施設研究ニュースは，鉄道総研の施設関連の部・研究室の技術的成果などを，JR 各社の皆様にタイ ムリーに分かりやすくお伝えすることを目的として発行しております。また，読者の皆様にさらに充 実した情報をお届けできるように，随時改善を図っております。今後とも，施設研究ニュースをよろ しくお願いします。
　さて今月号は，毎年恒例ではございますが，施設関連の各部・各研究室における今年度の研究開発 計画をご紹介します。

　構造物技術研究部は，コンクリート構造，鋼・複合構造，基礎・土構造，トンネル，建築，耐震構 造の６つの研究室から成り，構造物に関する研究開発業務，コンサルティング業務，受託業務を行っ ております。職員46 名，出向受入者24 名の総勢70 名（博士27 名，技術士30 名，一級建築士4 名） の部員構成です。当研究部では，大型振動試験装置，トンネル覆工載荷試験装置，駅シミュレータな ど，特徴ある大型試験装置を数多く所有しております。また，JR-SNAP やVepp などの設計プログラム， 旅客流動シミュレータや地震動予測シミュレータなど，高度な解析ツールの開発も行っております。 当研究部では主として，「技術基準整備」，「耐震化技術」，「延命化技術」，「環境評価技術」に関する 研究開発に取り組んでおります。このうち「技術基準整備」に関しては，今年1 月に基礎標準，土留 め標準が刊行されたのに引き続き，既に改訂の準備が整っていた耐震設計標準についても，地震後に おける検証を目的に設営された耐震基準検討委員会が今年3 月に終了したのを受け，10 月を目指して 発刊や講習会開催に向けた作業を進める予定にしております。
　最近，勢力的に研究開発を進めてきた「老朽鋼桁・橋台・盛土一体化工法」については，昨年度， 実物大試験橋梁の水平交番載荷試験を実施し，実用化に向けた一連の研究が終了したことから，今年 度は実現場において使って頂けることを目指します。また，東北地方太平洋沖地震の発生に鑑み，津 波に対して粘り強い構造物の開発を今年から新たに行うとともに，近々の発生が予想される首都圏直 下地震などを視野に入れ，制振・免震技術，電化線柱や駅舎など付帯構造物の安全性向上策などにつ いて，鋭意，研究開発を進める予定にしております。
　以上，部員一丸となって鉄道の安全性向上，技術の発展のために努力する所存でございます。今後 とも，ご指導，ご鞭撻のほどよろしくお願いします。

　軌道技術研究部は，部長1 名，部付4 名，軌道構造 15 名，軌道・路盤 6 名，軌道管理 9 名，レ ール溶接 5 名の 4 研究室・計 39 名（出向受 13 名及び兼務4 名〔うち部内兼務1 名〕を含む。）体 制で，軌道技術に関する研究開発を進めています。今年度もよろしくお願いします。
　平成 24 年度の重点実施テーマとしては，昨年2012 年度に通達された軌道構造設計標準に基づく各 種研究開発等を推進するとともに，基礎研究に軸足を置いた活動を進めていきたいと考えています。 以下に，具体的な内容を紹介します。

（１）軌道構造設計標準の普及

　2011 年12 月に通達された軌道構造設計標準は，性能照査型設計法を採用しています。軌道技術研究 部で実施している様々な軌道構造・軌道部材等の開発においてもこの性能照査型設計法を取り入れ， 合理的な設計を行うとともに設計標準普及の一助にしたいと考えています。

（２）基礎研究の推進

　新たに「高繰り返し数領域のレール寿命の評価」，「座屈発生点を考慮したロングレールの座屈安定 性の評価」の２つの基礎テーマを設定し，現象解明と評価モデルの精度向上に努めます。

