斜杭基礎の設計・施工上の取扱い

1.はじめに

 一般に同種・同一杭径の直杭に比べて斜杭を採用することで,その水平剛性が増加し,列車走行安全性や耐震性の向上を図ることが可能であることが知られています.しかしながら,斜杭を採用し,その効果を最大限に発揮するためには,地盤条件や構造条件を十分に考慮し,その適用条件を満足する必要があります.
 これまで東海道新幹線等では打ち込み工法による斜杭が適用されていましたが,その後しばらくの間は騒音問題等の理由により斜杭の施工が困難となり,ほとんど適用されていませんでした.しかしながら,近年,回転杭工法等の新工法が開発されて斜杭の施工(写真1)が可能となったことから,平成24年1月に発刊された鉄道構造物等設計標準・同解説(基礎構造物)(以下,基礎標準)において,斜杭基礎の記述が大幅に改訂されることとなりました.本稿では,斜杭基礎の具体的な設計・施工上の留意点について説明します.

  • 写真1 回転杭工法による施工事例
    写真1 回転杭工法による施工事例

2.斜杭基礎の設計・施工上の留意点

 基礎標準では鉄道構造物として斜杭を適用する場合の一般的な条件として,主に図1に示すように杭先端が用地境界内に留まる概ね10度以下の角度を想定しています.具体的な設計・施工上の留意点を以下にまとめます.

(1)適用を避けるべき地盤条件

 地盤抵抗の小さい軟弱な粘性土地盤や液状化地盤の杭基礎の場合や斜杭の軸線間の交点よりも高い位置に水平力が作用する場合は,構造物の回転が卓越し斜杭の軸剛性を優位に活用できません.
 特に圧密沈下が生じる地盤で斜杭を用いる場合,地盤沈下の大きさに応じてネガティブフリクションが作用し杭体に断面力が発生するため,そのような条件や将来的に高架橋近傍に道路盛土が構築される計画がある場合等では,原則として斜杭を用いないこととしています.やむを得ず,ネガティブフリクションが作用する設計条件で斜杭を採用する場合には,長期支持性能の照査において,杭軸方向地盤ばねおよび杭軸直角方向地盤ばねを介して地盤変位を鉛直方向に作用させた詳細な構造解析を行って,設計応答値を算定することとしています.

(2)地盤抵抗のモデル化

 一般に斜杭の地盤抵抗特性は,杭軸方向,杭軸直角方向の地盤ばねとしてモデル化し,その地盤ばね特性(ばね剛性および強度)についても斜杭角度の補正を行う必要があります.特に有効抵抗土圧力度は,斜杭の内向きと外向きで異なる値となるため,左右非対称のモデル化を行う必要があります.ただし,斜杭角度が10度以下であれば斜杭角度の補正の影響は相対的に小さいことから,基礎標準では図2に示すように地盤ばねを杭軸に沿わせずに鉛直方向・水平方向にモデル化し,直杭として算定した地盤ばね特性を用いてよいこととしています.また,構造物の要求性能に応じた斜杭を有する杭基礎の性能項目ごとに,適切な地盤抵抗特性を用いて設計応答値を算定し,性能照査を行います.

(3)杭頭結合部

 斜杭を適用する場合にはフーチングあるいは地中梁と斜杭の結合部の配筋が大きな課題となります.一般的に鋼管杭のフーチング等への定着方法に用いられるアンカー鉄筋方式では,杭のアンカー鉄筋が斜めに配置されて柱配筋・地中梁配筋と干渉する(図3)ことから,アンカー鉄筋を鉛直に配置して施工性を向上させる方式(図4)が開発されており,これが基礎標準中に例示されています.この方式では,アンカー鉄筋を鉛直かつ矩形配置にするとともに,帯鉄筋を高密度化することで高い変形性能を確保することができます.

(4)施工上の留意点

 杭工法は回転杭工法(写真1),中掘り根固め工法および打込み杭工法とし,その中でも,騒音・振動が少なく近接施工にも有利な回転杭工法が斜杭に適した工法であると言えます.さらには場所打ち杭工法よりも短工期で施工できるのも特徴です.施工時には施工機械自体を傾斜させるため,施工精度や施工時の安全性などについて十分に検討が必要であり,斜杭角度が10°を超える場合には特に注意が必要です.

