バラストレス化前後の軌道支持弾性に着目したバラストレス軌道の開発

1.はじめに

 新幹線のバラスト軌道では,さらなる軌道保守の省力化や耐震性の向上が求められており,有効な手法の一つとしてバラスト道床のバラストレス化が挙げられます(図1).これまでバラストレス軌道に関して耐荷力や施工性等について検討を行ってきましたが1),実用化のためには施工前後の軌道支持弾性の変化を抑えるとともに,衝撃荷重の緩和や騒音・振動の抑制を図る必要がありました.

 そこで,バラスト軌道と同程度の支持弾性を目指すために,軌道支持弾性に着目し検討を行ったので報告します.

  • 図1 バラストレス軌道
    図1 バラストレス軌道

2.弾性まくらぎの適用

 既往の研究2)では,バラスト軌道と直結系軌道の接続部における走行安全性や軌道の安全性について,軌道の支持弾性比を用いた検討が行われており,列車速度260km/hに対する許容支持弾性比は2.0程度とされています.このため合成まくらぎ下面に適切な弾性を有するまくらぎパッドを貼り,弾性まくらぎ化しました.

 表1に試作したまくらぎパッドの諸元を示します.このパッドはエチレンプロピレンゴム(EPDM)製低弾性発泡ゴム(厚さ10mm)に,硬質ゴム(厚さ6mm)を貼り合せた2層構造のまくらぎパッドとしました.硬質ゴム層は,バラストの貫入を防止し点接触に対する荷重を分散させる目的で採用しました.

  • 表1 まくらぎパッド供試体の諸元
    表1 まくらぎパッド供試体の諸元

 要素試験では,載荷速度0.5kN/secで1kPaから550kPaの圧縮応力の負荷と除荷を繰り返し,3回目負荷時の応力と変位を測定しました.図2に応力-変位関係を,表2にベッド弾性率を示します.ベッド弾性率は1.8倍となり許容支持弾性比の目標値(2倍以内)を満足することができました.

  • 図2 応力-変位関係(要素試験)
    図2 応力-変位関係(要素試験)
  • 表2 まくらぎパッドのベッド弾性率
    表2 まくらぎパッドのベッド弾性率

3.実物大軌道模型の構築

 図3に示すように軌道模型はまくらぎ1本分とし,開発したまくらぎパッドを合成まくらぎに接着しました.道床は入手性,プレパックドコンクリートの品質等を考慮してコンクリート用砕石4020としました.プレパックドコンクリート化には,夜間の施工と始発列車通過時の必要強度を考慮し,急硬性のプレミックス材(セメント系無収縮モルタル)でてん充を行いました.なお,プレミックス材のセメントと細骨材の質量比は1:1で,水セメント比は42.4%です.

 てん充時には骨材とモルタルの付着を高めるため,棒状バイブレータで締固めを行っています.また,てん充時に別途プレパックドコンクリートのブロックを作製し,コアを採取して圧縮強度試験を行った結果,材齢7日の圧縮強度は31.0N/mm2でした.

  • 図3 実物大軌道模型の諸元(1/2断面図)
    図3 実物大軌道模型の諸元(1/2断面図)

4.実物大軌道模型に対する載荷試験

 図4に示すようにバラストレス化前後に軸重5~85kNで載荷と除荷を繰り返し,3回目載荷時の荷重増分-変位関係を得ました.バラスト軌道に対しては,予備載荷として軸重5~85kNの荷重を周波数5Hzで1万回載荷しています.バラストレス化前後のまくらぎ支持ばね係数の比は1.67倍となり,許容支持弾性比の目標値(2倍以内)を満足しました.要素試験と同様に,硬質ゴム層がバラストの貫入や点接触に対する荷重分散に寄与していることを確認しました.

 また,てん充完了後90分で1万回,材齢7日で100万回の繰返し載荷(軸重5~129kN,周波数5Hz)を行いましたが,変位振幅の変動はほとんどありませんでした(図5).載荷試験終了後の材齢14日において,載荷による曲げひび割れや乾燥収縮によるひび割れは確認されませんでした.

  • 表3 まくらぎ支持ばね係数
    表3 まくらぎ支持ばね係数
  • 図4 荷重増分-変位関係(実物大軌道模型)
    図4 荷重増分-変位関係(実物大軌道模型)
  • 図5 変位振幅-載荷回数関係
    図5 変位振幅-載荷回数関係

5.おわりに

 提案したバラストレス軌道は一般区間・分岐部において適用可能であり,軌道保守の省力化や耐震性の向上に対して有効であると考えています.