（３）国際化への対応

　ヨーロッパを中心に活発化している鉄道の国際規格制定を念頭に，軌道に関する海外規格の情報を 収集し，今後の対応を検討します。

　防災技術研究部は，雨，風，雪，地震などに起因する自然災害の防止・減災を目的とした研究開発 と，地盤，地質などに関わる調査・評価技術や列車走行に伴う地盤振動などに関する研究開発を行って，JR 各社をはじめとする鉄道事業者の業務に役立つ成果の提供に努めていきます。
　当部は、研究部と気象防災研究室、地盤防災研究室、地質研究室、地震防災研究室の4研究室から構成されています。
　将来指向課題「気象災害に対する安全性向上」は5 年計画の中間年にあたります。これに関係するテーマ「局地気象数値シミュレーションモデルの開発」と「降雨による災害の発災ポテンシャル評価モデル」については，最重要課題として進めるとともに，今年度新たに「災害ハザードマッピング技術の開発をスタートさせました。さまざまな災害の現象解明をすすめ，被災形態の予測に基づくハザードマップ作成ツールを提案したいと考えています。この他に，防災技術研究部主管として14 件の研究開発テーマを設定していますが，これまで鉄道総研では取り組むことのなかった津波関連のテーマについても2 件設定し，基礎的な検討を行うこととしました。
　こうした研究開発のほか，災害時の復旧支援等コンサルティング業務や受託研究等のご依頼に対しても迅速・的確にお応えし，皆様のお役にたてるよう研究部一丸となって努力していきます。今年度もご指導，ご協力のほどよろしくお願いします。

　コンクリート構造研究室では，橋りょう，高架橋をはじめとする各種コンクリート構造物の設計， 施工および維持管理に関する研究開発を担当しています。

（１）技術基準の整備

　「鉄道構造物等設計標準」のうちコンクリート構造物に関連する技術基準類について，関連研究室 と協力して基準ならびにマニュアル類等の整備を行っていきます。鉄筋コンクリート桁の設計法の検 討および鋼とコンクリートの複合構造物設計標準の改訂を実施しています。

（２）研究開発

　コンクリート構造物の維持管理および設計に関する研究を，関連研究室と連携しながら実施してい ます。維持管理に関する研究としては，コンクリート構造物の変状予測，モニタリング技術，リニュ ーアル技術および耐震対策の研究開発を進めていきます。設計に関する研究としては，各種コンクリ ート部材の設計合理化や初期ひび割れ対策の研究を実施します。また，コンクリート構造物の設計や 維持管理に用いるシミュレーションツールの開発を実施しています。
　なお，既設構造物の変状調査，耐震診断，補修，補強，改良ならびに新設構造物の設計，施工に関 する受託，コンサルティング業務を，現場のご要望に応じて随時実施しています。

　鋼・複合構造研究室では鋼構造物および鋼とコンクリートの複合構造物の設計，施工，維持管理に 関する研究開発を担当しています。本年度は以下のような課題を中心に研究開発に取り組んでいきま す。

（１）技術基準の整備

　「鉄道構造物等設計標準」のうち鋼・複合構造に関連する技術基準類について，関連研究室と協力 して技術基準ならびにマニュアル類等の整備を行っています。本年度は「鉄道構造物等設計標準（鋼 とコンクリートの複合構造物）」の改定作業を継続して進める予定です。

（２）研究開発

　鋼・複合構造物の低コスト化，省力化，合理化，延命化などをキーワードとして，既設鋼構造物の 耐震評価と耐震補強に関する検討，複合構造物の設計に関する検討，および，既設鋼橋の維持管理に 関する検討等を進めていきます。
　この他，現場のニーズに沿ったコンサルタント，受託業務等も実施しています。国鉄時代からの鋼 鉄道橋の図面を一式取り揃えておりますので維持管理や設計の際に参考としてご利用ください。

　基礎・土構造研究室は，地盤もしくは地盤と接する鉄道構造物の調査・設計・施工・維持管理に関 わるコンサルティング，技術基準の整備や研究開発を担当し，地盤工学に精通した専門家16 名（工学 博士6 名，技術士8 名）で構成されます。以下に今年度の主な目標を紹介します。

