小断面ボックスカルバートの配筋法

1.はじめに

 小断面ボックスカルバートにおいては,比較的大きな断面を想定した現行の設計法を適用すると図1 に示すように,帯鉄筋の配置が困難になる場合があります.そこで,小断面ボックスカルバートを対象に座屈解析および載荷試験を行い,小断面ボックスカルバート特有の配筋詳細が変形性能におよぼす影響を明らかにするとともに,小断面ボックスカルバートの施工性を改善する配筋法を提案しました.
  • 図1 ボックスカルバート配筋例
    図1 ボックスカルバート配筋例

2.設計事例調査

 ボックスカルバートを対象に設計事例をもとに配筋状況を調査しました.ここで,部材高さとh 帯鉄筋間隔S の関係を図2 に示します.現行の方法では,地震時に変形性能を考慮する部材では,帯鉄筋の間隔を有効高さd の1/4 以下にする必要があります【鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物)1)(以下,コンクリート標準)11.7.4横拘束鉄筋の配置】.例えば,部材高さ250mm の場合,帯鉄筋間隔を50mm 程度にする必要がありますが,このような間隔では配筋することができません.また,せん断補強鉄筋として,帯鉄筋間隔を有効高さdの1/2 以下,かつ300mm 以下にする必要があります【コンクリート標準11.7.3 せん断補強鉄筋の配置】.調査の結果,多くの実構造物では,帯鉄筋間隔は125mm あるいは250mm で施工されていることがわかりました.
  • 図2 鉄筋間隔と部材高さの調査結果
    図2 鉄筋間隔と部材高さの調査結果

3.鉄筋座屈に関す解析的検討

 軸方向鉄筋の座屈長と座屈強度の関係を検討するため,細長比をパラメータとした鉄筋の座屈解析を行いました.解析結果を図3 に示します.解析結果より,有効細長比16(細長比32)以下になると座屈強度が増加することがわかります.これは,Emgesser の座屈強度式(図3 の破線)と同様の結果になります.
  • 図3 有効細長比と座屈強度
    図3 有効細長比と座屈強度

4.正負交番載荷試験による帯鉄筋間隔の検討

 側壁あるいは床版の変形性能と帯鉄筋間隔について検討するため,変形性能に影響が大きいと考えられる軸方向鉄筋と帯鉄筋の径と間隔をパラメータとした正負交番載荷試験を行いました.載荷試験では,座屈が生じ,荷重低下する変位と座屈区間(=座屈長/帯鉄筋間隔)に着目しました.載荷試験より,帯鉄筋間隔を座屈長とした細長比と座屈区間の関係を図4 に示します.細長比が32 より小さくなると,多区間の座屈が生じることがわかります.載荷試験における座屈状況の例を図6 に示します.さらに,細長比とコンクリート標準にしたがってもとめたM 点変位(最大荷重を保持する最大変位)の計算値と試験値の比との関係を図5 に示します.これも同様に,細長比が32 より小さい場合,所定の変形性能を確保するとともに変形性能が向上することがわかります.
  • 図4 細長比と座屈区間の関係
    図4 細長比と座屈区間の関係
  • 図5 細長比と変形性能の関係
    図5 細長比と変形性能の関係
  • 図6 座屈状況の例
    図6 座屈状況の例

5.小断面ボックスカルバートの配筋法

 座屈解析および正負交番載荷試験の結果より,小断面ボックスカルバートにおいては,以下の帯鉄 筋間隔を満足すればよいと考えられます.
  1. ・有効高さd の1/2 以下
  2. ・軸方向鉄筋の直径の8 倍(=細長比32)以下
    (ただし,部材高さ500mm 以下,軸方向鉄筋径D13~D22,帯鉄筋径D10,D13)
上記の配筋法にしたがって試算した最大帯鉄筋間隔と部材高さ(かぶり50mm を設定)の関係を図7に示します.図7 より,現行の方法に対して最大帯鉄筋間隔が拡大できることから,施工性が大幅に改善できることが期待されます.また,ほとんどの場合,帯鉄筋間隔が100mm 以上となることから,小断面ボックスカルバートの配筋が可能になります.
  • 図7 帯鉄筋間隔に関する試算結果
    図7 帯鉄筋間隔に関する試算結果

