RCラーメン高架橋の部材の振動特性

1.はじめに

 近年,列車速度の向上により,構造物の振動に起因する騒音が比較的小さいと考えられていた鉄筋コンクリート(以下,RC)高架橋においても部材の動的応答の増大に伴う構造物音の発生が懸念されるようになっています.筆者らは,構造物音のシミュレーションモデルとして,図1に示す有限要素法と境界要素法のカップリングによる解析法を開発しています.数値解析により構造物音が解析できれば,様々なパラメータの影響を取り入れた数値実験を行えるメリットがあります.本稿では上記カップリングモデルのうち有限要素法による構造解析部分を対象として,①構造物音の原因となる200Hzまでの振動を効率的に解析できる数値解析モデルの提案と,②各種パラメータに着目した部材振動に関する周波数ごとの支配的な要因の分析について報告します.

  • 図1 構造物音のシミュレーションモデルの概要
    図1 構造物音のシミュレーションモデルの概要

2.解析手法

 図2に解析対象構造物を示します.ブロック長25mの新幹線の標準的な3径間RCラーメン高架橋と隣接するスパン10mの調整桁を検討対象としました.図3に解析モデルの概要を示します.車両はマルチボディで,軌道及び構造物は有限要素法でモデル化しました.構造物の応答を精度良く再現するためには,車輪/レール間の相互作用による加振力を適切に評価することが重要です.本研究では,レール頭頂面に実測したレール凹凸及び軌道変位を与えるとともに,レールの高次振動モードを効率的に再現するため,車両/軌道/構造物からなる全体系を,車両/軌道モデルと軌道/構造物モデルとに分割して解析を行うこととしました.これにより,個々のモデルの解析自由度が全体系で解析するよりも削減され,効率的で高精度の解析が可能となりました.


  • 図2 解析対象構造物
    図2 解析対象構造物
  • 図3 解析モデルの概要
    図3 解析モデルの概要

3.解析結果

 RCラーメン高架橋は複数の部材から構成されていますが,板状の部材が音源となりやすいため,以下では中間スラブの結果を取り上げます.
 図4に実測と解析の比較を示します.列車速度270km/hと車両長25mから決まる基本加振振動数3Hzの整数倍ごとに生じるピーク周波数やピーク値等,提案した数値解析手法により概ね実測を再現できていることがわかります.また,同図には列車速度270km/hにおける各種パラメータの周波数ごとの支配的な要因分析結果も合わせて示します.各種パラメータについてwith/without分析により全体メカニズムの検討を行った結果,20~30Hzより低周波領域では部材剛性,車両の軸配置及び車両質量の影響が大きいこと,20Hzより高周波領域では車両のばね下質量の影響が大きいこと,軌道パッドのばね定数は概ね60Hzより高周波領域で影響が大きいこと等がわかりました.
 図5に列車速度が中間スラブの応答に与える影響を示します.車両長25m及び軸距2.5mに起因するピークの周波数は列車速度とともにシフトすることがわかります.また,速度によってシフトしないピークは,加振周波数の整数倍と中間スラブの固有振動数が概ね一致したことにより生じたピークと考えられます(例えば速度240km/hと軸距2.5mから決まる加振周波数26Hzと中間スラブの固有振動数26Hzが概ね一致).


  • 図4 中間スラブの実測と解析の比較と周波数ごとの支配的な要因の分析
    図4 中間スラブの実測と解析の比較と
    周波数ごとの支配的な要因の分析
  • 図5 列車速度が中間スラブの応答加速度に与える影響(160~370km/h)
    図5 列車速度が中間スラブの応答加速度
    に与える影響(160~370km/h)

4.明かり区間圧力変動への構造物振動の寄与

 図6に沿線の明かり区間圧力変動に対する構造物振動に起因する成分の寄与率を示します.図1に示したように,有限要素法による構造解析により求めた構造物の各節点の振動速度を境界要素法による音響解析プログラムへの入力条件とし,沿線の構造物音を評価しました.本シミュレーションモデルと沿線における明かり区間圧力変動の実測結果を比較することにより,明かり区間圧力変動への構造物振動の寄与率は概ね20Hz以上の領域で大きいこと,20Hzよりも低い領域では,構造物振動よりも空気力学的な要因の寄与が大きいこと等がわかりました.

  • 図6 明かり区間圧力変動に対する構造物振動に起因する成分の寄与率(軌道から12.5m点)
    図6 明かり区間圧力変動に対する構造物振動に
    起因する成分の寄与率(軌道から12.5m点)

5.まとめ

 今後は,新幹線の標準的な構造物である桁式高架橋について同様の検討を進めるとともに,本シミュレーションモデルを,構造物音の低減対策の提案等に活用していきたいと考えています.