（１）技術基準

　昨年12 月に国土交通省鉄道局より「基礎標準」，「土留め標準」が通達されました。平成24 年度中 の本格運用に向け，手引き・計算例の整備を行い，設計標準の普及・技術支援を行います。また，既 設土留め擁壁の診断技術・補修技術の向上を目的としてスタートした，「既設土留め擁壁の維持管理に 関する委員会」はマニュアルを作成し，今年度末のとりまとめを目指します。

（２）研究開発テーマ

　当研究室は14 テーマを主務研究室として，11 テーマを関連研究室として担当します。今年度は，「高 架構造物の状態監視手法に関する基礎的研究」，「補強土を用いた新設インテグラル橋梁の開発」につ いて重点的に研究を行う予定です。また，新たにスタートさせた液状化抵抗・トンネル路盤や護岸の 健全度・軟弱地盤上の腹付盛土・補強土構造物の津波抵抗性に関する研究（5 テーマ）も推進する予定 です。

　トンネル研究室では，鉄道トンネルの建設・保守技術に関する研究開発に取り組んでいます。今年 度は，次のような活動を中心に進めていきます。

（１）技術基準類の整備

　トンネルに関する将来の技術基準整備のあり方について，更に検討します。

（２）研究開発テーマの推進

　鉄道トンネルの延命化，リニューアル，建設技術に関して，下記のテーマを実施します。
　　①国交省補助金を受けて将来指向課題「地下駅空間の大規模リニューアル技術」の開発を進めます。
　　②シールドトンネルについて，「縦断方向に特異点を有する挙動解析法」の研究に着手します。
　　③山岳トンネルについて，「覆工の大変形領域における挙動評価法」を開発します。
　　④線路下横断工について，「函体推進に伴う軌道変位抑制法」の開発に着手します。
　なお，整備新幹線トンネルの設計・施工法や，既設トンネルの健全度評価と対策，近接施工対策， 地震対策，地盤振動対策，更には線路下横断工の設計・施工法など，トンネルの建設・保守技術に関 する様々な問題について，受託・コンサルティングを実施しています。

鉄道建築分野の計画・構造・環境に関する技術開発に取り組み，鉄道システムの利便性・快適性， 安全性，経済性の向上を目指しています。本年度は，平成22 年度から始まった「鉄道の将来に向けた 研究開発」のうち，交通結節点の移動円滑化，駅施設のリニューアル技術および地震対策等に関する 研究を積極的に推進します。また，駅空間を対象とした安全性や快適性の既往の評価技術を活用し、 鉄道車両における避難安全性および快適性評価に関わる課題にも取り組んでいきます。

【旅客サービス分野】

　駅構内にある監視カメラ画像から駅構内の旅客分布をリアルタイムに推定する ための手法を開発します。

【安全分野】

　鉄道建築物の地震対策では，振動制御手法を用いた耐震性向上技術の開発や，線路上空 建築物に鋼管群杭を用いる場合の設計手法を開発します。また，非常時のトンネル内車両からの避難 行動特性の検討を開始します。

【環境分野】

　ホーム空間の快適性・安全性向上を目指したシェルター型上家の開発を開始します。ま た，列車走行に伴う地盤振動シミュレーション技術の深度化および通勤車両の温熱環境評価に関する 検討を行います。

　さらに，建築研究室の保有技術の展開を，コンサルや受託等により積極的に図っていきます。

　耐震構造研究室では，鉄道の地震時安全性向上に関わる様々な課題に取り組んでいます。昨年は東北 地震太平洋沖地震への対応に全力を注ぎましたが，本年度は，シミュレーション技術の高度化と現象解 明，地震リスク評価技術とその応用，耐震設計法と地震対策技術の開発を中心に取り組んでいます。

