加振中の道床横抵抗力に関する大型振動台試験

1.はじめに

 近年,巨大地震に対する鉄道構造物の安全性向上が求められ,バラスト軌道の地震時における変形挙動の評価についてもニーズが高まっています.バラスト軌道では,温度上昇にともなうレール軸力により軌道を横方向(座屈)に移動させようとする力が生じ,これに対する道床の横方向の抵抗力(以下,道床横抵抗力)を上回ると座屈が発生します.このため,酷暑期に地震が発生した場合,地震動によって道床横抵抗力が低下すると座屈する危険性が高まります.しかし,地震発生中におけるバラスト軌道の変形メカニズムは十分に解明されていないことから,本研究では,温度上昇により軌道を座屈させようとする力をばねによって軌道に作用させて加振試験を行い,地震中の道床横抵抗力を評価しました.

2.大型振動台試験

 試験概要を図1に示します.加振試験は,鉄道総研の大型振動試験装置を用いて,実物大バラスト軌道模型に対してレール直角水平方向に正弦波および地震波の加振を行いました.温度上昇による軌道を座屈させようとする荷重を想定した横方向荷重は,80~100mm程度のストロークに対して張力変化率が15%程度である特殊なばねを用いて,作用させました.試験ケースは,横方向荷重が異なる4ケース(0 kN,2 kN,4 kN,6kN)です.軌道模型は,高架橋上の新幹線バラスト軌道を想定し,セメントボードを振動台テーブル上に設置しました.バラスト軌道は,密度1.6t/m3となるように振動バイブレーターを用いてバラストを締め固め,まくらぎを4本並べて構築し,隣接まくらぎの影響が小さくなるように各まくらぎを十分に離して設置しました.

 加振試験および道床横抵抗力試験の試験条件を表1に示します.加振波形は,正弦波(載荷周波数3Hz,正弦波10波)および地震波です.地震波は,新潟県中越地震時に新幹線が脱線した際の高架橋上での応答波です(図2)(以下,中越波とする).また,道床横抵抗力試験では,加振前後の静的な道床横抵抗力特性を検討するため,加振前のまくらぎNo.3(横方向荷重を作用させる前)に,加振後に横方向荷重0kNのまくらぎNo.4に対して実施しました.載荷速度は2mm/minとし,まくらぎ長手方向に載荷しました(図3).計測項目は,まくらぎ両端部に設置した変位計によるまくらぎ水平変位とロードセルによる載荷荷重です.大型振動台試験の状況を図4に示します.

  • 図1 大型振動台試験の概要
    図1 大型振動台試験の概要
    • 表1 試験条件
      表1 試験条件
    • 図2 地震波形(中越波)
      図2 地震波形(中越波)
  • 図3 道床横抵抗力試験の概要
    図3 道床横抵抗力試験の概要
  • 図4 大型振動台試験の状況
    図4 大型振動台試験の状況

3.実験結果

3.1 道床横抵抗力試験

 加振前および正弦波800gal加振後の道床横抵抗力とまくらぎ変位の関係を図5に示します.加振前の道床横抵抗力は,まくらぎ変位2㎜時で8.4kNであり,正弦波800gal加振後では,まくらぎ変位2㎜時で5.3kNに道床横抵抗力が低下しました.これは,加振により道床のり面および道床肩部の一部が崩壊したため,道床横抵抗力が低下したことによるものと考えられます.

  • 図5 まくらぎ水平変位と道床横抵抗力の関係(道床横抵抗力試験)
    図5 まくらぎ水平変位と道床横抵抗力の関係(道床横抵抗力試験)

3.2 加振中のまくらぎ変位波形

 横方向荷重4kNの場合における中越波加振中のまくらぎ変位波形を図6に示します.中越波では,最大加速度が作用した際に大きなまくらぎ残留変位が生じることがわかりました.最大加速度が600galの場合では,加振前後のまくらぎ残留変位が1mm程度から2mm程度に,最大加速度が700galの場合では2mm程度から4mm程度にまくらぎ残留変位が増加しており,加振加速度が増加するほどまくらぎ残留変位も増加することを確認しました.

 次に,横方向荷重と各加振ステップのまくらぎ残留変位の関係を図7に示します.横方向荷重が増加するほど,各加振ステップのまくらぎ残留変位が増大していることがわかります.加振中に横方向荷重を与えた場合,静的な道床横抵抗力試験で得られる値より小さい荷重であっても,大きな残留変位が生じる可能性があることがわかりました.

  • 図6 加振中のまくらぎ変位波形(中越波・横方向荷重4kN)
    図6 加振中のまくらぎ変位波形(中越波・横方向荷重4kN)
  • 図7 加振中に生じたまくらぎ残留変位(中越波)
    図7 加振中に生じたまくらぎ残留変位(中越波)

4.まとめ

 大型振動台試験により,地震中の道床横抵抗力の評価を行い,以下の知見が得られました.