参考文献

渡辺勉他:車両/軌道/構造物の各種パラメータが鉄道RCラーメン高架橋の部材振動特性に及ぼす影響に関する数値解析的検討,土木学会論文集A2(応用力学),vol.69,No.2,2013

(記事:渡辺 勉)

本設利用工事桁用レール締結構造の開発

1.はじめに

 工事桁を撤去せず本設構造物の一部として利用する本設利用工事桁(工法)は,工期短縮が可能でありコスト削減にも有効であることから近年多くの方式が提案,実用化されています.このうち,合成まくらぎを設置した横桁を主桁に取り付けて工事桁とする,「マクラギ抱き込み式」の本設利用工事桁においては,工事期間中に工事桁として供用している期間は橋まくらぎ構造,本設化後は直結構造と軌道構造が変化するため,いずれの構造にも対応可能で,かつ,本設化の際には大きなレール調整量を持つ締結構造が必要とされます.そこで,これらの要求を満たし「マクラギ抱き込み式」の本設利用工事桁に適用可能なレール締結構造を開発し,その性能照査を実施して実軌道への適用性を確認しました.

2.レール締結構造の設計条件

 本レール締結構造を開発するにあたり,設計条件を表1に示すように定めました.検討対象となる締結装置の種別が多岐におよぶ点を考慮し,締結装置の構成部材のうちタイプレートとその定着方法のみ新規設計として,その他の構成部材については極力既存のレール締結装置で十分な使用実績のある部材を用い,それらの組合せにより成立する構造を検討しました.

  • 表1 レール締結構造の設計条件
    表1 レール締結構造の設計条件

3.レール締結構造の概要

 3.1 タイプレートの定着方法

 本レール締結構造では,構成部材の共通化を図ることを目的として,適用区分やレール種別,締結方法によらずタイプレートの定着方法を合成まくらぎに設置した埋込栓と正六角形のフランジが付いた両ねじボルトによる方式とし,かつ,埋込栓の配置についても統一を図りました(図1).合成まくらぎの最小厚さは埋込栓の寸法と安全余裕を考慮して140mmとし,幅・長さは一般部用では最小化を図り幅200mm,長さ2000mm,継目部用ではタイプレート寸法に合わせて幅を300mmとしました.

  • 図1 タイプレートの定着方法
    図1 タイプレートの定着方法

3.2 レール位置の調整機構

 レールの左右調整は,少ない部品数で複数の調整量に対応できる点と調整作業時の施工性向上を考慮し,タイプレートと調整座金の双方に設けた鋸刃状の加工の組合せによるラック式調整機構を採用し,調整座金を反転することで2mm刻み,標準締結位置から軌間内外にそれぞれ最大20mmの調整量を実現しました(図2).レールの上下調整に関しては,板ばね・線ばね締結ともにレール・タイプレート間に設置する可変パッドもしくは調整板で標準締結位置から10mm,タイプレートと合成まくらぎ間に挿入する調整用鋼板(厚さ10mm)および調整座金下部に挿入するこう上用座金を併用して10mm,合計で最大20mmまで調整可能な構成としました.

  • 図2 左右調整機構の概要
    図2 左右調整機構の概要

3.3 適用区分と締結方式

 3.2節に示したレールの上下調整機構を実現するため、一般部用のうち板ばね締結方式については,直結8形レール締結装置(一般形)を,線ばね締結方式については,直結系軌道用の線ばね形レール締結装置を基本としました(図3).継目部用については,実現性が高いと判断した板ばね締結方式を基本としました.

  • 図3 開発したレール締結構造の例(一般部用)
    図3 開発したレール締結構造の例(一般部用)

4.レール締結構造の性能確認試験

4.1 軌道標準に基づく性能照査

開発したレール締結装置の性能照査を「鉄道構造物等設計標準 軌道構造」に基づき実施しました.表2に照査結果を示します.照査の結果,いずれの適用区分・締結方式のレール締結装置についても疲労破壊に関する安全性および電気絶縁抵抗に関わる使用性の要求性能を満足し,実軌道への適用に際し問題が無いことを確認しました.