（１）耐震に関する技術基準の整備

　「鉄道構造物等設計標準（耐震設計編）」については，東北地方太平洋沖地震に対する検証作業を終 え，現在は発刊に向けての準備を行っています。また，新しい耐震標準の普及および設計業務の円滑 な移行を図るために，計算例や耐震設計プログラムの開発等も進めています。

（２）研究開発テーマ

　2 つの将来指向課題「地震に対する安全性向上」および「「鉄道シミュレータのコアシステムの設計・ 開発」を中心に取組んでいきます。
　地震に対する安全性向上では，構造物の残存耐力の評価方法の構築や既存の枠に捉われない構造物 の地震対策法に関する研究を進めます。
　鉄道シミュレータについては，路線全体を対象とした大規模地震災害シミュレータの開発を目指し ており，今年度は自動モデリング機能の開発に力を注ぎます。また，3 月から構造物の高密度地震観測 システムが稼働し，データの収集と研究への反映を行います。
　耐震構造研究室では，これらの研究成果を通して我が国の鉄道の地震時安全性向上のために，研究 室一丸となって貢献して行きたいと思います。

　軌道構造研究室は，レール，接着絶縁レール，レール締結装置，分岐器，伸縮継目などの軌道材料 やロングレールの座屈安定性評価に関する研究・開発，軌道構造関係のコンサルティングおよび受託 業務などを担当しています。今年度は，以下の課題について実施します。
　新幹線脱線対策技術の開発については，昨年度に引き続き研究室の重点課題として取り組む予定で す。分岐器関係では，トングレール摩耗、マンガンクロッシング劣化状態のモニタリングに関する研 究，現行の新幹線用マンガン鋼製ノーズ可動クロッシングと互換性のあるレール鋼製ノーズ可動クロ ッシングの構造検討，分岐器の弾性化に関するツールの開発と支持条件の検討を行います。レール関 係では，レール防食工法について弱点箇所となりやすいレール締結部に着目し適切な室内試験方法の 検討および腐食工法の開発・評価，錆び肌レールの高繰返し数領域の疲労試験データの取得や横圧， 浮きまくらぎ等の影響を適切に考慮した精度の高い寿命推定を行います。レール締結装置関係では， 塑性域で使用する線ばね形レール締結装置の疲労設計手法の開発および設計・評価指針の検討による 最適化，本設利用工事桁に適用するレール締結装置，締結間隔，前後構造等新たな軌道構造としての 仕様決定の提案を行います。この他，最低座屈強さ座屈発生点を加味し座屈管理の基準の緩和の可能 性を検討します。
　このように軌道構造研究室では軌道の部材に関することやロングレール等構造に関する研究・開発 を行っています。ご相談等ございましたらお気軽にご連絡ください。

軌道・路盤研究室は，スラブ軌道等の直結系軌道やバラスト軌道，および路盤・路床等の列車荷重 が影響する土構造物等を担当しています。今年度は，以下の課題を中心に研究開発に取り組みます。

【直結系軌道】

・CA モルタルや突起コンクリートが劣化した既設スラブ軌道の補修・補強対策の開発
・既設バラスト軌道分岐器のバラストレス化の開発

【バラスト軌道】

・耐震性と省保守性に優れた「プレストレスト・バラスト軌道」の開発
・浮まくらぎを簡易に防止できる「自動沈下補正まくらぎ」の開発
・地震時のバラスト軌道の挙動に関する基礎的検討
・道床突固め作業後のまくらぎ支持剛性の簡易な評価手法の開発

【路盤・路床】

・発生土を有効活用する，新しい路盤改良工法の開発

【モニタリング】

・軌道の沈下や振動を簡易に常時監視する，「軌道状態常時監視システム」の開発
軌道や路盤等に関するご相談等がございましたら，お気軽にご連絡ください。

　軌道管理研究室は，「車両が軌道上を走行した際に発生する現象の把握・予測・改善」をキーワード に，レール表面の微細な凹凸から波長100m 程度までの軌道変位（軌道狂い）の測定（See），評価（Think）， 保守計画（Plan），保守作業（Do）に関わる研究開発を担当しています。
　今年度は，以下のテーマについて重点的に実施する予定です。

