地盤免震基礎構造の提案

1.はじめに

 直接基礎構造は,基礎の浮上りや地盤の塑性化により上部構造物に入力される地震作用が頭打ちとなる免震特性が期待できるため,この特性を積極的に利用することで合理的な設計が可能になると考えられます.耐震構造研究室では,通常は杭基礎とするような軟弱地盤でも,直接基礎と地盤改良を併用することで免震特性と鉛直支持性能を併せ持つ地盤免震基礎構造を提案しています.ここでは,地盤免震基礎構造のコンセプトと,免震特性と鉛直支持性能を検証した振動台実験結果をご紹介します.

2.地盤免震基礎構造のコンセプト

 直接基礎は,底面に作用する鉛直応力の分布性状により,地震作用に抵抗します.図1 に,直接基礎の抵抗モーメントと回転角の関係(M-θ 関係),および基礎底面の鉛直応力分布の変化(図中①→⑥)を概念的に示します.慣性力を受けない状態では,鉛直応力は基礎底面に一様に分布しますが(①),慣性力を受けると鉛直応力分布が傾きます(②).傾きが大きくなると,基礎端部が浮き上がり(③:浮上り限界モーメントM1 に相当),M-θ 関係においては剛性低下します(④).更に慣性力が大きくなると,支持地盤の一部が鉛直応力の上限値に達し(⑤),最終的には支持地盤の接地面積全域で上限値に達し,これ以上の慣性力に抵抗できなくなります(⑥:最大抵抗モーメントMmd に相当).このような状態になると,過大な沈下を生じる懸念があります.ここで,上記の抵抗モーメントと回転角の関係を免震効果の観点から整理すると,以下の3 つの領域に分割することが出来ます.
領域1:基礎は浮上りや地盤の塑性化を生じず,弾性応答する状態(①→②)
領域2:基礎の浮上りや地盤の塑性化により構造物が長周期化し,免震効果が期待出来る状態(③→⑤)
領域3:接地している地盤全域が塑性化し,沈下が増大していく状態(⑥以降)
 すなわち,直接基礎の免震効果を適切に発揮させるには,領域2を積極的に用い,かつ領域3を使わないのがよいと考えられます.提案する地盤免震基礎構造は,直接基礎直下の地盤を補強または改良することで支持力を増加し,領域3の閾値である最大抵抗モーメント(⑥:Mmd)を増加させ,領域2における直接基礎の免震効果を最大限に生かすことに主眼を置いた構造形式です.

  • 図 1 直接基礎の抵抗モーメント―回転角関係と基礎底面に発生する応力分布の変化
    図 1 直接基礎の抵抗モーメント―回転角関係と基礎底面に発生する応力分布の変化

3.振動台実験による検証

 2.で示した地盤免震基礎のコンセプトを振動台実験により検証しました.実験は,図2 に示すように通常の直接基礎(以下,基本ケース)と,地盤免震基礎構造(以下,改良ケース)の2 ケースを実施しました.基本ケースは,軟弱地盤を模擬して構築した地盤上に,直接基礎模型を設置したものです.改良ケースは,基本ケースの構造物直下に地盤改良杭を配置したものです.橋脚模型はアルミニウム製で,実橋梁の約1/20 です.フーチング底面には,鉛直応力を確認するため,ロードセルを3 箇所に配置しました.軟弱層は,6 号硅砂で相対密度が60%となるように作製しました.地盤改良杭(φ=100mm)は,豊浦砂にセメント,水およびベントナイトを添加して作製し,基礎の四隅にあたる位置に配置しました.振動台は,鉄道総研の大型振動台を使用しました.入力波は,2Hz の正弦波10 波で,最大加速度を増加させて段階加振しました.入力波の最大加速度は,100, 170, 240, 370gal です.

  • 図 2 振動台実験概要(左:基本ケース,右:改良ケース)
    図 2 振動台実験概要(左:基本ケース,右:改良ケース)

