無線センサを活用した変状監視システム

1.はじめに

 トンネルは延長方向に長い構造物であることから,変状箇所に計測機器を設置して監視を行う場合,配線が長距離なってしまい,コストや手間がかかるという課題がありました.そこで,無線センサを活用した変状監視システムを開発し,低コストでメンテナンス頻度の少ない自動計測を実現しました.

2.無線センサの概要

 図1に,無線センサを活用したトンネル変状監視システムの例を示します.まず,トンネル内の計測対象にπ型のひび割れ幅計などのセンサと子機を設置します.一方,坑口などスペースがある所に親機と収録装置(PC)を設置し,子機から親機までZigbee規格の無線で計測データを送信します.図2は子機の写真ですが,小型のシグナルコンディショナと無線機から構成され,単三型リチウム1次電池4本で駆動できます.電池を含めて幅10cm,奥行き10cm,高さ3.5cmの小型の防水・防塵容器に格納しました.過去に実施した性能確認試験で,トンネル内で距離140mまで伝送可能であることを確認しています.
  • 図1 変状監視システムの例
    図1 変状監視システムの例
  • 図2 無線センサ子機の外観
    図2 無線センサ子機の外観

3.現地試験

 今回開発した無線センサを用いて,供用中の鉄道トンネルにおいてひび割れ幅の計測を行いました1), 2).ここでは,坑口部と坑口から15mおよび87mの側壁にあるひび割れや目地に,π型のひび割れ幅計および子機を取付け,ひび割れ幅および温度を8分30秒間隔で計測しました.図3に,得られた計測データを示しますが,計測開始から子機の電池が消耗するまでの15~18か月間連続して計測データを得ることができ,現地でも十分適用可能であることが確認できました.なお,現地試験の結果分析を踏まえて,ファームウエアと呼ばれる制御プログラムを改良し,データ収録・送信回路の電源制御の効率化や,子機の送受信に関する待受け時間の改善を図ることにより,さらなる省電力化を図っています.
  • 図3 現地試験で得られた計測データ
    図3 現地試験で得られた計測データ2)

4.長距離伝送技術の開発

 線路方向に長いトンネルでは,計測データの伝送距離が長くなる傾向があり,データの中継が必要になります.Zigbee規格の無線機は図4(a)のように無線センサ間でネットワークを築くことができますが,このようにネットワークを構築した場合,ネットワークを保持するためにセンサの電源を常時ONにしておく必要があり,電池交換の頻度が多くなります.また,データを長距離伝送するためには,計測不要な箇所にも莫大な数のセンサを設置する必要が出てきます.そこで,図4(b)のように,データの中継のみを行う中継用無線センサを開発し,計測箇所から坑口までは中継用無線センサを用いてデータ伝送する方式を考案しました.図5のように供用中の鉄道トンネルにセンサを設置して計測を行い,実トンネルでもデータを長距離伝送することが可能であることを確認しました3)
  • 図4 データ伝送のイメージ図
    図4 データ伝送のイメージ図
  • 図5 中継用無線センサの現地試験
    図5 中継用無線センサの現地試験3)

5.まとめ

今回,無線センサを活用したトンネル変状監視手法を開発し,低コストでリアルタイムに長期間のトンネル変状監視ができるようになりました.本システムは,近接施工時の既設トンネルの影響監視や,トンネル施工時の計測,その他の構造物の状態監視へも,適用可能であると考えています.

参考文献

1) 舟橋孝仁,津野究,蒲地秀矢,伊藤富英,福司淳一,中西祐介:無線センサを活用したトンネル変状監視システムの実トンネルへの適用,土木学会第65回年次学術講演会講演概要集,2010.
2) 津野究,平田亮,福司淳一,松本光矢,蒲地秀矢:トンネル変状監視システムの省電力化に関する検討,土木学会第67回年次学術講演会講演概要集,2012.
3) 平田亮,津野究,角雄一郎,水落勝美,蒲地秀矢:中継用無線センサを用いた長距離計測データ伝送に関する検討,土木学会第67回年次学術講演会講演概要集,2012.

(記事:津野 究)

流水の影響を考慮した橋脚振動解析モデルと洗掘時の振動特性評価

1.はじめに

 増水時には洗掘により橋脚基礎の安定性が低下する場合があります.このため増水時には,橋脚基礎の健全性をより的確に評価する必要があります.これまで,増水時の微動から求める橋脚の固有振動数の変化で健全性を評価する技術を提案してきました1),2).一方で,その手法が適用できない条件の橋梁があるという課題が残されました.本稿では,固有振動数以外の指標として変位に着目した評価手法を検討する一環として,橋脚振動の解析モデル化と作用力の設定手順および作用力や基礎の根入れ長の変化が橋脚の振動特性に及ぼす影響について,実橋脚を対象として検討した結果3)について紹介します.

