高靭性セメントボードを用いた高欄改修工法の開発

1.はじめに

 近年,老朽化した高架橋が増加し,高欄からのコンクリート片のはく落による第三者被害及び耐荷力の低下が問題となる場合があります.また,列車の高速化に伴い遮音性を高めるために高欄の嵩上げや補強が必要となる場合があります.そこで,高靭性セメントボードを用いた既設高欄の改修工法の開発を行いました.

2.高靭性セメントボードを用いた高欄改修工法の概要

 本工法で用いる高靭性セメントボードは薄肉・軽量でありながら,強度は,設計基準強度30N/mm2のコンクリートと比較して,曲げ強度で約8倍,圧縮強度で約3倍あります.また,劣化要因の浸入に対して高い遮断性が確認されています.
 本工法は,既設高欄を高靭性セメントボードで両面から挟み,貫通ボルトで固定することにより,既設高欄への劣化因子の浸入を抑制することができると考えられます(図1).さらに,基部にアンカーを接続することで,耐力の向上が期待できると考えられます.なお,嵩上げの高さは約1mまでを想定しています.
 従来,劣化した高欄の対策工法としては,既設高欄を全撤去した後に,新しい高欄を設置する方法が用いられてきました.これに対し本工法では,既設高欄を利用し,補修・補強を行うため,既設高欄の撤去・処分が不要となり,更に工期短縮により工事コストの削減が期待できます.

  • 図1  補修工法の概要
    図1  補修工法の概要

3.ボード間の継手構造の開発

 本工法では,ボード間の継手部はボルトで固定する必要があります.しかしながら,外側からボルトで固定すると振動などにより落下する可能性があると考えられるため,適切な継手構造の検討とともに,その耐力について確認する必要があります.そこで,セメントボードの継手構造を開発しました(図2).セメントボードを裏からボルトで止め,表面に出るボルトは施工後に切断する構造としました.また,継手部のボルト本数をパラメータとした試験を実施し,所定の耐力となるボルト本数を確認しました(図3).

  • 図2  継手構造
    図2  継手構造
  • 図3  継手の試験状況
    図3  継手の試験状況

4.付着面積減少の影響の確認

 本工法により補修を実施した後,高欄が再劣化すると,鉄筋腐食によるかぶりコンクリートのはく離はく落によって,セメントボードと既設高欄の付着面積が減少し,補強効果が低下する可能性が考えられます.高欄を補修後に適切な維持管理をするためにも,どの程度の耐力が低下するのか確認が必要です.そこで,付着面積減少による耐力確認実験を行いました.高靭性セメントボードと既設高欄の付着面積をパラメータとし,付着面積の減少率を0%,20%,40%,60%の4体としました.試験体製作時に発泡スチロールを設置し,セメントボードと既設高欄を模擬したRC部材の付着が部分的に無くなるように試験体を製作しました(図4).
 付着面積減少率が40%以下の場合には耐力減少は少なく,半分程度付着面積が減少するほど大きく再劣化が進行した場合でも十分な耐力があることを確認しました(図5).

  • 図4  付着面積減少の試験体概要例(付着面積減少40%)
    図4  付着面積減少の試験体概要例(付着面積減少40%)
  • 図5  荷重変位関係
    図5  荷重変位関係

5.実物大試験

 水平力がほとんど無いブロック高欄モデルを用いて実物大試験を実施し,嵩上げ部,ボード間の継手部,高欄基部(ボード下端の床版への固定部)など,いずれの部位においても,概ね想定した計算値と一致しており,設計荷重に対しても十分な耐力を有しいていることを確認しています(図6).例えば,高欄基部の耐力は,風速50m/s相当の設計荷重(16kN)に対して,約2倍(35kN)あることを確認しました.