参考文献

1)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善,2004

(記事:田所敏弥)

線路故障時の応急処置器の開発

1.はじめに

 鉄道事業者において,レール折損時に用いる応急処置器の軽量化や使用性などの機能向上に関する要望がありますが,応急処置器の開発時に必要となる性能照査方法は確立されていませんでした.そこで,本研究では応急処置器に求められる性能を明確にし,試験の結果および数値解析から性能照査方法の検討を行いました.また,安田式横裂用応急処置器(以下,「安田式応急処置器」という)の代替品となる応急処置器を設計・試作し,照査を行いましたので,その結果について紹介します.

2.要求性能

 レール折損部に設置する応急処置器には,列車の走行安全性の確保と1日程度の列車通過に対して部材が耐え得ることが必要とされます.これより,求められる性能を以下のとおり設定しました.
  • ① 列車通過時に4mm を超えるレール左右食違い量が発生しないこと(なお,この限度値は車輪とレールの断面形状から定まります1)).
  • ② 部材に発生した応力変動が,耐久限度線図に対し,使用条件に則した載荷繰返し数に対する時間強度以下であること.
  • ③ 使用条件に則した載荷繰返し数の疲労試験にて部材に損傷やき裂等が発生しないこと.
  • なお,列車通過時に著大なレール頭部左右変位が発生しないことについても,軌間拡大防止の観点から確認が必要です.

3.設計荷重の検討

 輪重について,過去の走行試験2)のデータからは開口量の影響がみられず,ひずみの衝撃的な応答は小さいことから,急曲線については70mm までの開口量に対し,従来よりレール継目部に対して用いられている下記の速度衝撃率i を応急処置器用に割り増しすることとしました3)
i=1+0.5×V/100, V:列車速度(km/h)
 一方,直線または緩曲線については,「鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造」を参考に,静止輪重に対して2.0 倍の割り増しを見込むものとしました.
 横圧については,レール締結装置の設計A 荷重である60kN までを見込むこととしました.なお,静止輪重が75kN を下回る場合には,それに0.8 倍を乗じたものを設計横圧としました.

4.応急処置器の設計・試作とその照査

4.1 応急処置器の設計・試作

 2章の①から③を満足する試作品を製作し,載荷試験により性能を照査しました.試作品の概要を図1に示します.材料にはS50C(焼入,焼もどし)を用い,製作方法は機械切削加工としたため,形状は曲面を極力設けないものとしました.側盤のレール腹部に接する部分の形状は普通継目板の断面形状に準じています.テルミット溶接箇所のレール折損時の余盛部との干渉を回避するために,側盤上面の凹部長さを安田式応急処置器より約40mm 延長しました.また,側盤の長さを従来の安田式応急処置器よりレール長手方向に20mm ずつ延長し,左右食違い量の抑制を図りました.さらに,側盤の軽量化を行い,安田式応急処置器と比べ27%の重量減を達成しました.

  • 図1 試作品の概要
    図1 試作品の概要

4.2 試験概要

 試験条件を表1に,試験概要を図2に示します.レール折損状態を模擬したまくらぎ8本分の片側レールの試験軌きょうを構成し,静的載荷試験および疲労試験によりレール左右食違い量,レール頭部左右変位および部材強度を確認しました.
  • 表1 試験条件
    表1 試験条件
  • 図2 試験状況
    図2 試験状況

5.性能照査

 静的載荷試験および疲労試験結果から性能照査を行いました.