【参考文献】

1)高橋貴蔵 他:バラスト軌道のプレパックドコンクリート化に関する基礎的研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.34,No.2,pp.1471-1476,2012

2)名村明 他:支持弾性遷移区間の軌道の挙動解析,鉄道総研報告,Vol.11,No.2,pp.39-42,1997.2

(記事:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 長沼光)

地山補強材とジオセルを併用した既設盛土の耐震・耐降雨補強工法の開発(RRS工法)

1.はじめに

 首都圏直下地震や東海・東南海・南海地震など来る将来に発生が予想される地震に備え,盛土の耐震補強が精力的に行われるようになってきました。また,盛土は降雨の影響も受けますが,近年の頻発する豪雨被害を受け,盛土の降雨に対する対策も急務となっています。このように,盛土の耐震・耐降雨対策への要望は急速に高まっており,これらの双方に効果があり,また施工性や経済性に優れた工法が必要とされています。そこで,鉄道総研では地山補強材とジオセルを複合させた新しいのり面工(RRS工法;Reinforced Railroad/Road Slope Structures with Geocell and Reinforcing Bars)の開発を行いました。本稿では,工法の概要と実際の施工事例をご紹介いたします。

2.工法の概要と施工手順

 RRS工法の概要を図1に示します。本工法は地山補強材と呼ばれる棒状の補強体と,ジオセルと呼ばれるハニカム構造の立体的なジオシンセティクスにより構成されております。地山補強材には,ロックボルトのように径が100mm程度の鉄筋から,地盤改良杭のようなソイルセメントの杭体まで様々なものがあります。これまで,既設鉄道盛土の補強において広く用いられており,要求性能に応じた補強材の種類・仕様を設定することが可能です。

 一方,のり面工に用いるジオセルは高密度ポリエチレン製の立体的なシートであり,1つのセルは512mm×475mm×100mm,1枚のシートは30セル×5セル(14.25m×2.56m)で構成されています。使用前は長さ約3.6m,幅0.3m程度の帯状に折りたたむことができ,盛土上まで人力で運搬することが可能です。なお,後で述べますがRRS工法の特色である連結工の鉄筋を配筋するために,孔の大きさ,位置等を工夫するとともに,通常の法面工に用いるジオセルよりも強度・変形剛性を増大させる等の改良を加えています。

 地山補強材による盛土の耐震・耐降雨補強を,ジオセルによる一体化とのり面保護の効果によって,より強固なものとすることができます。

 施工は,一般に以下の手順により行います。

  • 図1 RRS工法の概要
    図1 RRS工法の概要

(1)地山補強材の打設

 設計計算(安全性,復旧性)により定めた補強材の種類・仕様に従って地山補強材の施工を行います。

(2)ジオセルの敷設

 ジオセルは,一般に盛土ののり肩からのり尻に向かって敷設を行います。線路延長方向に対しては,複数のジオセルを重ね合わせることとなりますが,樹脂製の結束バンドを使った接続方法を採用し(図2),線路延長方向に弱部のないのり面工の構築が可能となります。

  • 図2 ジオセル同士の結束方法
    図2 ジオセル同士の結束方法

(3)連結工

 ジオセルのセル面に設けられた孔を活用して,鉛直・水平方向に一定間隔で連結用棒鋼を挿入し,のり面保護を強化します(図3)。なお,連結工によってのり面工の曲げ変形に対する靭性の向上を部材試験によって確認しています。

  • 図3 連結工・定着工
    図3 連結工・定着工

(4)定着工

 地山補強材の定着を,支圧プレートを用いて行います。用いる地山補強材が小径のものであれば1つのジオセルの内部での定着が可能となります(図3)。中径・大径の補強材であれば,複数のジオセルを使った定着となります。

(5)中詰工

 敷設したセル内に中詰めを行います。使用材料としては現地での発生土や砕石の他に,緑化を目的とした植生土のうの使用なども可能です(図4)。

  • 図4 中詰工(左:砕石,右:緑化)
    図4 中詰工(左:砕石,右:緑化)

3.適用例

 本工法は,2011年3月11日発生した東北地方太平洋沖地震により甚大な被害を受けた三陸鉄道南リアス線での復旧工事(盛-吉浜間,2013年4月の部分運行再開)において採用されました。南リアス線では地震と津波の双方に起因する被害が発生し,全線で不通となりました。盛土にも多くの被害が生じました。