  • 図1 斜杭基礎概念図
    図1 斜杭基礎概念図
  • 図2 地盤抵抗モデル図(10度以下の場合)
    図2 地盤抵抗モデル図
    (10度以下の場合)
  • 図3 従来接合部,図4 接合部の構造例

3.おわりに

 斜杭基礎は,地震時には構造物天端の水平変位が小さくなり,優れた制振効果を発揮する工法です.特に場所打ち杭が適用できずに鋼管杭を使用せざるを得ない地盤条件(被圧地下水等)の場合には,斜杭基礎を適用することにより,構造物の建設コストの縮減が期待できます.本稿が適用の際の参考となれば幸いです.

(記事:松浦光佑,西岡英俊)

土構造物設計プログラムによる既設土構造物の耐震診断・対策

1.はじめに

 頻発する地震災害に備えて近年,都市部を中心に既設の土構造物の耐震診断・補強設計が精力的に行われるようになってきました。鉄道総研では,土構造物の設計プログラム(液状化判定プログラム,盛土・切土の設計プログラム,盛土補強土擁壁・切土補強土擁壁の設計プログラム)を販売しておりますが,主として新設構造物の設計を目的としており,既設構造物の診断・補強設計には十分対応できておりませんでした。これらのプログラムは平成24年1月の鉄道構造物等設計標準・同解説(土留め構造物)および平成24年9月の鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震設計)の出版に合わせてバージョンアップを行っておりますが,併せて既設土構造物の診断・補強設計への対応も図っております。本稿ではこの内容と,診断・補強設計での運用方法についてご紹介いたします。

2.液状化判定プログラムにおける既設盛土の考慮

 既設盛土を有する支持地盤の液状化判定を行う際には,盛土の有効上載圧を考慮することで合理的な判定を行うことができるようにしました。
 液状化判定では,液状化強度比Rと地震時の最大せん断応力比Lを算定し,両者の比FL=R/Lから算定される液状化抵抗率による方法が用いられます。ここで,既設盛土の液状化判定を行う際には,液状化強度比Rについては支持地盤の材料特性を表すため盛土がない状態での値を用います(N値から液状化強度比を推定する場合は盛土荷重を考慮しません)が,最大せん断応力比Lは作用する地震力と地層の応力との比であることから,盛土の上載荷重分を考慮することといたします。これらの考え方は,道路橋示方書等でも用いられております。
 この考え方に従って,液状化判定を行った例を示します。検討対象とした地盤モデル(柱状図)を図1に示します。このモデルで黄色くハッチングした層が液状化検討の対象となる砂質土層であり,液状化判定を①盛土がない水平地盤,②盛土高さ3m(盛土の単位体積重量:16kN/m3),③盛土高さ6m,の3ケースで検討いたしました。判定に用いる地震動には,耐震標準に示されるL2地震動のスペクトルⅡ・G3地盤の地表面設計地震動を用いております。液状化判定で得られた深度ごとのFLの値と液状化指数PLの値を図1右側に示します。水平地盤の場合と比べて盛土がある場合にはFLの値は大きくなり,PLの値は小さくなっております。また,盛土高さが大きいほどこの傾向は顕著なものとなっております。
 液状化判定プログラム「LIQUEUR-JR」では,今回の改訂で既設盛土のような上載荷重の考慮の有無(R・Lに対して個別に設定)や,既設盛土も含めた形で地盤モデルを作成した際に,盛土と地盤を区別して液状化判定を実施できるようになっています。なお,この考え方は新設盛土の設計時にも適用可能です。

  • 図1 液状化判定結果
    図1 液状化判定結果

3.盛土・切土設計プログラムでの地山補強材の使用

 盛土・切土の設計プログラム「Design-SoilStructure」では,今回の改訂に併せて既設盛土の補強で広く用いられている地山補強材による補強設計の検討ができるようになりました。
具体的には,円弧すべり法による安定の照査,ニューマーク法によるL2地震時の残留変位量の照査で活用します。この計算の中で,地山補強材の引抜き抵抗力を入力値として用いることとなりますが,地山補強材の打設位置ごとに上載圧と粘着力を考慮して設定いたします。また,地山補強材は定着を行うのり面工の種類(張ブロック,格子枠工,のり面工なしなど)によって発揮される引抜き抵抗力が変わることから,のり面工の種類に応じたのり面工低減係数μを設定した上で設計を行います。なお,μの値は現状では他企業体の技術基準等を参考にしながら設定しますが,活用方法や設定方法を今後検討していく予定です。
 このプログラムを使って既設盛土の診断と地山補強材による補強設計の試算を行ってみました。対象とした盛土は高さが9m,のり面勾配が1:1.3,盛土材料は土構造標準に記されている土質3を想定しております。のり面工低減係数μは0.7を設定しました。入力地震動には,耐震標準に示される土構造物照査波のG2地盤の時刻歴波形を用いました。この盛土に対して大径補強材(D400mm)による補強設計を行いました。ニューマーク法により算定した滑動変位量と補強量の比較図を図2に示します。この図から,地山補強材を用いることで滑動変位量の低減を評価できていることがわかります。

