開削トンネルの改良工事における設計計算

1.はじめに

 近年,都市圏では混雑緩和や商業利用等を目的とした開削トンネルの大規模な拡幅・切拡げ工事が増加しつつあります(図1).これにより開削トンネルは部分的な開口部を有する縦断方向に非一様な構造となりますが,従来の横断方向を対象とした2次元のフレーム計算において,この状態をモデル化する方法が明示されていないという課題がありました.そこで,3次元シェル解析との比較から,このような場合のモデル化方法を検証しましたので,その結果を報告します.

  • 図1 拡幅・切拡げ工事のイメージ
    図1 拡幅・切拡げ工事のイメージ

2.開口部のモデル化

 2次元設計計算で開口部をモデル化する場合,図2に示す方法を採用する事例が多く見られます.これは,①開口部の剛性を低くして,②全体系で荷重が釣合うように反力(釣合反力)を付加するものです.開口部の剛性について,設計事例を基に以下の方法を検証しました(図3).
方法A:中柱のモデル化と同様に,開口部付近の平均的な変形を表現するように剛性を設定する方法
方法B:開口部縦断の上床版端部を両端固定梁としたときのスパン中央たわみ量とモデル化した開口部の縮み量とを一致させることで,開口部中央の変形を表現するように剛性を設定する方法

  • 図2 拡幅・切拡げ工事とフレーム計算におけるモデル化の一例
    図2 拡幅・切拡げ工事とフレーム計算におけるモデル化の一例
  • 図3 仮想梁の剛性決定方法の模式図
    図3 仮想梁の剛性決定方法の模式図

3.3次元シェル解析とフレーム計算との比較

 図4に示す2層2径間の既存の開削トンネルを対象とし,作用荷重や地盤反力係数は鉄道構造物等設計標準・同解説開削トンネル1)に基づき設定しました.荷重の組合せは,簡易に固定死荷重,鉛直土圧,水平土圧,水圧・揚圧力,地表面上の変動荷重による土圧に対して荷重係数を全て1.0として,開口幅を2.5m~15.2mまで変化させました.なお,3次元シェル解析に使用した解析モデルを図5に示します.
 上床版の中柱端部(4の位置)と開口側径間最大値(5の位置)の曲げモーメントを図6に示します.多くの位置で開口側径間最大値(5の位置)のようにそれぞれの曲げモーメントはほぼ一致する結果となりました.ただし,上床版の中柱端部(4の位置)において,開口幅が小さい場合には方法A,方法Bともに3次元シェル解析結果に近い値を示していますが,開口幅が大きくなるに従って,方法Bのみが3次元シェル解析結果を追従できることが分かります.したがって,開口部の剛性を決定するにあたり,開口幅が大きくなる場合には,開口部中央の変形を考慮した設計計算を行う必要があるものと考えられます.

  • 図4 対象トンネル
    図4 対象トンネル
  • 図5 3次元シェル解析のモデル
    図5 3次元シェル解析のモデル
  • 図6 開口幅と曲げモーメントの関係
    図6 開口幅と曲げモーメントの関係

4.おわりに

 3次元シェル解析と2次元設計計算との比較から,縦断方向に部分的な開口がある場合の設計計算方法を検証しました.今後は,計測事例等も含めてより精度の高い設計計算方法の検討を進めていきたいと考えております.
 なお,本研究の一部は,平成23年度国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて行ったものです.

文献

1) (財)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 開削トンネル,2001.

(記事:牛田貴士)

CAモルタルの簡易な健全度判定手法

1.はじめに

 スラブ軌道のてん充層には,図1に示すようにCAモルタルが使用され,長いもので50年程度経過しています.基本的には健全に維持されていますが,一部の区間では凍害等に起因する劣化が発生しており,スラブ軌道を今後も適切に維持管理していくためには,CAモルタルの健全度を評価する必要があります.現在は外観目視を主体に健全度を評価していますが,検査者の主観に依存しているために定量性に乏しく,また内部の健全度を評価できないといった問題があります.
 そこで,CAモルタルの側面からの深さ方向の健全度を簡易に評価する方法として衝撃貫入試験を新たに開発しましたので紹介します.