 南リアス線の盛土はトンネル掘削時の発生ずりを材料として用いており,のり面にはそのずりを用いた岩座空張が張られていました。図5に被災状況の一例を示します。この写真では,盛土体は健全であったものの岩座のずれが生じておりまして,コンクリートを用いたのり面工を施工する場合には岩座の撤去や補修が必要となりました。また,周辺では復興工事が進み資材が不足すること,更には運行再開予定時期が決まっていることなど,材料搬入・工期の面でも制約がありました。このため,これらの条件を満足できる工法としてRRS工法が選定されました。

 図6に施工状況を示します。(a)は地山補強材を打設した後にジオセルを敷設した状況になります。その後,連結工,定着工,中詰工と施工を進め,(b)に示すように復旧に至りました。4ヶ所,約8,000m2で施工が行われ,従来ののり面工に比べて20%程度のコスト削減につながりました。

  • 図5 三陸鉄道南リアス線の盛土被害(岩座空張のずれ)
    図5 三陸鉄道南リアス線の盛土被害
    (岩座空張のずれ)
  • 図6 三陸鉄道南リアス線の復旧状況
    図6 三陸鉄道南リアス線の復旧状況

4.おわりに

 盛土の耐震・耐降雨補強は、今後益々精力的に進められていくと考えられます。盛土の補強においては,経済性は勿論のこと,現地の状況に応じた施工が可能であることや景観に配慮することなども必要とされます。RRS工法はこのような条件に対応できる工法であり,今後の更なる適用が期待されます。なお,本研究は,ライト工業(株),東京インキ(株),(株)複合技術研究所との共同研究の成果になります。

(記事:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 松丸貴樹)

豪雨による盛土の不安定化範囲

1.はじめに

 これまでの研究では盛土内排水対策として施工実績の多い排水パイプを対象に,盛土の条件別に最適化された施工パターンを設計仕様として整理することを目指してきました.その施工仕様を決定するにあたっては,排水パイプの施工対象範囲を明確化することが必要となります.本稿では,降雨時に弱点箇所となる切盛境界の盛土や構造物背面の盛土等を対象に,豪雨時に地下水位が上昇して不安定化する範囲について飽和・不飽和浸透流解析により検討した結果について述べます.

2.飽和・不飽和浸透流解析の解析条件

 飽和・不飽和浸透流解析における土の不飽和透水特性はBrooks&Corey法1)により算出しています.パラメータは,過去に被災した盛土の物性値2)を参考に表1の値を用いています.土の飽和透水係数は,過去の検討により地下水位が最も上昇しやすい5×10-3cm/sの値を採用し,土質は砂質土を想定しています.また,不飽和透水係数はIrmay型とし,パラメータnは西垣の方法3)により下式から求めました.

   n=0.69-1.31・log10k  k:飽和透水係数(cm/s)

  • 表1 飽和・不飽和水分特性
    表1 飽和・不飽和水分特性

3.雨水の集中流下による不安定化のメカニズムとその影響範囲

 鉄道では,列車荷重の経年的な繰り返し作用により軌道バラストが沈下して盛土堤体にめりこみ,この部分が水みちを形成すると考えられます(図1).切盛境界の盛土が不安定化するメカニズムとして,上述の水みち部分を流下する雨水が切土と盛土の境界部の構造変更点で集中して盛土内に浸透し,盛土が不安定化することが推定されます.そこで,上述の雨水の集中浸透を解析上で表現する外力条件として「湛水条件」を切盛境界部に設定しました.過去に実施された調査により平均バラストめりこみ量は約0.3mであることから,湛水範囲は図2に示すように線路勾配との幾何学的な関係より決定しました.このようなバラストのめり込みと線路勾配との関係に起因する雨水の集中浸透による不安定化メカニズムは,切盛境界のみならず,落込み勾配の盛土や構造物背面の盛土などでも同様と考えられます.