（１）軌道検測の高頻度化に対応した軌道の保守・管理手法

　今後，営業車等を活用した軌道検測が普及すると，検測頻度が大幅に増えるため，従来の軌道変位 管理や検査体系が大きく変わる可能性があります。そこで，大量の検測データを適切に処理，活用す ることで，検測から保守までの管理サイクルを再構築し，安全性，経済性，効率性の向上を図ること を目的として，高頻度検測データの有効な活用法と保守計画法，計画支援システムを開発します。

（２）軌道状態のモニタリング

　軌道状態のモニタリング技術については，分岐器トングレール摩耗の車上モニタリング装置の開発 を行います。また，軸箱加速度や波状摩耗測定装置，簡易型軌道検測装置等を用いた材料及び軌道変 位の各状態のモニタリングシステムの実用化を進めます。

（３）その他の研究開発等

　レール形状が車両の走行特性に及ぼす影響を評価して，適切なレール形状を提案します。また，軌 間変換電車の開発のための軌道状態評価，地上設備の開発等を行います。更に，昨年12 月に制定され た軌道構造設計標準に基づく軌道の設計法の普及に努めます。

　レール溶接研究室は，ロングレール化に必須のレール溶接技術，レール損傷部に対する補修溶接技術， レールおよびレール溶接部の探傷検査に関する技術分野を担当しています。主に溶接を専門とする材料 系のメンバーで構成しており，今年度は，昨年度に引き続いて以下の研究テーマを実施します。

（1）現行のレール溶接施工法の問題点の解消および施工法の改良

　テルミット溶接における外観きずの発生原因を明らかにし，再溶接される溶接部の減少を目的に，段 差レールの施工法について提案します。昨年度の検討では，段差モールドの使用が有効であることを確 認し。引き続ききず発生に及ぼす溶接条件の影響について検証します。また，変圧法によるレールガス 圧接法の改良では，ベイナイトレールに試行した結果，33mmの圧縮量においても磁粉きずが解消できる 見込みが得られました。さらに，押抜きせん断による磁粉きずの発生原因を明確にする予定です.

（2）レール頭部損傷部の補修溶接技術の開発

　レールシェリングを対象として，テルミット溶接技術を用いた頭部補修溶接技術の開発を進めていま す。モールドおよび注湯方法の変更によって,補修金属の溶込み量を均一にすべく検討を重ねています。
　その他，レール溶接技術者の技量検定試験，各種講習会を通じてのレール溶接技術の維持・向上のた めの技術支援，レール溶接部の損傷原因調査等，コンサルティング業務も積極的に行います。レール溶 接およびレール探傷に関する疑問や問題があれば，当研究室にご相談ください。

気象防災研究室では，主として風災害，雪氷害等の気象災害に関する研究開発を行っています。今 年度については，気象災害全般に関わる課題1 件，風災害関係3 件，雪氷害関係2 件，津波関係1 件 の研究開発テーマに取り組みます。まず，気象災害関係の課題として風向，風速，降雪，気温，降雨 などの自然外力情報の面的推定精度の向上を目的として，気象の局所性や突発性を再現できる数値シ ミュレーションモデルの開発に向けた研究をすすめます。風災害関係の課題では，局地風発生域にお ける強風観測や事例解析を行い，局地風を再現可能な数値シミュレーションモデルの構築を目指しま す。また，強風時の車両の安全性評価手法のさらなる精緻化を目指し，左右振動加速度や外力情報と して風向を考慮する方法について検討をすすめます。雪氷害関係の課題として，日々の気象データか ら全層雪崩の予兆現象である斜面積雪のグライド（滑動）量の推定モデルを開発することを目的とし， 融雪量やグライド量の実測データの解析に取り組んでいます。また，鉄道沿線の雪害リスクを分析・ 評価するうえで必要となる降雪分布の推定手法の構築を目指した課題に着手しました。さらに，震災 後の新たな取り組みとして，津波発生時の減災に関する課題として，鉄道を対象とした津波ハザード マップ作成手法の確立を目指したテーマに着手しました。研究テーマ以外でも，雪や風に起因する災 害調査や防止に関するコンサルティング業務や受託研究を行っており，特に新潟県南魚沼市にある塩 沢雪害防止実験所では，低温実験室や排雪走行試験装置などの試験設備を用いて，雪の舞上り試験， 架線着霜の再現試験等の依頼試験も行っています。