(1)レール左右食違い量

 静的載荷試験の結果,図3に示すように,レール左右食違い量と過去に安田式応急処置器に対して実施した静的載荷試験におけるレール左右食違い量との比較では,レール左右食違い量は限度値4mmを下回り,かつ,くさび高さ50mmの場合と同程度1)であることを確認しました.
 また, レール頭部左右変位についても安田式応急処置器と同等であり,問題ないと判断しました.
  • 図3 レール左右食違い量の比較
    図3 レール左右食違い量の比較

(2)部材強度

 静的載荷試験で得た各試作品の発生応力を,機械構造用炭素鋼鋼材S50C(焼き入れ,焼きもどし)の耐久限度線図により照査した結果,図4に示すように,各部ともに疲労限度,6 万回時間強度および降伏限度以下となっていました.
  • 図4 耐久限度線図による照査結果
    図4 耐久限度線図による照査結果

(3)耐久性

過密線区における通過軸数から設定した載荷繰り返し数6 万回の疲労試験終了後に,損傷など有害な欠陥が発生していなかったことから,設定した条件下において十分な耐久性を有していると判断しました.

6.おわりに

 開発時に必要となる応急処置器の性能照査方法の提案を行いました.また,試作品の設計・試作を行い,性能確認試験を実施した結果,安田式応急処置器と同等の性能を有していることを確認しました.

参考文献

1) 国土交通省:鉄道構造物等設計標準・同解説-軌道構造 P40,2012年1月
2) 片岡宏夫他:レール折損時における応急処置後の列車徐行速度向上の可能性,(財)鉄道総合技術研究所,鉄道総研報告,2009年10月
3) 佐藤吉彦他:線路工学,日本鉄道施設協会,1987年2月

(記事:西原敬人)

短繊維補強コンクリートのまくらぎ直結軌道への適用

1.はじめに

 近年,都市鉄道の連続立体交差化事業等において,低騒音で防振性に優れた弾性まくらぎ直結軌道(図1)を適用する事例が増加しています.このようなまくらぎ直結軌道において,まくらぎを支持するコンクリート道床には一般に鉄筋コンクリートが用いられますが,配筋作業に多くの労力と時間を必要とし(図2),また塩害や中性化等によって鉄筋が腐食しないようにする配慮も必要です.そこで,鉄道総研では,鉄筋を使用しない短繊維補強コンクリートのコンクリート道床への適用を検討してきました.これまでに,短繊維補強コンクリートの硬化前の特性および強度・変形特性に関する基礎的な検討1)2),模型供試体に対する破壊試験や疲労試験等3)を実施し,コンクリート道床としての性能を満足することを確認しました.
 これらの結果を踏まえ,本工法の施工性や列車走行時の性能を確認するために,鉄道総研の試験線で短繊維補強コンクリート道床を用いたD 型弾性まくらぎ直結軌道の施工試験を行ったので紹介します.
  • 図1 弾性まくらぎ直結軌道の例(D 型弾性まくらぎ直結軌道)
    図1 弾性まくらぎ直結軌道の例
    (D 型弾性まくらぎ直結軌道)
  • 図2 コンクリート道床の配筋状況の例
    図2 コンクリート道床の配筋状況の例

2.試験軌道の概要

 試験軌道を敷設した鉄道総研内の試験線は地盤(素地)上にあるため,高架橋上への敷設を想定して地盤の上にコンクリート製の路盤を施工し,その上に曲線半径約400m,カント105mmのD型弾性まくらぎ直結軌道を敷設しました(図3).試験軌道のコンクリート道床には短繊維補強コンクリートを適用し,コンクリートに混入する短繊維には付着性の良いビニロンを選択しました.本工法ではコンクリート道床の鉄筋が必要ないため,型枠内の配筋作業が不要です(図4).なお,路盤は上部路盤と下部路盤で構成し,上部路盤にもビニロンを用いた短繊維補強コンクリートを適用しました.
 本試験軌道の設計は「鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造」に従って行いました.また,コンクリートへの短繊維の混入率は,これまでの検討結果を踏まえて,コンクリートに対して体積換算で1.25%としました.
  • 図3 試験軌道の概要
    図3 試験軌道の概要
  • 図4 短繊維補強コンクリート打設前の型枠内部の状況
    図4 短繊維補強コンクリート打設前の型枠内部の状況