  • 図1 バラスト沈下のイメージ図
    図1 バラスト沈下のイメージ図
  • 図2 湛水範囲の算定イメージ図
    図2 湛水範囲の算定イメージ図

 外力条件として設定した「湛水条件」による地下水位の上昇により,図3中に示した地下水位線が形成されると想定されるため,その地下水位上昇の影響範囲の長さを明確にする必要があります.そこで,図3に示す盛土高さ7.5m,施工基面幅10m,のり面勾配1:1.5,延長150mのモデルを作成し,浸透流解析により湛水による影響範囲の延長を検討しました.なお,同モデルの盛土高さは過去の被災事例2)を参考としています.このモデルに対し,外力条件として表2に示すような降雨パターンと湛水範囲を組み合わせて与え,解析時間中における湛水の影響範囲の長さを外力条件別に算出しました.図4に,のり肩直下位置における盛土縦断面の地下水位の一例を示します.各解析結果を総合すると,いずれの外力条件でも境界部から湛水による影響範囲は最大約40mであることが明らかとなりました.

  • 図3 湛水による影響範囲の評価のための盛土モデル
    図3 湛水による影響範囲の評価のための盛土モデル
  • 表2 解析条件
    表2 解析条件
  • 図4 解析結果の一例(湛水幅30m)
    図4 解析結果の一例(湛水幅30m)

4.降雨による盛土内地下水位の上昇量

 次に,盛土内の地下水位が降雨によりどの程度まで上昇する可能性があるかを検討しました.ここでは,図3と同様の断面形状を持つ純盛土モデルを作成し,外力条件として所定の降雨を与えた際に上昇する地下水位の最高高さについて検討しました.降雨は設計標準に示された作用Ⅱの降雨(1000年確率相当の降雨)としています.また,設計標準では,台風などに代表されるような短時間降雨パターンと,梅雨時期に代表されるような長期型降雨パターンがありますが,本報告で設定した飽和透水係数5×10-3cm/sの砂質土に対しては,短時間降雨パターンがより地下水位を上昇させる条件となります.そこで,図5に示す24時間中に最大時間雨量rmax=180mm/h,総降雨量R24=450mmが作用する短期型降雨パターンを与えることとしました.図6に,盛土内地下水位の経時変化を示します.図から,降り止み2時間後に最も地下水位が上昇し,その最高位置は基盤面から約3mであることが分かります.

  • 図5 作用させた短期型降雨
    図5 作用させた短期型降雨
  • 図6 盛土内地下水位の解析結果
    図6 盛土内地下水位の解析結果

4.おわりに

 以上の検討から,「湛水条件」による影響範囲は最大約40m,降雨による最高地下水位は底面より約3mであることが分かりました.しかしながら,本稿では,弱点箇所で想定される雨水の集中流下を,バラストめり込み量から求められる「湛水条件」により再現しています.これは,一般的に実盛土におけるバラスト近傍の水の流れの把握が困難であることから,より安全側となるように外力条件を設定したものです.そのため,現地調査等により雨水の集中範囲が明確である場合には,現地の実態に即した浸透流解析を実施して影響範囲を決定することが必要となります.

【参考文献】

1)Brooks, R. H. and Corey, A. T.:Hydraulic properties of porous media, Hydrology paper No.3, Colorado state University, 24p, 1964.

2)杉山友康:降雨時の鉄道斜面災害防止のための危険度評価手法に関する研究,鉄道総研報告,特別第19号,239p,1997

3)西垣誠・楠見和紀:不飽和土の浸透特性の評価に関する考察,土質工学会,不飽和土の工学的性質研究の現状シンポジウム発表論文集,pp179-186,1986.

(記事:防災技術研究部 地盤防災研究室 渡邉諭)

JIS規格PCまくらぎの入線可能輪重に関する検討

1.はじめに

 PCまくらぎの設計は,従来,許容応力度法により行われてきましたが,2012年に発刊された「鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造(以下,軌道標準という)」により,性能照査型設計法の適用が開始されました.軌道標準では,PCまくらぎの設計応答値を算定する際にFEM解析を用いることを推奨していますが,実務において全てのPCまくらぎに対してFEM解析を適応することは煩雑であるため,従来の許容応力度法で用いられてきた荷重分散係数による算定方法の需要も高いと考えられます.そこで本研究では,FEMと荷重分散係数を用いた場合の差異について入線可能輪重の面から比較し,荷重分散係数を用いた従来法の適用範囲に関する検討を実施したので報告します.

2.検討方法

 表1に検討対象としたJIS規格PCまくらぎを,表2に設計条件を示します.本検討では,曲げ保証荷重,即ちひび割れ発生に関する照査が中心となるため,安全係数は全て1.0としました.設計ベースでの曲げ引張強度の限界値については,PCまくらぎの種類ごとに,3号は1.0N/mm2,6号は2.0N/mm2と仮定しました.表3にPCまくらぎの各材料諸元を示します.