  • 図2 滑動変位量算定結果
    図2 滑動変位量算定結果

4.盛土補強土擁壁・切土補強土擁壁設計プログラムにおける滑動変位量算定

 盛土補強土擁壁・切土補強土擁壁の設計プログラム「Design-RRR」では,L2地震時の残留変位量をニューマーク法により,「滑動変位」・「転倒変位」・「せん断変形」に区分して算定します。今回の改訂で,滑動変位量の算定法を一部改めました。
 滑動変位量の算定法のイメージ図を図3に示します。これまでは,(a)のように滑動抵抗力を壁体底面の反力と摩擦力に集約しておりましたが,今回のプログラム改訂に併せて(b)のように壁体底面とFブロック底面で分担することとしました。これは,L2地震時の変形量照査はこれまでは盛土補強土擁壁の設計でしか行われておらず,背面地盤が砂質土を主体とするため(a)の方法で十分な設計を行うことができました。しかし,近年は補強設計等で粘性土を主体とする背面地盤を扱う場面も多く,この際に過剰な変位量が算定されることを受けて改訂を行いました。
 この設計プログラムを使って粘性土を主体とした地山補強に関するL2地震時の滑動変位量の算定を行いました。検討対象とした解析モデルを図4に示します。入力地震動には,土構造物照査波のG2地盤の波形を用いました。従来のプログラムでは千mmオーダーの滑動変位量が算定されておりましたが,バージョンアップ後のプログラムでは65mmとなり,現実に即した変位量が算定されております。なお,砂質土を主体とした場合には,これまでと同程度の変位量となることを確認しております。

  • 図3 ニューマーク法による滑動変位算定法
    図3 ニューマーク法による滑動変位算定法
  • 図4 解析モデル
    図4 解析モデル

5.おわりに

土構造物の耐震診断・補強は今後ますます加速すると思われます。今回紹介しました設計プログラム類を活用いただければと思います。

(記事:松丸貴樹)

FWDを用いた軌道支持剛性評価法の開発

1.はじめに

 バラスト軌道は,列車の繰返し荷重によって沈下が生じるため,定期的に線形を検測し,必要に応じてタイタンパーやマルチプルタイタンパー(以下,MTT)等により補修を行っています。軌道補修後の品質管理は,施工後の軌道の仕上り線形によって行われており,バラストの強度や締固め密度などの力学的な管理は行われておらず,バラストの締固め具合は作業者の技量に依存しているのが現状です。そこで,鉄道総研では,軌道補修の高品質化を目的とし,FWD1),2)(Falling Weight Deflectometer)を用いた軌道補修後の力学的な施工管理方法(以下,軌道支持剛性評価方法)の開発3)を進めています。

2.軌道支持剛性評価法の概要

 本研究で用いるFWD(図1)は,主に盛土,路盤等の剛性を測定する装置であり,荷重計と加速度計が装置内部に内蔵され,重錘を自由落下させることで衝撃荷重を測定対象に与え,その時の荷重と変位(加速度から変換)を時刻歴波形として収録するシステムを有しています。
 本研究では,このFWDを用いて,軌道補修前後の各まくらぎの支持ばね係数の分布と経時変化を評価します。図2にFWD測定で得られるまくらぎの荷重-変位曲線の例を示します。この荷重-変位曲線の最大荷重Pmaxと最大変位Dmaxから支持ばね係数(以下,Ks)を算出します。例えば,図2に示すように,まくらぎの支持状態が良い場合は荷重-変位曲線は弾性的な応答を示し,Ksは大きくなります。これに対して,浮まくらぎ状態やバラスト・路盤剛性が不十分である等,まくらぎの支持状態が悪い場合においては,荷重-変位曲線のヒステリシスが大きくなり,Ksは小さくなります。また,図3に示す応答変位遅延時間(以下,TD)によって,現在のまくらぎの支持状態を把握することができます。すなわち,TDが小さい場合は,まくらぎの支持状態が良く,逆に,TDが大きい場合は,まくらぎの支持状態が悪いと考えられます。
これらの,荷重-変位曲線の違いを分析することで,軌道補修前後のまくらぎの支持剛性を定量的に評価することができると考えられます。

