盛土に打設した排水パイプの解析モデル

1.はじめに

 排水パイプは,盛土の耐降雨性向上対策として多くの施工実績を有しています.その一方で,排水パイプの打設間隔や打設長などを決定するための設計基準はなく,それらの施工仕様は経験的に決められてきました.そこで,排水パイプの施工仕様を決定する方法を作成することを目的として,実験および解析を進めてきました.本報では,排水パイプの効果を明らかにするために実施した実験の結果と,その結果を基にして作成した排水パイプの浸透流解析モデルについてご紹介します.

2.模型地盤を用いた浸透実験

 実験には図1に示すような小型の模型地盤を用いました.模型地盤の寸法は高さ510mm,直径400mmの円筒形であり,砂質土地盤を模擬しています.この模型地盤に,実際の盛土と同様に排水パイプを打設した場合(Case1)と,予めパイプを敷設しその周囲に地盤材料を締固めて模型地盤を作成した場合(Case2)の二種類の模型を準備して実験に使用しました.ここで,実験に用いた排水パイプは,多くの盛土で実際に用いられているものと同様に,直径60.5mmの鋼管に幅5mm,長さ50mmのスリットが設けられたものです.実験では,模型地盤の上面に一定の水位を維持し,その状態で地盤内を通って排水パイプから排出される水の量と模型地盤底面での圧力水頭を測定しました.
 実験で得られた排水パイプからの排水量の経時変化を図2に示します.図が示すように,排水パイプを打設した場合は敷設した場合よりも排水量が少ないことが分かります.これは,打設することによって排水パイプ周囲の盛土材が締固められ,打設前より低い透水性の層が排水パイプの近傍に形成されることによるものと考えられます.したがって,排水パイプによる排水効果を適正に示すためには,このような排水パイプの周囲に形成される低透水性の部分(スキンエフェクト層とよぶ)の影響を考慮する必要があるといえます.
 また,実験で得られた圧力水頭の測定結果を図3に示します.ピエゾメータの値は実験中ほぼ一定の値を示しており,Case1は330mm,Case2は305mmでした.水位は円筒土槽底面から500mmの高さにあるため,土槽底面に作用する圧力水頭は,排水パイプによって170mm~195mm低減されたことになります.すなわち,排水パイプ打設位置よりも高い位置に水面があっても,排水パイプによってその周囲の盛土の間隙水圧は34%~39%低減されたと捉えることができます.

  • 図1 円筒模型地盤
    図1 円筒模型地盤
  • 図2 排水量の経時変化
    図2 排水量の経時変化
  • 図3 底面圧力水頭の測定結果
    図3 底面圧力水頭の測定結果

3.排水パイプの解析モデル

3.1排水パイプの排水能力

 実験の結果,排水パイプの効果を再現するためには上述のようなスキンエフェクトを考慮する必要があることが明らかになりました.そこで,排水パイプの解析モデルとして,図4のような形状のスキンエフェクト層を有する三次元浸透流解析モデルを適用することとし,実験結果を基にして,スキンエフェクト層の透水性と厚さとの関係を求めました.
 地盤および排水パイプのモデルは簡素化のため八角柱で表しています.この地盤モデルの実験と同じ位置に,排水パイプを表す空洞を設定しています.この排水パイプを表す空洞の断面は対角線の長さが60mmの正八角形であり,空洞の内側全面を浸出面としています.排水パイプのスキンエフェクト層の範囲は,排水パイプの断面形状と相似な形に設定しています.ここで,実際のスキンエフェクト層の範囲は明確でないため,スキンエフェクトの厚さtを10mm,30mm,50mmと変化させてそれぞれについて解析を行ない,排水パイプからの流出量が実験と等しくなるときのスキンエフェクトの透水係数を求めました.このような浸透流解析によって求めたスキンエフェクト層の厚さとその透水性との関係を図5に示します.ここで,同図のスキンエフェクトの透水性は,スキンエフェクト層の透水係数ksとスキンエフェクトの影響範囲外の地盤の透水係数kとの比で示しています.このようなスキンエフェクトの特性を浸透流解析に適用することで,排水パイプの排水能力を再現することができます.

  • 図4 排水パイプの解析モデル
    図4 排水パイプの解析モデル
  • 図5 スキンエフェクトの透水性と層厚との関係
    図5 スキンエフェクトの透水性と層厚との関係

3.2排水パイプによる間隙水圧分布の解析結果

 上記の排水パイプの解析モデルを用いて,円筒模型盛土地盤の圧力水頭の分布を求めた結果を図6に示します.排水パイプによって,土槽底面の圧力水頭が実験では34%~39%低減されたのに対して解析では44%低減されており,両者はほぼ一致しています.このように,提案する解析モデルは実験で得られた間隙水圧分布を再現しており,この解析モデルを用いることで,排水パイプによる盛土内の間隙水圧低減効果についても再現することができると考えています.

  • 図6 解析による圧力水頭の分布
    図6 解析による圧力水頭の分布

4.おわりに

 今後,本研究で提案した解析モデルを用いて,盛土条件に合わせた排水パイプの最適な施工仕様を示し,現場での利用を考慮した施工仕様決定のための手引き書として取りまとめる予定です.