  • 図6  実物大試験状況
    図6  実物大試験状況

6.おわりに

 高靭性セメントボードを用いた補修・補強工法を提案し,継手構造や再劣化が耐力に及ぼす影響について検討しました.また,実物大試験から耐力の向上を確認しています.
 これらの成果に基づき,「高靭性セメントボードを用いた既存鉄道高欄等の補修工法に関する設計・施工指針」を作成しました.
 現在,本工法は,ラーメン高架橋の高欄の改修・嵩上げ工事に適用されおり,良好に施工できることを確認しています(図7).

  • 図7  ラーメン高架橋の高欄での施工例
    図7  ラーメン高架橋の高欄での施工例

(記事:轟俊太朗)

レールガス圧接における信頼性向上手法

1.はじめに

 レールガス圧接法は,酸素アセチレン炎でレール突合わせ部を加熱し,所定の圧縮量を得て接合する手法であり,主要なレール溶接法として適用されています.しかしながら,加熱作業が大気中で行われるため,接合端面が酸化して生成する酸化介在物が接合阻害因子となり,実用上問題となる欠陥の発生につながります.
 以上を鑑み,丸棒形状材を用いた基礎試験により,圧接条件が酸化介在物量に及ぼす影響を明らかにし,酸化介在物を低減する上でより有効な燃焼・加圧パターンについて検討しました.ここでは,その結果概要を報告します.

2.ガス圧接条件の酸化介在物存在量に及ぼす影響

 ガス圧接作業工程では,突合せ部密着後の接合界面に新たな酸化介在物は生成しないため,圧接終了後に残存する酸化介在物量は,突合せ部密着直後の酸化介在物存在量に依存します.そこで,JIS60kg普通レールから切出したφ50mm丸棒形状材を接合対象とした基礎試験(図1)を実施し,突合せ部密着後の酸化介在物存在量に及ぼす燃焼条件および加圧条件の影響を調べました.その結果,突合せ部密着前の過程において,「ガス容積比(酸素供給量に対するアセチレン供給量の比であり,従来の圧接条件では1.05程度)が1.2程度の強還元炎を適用する」とともに,「加圧力を従来条件より低下させる」ことが酸化介在物低減に有効であることがわかりました.

  • 図1  基礎試験状況
    図1  基礎試験状況

3.適正な燃焼・加圧パターンの検討

 基礎試験の結果より,「ガス容積比の増大」および「加圧力の低下」が酸化介在物低減に有効であると判断されました.しかしながら,ガス容積比を従来の1.05から1.2に高めた場合,加熱変形開始以降の膨らみの形成に伴い部材表面が過剰溶融することがわかりました.一方,ガス圧接作業工程の突合せ部密着後の過程では,新たな酸化介在物は生成しないため,突合せ部密着後に従来の弱還元炎に切り替えても,酸化介在物量は増大しないと考えられます.よって,酸化介在物低減と作業性確保を両立させる観点から,圧接初期過程において強還元炎を適用し,突合せ部密着後,ガス容積比を低下させる「燃焼パターン」が望ましいと判断しました.
 また,加圧力を低下させた場合も,目標圧縮量への到達時間(加熱時間)が延伸するため,圧接終盤過程においてレール表面が過剰溶融する可能性が高まります.したがって,突合せ部密着後は加圧力を従来レベルまで上昇させる「加圧パターン」で,速やかに加熱変形を進行させることが望ましいと考えました.以上の検討結果から提案される燃焼・加圧パターンの模式図を図2に示します.