  • 図1 測定の状況
    図1 測定の状況
  • 図2 まくらぎ支持ばね係数KSの概念図
    図2 まくらぎ支持ばね係数KSの概念図
  • 図3 応答変位遅延時間TDの概念図
    図3 応答変位遅延時間TDの概念図

3.営業線における本評価法の適用

 営業線において,本評価手法を用いた現地試験により,MTTによる軌道補修前後のまくらぎ支持剛性をKSおよびTDにより評価しました。測定箇所は,60kgレールの複線ロングレール区間であり,盛土区間からまくらぎ直結軌道区間に向かって列車が走行する構造物境界部です。測定は,盛土区間のPCまくらぎ35本,まくらぎ直結軌道区間の合成まくらぎ1本の計36本とし,軌道補修前後に実施しました。当該箇所は,軌道補修前に構造物境界部で7~8mの延長にわたって軌道変位が発生しております。

3.1 Ksによるまくらぎ支持剛性の評価

 図4に,軌道補修前後のKsの分布形状を示します。同図より,構造物境界部で軌道変位が発生している範囲と軌道補修前のKsの分布形状が概ね同様の傾向を示しており,この範囲においてKsが大きいまくらぎは,浮まくらぎの支持点となっていることが考えられます。また,軌道補修を行うことで,増加量にばらつきがあるものの,基本的にKsは増加することがわかります。このように,Ksの分布形状から,軌道補修効果の定量的な評価が可能になると考えられます。

3.2 TDによるまくらぎ支持剛性の評価

 図5に,軌道補修前後のTDの分布および軌道補修前の軌道変位を示します。同図より,軌道補修前の軌道変位とTDの分布形状は,概ね同様の傾向を示しており,軌道変位が大きい箇所ではTDが大きい値を示すことがわかります。また,軌道変位には表れていませんが,スポット的にTDが増大している箇所は,浮まくらぎが生じていると考えられます。さらに,軌道補修前後のTDの分布形状を比較すると,軌道補修を行なうことで,TDは全体的に小さくなり,1.5msec程度に均一化することがわかります。すなわち,軌道補修によって浮まくらぎが無くなり,まくらぎの支持状態が改善されたものと考えられます。このように,TDの分布形状より,浮まくらぎ箇所の特定が可能になると考えられます。

  • 図4 Ksの分布形状(一例)
    図4 Ksの分布形状(一例)
  • 図5 TDの分布形状(一例)
    図5 TDの分布形状(一例)

4.おわりに

 FWDによる軌道支持剛性測定試験によって,まくらぎの支持剛性を簡易かつ定量的に評価できる可能性を確認しました。今後は,様々な線区や軌道補修条件下でデータの収集・分析を行い,KSやTDと軌道変位との関係等について検討を進める予定です。

【参考文献】

1)舗装工学委員会編:FWDおよび小型FWD運用の手引き,土木学会,2002.
2)(財)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物,2007.1
3)伊藤,中村,村本,佐野:FWDを用いた軌道支持剛性に関する基礎的検討,第48回地盤工学会研究発表会,2013.7

(記事:伊藤壱記)

地中地震計を利用した地表地震動の即時予測手法

1.はじめに

 地震発生時に可能な限り早く列車を停止させることは列車の走行安全性を確保するために非常に重要です.そのため,鉄道分野ではS波より先に到達するP波を鉄道沿線や海岸線に設置された地表地震計で受信し,その初動数秒のデータから推定した震源位置とマグニチュードに基づいて,鉄道構造物に被害発生の恐れがある範囲に警報を出力するシステムが導入されています例えば1).今後発生が予想される首都直下地震では震源から鉄道沿線までの距離が短く,警報出力までの余裕時間が少なくなると考えられるため,より早く,また,より正確に警報を出力することが重要です.
 そこで,(独)防災科学技術研究所により整備された基盤強震観測網KiK-netの地中地震計を利用して,地表地震動を即時的に予測して警報に利用する手法を提案します.図1のように,地中P波から直接的に地表S波を即時予測することができれば,より早く正確に警報を出力できると考えられます.ここでは,地中と地表の最大振幅(振幅の最大値)の関係を把握し,手法の有効性を明らかにしたので,その結果を紹介します.

