春先の融雪量の観測方法と推定方法

1.はじめに

 積雪地域では春先になると融雪が進み,融雪水の連続的な積雪層内への浸透および積雪底面からの流出が起こります(図1).積雪底面からの連続的な融雪水の流出は地盤や積雪の強度低下を招き,斜面崩壊や全層雪崩等の災害発生危険度が高まることが知られています.特に近年では,春先の急激な気温上昇や降雨によって積雪底面からの流出量が急増するケースがあります.そのため,融雪量を観測または推定することは,鉄道沿線における斜面管理の観点からも重要です.ここでは,①融雪量を直接観測するライシメータ法,②日平均気温から日融雪量を推定するディグリー・デー法,③鉄道総研で作成した融雪量推定手法について紹介します.

  • 図1 春先の融雪量の変化の一例
    図1 春先の融雪量の変化の一例

2.ライシメータ法による融雪量の観測

 ライシメータ法は,地面に設置した集水枡と転倒ますによって積雪底面から流出する融雪水(および雨水)の量を計る方法です(図2).ライシメータ法はこれらの量を直接観測できるという利点がある一方で,大型な装置を必要する方法なので施工や維持管理が難しいという欠点があります.そのため,この方法は研究目的で使われることが多く,延長の長い鉄道の多くの箇所で融雪量を把握するために用いる方法としては,適切とは言えません.

  • 図2 ライシメータ法における集水枡の外観
    図2 ライシメータ法における集水枡の外観

3.ディグリー・デー法による融雪量の推定方法

 気象要素から融雪量を推定する方法として広く使われているのが,ディグリー・デー法です.ディグリー・デー法は,日平均気温から融雪量を日単位で推定する方法であり,式(1)で計算します.

 M = k×Σ(TaT0)・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 ここで,Mは日融雪量(mm/day),Taは日平均気温(℃),T0は融雪限界気温(℃)です.多くの場合はT0=0とし気温0℃未満では融雪は起きないと考えます.kは融雪係数(degree day factor,mm/℃/day)です.kは時期や場所に依存して値が変化するため,観測や経験式によって決定する必要がありますが,春先にはk=5.8(mm/℃/day)が代表的な値といわれています.なお,ここで求まる量は融雪量のみであり,さらに雨量計で測定した降雨量を加えることで積雪底面からの流出量に換算します.

 このディグリー・デー法は,気温のみを用いて日単位で融雪量を求めることが出来る非常に簡便な方法です.しかし,明瞭な時間変動を示す融雪量の情報を運転規制等の鉄道防災に反映させるためには,夏季の降雨量と同様に,1時間単位での評価が必要となります.そこで,鉄道総研では,容易に入手できる気象要素から,1時間単位で融雪量を推定する手法を構築しました.

4.鉄道総研で構築した融雪量推定手法

 融雪は日射や大気からの熱の流入によって積雪の表面で生じます.積雪の表面で生じた融雪水は凍結・融解を繰り返しながら積雪層内を流下し,積雪底面から流出します(図3).このように,融雪水の流出には浸透に伴う遅れ時間が生じるため,1時間当たりの融雪水の底面流出量を推定する場合には,浸透に伴う流出の遅れ時間を考慮する必要があります.

 構築した融雪量推定手法の計算フローを図4に示します.この手法は,前述の融雪現象に基づき3つのモデル(図4①~③)から構成されます.本手法ではまず,全国で観測を行っている気象庁のアメダスから入手できる4つの気象要素(気温・風速・降水量・日照時間)を入力値として,積雪表面における熱収支を計算し,積雪表面融雪量を算出します(図中①).その後,積雪層内の雪温等の物性値を計算することで,積雪表面で生じた融雪水の再凍結を考慮した正味の融雪量を算出します(図中②).正味の融雪量の流下時間は,浸透モデルによって遅れ時間を計算します(図中③).以上の手順で最終的に1時間分解能の時間遅れを考慮した融雪水の底面流出量を求めることが出来ます.

 本手法の精度を検証するために,新潟県にある塩沢雪害防止実験所において,2013/14年冬期にライシメータ法による融雪量の観測を行い,得られた実測値(mm/h)と本手法による推定値(mm/h)を比較しました(図5).その結果,推定値は実測値に対してピーク値をやや過小評価しているものの,浸透に伴う遅れ時間を考慮した融雪量が推定可能なことを確認しました.

  • 図3 融雪現象の概念図
    図3 融雪現象の概念図
  • 図4 融雪量算出フロー
    図4 融雪量算出フロー
  • 図5 ライシメータ法による実測値(mm/h)と本手法による推定値(mm/h)の比較
    図5 ライシメータ法による実測値(mm/h)と本手法による推定値(mm/h)の比較

5.おわりに

 今後は本手法の精度向上を図るとともに,融雪水量と斜面崩壊や全層雪崩発生の関係を分析し,気象データを用いた災害発生危険度評価方法の開発に取り組んでいきます.

