RC高架橋スラブの補修・補強工法および架設工法

1.はじめに

 近年,既設RC ラーメン高架橋スラブの老朽化が進み,耐力の低下が懸念されています.また,列車の高速化に伴って,振動や騒音の低減が求められる場合があります.一方,都市部等における構造物の建設においては,多くの時間的・空間的制約を伴う場合が多く,スラブの構築において施工の合理化・省力化がより求められています.
 本稿では,既設スラブの補修・補強工法と新設スラブの架設工法に関する最近の知見を紹介します.

2.RC 高架橋スラブの補修・補強工法

 鋼材腐食が発生した鉄道ラーメン高架橋スラブ等においては,補修工法として断面修復工法が実施されています.部分断面修復工法が施工される事例が多くありますが,供用年数の増加や変状の進展を鑑みると,今後は全断面修復工法の施工事例が増加することが想定されます.
 そこで,RC 高架橋スラブの補修・補強工法として,UFC ボードを用いた高架橋スラブの補強工法を東急建設(株)と共同で開発しました(図1)1).本工法は,スラブ下面に人力で設置できる重量のUFCボードを永久型枠として設置し,無収縮モルタルを充填して一体化するものです(図2).なお,UFCボードは一体化させることで,引張材としての効果も期待することが出来ます.また,従来の全断面修復工法に比べて大掛かりな足場を必要としないため施工性を向上できます.
 本工法で補強したスラブの載荷試験を実施した結果,耐力および剛性が大きく向上することを確認しました(図3).本試験は補強部分に引張鉄筋を設置していませんが,スラブの劣化状況に応じて,補強部分に引張鉄筋を設置することも可能です.また,解析的な検討により,列車走行による構造物音が低減されることも把握しました(図4).これにより,中間スラブの効果的な補強が可能となりました.

  • 図1 外観のイメージ
    図1 外観のイメージ
  • 図2 既設スラブと補強部分の断面図
    図2 既設スラブと補強部分の断面図
  • 図3 載荷試験(荷重-変位関係)
    図3 載荷試験(荷重-変位関係)
  • 図4 本工法による騒音低減効果
    図4 本工法による騒音低減効果

3.RC高架橋用ハーフプレキャスト(HPCa)スラブの一体架設工法

3.1 一体架設工法の概要

 RCラーメン高架橋の張出スラブの構築には,一般に支保工や型枠が必要となります.そこで,張出スラブの構築の合理化,省力化を図るため,張出スラブと中間スラブのHPCa床版を一体架設する工法を開発しました(図5).張出スラブと中間スラブのHPCa床版を一体化して架設することにより,張出スラブ構築時の無支保工を実現できます.本工法で用いるHPCaスラブの部材性能は,実物大供試体の載荷実験により確認しました.

3.2 載荷実験によるHPCa スラブの性能確認

 場所打ちコンクリート打設前後におけるHPCaスラブ(床版)それぞれに対して載荷実験を実施しました.図6に示すように,張出スラブ先端に鉛直荷重を与えました.図7は,場所打ちコンクリート打設前であるHPCa床版に対する,鉛直荷重とたわみの関係ですが,載荷前後で試験体に大きな損傷は認められず,剛性はほぼ線形に推移しています.また,図中に併記した弾性骨組み解析結果から,たわみの応答は弾性骨組み解析により評価できると考えられます.
 図8は,場所打ちコンクリート打設後(完成時)であるHPCaスラブの鉛直荷重とたわみの関係です.比較用に,従来の施工法である場所打ちコンクリート製スラブの結果も示しています.HPCaスラブは,トラス鉄筋等により大きな耐荷力を有していますが,想定設計荷重においてHPCa床版と場所打ちコンクリートが一体となって挙動し,場所打ちコンクリート製スラブと同等以上の部材性能を有していることが確認できます.したがって,従来と同様な設計が可能と考えられます.
 なお,本工法の設計法は,設計・施工指針2)として取りまとめています.