(記事:太田直之)

常時微動に基づく鉄道高架橋の等価固有周期推定手法

1.はじめに

 等価固有周期(図1)は,構造物の地震時応答や地震時の列車走行性を左右する影響因子です.一方で,鉄道構造物には許容応力度法をもとに設計された古いものが多く,等価固有周期および地震時応答が不明な場合が少なからずあります.このような問題に対し,現行の耐震標準に基づいた非線形解析を行う手段もありますが,膨大な数の古い構造物全てを対象に実施するのは煩雑です.また,配筋図や材料定数等の構造諸元に関する情報が残されていない構造物もあり,解析自体が困難な場合もあります.そこで本研究では,簡易な常時微動測定から弾性固有周期,等価固有周期を推定する手法について検討しました.

  • 図1 等価固有周期の定義
    図1 等価固有周期の定義

2.弾性固有周期の推定手法

 等価固有周期を測定から推定することは困難です.そこで本研究では,常時微動から,まず弾性固有周期を推定し,これに基づき等価固有周期を算出する手法を提案しました.
 図2に,対象構造物と常時微動測定のための速度計の設置個所を示します.測定システムには物探サービスのGEODAS-15-USB,CR4.5-2Sを用いました.構造物および地表面上の4個の3ch速度計で合計12chの時刻歴波形を,サンプリング周波数200Hzで合計180秒間測定しました.
 図3に,構造物の1 次固有振動モードの同定手法のフローを示します.常時微動測定は衝撃振動試験と比較して測定が容易ですが,振動振幅レベルが小さいため振動モード同定に経験を要するという問題がありました.そこで本研究では,相関関数により微動波形から自由振動波形を作成し,高精度の振動特性同定法とされているERA(Eigensystem Realization Algorithm)によりモード分解し,3つのフィルターを用いて1次固有振動モードを抽出することとしました.図3(f)に示すフィルター1は,システムにより偶発的に作られた偽のモード,規則的な入力によるモード,計測ノイズによるモード等を排除し,構造物の固有振動モードのみを抽出する目的で,フィルター2,3は構造物の固有振動モードから全体系橋直1次固有振動モードを抽出する目的で設定しました.
 図4に,張出式ラーメン高架橋の同定手法の適用例を示します.本手法により,1次固有振動モード候補を概ね絞ることができました.同定した固有振動数は構造物天端のスペクトルのピークと概ね対応しますが,一部対応しないものもありました.これは,隣接構造物モード,ねじりモード,2次振動モード等の影響と考えられます.
 図5に,同定した弾性固有周期の逆数である弾性固有振動数(測定値)と構造物高さの関係を示します.図から,構造物の弾性固有振動数は1.5Hz~5.0Hz程度の範囲にあり,構造物高さが大きいほど弾性固有振動数が小さくなることが確認できます.

  • 図2 対象構造物と速度計設置例
    図2 対象構造物と速度計設置例
  • 図3 1次固有振動モードの同定手法のフロー
    図3 1次固有振動モードの同定手法のフロー
  • 図4 同定手法の適用例(張出式ラーメン高架橋)
    図4 同定手法の適用例(張出式ラーメン高架橋)
  • 図5 弾性固有振動数と構造物高さの関係
    図5 弾性固有振動数と構造物高さの関係

3.等価固有周期の推定手法

 図6に,全対象構造物の等価固有周期の逆数である降伏振動数(解析値)と弾性固有振動数(測定値)の関係を示します.図から,弾性固有振動数と降伏振動数は明確な比例関係にあり,降伏振動数/弾性固有振動数の比は,壁式橋脚は0.39程度,調整桁式ラーメン高架橋で0.38程度,張出式ラーメン高架橋で0.55程度であり,構造形式毎にほぼ一定の値を示すことが確認できます.このように構造形式毎に比が異なるのは,構造形式や適用設計標準が異なることで,先行降伏部材の箇所,および初降伏時変位が異なるためと考えられます.以上から,常時微動から測定した弾性固有周期に構造形式毎の換算係数を乗じることで等価固有周期を推定できることが明らかとなりました.

  • 図6 対象構造物と速度計設置例
    図6 対象構造物と速度計設置例

4.提案手法を活用した耐震診断の例

 図7に,対象線区に対して上記提案手法を適用した例を示します.図から,構造物高さが大きいほど,地盤条件が悪くなるほど降伏振動数,弾性固有振動数共に小さくなることが確認できます.また,降伏振動数の提案手法による推定値と解析値はよく一致していること,連続して常時微動測定を行うことで,地震時応答や列車走行性に大きく起因する等価固有周期の急激な変化点も容易に推定できることが確認できます.

  • 図7 降伏振動数の推定例
    図7 降伏振動数の推定例

5.まとめ

① 常時微動測定から弾性固有周期を推定する手法を提案しました.本手法により,常時微動測定から経験に依存せず高精度かつ機械的に弾性固有周期が同定できます.
② 測定した弾性固有周期に換算係数を乗ずることで等価固有周期を推定する手法を提案しました.
今後は,本手法を耐震診断や列車走行性の評価に活用していきたいと考えています.

(記事:徳永宗正)