(記事:佐藤亮太)

高さ調整機能を有する軌道スラブ水平変位拘束装置の開発

1.はじめに

 スラブ軌道の突起コンクリート(以下「突起」とします)は,軌道スラブの水平変位を拘束するRC製の部材です.近年,一部の区間において内部鉄筋の腐食が要因と考えられる突起の損傷等が報告されており,早急に補修が必要とされる区間もあります.しかし,営業線において既設の突起に対する大規模な補修や再施工を行うことは非常に困難であり,同等の機能を有する代替装置が求められています.

 そこで鉄道総研では,軌道スラブの隅角部において水平変位を拘束する軌道スラブ水平変位拘束装置(以下「拘束装置」とします)を開発しました1).本稿では,拘束装置を敷設する際の高さ調整方法について検討した結果を報告します.

2.取付方法の検討

 標準的な構造のスラブ軌道に対して拘束装置を設置する場合,図1のようにコンクリート道床上に拘束装置を直接据え付け,セメント系てん充材を用いて固着したアンカーボルトにより固定します.しかし,一般的なてん充層の厚さ(50mm程度)を上回る箇所に設置する場合には,拘束装置の高さ調整が必要となります.そこで,拘束装置下面とコンクリート道床上面の間を短繊維補強モルタルで嵩上げして取り付ける方法を検討しました(図2).なお,モルタルに短繊維を採用した理由は,万が一ひび割れ等が生じた場合であっても,モルタル片の飛散防止効果が期待できるためです.

  • 図1 軌道スラブ水平変位拘束装置の概要
    図1 軌道スラブ水平変位拘束装置の概要
  • 図2 拘束装置の取付方法
    図2 拘束装置の取付方法

3.水平載荷試験

 提案した取付方法による拘束装置の性能を評価するため,水平載荷試験を実施しました.図3に試験状況を示します.試験では,拘束装置を短繊維補強モルタルで100mm嵩上げし,セメント系てん充材(住友大阪セメント社製セメフォースアンカー)で無筋のコンクリート版(設計基準強度24N/mm2)に固着させた4本のアンカーボルト(M20,材質SCM435,ピッチ2.5)で固定したうえで,載荷鋼板を介して油圧ジャッキにより水平荷重を載荷しました.アンカーボルトの埋込深さは,事前に実施した引抜試験の結果から得られた最小深さである90mm(コンクリート版表面からの深さ)とし,アンカーボルトへの導入軸力は50kNとしました.短繊維補強モルタルには,超速硬性無収縮モルタル(電気化学工業社製ハイプレタスコンTYPE-1)を使用し,実用場面での施工性を考慮してモルタル体積に対して0.5%のPVA短繊維(クラレ社製パワロンREC15×12)を添加しました.なお,試験はモルタルの材齢7日目に行いました.載荷試験は,1つの供試体に対して表1に示す手順で載荷方向および載荷荷重を変化させて実施し,載荷と除荷を繰返して荷重を増加させました.拘束装置1基が受け持つ荷重は,突起の設計荷重から,レール長手方向は35.0kN,レール直角方向は41.2kNと設定しました.また,常時における軌道スラブ水平方向目違いの限界の目安が2.0mmであることを参考に2),拘束装置の許容変位量を2.0mmとしました.

 試験結果を図4および図5に示します.両ケースにおいて,設計荷重以上の耐力を有し,かつ設計荷重載荷時の変位量が許容値を満足することを確認しました.また,設計荷重の範囲内では,除荷時の残留変位はほとんどなく,拘束装置及び取付部の変形は弾性範囲内であることを確認しました.

  • 図3 水平載荷試験の状況
    図3 水平載荷試験の状況
  • 表1 載荷試験の手順
    表1 載荷試験の手順
  • 図4 荷重-変位(レール長手方向)
    図4 荷重-変位(レール長手方向)
  • 図5 荷重-変位(レール直角方向)
    図5 荷重-変位(レール直角方向)

4.おわりに

 提案した取付方法により設置した拘束装置は,突起の設計荷重に対して十分な耐力を有し,軌道スラブの許容変位量を満足することを確認しました.

【参考文献】

1)渕上翔太 他:軌道スラブ水平変位拘束装置の水平耐力に関する検討,土木学会第67回年次学術講演会,2012

2)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 変位制限,2006.2

(記事:薮中嘉彦)

鉄道沿線の自然斜面から斜面崩壊注意箇所を抽出するための着目点

1.はじめに

 鉄道沿線斜面で斜面崩壊が発生し鉄道が被災する事例は,国内で毎年発生しています.斜面崩壊の発生には地形や地質の条件が大きく影響しますが,それらの条件から斜面崩壊の注意箇所を抽出するには,専門的な知識や詳細な調査が必要です.そこで,斜面崩壊に関与する地形や地質の条件を明らかにし,斜面崩壊の注意箇所を抽出するための着眼点をわかりやすく整理しました.

