ホーム狭隘部における混雑再現実験

1.はじめに

 ホームでの旅客の安全を考える場合,死亡事故につながりやすいホームからの転落や触車を優先的に扱う必要があります.中でも,ホーム狭隘部(階段や事務室等とホーム端に挟まれた空間,以下,狭隘部)は,一般部(狭隘部以外の部分)に比べ幅員が狭い上,主要なホーム出入口との位置関係によっては多数の旅客が通過する状況も見られることから,ホームドア等が未設置の場合,列車が停車していない状況では,転落,触車の危険性が高くなります.そこで,ホームドアのないホームの狭隘部で,通常時を上回る混雑が発生した際に,旅客が安全に通過できる条件を把握するための実験を実施しました.

2.実験条件

 階段脇の狭隘部を想定し,図1のような模擬ホームの狭隘部を用いて,被験者(18~64歳/平均25.5歳の男性80人)による通過実験を実施しました.実験では,ホーム端での安全確保の余幅として70cmの位置に白線を敷設し,被験者には,その内側を歩行するように教示しました.実験条件として,狭隘部幅員は,2.5m,2.0m,1.5mの3つを再現しました(表1).旅客の流れは,階段を下りてきた乗車旅客の流れが単一で通過する場合(1方向流)と,階段へ向かう降車旅客の流れと交錯する場合(対向流)に,狭隘部で混雑が発生する状況を想定しました.その他の条件として,狭隘部において,列車の到着を待つ旅客(以下,乗車待ち旅客)がいる場合を想定し,被験者のうち数名を狭隘部に立たせました(図2).また,狭隘部を通過する際に,ホーム端から安全な距離を保つことができたかどうかを把握するため,表2のようなアンケート調査を実施し,各試番が終了する毎に記入式で回答させました.

  • 図1 ホーム狭隘部での通過実験の概要
    図1 ホーム狭隘部での通過実験の概要
  • 図2 乗車待ち旅客
    図2 乗車待ち旅客
  • 表1 狭隘部において再現した条件
    表1 狭隘部において再現した条件
  • 表2 狭隘部における通過実験のアンケート内容
    表2 狭隘部における通過実験のアンケート内容

3.実験結果

狭隘部における対向流の密度の時間変化の例が図3です.これは乗車待ちがいない場合ですが,最大密度は約2人/㎡となり,密度の上昇も急激であることがわかります.次に,初期密度(狭隘部における乗車待ち人数を狭隘部の面積で除したもの)と最大密度では,明確な相関関係が見られ(図4),狭隘部で生じる最大密度が,狭隘部での初期密度(すなわち乗車待ち人数)により影響を受けていることから,乗車待ち人数の多い狭隘部では,混雑時の密度が高くなりやすいことがわかります.
次に,アンケート調査で得られた,「白線から押出されそうになった」被験者の割合と最大密度との関係を図5に示します.1方向流では,押し出されそうになった被験者はほとんどいないのに対し,対向流では,最大密度が高いほど,白線の外側に押し出されそうになった被験者が多くなっています.ただし,例えば最大密度が約2人/㎡でも押し出されそうになった被験者がいない場合もあります.一方,狭隘部幅員による違いでは,狭隘部が広くても押し出されそうになった被験者がいました(図6).

4.狭隘部での安全評価指標

実験から,狭隘部で旅客が安全な歩行範囲から押し出される状況は,対向流で密度が高い場合に起こりやすく,1方向流では,密度が高い場合でも,発生しないことが分かりました.また,狭隘部幅員と旅客が押し出される状況には,明確な関係は認められませんでした.そこで,狭隘部で旅客がすれ違うことができるスペースを判定するための,通行可能列数Lpass(列)という指標を定義しました(図7).暫定的に,旅客の単位寸法を,厚み30cm,幅50cm,ホーム端で安全に歩行できる範囲(安全歩行幅)を狭隘部幅員から70cm差し引いた値として設定しました.対向流に関してLpassを算定したところ,白線から押出されそうになった被験者が表れるのは,Lpassが2列未満となる条件の場合であることがわかります(図8).このように,旅客が通過できる列の数によって,安全性の高いホーム幅員の条件を判定できる可能性があり,このような指標を基に,狭隘部での安全評価手法の開発を進める予定です.

  • 図3 狭隘部の密度(対向流)
    図3 狭隘部の密度(対向流)
  • 図4 初期密度と最大密度(対向流)
    図4 初期密度と最大密度(対向流)
  • 図5 最大密度と歩行状況との関係
    図5 最大密度と歩行状況との関係
  • 図6 幅員と歩行状況との関係
    図6 幅員と歩行状況との関係
  • 図7 通行可能列数 Lpass の定義
    図7 通行可能列数 Lpass の定義
  • 図8 Lpass と歩行状況の関係
    図8 Lpass と歩行状況の関係

(記事:山本昌和)

地盤構造物における3次元計測システムの開発

1.はじめに

 掘削土留め工における土留め壁の変形挙動の計測は様々な方法により実施されています.簡易な計測では全体的な変形挙動の把握が難しく,一方で詳細な計測であっても精度を確保するには測線を密とする必要があり多大なコストを要します.そこで,土留め壁の変形挙動を安価で精度良く評価可能な方法を提案することを目的として,3次元計測システムの開発を行いました.