4.実験結果

 図3 に,370gal 入力時の模型天端位置での水平加速度と模型の鉛直変位の時刻歴応答を示します.加速度に着目すると,2 ケースとも約400gal で応答加速度が頭打ちとなり,改良杭を配置したことによる応答加速度の増加は見られませんでした.鉛直変位に着目すると,4~7 秒付近までは,2 ケースとも同様の挙動ですが,基本ケースは7.5 秒以降で鉛直変位が急激に増大し模型が沈下しています.改良ケースには,変位の増大は見られませんでした.
 加速度の頭打ちを詳細に確認するため,基本ケースの5.5 秒付近を例に,ロードセル(①~③)で計測した鉛直応力の時刻歴を加速度とともに図4 に示します.鉛直応力の時刻歴を見ると,①,②の順に鉛直応力が0 に達しており,端部から中心にかけて浮き上がる様子がわかります.一方,③では鉛直応力が増加し,②が浮き上がるとほぼ同時に頭打ちとなっています.これに併せて加速度の応答に着目すると,加速度応答は浮き上がりが進行するにつれ,徐々に頭打ちとなっています.
 図 5 にロードセル③位置における鉛直応力と沈下量の関係を示します.沈下量が正の領域では,底面応力が,基本ケースが約30kPa,改良ケースが約80kPa で応力の頭打ちがみられ,地盤改良により支持力が増加していることがわかります.図5 のA では過大な沈下を生じませんが,剛性は低下しており,地盤の一部が塑性化した状態と考えられます.これは,図1 の領域2に対応し,図3 の5.5 秒付近もこれに相当します.図5 のB では,基本ケースが基礎底面と接地している地盤全域で塑性化が生じる領域3に入り,沈下の増大につながっていると考えられます.これは,図3 の7.5 秒以降にみられる沈下の増大に対応しています.

  • 図 3 時刻歴応答波形(上:水平加速度,下:鉛直変位)
    図 3 時刻歴応答波形(上:水平加速度,下:鉛直変位)
  • 図 4 鉛直応力と加速度の時刻歴応答波形(基本ケース)
    図 4 鉛直応力と加速度の時刻歴応答波形(基本ケース)
  • 図 5 底面の鉛直応力-沈下量関係
    図 5 底面の鉛直応力-沈下量関係

5.おわりに

 ここでは,提案している地盤免震基礎構造のコンセプトを示しました.また,振動台実験により,①直接基礎は,浮き上がりや地盤の塑性化により応答加速度の頭打ちを生じる免震特性を発揮できること,②地盤改良等を用いて沈下対策を行うことで,直接基礎の免震特性と鉛直支持性能を満足する構造が構築可能であることを示しました.

(記事:西村隆義)

耐摩耗トングレールの適用拡大

1.はじめに

 鉄道総研ではこれまで70S レールを対象として,耐摩耗性能に優れたトングレールの熱処理方法および断面形状を提案し,敷設試験を行い良好な結果を得ました1).これに対し保守コスト削減の観点から,70S レール以外のレールを用いた分岐器にも適用可能な耐摩耗トングレールを開発することが求められました.そこで,耐摩耗トングレールの適用範囲を拡大することを目的として,70S レール製耐摩耗トングレールと同等の性能を有する50kgN および80S レール製耐摩耗トングレールを開発し,50kgN レール製トングレールについては試験敷設により耐摩耗性能を検証しました.また,既に敷設されている70Sレール製耐摩耗トングレールの追跡調査を行い,長期敷設における耐摩耗性能についても検証しました.

2.耐摩耗トングレールの開発

 70S レール製耐摩耗トングレールの開発時と同様に,耐摩耗性能を向上させるため,材質の変更,新規熱処理条件の考案および断面形状の改良を行いました.

(1)硬さ

 トングレールの摩耗を抑制するためには,硬さを高くすることが有効であると考えられます.しかし,硬さを高くすると,特に硬さの高い領域では靱性が低下する傾向にあります.そのため,車輪と接触する表層部については耐摩耗性能を向上させるために硬さを高め,内部については折損防止の観点から靱性を確保するために硬さを抑えることを目標としました.

(2)材質

 耐摩耗トングレールの材質については,熱処理特性を考慮して,70S レール製耐摩耗トングレールと同じHH340 レール素材を用いることにしました.

(3)熱処理条件

 70S レール製耐摩耗トングレールは,製品形状に適切な余肉を付けた荒削り形状で熱処理することによって,製品形状で目標とする硬さ分布を達成しています.レールの断面形状が異なると,それぞれに適した荒削り形状と熱処理条件を適切に選定する必要があります.そこで,熱処理試験を行い,50kgNおよび80S レール製耐摩耗トングレールに適した荒削り形状および熱処理条件を選定しました.耐摩耗トングレールの硬さ分布を図1に示します.なお,80S レールについては仕上げ加工を省略したことから製品形状とは異なる断面形状となっています.選定した熱処理条件によって,これらの硬さ分布が既開発の70S レール製耐摩耗トングレールと同等となり,目標どおり表層部は耐摩耗性能を向上させるために硬さが高く,内部は靱性を確保するために硬さが抑えられていることを確認しました.