2.既存文献の調査

 斜面崩壊に関係する地形や地質の特徴は,過去の研究で様々なものが報告されています.本研究ではそれらの特徴を既存文献から抽出し,それらの特徴を地形図や地質図などから判読(以下,「図面判読」と呼びます)できるものと,現地調査をしなければ把握できないものに整理しました.

3.斜面崩壊多発地域の調査

3.1.調査地域と崩壊箇所,未崩壊箇所の抽出

 豪雨や地震によって斜面崩壊が多発した地域を対象にした調査を行いました.調査地域は,「平成16年7月新潟・福島豪雨」と「平成16年新潟県中越地震」の被害を受けた新潟県中越地域と「平成21年7月中国・九州北部豪雨」の被害を受けた山口県防府地域を対象としました.続いて,両地域で撮影された災害発生前後の空中写真を判読し,この間に発生した崩壊箇所を抽出しました.また,崩壊箇所や人工構造物などを除いた場所から,未崩壊箇所をランダムに抽出しました(図1).

  • 図1 崩壊箇所と未崩壊箇所の抽出結果*全体から一部を抜粋
    図1 崩壊箇所と未崩壊箇所の抽出結果*全体から一部を抜粋

3.2.地形・地質情報の取得と数量化2類解析

 3.1項で抽出した崩壊箇所と未崩壊箇所の地形・地質情報を取得しました.地形図からは斜面の垂直断面形(図2a),水平断面形(図2b),傾斜などの地形情報を取得し,地質図からは岩種などの地質情報を取得しました.これらの情報から崩壊箇所と未崩壊箇所を判別する条件を選定するため,数量化2類解析を行いました.解析によって得られる点数が正の値で大きい特徴ほど,崩壊箇所の判別に大きく寄与します.本解析の結果,「垂直断面形が凸型」と「水平断面形が谷型」の条件が崩壊箇所の判別に大きく寄与し,中越地域ではさらに「斜面の傾斜40°以上」も崩壊箇所の判別に大きく寄与することがわかりました(図3).

  • 図2 地形情報の分類
    図2 地形情報の分類
  • 図3 数量化2類解析結果(抜粋)
    図3 数量化2類解析結果(抜粋)

3.3.現地調査

 3.1項で抽出した崩壊箇所,未崩壊箇所の一部について現地調査を行い,2章の既往文献調査で得られた斜面崩壊に関係する特徴の有無を確認しました.その結果,「傾斜が30°以上」,「集水地形を呈する」,「遷急線が認められる」,「湧水が認められる」といった特徴が崩壊箇所で多く認められました.また,3.2節の「垂直断面形が凸形」の斜面とは遷急線が認められる斜面であること,「水平断面形が谷型」の斜面とは集水地形を呈する斜面であることを確認しました.

4.着目点の整理

 2章の既往文献調査で得られた特徴は,斜面崩壊の注意箇所を抽出する際に有用であると考えられます.そのためこれらの特徴は,調査時に「着目する項目」としました.3.2項あるいは3.3項で選定した地形・地質的な項目は斜面崩壊と強い関係が認められたので,調査時に「特に着目する項目」としました.なお,傾斜に関しては「傾斜が40°以上」の方が「傾斜が30°以上」よりも斜面崩壊に寄与する条件であると考えられる(図3)ので,「傾斜が40°以上」を「特に着目する項目」としました.「特に着目する項目」の概念を図4に示します.

 これらの項目には図面判読で取得できる項目と現地調査によらなければわからない項目があることから,それぞれの項目を分けて整理した項目表(案)を作成しました(表1).鉄道沿線の自然斜面から斜面崩壊の注意箇所を抽出するために図面判読および現地調査を行う際には,着眼点が整理されたこの項目表(案)を活用することができると考えられます.

  • 図4 特に着目すべき項目
    図4 特に着目すべき項目
  • 表1 調査時に着目する項目表(案)
    表1 調査時に着目する項目表(案)

(記事:西金佑一郎)

「複合標準」の発刊および講習会の延期について

 この度,「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼とコンクリートの複合構造物)(以下,複合標準)」の発刊時期および講習会の開催予定日を延期することとなりました.講習会の詳細については,決定次第,鉄道総研ホームページ等においてお知らせさせていただきます.施設研究ニュースNo.288(2014年8月1日発行)には,発刊時期および講習会の開催予定日を記載させていただきましたが,訂正させていただきます.読者の皆様にはご迷惑をおかけいたしますことをお詫び申し上げます.

(記事:池田 学)