2.橋脚の変位を用いた健全性評価の考え方

 橋脚の変位を用いた健全性評価の考え方を図1に示します.評価は,あらかじめ解析モデルを用いて水深に応じた変位を根入れ比別に求めたノモグラムを作成しておき,実測の水深から想定される変位と橋脚天端での実測変位とを比較することで想定される根入れ比を求める,方法が考えられます.この考え方は,水深に応じた関係を用いることで,一般的な運転規制の指標である「橋脚周りの水位」との関連づけが容易となる利点があります.
  • 図1 水深と変位を用いた健全性評価の考え方
    図1 水深と変位を用いた健全性評価の考え方

3.増水時の橋脚振動に影響を及ぼす要因

 増水時の橋脚振動に影響を及ぼす要因には,様々なものが考えられます.解析モデルでは,増水時の橋脚に必ず作用する外力として流水力と地盤振動を考慮しました.また,橋脚周りの水深が影響すると考えられる付加質量,橋脚基礎の根入れが影響する地盤ばねおよび減衰の効果を考慮することとしました.図2に今回の検討で考慮する作用力と影響要因を示します.
  • 図2 解析で考慮した増水時の橋脚振動に影響を及ぼす要因
    図2 解析で考慮した増水時の橋脚振動に影響を及ぼす要因

4.増水時の橋脚への作用力の推定

4.1 流水力の推定

 実橋梁における実測の水深からマニングの式より求めた平均流速および実測の表面流速と水深との関係を図3に示します.これによれば,水深と表面流速の平均値には比例関係が見られます.この関係を基に式(1)を用いて橋脚に作用する流水力を求めました.
  • 図3 表面流速と水深との関係
    図3 表面流速と水深との関係

4.2 地盤振動の推定

実橋脚における橋脚天端と地盤で同時に微動を計測した結果,両者の振動の鉛直方向成分は一致することが明らかになりました.このことから,増水時の橋脚天端での鉛直方向成分の微動振幅からその時の地盤の微動振幅を推定できると考え,水深がない時の振幅を基準とした「速度振幅比」と水深との関係を調べました.その結果,橋軸直角方向,鉛直方向ともに水深と速度振幅比との間に比例関係が見られました(図4).このため,水深に応じた速度振幅比を乗じることで,地盤振動の振幅が求められます.
  • 図4 実橋脚における水深と橋脚天端での速度振幅比との関係
    図4 実橋脚における水深と橋脚天端での速度振幅比との関係

5.解析モデルによる根入れ長と流水条件別の感度分析

5.1 解析モデルの検証

解析では,直接基礎形式の単線橋脚1)を対象とした2次元のFEMモデルを作成しました.水深に応じた流速の平均値とその振幅から求めた流水力および地盤振動をそれぞれ300秒間の波形データとして入力し,橋脚天端での変位と速度の時刻歴応答を求めました.速度の時刻歴応答波形のフーリエスペクトルから卓越振動数を求め,変位応答波形から変位振幅のRMSを算出しました.水深と変位振幅の二乗平均平方根(RMS)との関係について,実測値と解析値を比較したのが図5です.これによれば,実測の変位振幅のRMSと解析による変位振幅のRMSとが概ね一致しており,提案した解析モデルが適正であると判断しました.
  • 図5 水深と変位振幅RMS との関係
    図5 水深と変位振幅RMS との関係

5.2 橋脚支持条件と水理条件の感度分析

図6には,対象橋脚における,根入れ比に対する固有振動数と変位振幅のRMSの感度分析結果を示します.これによれば,固有振動数は根入れ比の減少に対して顕著な低下傾向を示し水深による違いはほとんどみられません.一方,変位振幅のRMSではいずれの水深も根入れ比に関係なくほぼ一定の値を示しています.なお,図中の一点鎖線は,安定性を判断する根入れ比の目安である1.5を示しており,これを下回る状況を識別できるか否かが,橋脚基礎の健全性指標としての要件といえます.分析の結果,対象とした橋脚では,根入れに対する橋脚の変位の感度は固有振動数よりも低いことを確認しました.
  • 図6 解析に基づく根入れ比に対する固有振動数と変位振幅のRMS の感度
    図6 解析に基づく根入れ比に対する固有振動数と変位振幅のRMS の感度

6.おわりに

 今回の解析条件では橋脚天端の変位振幅のRMSは固有振動数に比べて適切な指標とは言い難い結果となりました.なお,橋梁の構造諸元や地盤条件によっては変位の感度が高くなる可能性があります.今後は適用できる条件の精査を行っていく必要があります.

文献

1) 佐溝ほか:河川増水時における鉄道橋脚の固有振動数の特定方法の提案,土木学会論文集F,Vol.66,No.4,2010.10
2) 渡邉,佐溝:常時微動計測による橋脚基礎のヘルスモニタリングシステム,鉄道総研報告,Vol.25,No.7,2011.7
3) 佐溝,渡邉:流水の影響を考慮した橋脚振動解析モデルと洗掘時の振動特性評価,鉄道総研報告,Vol.26,No.9,2012.9

(記事:佐溝 昌彦)