  • 表2 性能照査項目と照査結果
    表2 性能照査項目と照査結果

4.2 レール締結装置の機能に関する検討

 直結系軌道で重要となるふく進抵抗力および埋込栓の引抜強度に関する検討を行いました.ふく進抵抗力は線ばね締結方式では締結装置一組あたり6.2kN,締結間隔750mm換算で8.3kN/m/レールとなり,直結系軌道におけるロングレール縦荷重の目標値5kN/m/レールを超過していることから,線ばね締結方式を採用する場合は構造物側の設計で配慮が必要であることが分かりました.また,板ばね締結方式ではレール締結間隔に応じて締結トルクを調整することで,所定のふく進抵抗力を実現できることを確認しました.一方,埋込栓の引抜強度は試験結果より新品で100kN程度,疲労試験後で80~90kN程度であり,JISに示された合成まくらぎのねじくぎ引抜強度が30kN以上であることから,十分な強度を有していることを確認しました.

5.まとめ

 本設利用工事桁のうち,「マクラギ抱き込み式」に適用するレール締結構造について設計条件を検討し,一般部用および継目部用のレール締結構造を開発しました.また,試作したレール締結構造を用いて性能確認試験を実施し,実軌道に適用可能であることを明らかにしました.今後は試験敷設によりその有効性を確認する予定です.

(記事:飯田政巳)

函体推進による線路下横断工施工時の地盤変位予測法

1.はじめに

 線路下や道路下を安全に施工可能でかつ,土被りを小さくできる非開削工法の一つとして,函体推進・けん引工法が挙げられます.本工法は,線路/道路および切羽防護のためにまず箱形ルーフ(角形鋼管エレメント)を施工し,その後,現場にて函体(ボックスカルバート)を場所打ちにより製作し,箱形ルーフとともに函体を前進させ,線路/道路下に函体を構築する工法です(図1).
 本工法は函体の推進中に周辺地盤を介して多少なりとも軌道に影響を及ぼしますが,そのメカニズムは明らかとなっていません.そこで,函体推進における過去の施工データの分析,現場計測,現場計測結果に基づく数値シミュレーション解析を実施し,函体推進時の地盤変位予測法を提案しました.

  • 図1 函体推進・けん引工法の施工手順(箱形ルーフ施工完了後のR&C工法の場合)
    図1 函体推進・けん引工法の施工手順(箱形ルーフ施工完了後のR&C工法の場合)

2.現場計測

 函体推進中の箱形ルーフの挙動および周辺地盤(軌道)変位発生メカニズムを把握するため,現場計測を実施しました(図2).箱形ルーフの計測結果より,箱形ルーフの函体推進中の姿勢は,函体推進前の姿勢が保持される傾向にあることが確認できました.そして, 箱形ルーフの傾斜(計画線形からの傾き)の向きと大きさが箱形ルーフ直上の地盤変位に及ぼす影響の一つの大きな要因であることを把握しました(図3).

  • 図2 箱形ルーフの高低計測位置
    図2 箱形ルーフの高低計測位置
  • 図3 函体推進時の箱形ルーフとその直上軌道の鉛直方向の挙動(軌道変位は累積)
    図3 函体推進時の箱形ルーフとその直上軌道の鉛直方向の挙動(軌道変位は累積)

3.模型実験

 これまでに実施した分析結果の妥当性を確認するために,函体推進を模擬した実験を実施しました(図4).主なパラメータは箱形ルーフの傾斜(計画線形からの傾き)の向きと大きさ(UR)です.模型実験は土槽内に箱形ルーフ出来形を模擬した角形鋼管を押し抜くことにより行い,その際の土槽表面の鉛直変位量(Ug)を計測しました.模型実験の結果より,下向き勾配(UR<0)による隆起,上向き勾配(UR>0)による沈下が発生し,高低差が大きくなれば鉛直変位量も増加することが確認できました(図5).

  • 図4 函体推進(鋼管押抜き)模型実験状況
    図4 函体推進(鋼管押抜き)模型実験状況
  • 図5 実験結果(ルーフの傾斜の影響)
    図5 実験結果(ルーフの傾斜の影響)

4.函体推進時の地盤変位予測法の提案

 収集した施工データを,箱形ルーフの傾斜と地表面もしくは軌道鉛直変位との関係について整理し,図5上にプロットし,それらをほぼ包括する地盤変位推定面(箱形ルーフの傾斜による地盤変位予測法)を図6に示します.
 この図を用いれば,箱形ルーフの傾斜(もしくは,函体上面の傾斜)を把握することにより,簡易に地盤(軌道)変位を予測できます.隆起側と沈下側で傾向が異なるのは軌道の剛性によるものと考えられます.

  • 図6 地盤(軌道)変位予測法
    図6 地盤(軌道)変位予測法

5.おわりに

 現在実施している指定課題でおいて,軌道変位を抑制する手法について検討を行っています.また,併せて,軌道の剛性を考慮した軌道変位予測法について深度化しているところです.成果がまとまりましたら,またご報告する予定です.

(記事:岡野法之)