  • 図1 耐摩耗トングレールの硬さ分布
    図1 耐摩耗トングレールの硬さ分布

(4)断面形状

 トングレール摩耗の実態調査より,敷設直後の摩耗の進行速度が速く,また,摩耗形状は車輪踏面形状とほぼ一致することが確認されています.そこで,敷設初期段階におけるフローの抑制および車輪フランジとの接触面の圧力を低下させるため,70S レール製耐摩耗トングレールと同様に,軌間線位置から上方部分については車輪フランジ角と同じ角度を有する断面形状としました.

3.50kgN レール製耐摩耗トングレールの試験敷設

 開発した50kgNレール製耐摩耗トングレール(以下,「開発品」という)を8 番片開き分岐器の分岐線側に試験敷設しました.図2に,開発品と現行の熱処理によって製作されたトングレール(以下,「現行品」という)の摩耗量の推移を示します.現行品は敷設直後に摩耗が大きく進行する傾向が見られましたが,開発品にはそのような傾向は見られませんでした.また,敷設後約200 日経過した時点の摩耗量を比較すると,開発品は現行品の約5 割に抑えられています.このことから,耐摩耗性能が向上していることを確認でき,交換周期を延伸できると考えられます.
 図3に,現行品と開発品の敷設前の形状と摩耗形状を示します.現行品はレール頭頂面および頭側面にフローが発生していますが,開発品にはフローの発生は見られません.このことから,フロー発生による水平裂を抑えることができ,また,フロー削正に伴う保守作業を削減できると考えられます.

  • 図2 トングレール摩耗量の推移
    図2 トングレール摩耗量の推移
  • 図3 摩耗形状の比較
    図3 摩耗形状の比較

4.70S レール製耐摩耗トングレールの追跡調査

 複数箇所に敷設している70S レール製耐摩耗トングレールの摩耗量を調査しました。調査を行った4 本のトングレールの敷設状況を表1に,摩耗量の測定結果を図4に示します。
 トングレールの交換基準である摩耗量6mm に近づき交換済のAと交換予定のBのトングレールは,当該分岐器における現行品の交換実績と比較して1.5~2 倍の敷設日数となっています.また,C とD は現行品の交換実績とほぼ同じ期間敷設していますが,摩耗量は交換基準の半分以下でした.これらのことから,耐摩耗性能が向上していることを確認でき,また,現行品と比較して交換周期を1.5~2 倍程度延伸できると考えられます.


  • 表1 追跡調査対象のトングレール
    表1 追跡調査対象のトングレール
  • 図4 耐摩耗トングレールの摩耗状況
    図4 耐摩耗トングレールの摩耗状況

5.おわりに

 耐摩耗トングレールの適用範囲を拡大するため,70S レール製耐摩耗トングレールを参考に,50kgNおよび80S レール製耐摩耗トングレールを開発しました.これにより,耐摩耗トングレールを適用できる分岐器が増え,多くの分岐器において保守コストを削減できるようになると考えます.
 最後に,耐摩耗トングレールの試験敷設および追跡調査の実施にあたり,多大なる御協力を頂いた日本貨物鉄道株式会社および北海道旅客鉄道株式会社の関係者に対しまして,深く御礼申し上げます.

文献

1)(公財)鉄道総合技術研究所:耐摩耗トングレールの開発,施設研究ニュース,No.227,2009.7

(記事:及川祐也)

落石到達距離の概略予測方法

1.はじめに

 図1 に示すとおり,斜面下方端部から線路までの距離がある程度離れている場合,岩塊が線路まで到達するかどうかを判断することは難しいことが多いです.こうした場合の落石の到達距離は,落石シミュレーションにより求めることが可能です.しかし,鉄道沿線のすべての不安定岩塊にシミュレーションを適用することは実務上困難です.そこで,ある理想化した斜面を対象とした落石シミュレーションの解析結果を分析することで,不安定岩塊の位置や斜面状況から落石到達距離を概略的に予測する方法について検討しましたので紹介します.