地盤防災研究室では，主として斜面災害や河川災害に関する研究，土構造物（盛土・切土）や河川 構造物の維持管理技術に関する研究開発などを進めています。
　今年度実施する主な研究テーマをご紹介します。将来指向課題「気象災害に対する安全性向上」を 構成するひとつのテーマ「降雨による災害の発災ポテンシャル評価モデル」では，山間部で発生する 土砂災害の発生危険度を評価する解析モデルの構築を目指しています。このテーマは今年度で終了す るため，最終的なとりまとめのための解析を進めています。また，昨年度スタートした，豪雨による 中小河川の氾濫影響評価に関するテーマ「局地的短時間集中豪雨が中山間地の鉄道施設に及ぼす影響 評価」と，変状した切土のり面工の適切な補修方法に関するテーマ「変状した切土のり面工の対策手 法の開発」では，引き続き実験および解析を実施し，最終的な成果に繋げる取り組みを進めます。ま た，今年度新たにスタートしたテーマ，「地震動が作用した土構造物の降雨耐力の解明」では地震後の 盛土の降雨浸透特性の解明に取り組み，「排水パイプの最適施工仕様の決定方法」では実務での利用を 想定した排水パイプの施工マニュアルを作成します。
　当研究室では，研究開発以外に斜面災害および河川災害に関するコンサルティングや，斜面の耐降 雨性評価をはじめとする受託業務を行っております。何時でもお気軽にご相談ください。

地質研究室は，鉄道施設の建設・保守に関連した地形・地質および材料の問題に関する研究開発， 受託，コンサルティングを行っています。具体的には下記テーマの他，トンネルの建設・保守技術， 土木工事に係る地下水問題，地盤振動，道床バラストの石質などに関して取り組んでいます。

「災害ハザードマッピング技術の開発」（気象防災，地盤防災と共同）

鉄道沿線の各種情報をデータベース化し，地形・地質などの地勢や環境などのハザード要因の分布を 高精度に抽出し評価する手法を検討しています。さらに，各種気象災害に関わる素因と外力となる気 象条件を考慮したハザードマップを作成する手法の開発を目指します。

「地盤振動の予測シミュレーションの開発」（地震防災,建築,トンネル,基礎･土構造,構造力学と共同）

鉄道沿線の地盤および建物振動の予測と新たな対策工の検討ツールを作成するため，地盤や建物の振 動予測手法を統合した地盤振動の予測シミュレーション手法の開発を目指します。

「地形地質に基づいた斜面の安定性評価法の実用化」

斜面の安定性評価要因となる地形地質条件を明らかにし，その条件を評価するための調査方法を検 討しています。これらをもとにして，地形地質に関する専門的知識をあまり必要としない斜面の安定 性評価手法を提案することを目指します。