    • 表1 検討対象としたJIS規格PCまくらぎ
      表1 検討対象としたJIS規格PCまくらぎ
    • 表2 設計条件
      表2 設計条件
  • 表3 材料諸元
    表3 材料諸元

 図1に荷重及び支持条件を示します.この条件は従来の許容応力度法1)で用いていたものに基づき定めました.設計で用いる輪重Pは,静輪重80kNに軌道標準に基づく輪重変動係数iv=2.0を乗じて定めました.支持条件Cについては,支配的な組み合わせである偶発時の横圧との組み合わせのみを検討対象としました.

 列車通過時のPCまくらぎの1本当たりの断面力を算定する方法として,まず,従来の許容応力度法と同様に線路方向への荷重分散係数によって簡便に処理する方法を用いました1).具体的には,列車が通過する際の荷重のうち,輪軸直下のPCまくらぎへの分散比率を,弾性床上の梁の理論等に基づき,在来線に対して0.5,新幹線に対して0.6と仮定します.

 一方,軌道標準では,PCまくらぎの性能照査を行う場合には動的解析により設計応答値を算定することを基本としているため,動的解析として,車両を非振動系の定荷重列とみなす,線路構造物の汎用構造解析プログラムDIARISTを用いました2).図2に解析モデルの概要を示します.

  • 図1 荷重及び支持条件
    図1 荷重及び支持条件
  • 図2 解析モデルの概要
    図2 解析モデルの概要

 ひび割れ発生に関する設計限界値は,レール下断面及びまくらぎ中央断面において,限界モーメント(設計ひび割れ発生モーメント)を算定し,その値に達するときの計算上の輪重を入線可能輪重として求めました.なお,営業線で用いる実強度ベースでの入線可能輪重を算定する際には,従来のマニュアル3)に基づき,曲げ引張強度3.0N/mm2を用いることとしました.

3.検討結果

 図3に検討方法の違いが設計ベースでの入線可能輪重に及ぼす影響を示します.図からいずれのPCまくらぎにおいても,FEMと荷重分散係数を用いた方法とが概ね同等であり,その誤差が5%以内になっていることが分かります.設計ベースの検討では,いずれのPCまくらぎにおいても決定ケースは支持条件Cのケースでした.

 図4に実強度ベースでの入線可能輪重の比較を示します.各まくらぎともに曲げ引張強度の3.0N/mm2を許容することにより,設計輪重に比べて入線可能輪重が20~48%増加していることが分かります.また,従来の荷重分散係数を用いて求めた入線可能輪重も,FEMにより求めた入線可能輪重と概ね同値になっていることが確認できます.実強度ベースの検討では,設計ベースの検討とは異なり,決定ケースが支持条件Aのケースとなるものもありました.

 表4にJIS規格に示された17種類のPCまくらぎの実強度ベースの入線可能輪重を示します.前述の4種類の検討結果と同様な方法で,全てのJIS規格PCまくらぎに対して示しています.表中の値は,荷重分散係数を用いて算出した結果を5kN単位で規格化しています.この表を活用することにより,実務において様々な列車に対して,よりきめ細やかな入線検討が可能となります.

    • 図3 入線可能輪重の比較(設計ベース)
      図3 入線可能輪重の比較(設計ベース)
    • 図4 入線可能輪重の比較(実強度ベース)
      図4 入線可能輪重の比較(実強度ベース)

    • 表4 JIS規格PCまくらぎの入線可能輪重の算定結果
      (実強度ベース)
      表4 JIS規格PCまくらぎの入線可能輪重の算定結果(実強度ベース)

4.おわりに

 PCまくらぎに生じる動的な輪重は,車両の諸元(特に輪軸質量),車輪踏面の整備状況,軌道の整備状況,レール継目等の状態に依存します.今後,これらに関する調査や解析的検討を実施し,荷重分散係数を用いた方法の妥当性について,より深度化を図っていく予定です.

参考文献

1)宮本他:線路‐軌道の設計・管理‐,山海堂,1980

2)曽我部他:共振領域におけるコンクリート鉄道橋の動的設計法に関する研究,土木学会論文集,No.724/I-62,pp.83-102,2003

3)鉄道総合技術研究所編:在来鉄道運転速度向上試験マニュアル・解説,研友社,1993

(記事:鉄道力学研究部 構造力学研究室 後藤恵一)