  • 図2  提案した燃焼・加圧パターン
    図2  提案した燃焼・加圧パターン

4.提案した燃焼・加圧パターンのレールガス圧接への適用

 提案した燃焼・加圧パターンの有効性を確認するため,難圧接材であるベイナイトレールを接合対象としたガス圧接試験を実施しました.ベイナイトレールは,従来の普通レールおよび熱処理レール(HHレール)に比べ,酸化介在物の分解に寄与する炭素(C)の含有量が低く,さらに圧接性を低下させるクロム(Cr)およびモリブデン(Mo)が合金元素として添加されています.本試験では,表1に示した従来のHHレールガス圧接条件(従来条件と称す),および提案した燃焼・加圧パターンに基づいて設定した圧接条件(提案条件と称す)で試験体を作製し,磁粉探傷試験により欠陥の発生状況を調査しました.レールガス圧接作業では,接合状態が粗悪な場合,接合界面が膨らみ押抜きせん断時に発生する応力に耐えきれず割れ(押抜き割れ)が生じるため,磁粉探傷試験により欠陥磁粉模様が検出されます.なお,提案条件では,レール表面の過剰溶融による作業性低下を回避するため,強還元炎の適用を加熱開始後2minに制限し,それ以降段階的にガス容積比を下げる燃焼パターンとしました.
 作製した試験体の磁粉探傷試験の結果,従来条件では,レール頭部コーナー部および腹部に欠陥磁粉模様が認められ,良好な接合が達成されていないことが示唆されました.一方,提案条件で作製した試験体では,レール腹部において欠陥磁粉模様は検出されませんでしたが,レール頭部には従来条件による試験体同様,欠陥磁粉模様が認められました.図3に,頭部コーナー部の欠陥磁粉模様の例を示します.すなわち,提案条件の適用により押抜き割れの発生領域が狭小化する傾向が認められましたが,完全抑制には至りませんでした.
 なお,押抜き割れの完全抑制に至らない要因について考察した結果,現行のレールガス圧接作業では高精度の端面研削作業が実施されているため,突合せ部の隙間が小さく,燃焼炎の突合せ部への進入が不十分となり,強還元炎適用による接合端面への炭素供給量増大効果が最大限発揮されていないと推察されました.そこで,燃焼炎の接合端面への進入程度を高める目的から,欠陥磁粉模様が認められたコーナー部から頭側面にかけての部位にV形隙間(図4)を設置し,同提案条件により試験体を作製しました.この隙間設置の結果,レール頭部領域を含め,当試験体には欠陥磁粉模様が認められず,レール全断面において実用上問題のない接合状態が達成されていると判断されました.

  • 表1  レールガス圧接試験での圧接条件
    表1  レールガス圧接試験での圧接条件
  • 図3  磁粉探傷試験における欠陥磁粉模様(従来条件による試験体)
    図3  磁粉探傷試験における欠陥
    磁粉模様(従来条件による試験体)
  • 図4  隙間設置状況
    図4  隙間設置状況

5.おわりに

 レールガス圧接部の信頼性を向上させるため,接合界面の酸化介在物をより効果的に低減し得る燃焼・加圧パターンについて検討し,有効と判断される接合条件を提案しました.ただし,当提案条件の効果を最大限引き出すには,突合せ部に燃焼炎の進入経路となる適度な隙間の設置が必要となります.

(記事:山本隆一)

対策の意思決定支援を目的とした落石リスク評価方法

1.はじめに

 斜面防災対策の実施優先順位や方法は,斜面・岩塊の崩壊・崩落危険度を把握したうえで,線区の重要度などを勘案し,経験的に決定されているのが現状です.そこで本稿では,主な斜面災害のひとつである落石を対象として,災害の危険性をリスクとして算出し,定量的な指標をもとに防災対策の意思決定を支援する方法について紹介します.

2.落石災害リスクの算出方法

 落石災害リスクR(円/年)は,一般的なリスク算出の考え方に沿って,落石により起こりうる事象の発生頻度期待値(年間あたりの発生回数)Pi(回/年)とその事象によって生じる損失Ci(円/回)とを乗じて,これらをすべて足し合わせる(R=Σ(Pi×Ci))ことで算出します.ここで,落石による鉄道への被害は,①斜面上方から岩塊が落下し,②この岩塊が線路まで到達し,③線路を支障する,または,落石が走行中の列車を直撃するか,線路上の落石に列車が衝突することによって発生します.これを考慮してイベントツリー形式で落石発生時に想定される事象を10事象に場合分けしました.これを考慮した各事象の発生頻度期待値と損失および落石災害リスクとの関係を図1に示します.
 事象ごとの発生頻度期待値Piは,図1に示すとおり,落石発生頻度期待値や線路到達確率などから算出します.事象ごとに生じる損失Ciには多くのものが考えられ,すべてを網羅することは困難です.このため,何を考慮すべきかを考える必要があります.ここでは,例として損失に占める割合が比較的大きな項目である応急復旧費,社会的影響,営業損失費の3項目を考えます.
 なお,具体的な落石災害リスクの算出方法については,文献1)を参照して下さい.