  • 図5 一体架設による施工方法の概念
    図5 一体架設による施工方法の概念
  • 図6 架設時(打設前)の載荷方法
    図6 架設時(打設前)の載荷方法
  • 図7 架設時の鉛直荷重-たわみ関係(HPCaスラブ)
    図7 架設時の鉛直荷重-たわみ関係(HPCaスラブ)
  • 図8 完成時の鉛直荷重-たわみ関係
    図8 完成時の鉛直荷重-たわみ関係

参考文献

1) 白井貴之,岡本大,黒岩俊之,笠倉亮太:超高強度繊維補強コンクリートを用いたスラブの補強工法の検討,土木学会第67 回年次学術講演会講演概要集,V-215,pp.429-430,2012.
2) 前田建設工業(株),飛島建設(株),日本カイザー(株):トラス鉄筋付きプレキャスト版を用いた鉄道ラーメン高架橋スラブの設計・施工指針,2012.12.

(記事:仁平達也,中田裕喜)

異形タイタンパーを用いた道床補修法

1.はじめに

 古いトンネルもしくは高架橋上のバラスト軌道では,構造物境界部の不同沈下やトンネルの構造物制限等により,所定道床厚の確保が困難な箇所があります.これまでの研究より,バラスト軌道に対してタイタンパー(以下,TTという)を用いた通常のつき固め補修を行うと(図1(a)),まくらぎ底面より100mm程度の深さまでTTのつき固めツールが挿入されてまくらぎ下にバラストがつき固められることがわかっています1).しかし,道床厚が100mm程度より薄くなると(図1(b)),隣接まくらぎや路盤に支障してTTツールの挿入が困難となり,作業性が著しく低下すると共に,道床厚に対するバラスト粒径の比率が大きくなり,まくらぎ下のバラストの締固め状態にばらつきが生じやすくなります.そのため,所定道床厚の確保が困難な箇所は,沈下や軌道変位が早期に発生しやすくなってしまいます.そこで,鉄道総研では,道床厚が薄いバラスト軌道に対して効果的な軌道補修方法を開発し,実物大模型試験により補修効果の検討を行いましたので報告します.

  • 図1 通常TTを用いた軌道補修方法の概要
    図1 通常TTを用いた軌道補修方法の概要

2.道床厚が薄いバラスト軌道における軌道補修方法の概要

 道床厚が薄いバラスト軌道における軌道補修方法の概要を図2に示します.本方法は,バラストよりも小粒径の単粒度砕石をまくらぎ下に散布し,特殊なTTツール(以下,異形TTという)を用いたつき固め補修を行うものです.異形TTは,つき固めツールを深く角折れさせ,道床厚が薄い箇所でもまくらぎ下まで砕石をつき固めることができる形状としたものです.さらに,ツール先端幅を通常TTツールの2倍に広げて小粒径の砕石を効率良くつき固めできるようにし,先割れ形状にすることでバラストへの刺さり難さを解消しました(図3).

  • 図2 道床厚が薄いバラスト軌道における軌道補修方法の概要
    図2 道床厚が薄いバラスト軌道における軌道補修方法の概要
  • 図3 異形TTツール
    図3 異形TTツール

3.実物大模型試験

 本軌道補修方法の補修効果を検討するため,実物大模型を用いた繰返し載荷試験を行いました.図4に試験概要を示します.路盤はアスファルト路盤とし,その上にまくらぎ1本からなる実物大バラスト軌道模型を構築しました.試験ケースは表1に示す5ケースです.道床厚は,所定道床厚の200mmと,通常TTでは補修が困難となる100mmの2種類としました.道床に用いる砕石は,通常のバラスト砕石とそれより粒径の小さい2種類の単粒度砕石の計3種類としました.図5に使用した砕石の粒度分布を示します.
 ケース1では,180mmの厚さとなるようにバラストを投入して締め固め,まくらぎを20mm扛上して通常TTを用いたつき固め補修を行い,道床厚200mmの軌道模型を構築しました.ケース2~5では,まくらぎ下の隙間が100mmとなるようにまくらぎを設置して,各種砕石をまくらぎ脇に投入してつき固め補修を行い,道床厚100mmの軌道模型を構築しました.図6に異形TTによる軌道補修状況を示します.なお,ケース2は道床厚100mmに対して通常TT補修ができなかったため,載荷試験は中止しました.
 試験条件は,載荷回数30万回,載荷荷重5~55kN(最大軸重137kN相当),載荷周波数5Hzとし,まくらぎの中央部および両端部に変位計を設置して,まくらぎ変位を計測しました.