2.3次元計測システムの概要

 開発した3次元計測システムは,各種計測機器から得られた情報をリアルタイムに収録し,離散的な計測データを面的なデータに展開した後,土留め壁の変形状況を3次元的に可視化するものです.システムのイメージを図1に示します.
 本システムは,大きく分けて①データの収録,②データの解析,③3次元可視化の各機能から成ります.①データの収録では,各種計測機器で取得した計測データを解析機能に引き継ぐものです.取り扱える土留め壁の計測データ(物理量)としては変位と傾斜があります.また,データの形式としては計測機器ごとにデータロガーを介して時系列データとして取得するものと,トータルステーション測量や写真測量など不定期に人が介して取得するものがありますが,本システムでは両タイプのデータを収録できるものとしております.
 ②データの解析機能は,①で収録した測点ごとの計測データをもとに,土留め壁の変形挙動を3次元の曲面として解析する機能です.少ない計測機器数であっても3次元的な曲面として精度よく評価できる必要があります.ここでは,地形学の分野において標高データから面的な地形形状の再現等で有用性が示されている3次B-スプライン法を用いることとし,土留め壁の変形計測への適用を図るため,傾斜データの活用や計測機器ごとの精度を考慮できるよう改良を行いました.
 ③3次元可視化機能は,②データの解析機能で求めた面情報を3次元ビュー上に表現する機能です.3次元ビュー上に表現する技術は,OSが標準装備する3次元グラフィックツールを使用しています.
 また,本システムを活用することで工事開始前に計測機器の種類と数量に応じた最適配置の検討を行うことができます.さらに,本システムは設計計算プログラムとの連携が図ることができ,施工の途中で適宜設計の見直しや再評価を行うことも可能です.

  • 図1 3次元計測システムのイメージ
    図1 3次元計測システムのイメージ

3.現場計測への適用例

 ここでは,3次元計測システムの現場計測への適用例を2例紹介いたします.

(1)多段式傾斜計を用いた切梁式の土留め壁の計測(事例1)

 対象とした現場条件,計測機器の配置を図2に示します.現場は,39m×16m程度の平面領域において9mの掘削を行うものであり,土留め工は中間杭を有する切梁式,土留め壁には長さ12mの鋼矢板Ⅳ型が用いられています.掘削は3ステップで行われます.土留め壁の変形計測は,図2中の南側に既設構造物が近接し,この部分で重点的に実施されています.実施した計測は測線を4つ設けた多段式傾斜計による傾斜計測であり,1つの測線には傾斜計が深さ方向に6個設置されています.
 図3に,解析・可視化された各次掘削段階終了時の土留め壁の変形状況を示します.この図から,測線で取得された傾斜データから,掘削段階ごとに土留め壁の変形状況が変化していく状況を面的に解析・可視化できていることが確認できます.

  • 図2 事例1の現場状況・計測状況
    図2 事例1の現場状況・計測状況
  • 図3 計測結果
    図3 計測結果

(2)独立型傾斜計を用いた自立式土留め壁の計測(事例2)

 対象とした現場の状況ならび土留め壁の計測の状況を図4に示します.当該現場の土留め工は自立式であり,土留め壁にはSMWが用いられています.掘削深さは3mです.土留め壁の変形計測には独立型の傾斜計としてMEMS傾斜計を用いております.MEMS傾斜計は深度方向に2段,線路延長方向に5箇所の計10機が設置されています.
 解析・可視化された土留め壁の変形状況の例を図5に示します.この図から,施工に伴って掘削領域側に土留め壁が変位する状況が表現できています.このように,独立型傾斜計を現場計測に適用した場合においても,3次元計測システムを用いることで土留め壁の変形挙動を適切に評価できることがわかりました.

  • 図4 事例2の現場状況・計測状況
    図4 事例2の現場状況・計測状況
  • 図5 計測結果(掘削完了後6日経過)
    図5 計測結果(掘削完了後6日経過)

4.おわりに

 3次元計測システムの開発により,土留め壁の変形挙動を視覚的に捉えることができるだけでなく,従来では用いられなかった計測機器の活用など新たな可能性も生まれてきました.本システムを活用することで,掘削土留め工の安全確保はもとより,計測管理におけるコストダウンも期待できます.

