複合構造物の設計標準の改訂について

1.はじめに

 鋼とコンクリートの複合構造物は,両者の材料をうまく組み合わせた合理的な構造物で,優れた耐荷力や変形性能を有しているため断面の縮小化が図れ,急速施工や狭隘な箇所での施工も可能です。駅部や営業線近接等の狭隘な箇所で適用される場合が多くなっており,今後も増えるものと想定されます。

 「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼とコンクリートの複合構造物)」(以下,「複合標準」)は,平成10年に制定されましたが,それ以降,他の各設計標準の性能照査型への移行,種々の鋼とコンクリートの複合構造物の開発および照査に関する技術の進歩が図られ,さらに土木学会から「複合構造標準示方書」1)も発刊されています。そこで,平成21年度より改訂に向けた検討を重ね,今年中に改訂版を出版する予定となりました.ここでは,新しい複合標準の改訂概要について紹介いたします.

2.新しい複合標準の適用範囲と構成

 複合構造物は多種多様な構造形式がありますが,そのうち,図1に示すように,鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)部材とコンクリート充填鋼管(CFT)部材を用いた「合成構造物」に加え,異種の部材を用いた「混合構造物」を複合標準の適用範囲としています.

 新しい複合標準の全体構成は,図2に示すように計5編で構成し,SRC構造物やCFT構造物以外の複合構造物にも適用しやすくなるように配慮しました.

 第Ⅰ編には,部材種別によらない複合構造物の照査の共通事項を示しています.第Ⅱ編と第Ⅲ編は,SRC部材およびCFT部材の照査における特有の事項,第Ⅳ編は,異種部材の接合部等の照査における特有の事項を示しています。第Ⅴ編は,構造形式(SRC桁,橋脚,ラーメン構造物,トラス橋,アーチ橋)に応じた構造物の設計に関する一般事項を示しています。


  • 図1 複合標準の適用範囲

  • 図2 複合標準の構成と各編の位置付け

3.複合標準の主な改訂内容

(1) 性能照査型設計体系への移行

 関連する他の設計標準との整合を意識し,性能照査型設計体系への移行を図りました。構造物の要求性能は,安全性,使用性および復旧性を基本として,SRC部材,CFT部材,接合部等の標準的な照査法を示しました。表1に構造物の要求性能,性能項目,照査指標の例および考慮する作用を示します。

  • 表1 構造物の要求性能,性能項目,照査指標の例および考慮する作用

(2) 高強度材料を適用したSRC部材およびCFT部材の耐力・変形性能の算定法

 高強度の鋼材やコンクリートのSRC部材やCFT部材への適用性を載荷試験等により検討し,既往の耐力・変形性能の算定法をもとに,高強度材料使用時の留意点を示しました。

(3) SRC部材,CFT部材の耐力・変形性能の算定法の見直し

 現行の複合標準または耐震標準に定める耐力・変形性能の算定法は,適用範囲が限定されている等の課題がありました。特に,SRC部材のせん断耐力,CFT部材の曲げ耐力・変形性能について,載荷試験や数値解析等により検討し,算定法の見直しを図りました。なお,SRC部材およびCFT部材の曲げ耐力・変形性能の算定法は,耐震標準に記載していましたが,複合標準に取り込むことにしました。

(4) 異種部材接合部の設計法の充実化

 複合構造物には異種部材の接合部が多く存在しますが,その照査法が不明確で実務上の課題となることが多くありました。そこで,異種部材の接合部に関する共通の設計の考え方を新たに定めるともに,SRC柱やCFT柱の接合部について,種々の接合形式の設計法の充実化を図りました。

4.おわりに

 本稿では,改訂される複合標準の改訂概要について示しました.新しい複合標準は,国土交通省からの通達を経て,平成26年11月頃に発刊する予定です.発刊に際し,以下の日程で複合標準の講習会を開催いたしますので,ご参加ください.

  ・平成26年11月28日(金) 大阪 新梅田研修センター(Lホール)

  ・平成26年12月5日(金)  東京 ベルサール九段(ホール)

 また,設計ツールとして,設計計算例および複合構造物のディテール集を発刊する予定です。

参考文献

1) 土木学会:複合構造標準示方書, 2009.12

(記事:鋼・複合構造研究室 池田学)

レール防食工法の試験方法

1.はじめに

 トンネル区間等の腐食環境下に敷設されたレールは,腐食による断面積の減少や腐食孔を起点としたレールの折損等の課題があり,その対策としてレールを塗料等で被膜する防食処理が行われています.しかしながら,列車荷重が作用した際に生じるレール締結部の擦れやレール交換作業等に伴う衝撃等による防食塗膜の損傷が確認されていることから,外力に対する耐久性も求められています.そこで,現場のレール締結部で生じている防食塗膜の損傷傾向を室内試験で再現し,防食工法の列車荷重に対する耐久性を評価する方法を考案しました.