3.弾性まくらぎ直結軌道の施工

 図5に短繊維補強コンクリートの打設状況を示します.本施工試験では実際の施工現場を想定して,コンクリート道床の短繊維補強コンクリートをポンプ圧送によって打設しました.一般に,コンクリートに短繊維を混入すると流動性が低下しますが,ベースとなるコンクリートに高流動コンクリートを使用し,短繊維混入の前後にスランプ試験(図6)を行ってスランプフローを適切に管理することで,ポンプ圧送で問題なく打設できることを確認しました.
 図7に完成した試験軌道を示します.施工試験はコンクリートの打設に厳しい8月の猛暑の中で実施しましたが,完成したコンクリート道床にはひび割れ等の変状は発生せず,良好な状態を維持しています.
  • 図5 短繊維補強コンクリートの打設状況
    図5 試験軌道の概要
  • 図6 短繊維補強コンクリートのスランプ試験
    図6 短繊維補強コンクリート打設前の型枠内部の状況
  • 図7 試験軌道の完成状況
    図7 試験軌道の完成状況

4.おわりに

 これまでの検討の結果,急曲線を含むまくらぎ直結軌道のコンクリート道床に,鉄筋を使用しない短繊維補強コンクリートを適用することが可能であることを実証しました.本工法を適用することによって,まくらぎ直結軌道の施工性やコストを大幅に改善できることが期待できます.今後は,道床への作用について現地測定や解析等による検討を進め,より経済的なコンクリート道床の開発を目指します.
 なお,本研究開発は,(公財)鉄道総研,北武コンサルタント(株),鉄建建設(株)および(株)クラレが共同で行なっています.

文献

1) 高橋,関根,川又,松岡,保城,堀越:繊維補強セメント系複合材料に関する基礎的研究(その1),土木学会年次学術講演会,Vol.60,2005
2) 川又,高橋,堀越,松岡:繊維補強セメント系複合材料の基礎性状に関する実験的研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.28,No.1,2006
3) (公財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(軌道構造),pp407-413,丸善, 2012

(記事:高橋貴蔵)

雪害発生時の調査手法と留意点

1.はじめに

 JRの線路総延長約2万キロメートルのうち,主に日本海側地域に位置する8 千キロメートル(線路総延長の約40%)が豪雪地帯対策特別措置法で指定された「豪雪地帯」に敷設されています.また,豪雪地帯の指定を受けていない地域の線区でも降雪が生じることがあり,程度の差こそあれ,日本の鉄道は冬季に何らかの雪害を被っています(表1)。このため,鉄道では雪害に対して,ハード・ソフトの両面から多くの対策が講じられています.しかし,積雪や気象状況によっては,降積雪量や気温の低下,また風などに起因する運行障害が発生することがあります.本稿では,これらの障害が発生した際に,発生原因の究明や,再発防止のための対策を検討する際に必要な調査について,その概要を紹介します.
  • 表1 鉄道の被る代表的な雪害1)
    表1 鉄道の被る代表的な雪害1)

2.雪害発生時の調査手法

 鉄道が被る雪害として,雪崩とふぶき,吹きだまりによる運行障害を例にして,それぞれの障害発生時の調査概要を簡単にまとめます.

(1)雪崩発生時の調査

 雪崩は斜面に積もった雪が重力で落下する現象であり,その発生には斜面積雪の多寡に加えて,気象条件(気温,降雪量等)や斜面条件(傾斜・植生など)が密接に関係しています.雪崩による運行障害が発生したときには,主に次の調査を行い,雪崩の発生要因の推定や対策を検討するための基礎資料を取得します.
  • ①雪崩の発生形態や規模(流化量や衝撃荷重など)を推定するための積雪調査
  • ②雪崩発生地点の気象状況を推定するための気象観測データ収集
  • ③斜面の植生・地形形状の把握するための地形図等の判読
このうち積雪調査では,破断面の強度やその位置を把握することに加えて,雪崩の衝撃荷重算出のため の基礎データを取得するために,現地で雪の性状(雪質,密度,含水率,硬度など)を測定します.