  • 図1 スラブ軌道の構造例
    図1 スラブ軌道の構造例

2.試験および評価方法

 衝撃貫入試験の試験状況を図2に示します.試験では衝撃エネルギーが2.207Nmのコンクリート用のテストハンマーにより直径が6mmで先端10㎜が三角錐状にとがっている貫入棒を打撃し,その反発度から劣化深さを評価します.試験の際には貫通孔を有するガイドで貫入棒を支え,貫入棒の後端部にはテストハンマーの打撃部を嵌合するための治具を取り付けます.
 反発度から劣化深さを評価するため,図3に示すように円柱供試体に対する衝撃貫入試験を実施し,圧縮強度と貫入量の関係を整理しました.一例として深さ方向にCAモルタルの圧縮強度を3段階に変化させた円柱供試体に対する衝撃貫入試験の結果を図4に示します.スラブ軌道を設計する際に要求されるCAモルタルの圧縮強度は1.8N/mm²であり,これを満足するには少なくとも10以上の反発度が必要であると考えられます.

  • 図2 試験状況
    図2 試験状況
  • 図3 円柱供試体に対する衝撃貫入試験結果
    図3 円柱供試体に対する衝撃貫入試験結果
  • 図4 室内試験状況
    図4 室内試験状況

3.試験結果の例

 試験線において凍害が発生しているCAモルタルの外観と同位置での衝撃貫入試験の結果を、それぞれ図5および図6に示します.図6より,側面から30mm以上深い位置での反発度は10以上となることから,凍害深さは30mm程度の範囲内であると推定されます.この場合,外観では凍害がかなり進行しているように見えますが,内部にはあまり進行しておらず,当面の補修は必要ないと判断することができます.
 つぎに,寒冷地に敷設されているものの,外観では目立った劣化が生じていないCAモルタルに対して衝撃貫入試験を実施した結果を図7に示します.ここでの試験では,CAモルタル側面と内部の劣化状況を評価することを目的として,図8に示すように軌道スラブ側面からドリルを用いて100mm,200㎜,300mm程度の深さまで削孔し,内部のCAモルタルに対して衝撃貫入試験を行いました.
 試験の結果,軌道スラブNo.1の右レール側の10㎜までの範囲では反発度が10未満であり,劣化が疑われますが,10㎜より深い位置では健全であると考えられます.また,その他の試験箇所については,CAモルタル側面から内部に至るまで健全な状態にあると考えられます.

  • 図5 CAモルタルの劣化状況
    図5 CAモルタルの劣化状況
  • 図6 CAモルタルの深さと反発度の関係
    図6 CAモルタルの深さと反発度の関係
  • 図7 CAモルタルの深さと反発度の関係
    図7 CAモルタルの深さと反発度の関係
  • 図8 ドリルによる削孔状況
    図8 ドリルによる削孔状況

4.おわりに

 CAモルタルの維持管理に衝撃貫入試験を適用することで,検査者の主観にとらわれることなく健全度を評価することが可能となります.また,従来の外観に基づく検査では評価できなかった内部の健全度も評価することが可能となります.
 今後は,現地試験データ数を増やすことで本試験法による健全度評価法の信頼性を高め,CAモルタルの補修の可否の判断や補修範囲の決定に役立たせていきたいと考えています.

(記事:高橋貴蔵)

曲線内軌用定置式摩擦緩和システムの開発

1.はじめに

 車輪とレールの接触問題は,鉄道固有の課題の一つであり,また,走行安全性,メンテナンスおよび環境問題など様々な領域に関わる問題です.特に急曲線部では,車輪踏面と曲線内軌頭頂面との摩擦によりきしり音や波状摩耗が発生し,沿線環境の悪化や保守コストの増加を招いています.一方,こうした問題の対策として,車輪踏面と内軌頭頂面との摩擦を低減する材料(潤滑剤)の適用が,近年国内外で注目されています.鉄道総研においても,内軌頭頂面潤滑に関する研究に取り組んでおり,既に車載式FRIMOSを開発,実用化しています.一方で,国内における内軌頭頂面潤滑は,地上に潤滑剤塗布装置を設置する定置式が主流となっています.そこで,本稿では摩擦緩和材を地上から車輪/レールへ供給する曲線内軌用定置式摩擦緩和システム(定置式FRIMOS)について,りんかい線において実施した試用試験の結果を報告します.