2.塗膜損傷状態の現地調査

 防食塗膜の損傷傾向を把握するため,営業線に敷設された防食レールについて現地調査を実施しました.現地調査箇所に使用されている防食工法は,レール表面の錆を錆転換剤で安定化させた後にエポキシ樹脂系塗料を塗布する工法です.表1に現地調査箇所の線路諸元を示します.現地調査では,レール締結部材が接触するレール底部上面,底部側面および底面に対して,目視およびハンディスキャナ(レール底面のみ)により防食塗膜の状態を確認しました.調査結果は以下のとおりです.

  • 表1 線路諸元

2.1 レール底部上面

  図1にレール底部上面の状態を示します.レール締結装置の板ばねの接触部で防食塗膜が損傷し,レール素地の露出が認められました.これは,レール締結時の板ばねの押え力と列車荷重が作用した際のレールの挙動により防食塗膜が損傷したものと考えられます.また,防食塗膜損傷部の周辺では損傷部を起点とした腐食の進行が認められました.


  • 図1 底部上面の状態

2.2 レール底部側面

 図2にレール底部側面の状態を示します.レール締結装置のタイプレートと接触している範囲において防食塗膜の損傷と腐食の進行が認められました.これは,列車荷重が作用した際にレール横圧力を受けるタイプレートのショルダー部に繰り返し押しつけられることで防食塗膜が損傷し,腐食が進行したものと考えられます.


  • 図2 底部側面の状態

2.3 レール底面

 図3にレール底面の状態を示します.また,図4にレール鋼の腐食が認められた範囲を塗りつぶした模式図を示します.軌道パッドの溝形状部近傍,端部およびレール底端部において防食塗膜の損傷と腐食の進行が認められました.これは,レールに列車荷重が作用した際にレール圧力により軌道パッドが変形し,レールと軌道パッドとの接触境界部付近において擦れ等が生じたため防食塗膜の損傷に至ったものと考えられます.


  • 図3 底面の状態

  • 図4 底面の腐食範囲(塗りつぶし部:腐食)

3.防食塗膜損傷の室内再現試験

 レール防食工法の列車荷重に対する耐久性を評価する試験方法を定めるために,2章で述べた防食塗膜の損傷状態を再現することを目的とした室内試験を実施しました.

3.1 室内試験の載荷条件

 室内試験は,現地と同種のレール締結装置に防食処理を施したレールを固定して実施しました.試験方法は,擦れによる塗膜損傷の再現を加速するため2軸での繰返しの斜角載荷としました.図5に試験状況を示します.試験荷重は,レール締結装置の設計荷重を参考とし,1締結に作用するレール圧力,レール横圧力を算出しました.ここで,防食塗膜の損傷がレール締結部で生じる擦れに起因していることを考慮して,横圧はしばしば発生する最大荷重であるB荷重相当(30kN)とし,輪重は平均荷重であるC荷重相当(75kN)としました.表2に試験荷重条件を示します.試験では,10万回載荷毎に試験機を停止し,防食塗膜の損傷状態の変化を観察しました.


  • 図5 試験状況
  • 表2 試験荷重条件

3.2 室内試験結果

 室内試験の結果,載荷回数の増加に伴い塗膜の損傷の進行が認められました.図6にレール底部上面,底部側面および底面の50万回載荷後の塗膜の状態を示します.図6(a)から底部上面では,レール締結装置の板ばね接触部で塗膜が損傷し,底部側面においてもタイプレートのショルダー部と接触する範囲で塗膜の損傷が認められました.図6(b)の底面について,防食塗膜の損傷範囲に塗りつぶした模式図を図7に示します.軌道パッドの溝形状が現地調査箇所で使用されていた軌道パッドと異なっているため防食塗膜の損傷範囲に縦横の差異が生じていますが,損傷位置の傾向は概ね現地と同様となりました.これらの結果より,本試験方法および条件により現地調査で把握した防食塗膜の損傷傾向を再現することができました.


  • 図6 載荷試験後の防食塗膜の状態

  • 図7 底面の損傷範囲(塗りつぶし部:損傷)

4.まとめ

 本試験方法により、防食塗膜の損傷の有無を判定基準として、防食工法の列車荷重に対する耐久性の評価が可能となりました.現在は,耐久性を考慮した防食工法を新たに選定し,それらの防食工法に対して考案した試験方法による耐久性評価を進めており,あわせて,防食性,耐衝撃性および耐摩耗性についての要素試験を実施しています.