  • 図1 提案する手法のイメージ図
    図1 提案する手法のイメージ図

2.使用したデータ

 使用した観測点は,地中地震計の設置深さが地震基盤に達している2)関東平野のKiK-net観測点です(図2).使用した地震は,関東平野およびその周辺を震源とするマグニチュード4.5~7.0の243地震です(図3).地中と地表の全地震記録に対して,加速度波形を用いてP波とS波の到着時刻の読み取りを目視で行い,P波到着からS波到着までの鉛直成分の最大値をP波の最大振幅とし,S波到着以降における南北・東西成分の合成波形の最大値をS波の最大振幅としました(図4).

  • 図2 使用した観測点
    図2 使用した観測点
  • 図3 使用した地震
    図3 使用した地震
  • 図4 到着時刻と最大振幅の例
    図4 到着時刻と最大振幅の例

3.地中地震記録利用による余裕時間の増分

地中P波を利用することで,地中地震計の設置箇所から地表までの堆積層を地震動が伝播する時間分だけ余裕時間が増加します.そこで,各観測点の地中P波と地表P波の到着時間差を求めることで余裕時間の増分を試算しました(図5) .その結果,到着時間差は0.1~1.2秒であり,地中地震計が深く設置されている観測点ほど大きいことがわかります.したがって,地中P波を利用することで,現行の地表P波より早く警報を出力することが期待できます.

  • 図5 地中P波と地表P波の到着時間差
    図5 地中P波と地表P波の到着時間差

4.地中と地表の最大振幅の関係による地表地震動予測

 図6に地中と地表の最大振幅の関係による地表地震動予測のフローを示します.図6右側のフローのように,地中P波と地表S波の最大振幅の関係により地表S波を直接予測することが可能です.しかし,ここでは地表地震動予測に影響をおよぼす因子とその影響度合いを明らかにするため,図6左側のフローのように,地中P波と地中S波の最大振幅の関係により地中S波を予測し,続いて地中S波と地表S波の関係により地表S波を予測する方法についても検討しました.
 最大振幅の予測式は,図6に示すように,最大振幅の関係を両対数グラフにプロットし,理論式をフィッティングしてパラメータb,a1,a2を決めることで,観測点ごとに求めました.
 次に,予測精度を確認するために,最大振幅の関係における相関係数を計算しました(図7).地中S波と地表S波の最大振幅の関係では相関係数が0.9以上の高い値を示す観測点が多く,これは,両者の関係には観測点直下の地盤による地震動増幅が影響し,地震の違いによるバラツキが小さいためと考えられます.一方,地中P波と地中S波の最大振幅の関係では相関係数が0.7~0.9 程度とやや低くなります.これは,両者の関係には震源から放射されるP波とS波の振幅比(放射特性)が主に影響し,震源断層の特性や震源と観測点の位置関係によって異なるため,地震の違いによるバラツキが現れるためと考えられます.地中P波と地表S波の最大振幅の関係においても相関係数は0.7~0.9程度であることから,地震ごとの放射特性の違いによる影響が地盤による地震動増幅の影響より大きいことがわかります.しかし,地中P波と地表S波の最大振幅の関係を警報に使用する場合,その相関係数は平均で0.8を超えていることから,地中地震計を利用した地表地震動の即時予測手法は早期地震警報としては十分な精度を有していると言えます.

  • 図6 地中と地表の最大振幅の関係による地表地震動予測のフロー(CHBH04の例)
    図6 地中と地表の最大振幅の関係による地表地震動予測のフロー(CHBH04の例)
  • 図7 最大振幅の関係における相関係数
    図7 最大振幅の関係における相関係数

5.おわりに

 ここでは,地中地震計を利用した地表地震動の即時予測手法の有効性を示しました.今後は,実際の運用を視野に入れて,システム化に向けた課題を抽出し,その解決を図っていきます.

謝辞

 本研究では,(独)防災科学技術研究所のKiK-netの地震記録を使用しました.記して感謝いたします.

参考文献

1) 岩橋ほか:早期地震警報の実用化,鉄道総研報告,Vol.18,No.9,23-28,2004
2) 林ほか:関東平野の地下に分布する先新第三系基盤岩類,地質学雑誌,Vol.112,No.1,pp.2-13,2006

(記事:宮腰寛之)