  • 図 1 斜面下方端部から線路まで距離がある場合
    図 1 斜面下方端部から線路まで距離がある場合

2.落石到達距離の概略予測

 落石シミュレーションの解析では,落石と地盤との反発係数等をランダムに変化させて質点系力学に基づく落石挙動の解析を複数回実施することで,落石の到達距離等を確率的に求めるソフト1)を利用しました.解析パラメータを表1 に示します.落石形状は球体と仮定し,落石半径はJR 沿線で過去に発生した落石災害事例の平均値を用いました.また,斜面の状態は,本ソフトのマニュアルに記載している表2 に示す物性値を利用しました.
 解析結果の例として,落下高さ100m,落下域の斜面勾配60°,堆積域の勾配0°,斜面状態を落下域では「立木のある砂礫地盤」,堆積域では「草で覆われた残積土」した場合における,斜面下方端部からの到達距離と到達確率との関係を図2 に示します.この図には,解析結果から求めた平均到達距離μとその標準偏差σを利用することで得られる正規分布の累積分布関数を示しています.図より,斜面下方端部からの到達距離と到達確率との関係は正規分布の累積分布関数で近似することが可能であることがわかります.この傾向は,表1 に示したすべての解析パラメータの組み合わせにおいて同様でした.
 つぎに,落下高さと平均到達距離の関係および平均到達距離と標準偏差との関係を求めました.例として,落下域の斜面勾配60°,堆積域の勾配0°,斜面状態の落下域と堆積域の組み合わせを,落下域「立木のある砂礫地盤」,堆積域「草で覆われた残積土」および「表土が薄く堆積する岩盤」,落下域「概ね滑らかな岩盤」,堆積域「表土が薄く堆積する岩盤」とした場合における,落下高さと平均到達距離の関係を図3 に示します.平均到達距離は落下高さに比例して大きくなっていることがわかります.この傾向は,表1 に示したすべての解析パラメータの組み合わせにおいて同様でした.
 平均到達距離と標準偏差との関係を図4 に示します.この図には,すべての解析パラメータの組み合わせにおける解析結果を示しています.ばらつきは大きいものの,本稿では落石到達距離を概略的に予測する方法を検討していることから,標準偏差は斜面状況が異なっても平均到達距離から図に示した一つの関係式で求めることとしました.
 図2 には図3 および図4 に示した提案式から平均到達距離と標準偏差を求め,これらを用いた正規分布の累積分布関数も示しています.解析データの平均値,標準偏差を用いた正規分布の累積分布関数と比較すると,若干ずれが生じていますが,斜面条件から平均到達距離μと標準偏差σを求めることで,正規分布の累積分布関数により到達距離と到達距離との関係を表すことが可能であると判断しました.


  • 表1 解析パラメータ
    表1 解析パラメータ
  • 表2 斜面状態ごとの物性値
    表2 斜面状態ごとの物性値
  • 図2 斜面下方端部からの到達距離と到達確率との関係の例
    図2 斜面下方端部からの到達距離と到達確率との関係の例
  • 図3 落下高さと平均到達距離との関係の例
    図3 落下高さと平均到達距離との関係の例
  • 図4 平均到達距離と標準偏差との関係
    図4 平均到達距離と標準偏差との関係

3.計算事例

 計算事例として仮定した斜面の条件を表3 に,この条件と2 章で示した方法により得られる斜面下方端部からの到達距離と到達確率の関係を図5 に示します.表3 と図5 より,斜面A では岩塊が線路に到達する確率が約74%,斜面B では約48%となることがわかります.このように,発生源の危険度が同じであるとすれば,落石到達距離を概略的に予測することで,斜面B よりも斜面Aの危険性が高いと判断することが可能となります.


  • 表3 仮定した斜面の条件
    表3 仮定した斜面の条件

  • 図5 仮定した斜面の条件における到達距離と到達確率との関係
    図5 仮定した斜面の条件における到達距離と到達確率との関係

4.おわりに

 本稿で述べた落石到達距離の概略予測方法は,対象とする不安定岩塊が多く,発生源の危険度が同一の岩塊が落下した場合の影響度を相対的に比較する場合に有用であると考えています.なお,落石の規模が大きい場合や実際に落石対策を実施する場合は到達距離を詳細な解析により検討するとともに,マニュアルや基準類をもとに落石エネルギーを計算する必要があります.今後,実際に発生した落石に対して予測式を適用することで,実現象との整合性を検証する予定です.

【参考文献】

1) R.M.Spang,Th.Sonser: Optimized Rockfall Protection by“ROCKFALL”, Proc. 8th Int. Congr. Rock Mech, Tokyo, 1995.

(記事:布川 修)