  • 図4 実物大模型試験の概要
    図4 実物大模型試験の概要
  • 表1 試験ケース
    表1 試験ケース
  • 図5 砕石の粒度分布
    図5 砕石の粒度分布
  • 図6 異形TT補修の概要
    図6 異形TT補修の概要

4.試験結果

 本軌道模型は,路盤剛性の高いアスファルト路盤上に構築されていることから,残留変位はバラストの初期沈下が大半となり,定常沈下はあまり進行しないと考えられます.初期沈下はバラストの初期密度に依存するため,TT補修の精度の差が残留変位として現れます。
 図7に,まくらぎ残留変位(まくらぎの中央部と両端部の平均値)の推移を示します.30万回載荷後のまくらぎ残留変位は,ケース3(100mm厚・バラスト)で最も大きくなり,所定道床厚であるケース1(200mm厚・砕石①)の2倍程度まで増大しました.また,ケース4(100mm厚・砕石①)およびケース5(100mm厚・砕石②)は,ケース1と概ね同程度の残留変位でした.図8に,30万回載荷時のまくらぎ変位振幅およびまくらぎ残留変位の分布を示します.まくらぎ両端の変位振幅および残留変位の差分(水準変位)は,ケース3が最も大きくなりました.これは,道床厚100mmに対して最大粒径60mm程度のバラストを使用したため,バラストの締固め状態にばらつきが生じたことが原因と考えられます.一方,ケース4およびケース5は,ケース1と同程度の変位振幅および水準変位であり,良好な支持状態であると考えられます.

  • 図7 まくらぎ残留変位の推移(まくらぎ平均)
    図7 まくらぎ残留変位の推移(まくらぎ平均)
  • 図8 まくらぎの残留変位,変位振幅の分布(30万回載荷時)
    図8 まくらぎの残留変位,変位振幅の分布(30万回載荷時)

5.まとめ

 薄い道床厚のバラスト軌道に対する軌道補修方法に関して実物大模型試験を行い,以下の知見が得られました.

  • 薄い道床厚のバラスト軌道に対して,バラストを用いたTT補修を行うと,初期沈下や水準変位が増大しやすい.
  • 開発した異形TTは薄い道床厚のつき固め補修作業に有効であり,異形TTと最大粒径が道床厚の半分以下の砕石を用いることで,補修効果が上がる.
  •  今後は,所定道床厚の確保が困難な箇所で本補修方法の現地試験施工を行い,補修効果を検証する予定です.

参考文献

1)伊藤壱記,村本勝己,中村貴久:タイタンパー補修に伴う道床バラストの密度変化,第46 回地盤工学研究発表会,2011.

(記事:中村貴久)

架道橋付近における支持剛性変化の沿線地盤振動への影響と対策工の効果の検討

1. はじめに

 盛土区間における架道橋の橋台付近は盛土と橋台,桁の構造物境界であり,道床バラストの支持剛性の変化点であるほか,盛土に緩み等を生じやすい場所です1).このことが架道橋付近においての地盤振動の影響要因の一つと考えられます.本稿では車両・軌道・構造物系と構造物・地盤系の二つの動的解析を組み合わせて,橋台付近の支持剛性の変化が地盤振動に及ぼす影響を検討しました.さらに架道橋の振動低減対策工の効果について検討した結果を述べます.