2.定置式FRIMOS試作システムの設置状況

 定置式FRIMOSでは,レール側面に複数のノズルを取り付け,レール頭頂面上へ少なくとも車輪一周分(約3m)の範囲に平均粒径0.2mmの摩擦緩和材を適量散布します.この際,同時に霧状の散水を行い,水滴の表面張力を利用して固体の緩和材粒子を頭頂面上に固定します.なお,散布のタイミングは,列車接近を検知してから任意の時間経過後に設定できます.
 定置式FRIMOSの試作システム(図1)は,りんかい線の急曲線区間に設置され,調整・改良および各種確認試験を経て平成23年11月から本格的に稼働しています.
 試験対象の曲線は,地下区間に存在し,半径が185mで延長が133mの円曲線と前後の緩和曲線(延長85m)からなる最大勾配31.6‰の急曲線です.走行する列車は10両編成の通勤形車両で,平日で143本/日(5,720軸),年間通トン数は約1,800万トンと比較的多いといえます.一般に,沿線環境や気候の影響が少ない地下またはトンネル区間や列車本数が多い都市鉄道では,特に急曲線走行時の車輪フランジと外軌頭側面の接触部および車輪踏面と内軌頭頂面の接触部に激しい摩擦が生じ,車輪とレール双方に摩耗が発生します.当該曲線においてもレールの側摩耗および波状摩耗が発生し,車体振動・車内騒音を増加させる要因となっています.

  • 図1 試作システムの設置状況
    図1 試作システムの設置状況

3.確認試験の結果

(1) 緩和材の延び性と横圧低減効果

 緩和材の延び性と横圧低減効果に関しては,定置式FRIMOSを停止した状態で各地点の内軌摩擦係数を測定した後,終電を含む5本の営業列車通過ごとに十分な散水量と摩擦緩和材を散布して,緩和材が車輪により延ばされる距離を終電通過後の摩擦係数測定で確認しました.さらに,摩擦係数測定後には当該区間を検測車(E491系)が走行し,内軌および外軌の横圧測定を実施しました.内軌摩擦係数の測定結果を図2に,内軌と外軌の横圧測定結果を図3に示します.
 定置式FRIMOSを停止した摩擦緩和材非散布の状態下で0.7強の摩擦係数は,緩和材散布時には0.15程度(約80%減少)まで低減され,この値は散布箇所から150m以上先まで確認されました.さらに,図3に示す横圧測定結果も摩擦緩和材の散布箇所から激減し,その後は曲線区間全域に渡り内軌で約80%,外軌で約60%,それぞれ減少することを確認しました.なお,図3中の「A地点・B地点」表示は後述する内軌頭頂面の凹凸形状測定位置を示しています.

(2) 波状摩耗抑制効果

 波状摩耗抑制効果の確認は,円曲線内で摩擦緩和材を散布していないA地点と,緩和材の散布地点から120m 遠方のB地点の2箇所において,レール削正後の頭頂面凹凸形状を33日後と83日後に測定し,波状摩耗の進行状況を評価しました.なお,これまでの調査実績で,B地点は削正から2週間程度で波高が0.1mm前後の波状摩耗が発生していた地点です.
図4は凹凸形状の測定結果で,緩和材未使用のA地点では徐々に摩耗が進行して凹部が形成されるのに対し,緩和材の散布地点以降のB地点では凹凸形状に大きな変化が認められません.さらに,目視による調査結果でも,緩和曲線を含めて,散布地点以降の区間に特異な表面形状は認められませんでした.これにより,定置式FRIMOSは内軌波状摩耗の進行を十分に抑制することが確認できました.
 なお,当該確認試験における摩擦緩和材の使用量は約20kg/月,水の使用量は約300ℓ/月で,車両のブレーキ性能および信号の軌道回路にトラブルが発生することはありませんでした.

  • 図2 内軌頭頂面の摩擦係数測定結果
    図2 内軌頭頂面の摩擦係数測定結果
  • 図3 検測車による横圧測定結果
    図3 検測車による横圧測定結果
  • 図4 内軌頭頂面の凹凸形状測定結果
    図4 内軌頭頂面の凹凸形状測定結果

(記事:名村明)