(記事:松丸貴樹)

軌道スラブ拘束装置の開発

1.はじめに

 スラブ軌道の突起は,軌道スラブの水平変位を拘束する鉄筋コンクリート製の部材です.近年,一部の区間において内部鉄筋の腐食が要因と考えられる突起の損傷等が報告されており,早急に補修が必要とされる区間もあります.しかし,営業線において既設の突起に対する大規模な補修や再施工を行うことは非常に困難であり,同等の機能を有する代替装置が求められています.そこで本稿では,軌道スラブ隅角部において水平変位を弾性的に拘束する装置を提案し,同装置の水平載荷試験により基礎的な水平耐力に関する検討を行った結果についてご報告します.

2.軌道スラブ拘束装置の概要

 図1に半円突起敷設箇所に用いる軌道スラブ拘束装置の概念図を示します.本装置は,溶接加工したL型鋼材を軌道スラブ隅角部に設置し,軌道スラブの水平変位を拘束するものです.また,同装置と軌道スラブおよびCAモルタルの間には間隔材を挿入し,軌道スラブより作用する荷重を弾性的に支持するとともに,列車通過に伴う軌道スラブの上下変位を拘束しない構造としています(図2参照).なお,同装置はコンクリート道床等にセメント系てん充材を用いて固着したアンカーボルトにより固定します.

  • 図1 軌道スラブ拘束装置の概念図
    図1 軌道スラブ拘束装置の概念図
  • 図2 軌道スラブ拘束装置の構造形式
    図2 軌道スラブ拘束装置の構造形式

3.アンカーボルトの軸力試験および引抜き試験

 本装置をコンクリート道床等に固定するアンカーボルト(呼び径:M20,材質:S45C)の軸力試験および引抜き試験を行いました.アンカーボルトはセメント系てん充材(圧縮強度:41.2N/mm2)を用いて無筋コンクリート版(圧縮強度:35.2N/mm2)に固定し,埋込み深さについては既設のコンクリート道床等の厚さを考慮して90mmと160mmの2ケースとしました.表1に軸力試験および引抜き試験結果を示します.軸力試験では,本装置を締結する際に想定しているトルク値240N・mで軸力60kNを導入可能であることを確認しました.また,引抜き試験では,すべての試験ケースにおいて最大荷重があと施工アンカーの設計強度1)以上となり,セメント系てん充材が十分な付着強度を有していることを確認しました.


  • 表1 軸力試験および引抜き試験結果
    表1 軸力試験および引抜き試験結果

4.水平載荷試験

 図3に水平載荷試験の試験状況を示します.試験では,本装置を4本のアンカーボルトを用いて無筋コンクリート版に固定し,軌道スラブの高さ(160mm)を有する載荷鋼板および合成ゴムを介して油圧ジャッキにより水平荷重を載荷しました.測定項目は,載荷荷重と本装置の変位およびひずみとしました.なお,本装置の荷重支持条件として,突起の設計荷重のレール直角方向成分(41.2kN)は本装置1基で,レール長手方向成分(70.0kN)は2基で支持することを想定しています.表2に試験ケースを示します.アンカーボルトの埋込み深さは160mm,締付けトルクは240N・mとしました.また,本装置を設置する際は,無収縮モルタルあるいはセメント系てん充材を用いて無筋コンクリート版表面の不陸整正を行いました.図4に水平載荷試験の結果として,各試験ケースにおける載荷荷重と水平変位の関係を示します.CASE1およびCASE2の結果より,各載荷方向において設計荷重(レール直角方向:41.2kN,レール長手方向:35.0kN)により生じる水平変位はともに0.5mm程度と微小であることを確認しました.常時における軌道スラブ水平方向目違いの限界値の目安は2.0mm2)であることを参考に,本装置の許容変位量を2.0mmとすると,CASE1およびCASE2において許容変位量を満足する結果となりました.なお,CASE2については,載荷荷重50kN付近における変曲点以降,拘束効果が低下する傾向が見られました.しかし,装置自体に過度な変形は生じておらず,不陸整正面の付着切れ等に伴う摩擦力の低下により,本装置が水平移動したものと考えられます.CASE3では,不陸整正面の付着強度を高めることを目的に,不陸整正材をより高強度のセメント系てん充材に変更して,静的繰返し載荷試験を行いました.試験の結果,設計荷重により生じる水平変位はCASE2と同様に0.5mm程度であり,許容変位量を満足することを確認しました.また,変曲点の荷重は約65kNとCASE2よりもやや大きくなり,水平変位1.0mm程度までは弾性的な挙動を示すことを確認しました.


  • 図3 試験状況(CASE1)
    図3 試験状況(CASE1)
  • 表2 水平載荷試験ケース
    表2 水平載荷試験ケース
  • 図4 載荷荷重-水平変位
    図4 載荷荷重-水平変位

5.まとめ

 本装置は突起の設計荷重に対し十分な耐力を有し,軌道スラブの許容変位量を満足することを確認しました.今後は,装置締結部の抵抗力をさらに増大させる構造を検討し,試験施工を行う予定です.

参考文献

1) 日本建築防災協会:既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針 同解説,2001.5
2) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 変位制限,2006.2

(記事:渕上翔太)