(記事:軌道構造研究室 庄野真也)

道床バラスト層の新しい解析モデル「DEMCS-track」~粗い粒子層の特徴を再現する~

1.研究の背景

 近年,地盤工学分野では,コンピュータ技術の発展に伴い,砂や石で構成される自然地盤や粒状体構造物を,粒子一つ一つを要素としてモデル化する手法が取り入れられています.

 鉄道総研においても,こうした手法の一つである「個別要素法」(以下,DEM)を取り入れ,道床バラスト層の'粒子層としての特徴'を再現するためのモデル「DEMCS-track」の開発に取り組みましたので,そのモデルの作成方法と活用事例をご紹介します.

2.離散体バラスト軌道モデルの作成方法

(1) バラスト砕石を作る

 ここで紹介する「離散体バラスト軌道モデル」を構築する上では,まず,バラスト要素を作成します.作成方法は様々ありますが,筆者らは,実際のバラスト砕石の3次元形状をレーザ式スキャナで測定し(図1),そのデータをもとに,動的最適化法という手法1)を用いて,複数の球を組み合わせてバラスト要素を作成しました(図2).


  • 図1 レーザ式3次元スキャナ

  • 図2 球剛接バラスト要素の作成例

(2) 道床バラスト層を構築する

 (1)で作成したバラスト要素を用いて,バラストの粒度分布の基準に合致するように粒度調整を行います.その後,道床バラスト層を構築しますが,ここでは既往の研究2)を参考とし,道床バラスト層の見かけの密度が1.67 g/cm3となるように締め固めをします.

 その結果,離散体バラスト軌道モデルを構成するバラスト要素数は,図3-(a)に示す在来線普通継目部モデル(まくらぎ3本,半軌道,カントなし)において25870個,図3-(b)に示す在来線曲線部モデル(まくらぎ1本,カント75mm)において14400個となりました.(バラスト要素は10個の球で構成)


  • 図3 離散体バラスト軌道モデルの例

3.活用事例

 ここでは,図3-(a)に示す在来線普通継目部モデルを用いた検討事例をご紹介します.モデルは図に示すように,普通継目部直下の大判木まくらぎと隣接するPC3号まくらぎ2本が敷設されたバラスト軌道を軌道横断面の中心で半分にしたものです.

 この3本のまくらぎ要素に,軌道動的応答解析結果より算出した4通りのレール圧力波形(図4)を入力します.この4通りの解析条件は,①-遊間12mm,継目落ち2.5mm,継目部の段差+0.5mmの継目条件で無対策の条件,②-①と同じ継目条件で,大判木まくらぎのみ軌道パッドを低ばね化した条件,③-②の条件に追加して,大判木まくらぎのまくらぎ下を弾性化した条件,④-②の条件に追加して,隣接するPC3号まくらぎで軌道パッドを低ばね化した条件,です.

 上記4通りの解析条件で実施したDEM解析結果より,入力荷重が最大となる瞬間(図4中の1つ目のピーク時)の道床バラスト層内の粒子間接触力の分布を図5に示します.

 図5-(a)より,無対策の場合では,継目部直下の大判木まくらぎ下で,粒子間接触力が著大となる傾向が見られます.これに対して,軌道パッド低ばね化をした条件(図5-(b))や,それに加えてまくらぎ下弾性化を実施した条件(図5-(c))では,継目部直下の粒子間接触力は無対策に比べて減少しますが,隣接するまくらぎ下では粒子間接触力がむしろ増加してしまう傾向が明らかです.他方,継目部直下と隣接するまくらぎで軌道パッド低ばね化をした条件(図5-(d))では,全体的に粒子間接触力が減少していることが明らかです.


  • 図4 入力するレール圧力波形

  • 図5 列車通過による衝撃荷重発生時の道床バラスト層内の粒子間接触力

4.まだまだ改良も必要!

 以上に示したように,道床バラスト層の粒子層としての特徴を再現した解析モデルを用いることで,現場では測定が困難な道床バラスト層内部の状態の観察や比較が可能となります.

 現時点では,あくまで定性的傾向の把握,相対的比較に留まっており,その上,計算負荷が高い,という問題も抱えていますが,道床バラスト層内部の現象解明には有効なツールです.

※DEMCS-trackは筑波大学で開発されたDEMコード'DEM3D-CS'1)を一部改良したものです.

参考文献

1) Matsushima, T. and Saomoto, H.:Discrete Element Modeling for Irregularly-shaped Sand Grains, Proc. NUMGE2002: Numerical Methods in Geotechnical Engineering, pp. 239-246, 2002

2) 須長誠:ガンマ線を用いた道床バラストの密度測定法,第28回土質工学研究発表会,pp2383-2384,1993

(記事:軌道力学研究室 河野昭子)