　これらのテーマを推進しながら，災害にも迅速に対応することを心掛けておりますので，関連技術 に関するお問い合わせも含め，お気軽にご連絡ください。

　地震防災研究室は，地震時の早期運転規制，地震発生後の早期運転再開支援など，ソフト的なアプ ローチから鉄道における地震の被害や影響を低減させる研究開発，受託業務，コンサルティング業務 を実施しています。
　研究テーマ「早期地震防災システムのさらなる精度向上」，「警報アルゴリズムの高度化による早期 地震防災システムの開発」では，新幹線などで実用化されている早期地震防災システムの信頼性向上 や，新しい地震諸元推定アルゴリズムや地震警報手法を導入した新規システムの開発を行っています。 また，「地震後の早期運転再開支援システムに関する研究」では，地震発生後の的確かつ効率的な安全 確認による運転再開の早期化を目的として，精度の高い被害推定手法を組み込んだプロトタイプシス テムの構築と，観測データによる精度検証を行っています。さらに，今年度からスタートする「巨大 地震の津波・地震動推定に向けた即時処理手法」では，早期警報の視点から津波予測に向けた基礎検 討を実施する予定です。
　このほか，事業推進室の地震防災システムと連携を取りながら，新幹線の早期地震防災システムの 整備に関する受託業務や，地震計の設置・移設や地震時の運転規制に関するコンサルティング業務を 行っています。また，協力会社と共に，鉄道業界に向けて緊急地震速報の利用促進を図るための各種 ＰＲ活動も行っています。
　地震防災研究室は，常時微動から地震動まで，地盤の揺れを扱う専門家集団としてＪＲ各社のご要 望に対して迅速にお答えしたいと考えておりますので，よろしくお願いします。

　軌道力学研究室では，車両・軌道・構造物，レール・車輪あるいは機械・土木等の様々な面からの境 界問題と相互作用を扱っており，鉄道の将来に向けた研究開発「鉄道シミュレータの構築」の中でコア システムとなる「路盤～車輪間の大規模並列計算モデル」の開発に2010 年度から取り組んでいます。

＜車輪／レールのトライボロジー＞

　車両運動解析ツールと摩耗則を組み合わせた摩耗進展モデルを検討するとともに，車輪・レール高 速接触疲労試験装置を用いてレール形状の摩耗に及ぼす影響を評価します。また，曲線外軌の熱処理 レールに発生した横裂の進展予測モデルを構築します。 さらに，湿潤条件下の粘着挙動と表面粗さ， 接触温度の関係を評価します。
　その他，急曲線における横圧に起因する諸問題を解決するために開発した車上または地上から内軌 頭頂面と車輪間の摩擦を緩和するシステム（FRIMOS）についてのご依頼，ご相談も随時お受けします。

＜軌道のダイナミクスと塑性変形（沈下）＞

　車両の常時走行を再現できる路盤～車輪間の動的相互作用モデルを構築し，連続体（FEM）と粒状体 （DEM）の連成解析を大規模で高速に行うことにより，列車通過時の振動に伴うバラスト挙動の解明を 目指します。また，レール継目部を対象として道床バラストの摩耗・破砕の模擬が可能な離散体モデ ルを検討します。

　構造力学研究室は，走行安全性向上，維持管理，災害低減，環境調和，トータルコスト低減を可能と する構造物や軌道のあるべき姿を追求することを主な研究目的とし，これを実現させるために必要なシ ミュレーション解析技術や測定評価技術の構築，解析や実験に基づく構造開発に取り組んでいます。

（１）シミュレーション解析による評価技術の向上

　地震時における車両走行安全性をはじめ，脱線車両の挙動や車輪と軌道部材の衝撃挙動，脱線後の 被害低減対策の効果，軌道と構造物との地震時動的相互作用，列車走行による地盤振動など動的課題 を評価できる解析プログラムの開発を行っています。

（２）測定評価技術の構築

　構造物や岩盤斜面の現地測定の効率化等を目的としたレーザードップラ速度計（LDV）を用いた非接 触振動測定システムの開発や，高速化に対する構造物の安全性をより精度よく評価するために高速走 行に伴う構造物の部材振動特性評価技術の開発を行っています。

（３）新構造の開発

　軌道およびRC 床版にフローティング構造を採用することにより構造物騒音を低減できる新形式サ イレント鋼鉄道橋の開発などを行っています。