(2)ふぶき,吹きだまりによる運行障害発生時の調査

ふぶき発生時には,切取部や除排雪によってできた側雪の周辺など風の弱い個所や分岐器に吹きだまりが生じ,これが列車の運行を支障することがあります.ふぶきは,風速がある臨界値を超えその値が大きいほど,また風上側の障害物のない平地の距離(吹走距離)が長いほど,発達することが知られています2).ふぶき,吹きだまりによる運行障害が発生したときは,発生要因と新たに防雪柵等の対策が必要な区間を特定するために,主に次の調査を行います.
  • ①吹きだまり形成箇所と障害の原因を特定するための積雪調査
  • ②ふぶき発生時の気象状況を推定するための気象観測データ収集
  • ③ふぶきの発生しやすい区間を特定するために風上側の平地の広がりに着目した地形調査
このうち積雪調査では,吹きだまりの範囲や量を知るために積雪の深さと積雪全層の水量を面的に測定します.また,気象観測データ収集では,過去の降積雪量や風向・風速データ等を調べ,ふぶきが生じやすい場所であるかどうかを検討します.

3.積雪調査における主な測定項目と調査における留意点

(1)積雪調査における主な測定項目

雪害発生時には,要因となった雪の性状を把握するために,できるだけ早い段階で積雪調査を実施することが大切です.調査で測定する主な雪の性状には,雪質(層構造,粒径),密度,硬度,含水率などがあります.これらについて以下に紹介します.
  • ①雪質・・・雪質は,積雪中での水蒸気や水の移動,融解,凍結により変化します.雪質の分類は,目視によって雪に含まれる氷粒子の大きさや形,結合の度合いを参考に行ないます(表2).
  • ②密度・・・密度は,積もったばかりのふわふわの雪で最小10kg/m3 程度,最大で氷の917km/m3 まで変化します.密度の測定は,サンプラーで積雪の中から試料を取り出し,その体積と質量から求めます.(図1).
  • ③含水率・・・濡れ雪の力学的性質は,その内部に含まれる水の割合に大きく依存するため,含水率の測定は重要です.熱量式の含水率計による測定では,氷の融解潜熱エネルギーをもとに,氷の融解に使われた熱量と雪試料の重量から,雪の重量含水率を求めます.
  • ④硬度・・・雪粒子の結合の強さを表す硬度は,斜面積雪においては雪崩のすべり面となる弱層の目安になるほか,軌道においては圧雪状態を知る指標になります.一般に,積もったばかりの新雪では小さい値を示す一方,圧密されるにつれ値が大きくなります(図2).硬度の測定は,雪の中に剛体を押し込むときの反抗力を測定します.
  • 表2 雪の分類と特徴3)
    表2 雪の分類と特徴3)
  • 図1 雪密度の測定
    図1 雪密度の測定
  • 図2 硬度の測定
    図2 硬度の測定

(2)積雪調査における留意点

雪崩が発生した場所では,近傍の斜面に残っている雪庇や積雪によって再び雪崩の発生する危険性が高いことがあります.このため,現地での積雪調査または復旧作業実施時には,①雪崩見張り員の配置,②作業員への迅速な伝達手段の構築,③退避経路の確保など,雪崩の発生に備えた十分な安全対策を行なうことが大切です.また,列車の運行や二次災害のおそれ等があり現地で調査を行うことが難しい場合,近傍の安全な場所で積雪調査を行い雪害発生箇所の雪の性状を推定します.

4.おわりに

 本稿では,雪害発生時の調査手法について,その概要を紹介しました.雪の性質は,気温や日射などの気象要素の影響を受けやすく,時間の経過とともに大きく変化するため,障害発生時にはできるだけ早い時期に調査を行うことが大切です.積雪調査の結果を用いて,雪崩の発生要因や雪崩の衝撃荷重を推定する方法については,別途改めて紹介します.

参考文献

1) 村上温ほか:鉄道土木構造物の維持管理,(社)日本鉄道施設協会,1998 年
2) 前野紀一ほか:基礎雪氷学講座Ⅲ 雪崩と吹雪,古今書院,2000 年
3) 前野紀一ほか:基礎雪氷学講座Ⅰ 雪氷の構造と物性,古今書院,1986 年

(記事:宍戸真也)