  • 図1  各事象の発生頻度期待値と損失および落石災害リスクとの関係
    図1  各事象の発生頻度期待値と損失および落石災害リスクとの関係

3.リスク評価結果の利用方法

 様々な岩塊同士の落石災害危険性を定量的に比較する場合において,a)落石発生時に想定される事象のうち,被害が生じる事象の発生頻度期待値(前述したPiから算出)を用いる場合と,b)落石災害リスクを用いる場合とが考えられます.ここでは,仮想した条件で試計算を実施した結果をもとに,防災対策の意思決定を支援する方法を概略的に説明します.

(1)被害の発生頻度期待値算出結果

 試計算の概略的な条件を図2に示します.この条件から落石発生時に想定される事象ごとの発生頻度期待値を算出し,図1より鉄道に少しでも被害が生じる頻度期待値の合計値(全被害の発生頻度期待値とよびます)と脱線する被害が生じる事象の合計値(脱線被害の発生頻度期待値とよびます)を求めた結果を表1に示します.
 このように,被害の発生頻度期待値は,落石による被害の危険性が定量的に把握できるため,防災対策の優先順位判断の指標となります.なお,被害発生時の損失も考慮した指標であるリスクを用いた方が,様々な線区に様々な岩塊が存在する場合における防災対策の優先順位は決定しやすくなります.しかし,対象岩塊や線区によっては損失の設定が難しいことが想定されますので,このような場合には被害の発生頻度期待値を算出することが有用となります.

  • 図2  試計算の条件
    図2  試計算の条件
  • 表1  発生頻度期待値算出結果の例
    表1  発生頻度期待値算出結果の例

(2)リスクの算出結果

 対策を施す前のリスク(現状リスクRとよびます)算出結果を図3に示します.この図をもとに,リスクの高いものから順に対策を実施するという考え方に沿えば,定量的に防災対策の優先順位を決定することが可能となります.
 試計算で設定した対策案を図4に,対策を施した後のリスク(対策後リスクR'とよびます)の算出結果を図5に示します.なお,この図には現状リスクRと対策後リスクR'から算出したリスク低減効果ΔB(=RR')と,リスク低減効果ΔBを対策費用CTで除した値を費用対効果Xと定義して求めた結果も示しました.対策方法決定の考え方として,ⅰ)リスク低減効果ΔBが高い対策を優先する,ⅱ)費用対効果Xが高い対策を優先する,ことが挙げられます.上記ⅰ)の場合は対策案a,上記ⅱ)の場合は対策案bと定量的に決定できます.
 以上に示すとおり,現状リスクと対策後リスクを算出することで,防災対策の優先順位や方法を定量的に示すことができるため,本手法を利用すれば防災対策の意思決定を支援することが可能となります.

  • 図3  現状リスクの算出結果例
    図3  現状リスクの算出結果例
  • 図4  対策案
    図4  対策案
  • 図5  対策後リスクの算出結果例
    図5  対策後リスクの算出結果例

4.おわりに

 本稿では落石災害に対するリスク評価方法を示し,評価結果を利用した防災対策の意思決定支援方法を紹介しました.本方法は,比較的簡易な現地調査結果やデータ整理結果からリスクが算出可能ですので,実務でも容易に適用できると考えています.なお,降雨時の土砂崩壊を対象としたリスク評価方法は,施設研究ニュースNo.229等で紹介しています.そちらも参考にして頂けたら幸いです.

参考文献

1)布川修,高馬太一,杉山友康:落石対策の意思決定支援手法,鉄道総研報告,Vol.25,No.7,2011.7

(記事:布川 修)