2. 車両・軌道・構造物系の動的解析に基づく検討

 解析モデルは全長約106mとし,図1に示すとおり盛土,架道橋,車両を梁,集中質量,ばね,ダッシュポットで表現し,図中の矢印方向に車両を走行させました.各部材の物性値は設計標準等にもとづいて設定しています.なお,本検討では比較的良好な地盤を想定しています.
 まず,盛土の支持剛性の違いによる加振力への影響をパラメータスタディにより検討しました.各ケースの設定状態を表1に示します.case2やcase3は橋台付近(図1の破線の範囲)の路盤下および橋台の地盤ばね定数を変えています.なお,case2は橋台背面盛土が緩んだ部分に沈下が生じている場合を考えて,路盤下の地盤ばねを変更した範囲において0.25mm下側に凸の矩形の軌道不整波形を設定しました.加振力はばね反力とダッシュポット反力を加算し求めました.
 各位置における最大加振力を計算した結果を図2に示します.最大加振力はいずれのケースも構造物境界付近の橋台背面盛土部で大きくなることや,走行方向手前側に比べて奥側の方が大きいことがわかりました.
 続いて,case1(基本ケース)に対する架道橋の振動低減対策工を行った際の加振力変化を検討しました.各対策工の概要を図3に示します.case5はフーチングを連結させることにより架道橋全体の高剛性化を図ったケースです.case6は桁の断面2次モーメントが約6倍となる版厚とし,桁を高剛性化したケース,case7は文献2)を参考に桁端部と橋台の間に片線あたり粘性減衰係数約5MNs/mのダンパを取り付けたケースです.case1と各対策ケースの加振力比を図4に示します.case6は架道橋中央から手前側ではcase1よりも大きく,奥側では反対に小さいなど加振力比に違いがみられました.

  • 図1 車両・軌道・構造物系の解析モデル
    図1 車両・軌道・構造物系の解析モデル
  • 表1 各ケースの設定状態
    表1 各ケースの設定状態
  • 図2 最大加振力の線路方向分布
    図2 最大加振力の線路方向分布
  • 図3 振動低減対策工ケース
    図3 振動低減対策工ケース
  • 図4 最大加振力比の線路方向分布
    図4 最大加振力比の線路方向分布

3. 構造物・地盤系の動的解析に基づく検討

 ここでは,前節で検討した結果を踏まえて道床の支持剛性変化や振動低減対策工の沿線地盤への影響を検討しました.解析モデルの概要を図5に示します.構造物へ入力する加振力は図2の結果をもとに図6に示すとおり重みづけしています.
 解析結果として距離12.5m点におけるcase1と各ケースの振動加速度レベル差を図7に示します.図より,盛土全体を堅固に改良することで周波数帯域は,高周波側に移行することがわかりました.
 続いて,12.5m点におけるcase1と振動低減対策工の各ケースのレベル差を図8に示します.図より,16~25Hzの帯域でcase6やcase7は2~8dB程度,振動が小さく,今回検討した条件では桁増厚や桁端ダンパ付加は特定の周波数帯において効果的であることがわかりました.

  • 図5 構造物・地盤系の解析モデル
    図5 構造物・地盤系の解析モデル
  • 図6 加振力の重みづけ
    図6 加振力の重みづけ
  • 図7 基本ケースと各ケースの振動加速度レベル差(12.5m点)
    図7 基本ケースと各ケースの振動加速度レベル差(12.5m点)
  • 図8 基本ケースと対策工ケースの振動加速度レベル差(12.5m点)
    図8 基本ケースと対策工ケースの振動加速度レベル差(12.5m点)

4. まとめ

 車両・軌道・構造物系モデルの支持剛性変化のパラメータスタディにより,今回検討した盛土では,いずれのケースにおいても加振力は架道橋付近の盛土で大きくなることや,走行手前側よりも奥側の方が大きいことがわかりました.また,今回の検討では,桁増厚や桁端ダンパ付加による振動低減対策により沿線地盤において特定の周波数帯域の振動が低減する結果が得られました.本稿では比較的良好な地盤を対象としましたが,今後は,地盤条件が異なる場合について支持剛性変化の沿線地盤に及ぼす影響を検討する予定です.

文 献

1)泉並良二,深田隆弘,高馬太一:微動アレー探査および地震透過法を用いた盛土内部探査,物理探査学会第126回学術講演会論文集,pp.43-46,2012
2)比江島慎二,藤野陽三:桁端ダンパーによる橋梁の交通振動の低減,土木学会論文集No.465/I-23,pp.107-116,1993

(記事:加藤信二郎)