットにしたがって緯度、経度、時刻などの情報を出力します。これらの情報はひとまとめに出力されるため、同期測定に必要な時刻情報のみをマイコンを用いて取り出し、伝送に適した信号に変換します(図1上段)。また、GPSモジュールからは1マイクロ秒程度の精度でGPS時刻に同期したロジック信号が出力されます(図1下段)。これら2種類の信号を、変電所の電力情報と合わせて測定器へ入力することで、距離が離れた複数の変電所間においても高い精度での同期測定が可能となります。
 図2に、試作した機器と出力される信号の例を示します。出力されるアナログ電圧信号は予め設定したパターンにしたがって電圧が変化します。このとき、10秒、1分、1時間などのタイミングで特異的な電圧を出力することにより、その後のデータ解析を容易にしています。
 また、GPSモジュールはGPS信号を受信しやすいように屋外や窓辺に設置する必要がありますが、測定器から100m程度までは離して設置可能であるため、本手法は比較的広い変電所においても適用可能です。

図1 汎用GPS受信モジュールを用いた時刻同期測定の機器構成

図2 試作した同期測定用機器と出力信号

参考文献:

今村、他:「汎用GPS受信モジュールを活用した変電所間時刻同期測定手法」、電学全大、5-144、2015
(記事:き電  佐藤 大記)