  • ・レールの温度上昇により軌道を座屈させようとする力が静的な道床横抵抗力より小さくても,地震中のまくらぎ残留変位は増加する.

 今後は,バラスト軌道の耐震性能を評価するために,加振中の強度特性について研究を深度化するとともに,対策工の検討を行う予定です.

(記事:中村貴久)

耐震標準講習会における主なQ&A

 鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計(以下,耐震標準)は,平成24年9月に改訂版が出版され,その講習会を東京および大阪の2会場で開催しました.本稿では,両講習会の際に寄せられた質問および講習会後に寄せられた質問の中で代表的なものを抜粋してご紹介します.

番号No.1質問対象の条文6.4.4.2 強震動予測手法により算定するL2地震動
質問強震動予測手法は,技術の進歩や調査の進捗によって変化すると考えられる.また,情報ソースによって結果がばらつかないようにすべきと考えるが,推奨する情報ソースの例を示していただきたい.
回答 地震動評価に関する知見は,評価時点の最新知見を可能な限り反映させて評価することになります.まず,「対象地震選定のための資料」としては,付属資料6-1に挙げたものを活用できます.また,地震動評価のための震源パラメータを決定するための資料と強震動予測波形を評価するための資料については,以下の資料等が参考になります.強震動予測手法によるL2地震動の具体的な設定方法について不明な点がある場合には鉄道総研にご相談下さい.
【震源パラメータ決定のための資料】
 ・防災科学技術研究所:地震ハザードステーション(内陸活断層による地震)
 ・地震調査研究推進本部:活断層の長期評価(内陸活断層による地震)
 ・中央防災会議(海溝型地震)
【強震動予測手法のための資料】
 ・国土交通省港湾局:港湾の施設の技術上の基準・同解説, 日本港湾協会, 2007.9
 ・地震調査研究推進本部:付録3 震源断層を特定した地震の強震動予測手法(「レシピ」)
 ・日本建築学会:最新の地盤震動研究を活かした強震波形の作成法,2005.1
番号No.2質問対象の条文6.4.4.3 簡易な手法により算定するL2地震動
質問非線形応答スペクトル法を使用する場合,液状化地盤以外では,スペクトルⅡとスペクトルⅠとの比較により,常にスペクトルⅠを省略できると考えてよいか?
回答 地震動の繰返しの影響が小さく,最大応答の影響が大きい,一般的な構造物を対象とする場合は,スペクトルIの照査を省略可能です.ただし,液状化地盤以外でも地震動による繰り返しの影響が大きい構造物では,スペクトルIの照査を省略できません.以下に例を示します.
 ・橋台のような,地震動の繰り返しにより,変形が累積的に進行する場合
 ・エネルギーの吸収によって,損傷や変形を制御する免震・制震装置を採用した場合
 ・構造部材に繰り返しの影響を大きく受ける新材料等を採用した場合
番号No.3質問対象の条文10.2.6 液状化の可能性のある地盤における応答値の算定
質問液状化地盤上の橋梁および高架橋の検討ケースを教えてください.
回答 液状化地盤上の橋梁および高架橋についても,安全性の照査と復旧性の検討が必要となります.安全性に関してはスペクトルIとIIの両者に対する照査が必要となりますが,液状化判定の結果,スペクトルIに対する液状化指数PL値がスペクトルIIによるPL値よりも著しく大きい場合(概ね3割以上)以外は,スペクトルIに対する照査は省略できます.
 なお,基礎に関する照査については,耐震構造計画の段階で「液状化時の基礎の過大な変位の発生を避けるための適切な配慮」がなされていれば,液状化の影響を考慮した基礎の水平変位の照査を省略できます(安全性・復旧性共に).ここで,「液状化時の基礎の過大な変位の発生を避けるための適切な配慮」とは,「支持層や地表面の傾斜のある場所を避けて建設位置を選定する」といった地盤条件に関する配慮のほか,「常時荷重の偏心を小さくすること」や「基礎の過大な変位が生じにくい構造形式(十分な剛性を有する地中梁で連結されたラーメン高架橋や剛なフーチングを有する群杭基礎等)を採用していること」といった構造設計上の配慮が該当します.ただし,地震時の走行安全性について付属資料9-1に示す限界スペクトル強度SILを用いて照査を行う場合は,基礎の絶対変位量を一定以下に留める必要があることから,液状化の影響を考慮したL1地震時の基礎の水平変位についても性能レベル1の設計限界値以内に収まることを確認してください.
番号No.4質問対象の条文8.2 設計地震動に対する応答値を算定するための解析
10.2.2 橋梁および高架橋のモデル化
質問時刻歴応答解析におけるモデル化において,地盤と構造物の相互作用を考慮した質点系モデルによる一体型モデルを提案しているが,杭基礎を1質点にまとめる手法,あるいは,杭全体に単一入力を行う手法は使用可能か?
回答 杭基礎を1質点にまとめる手法,杭全体への単一入力を行う手法は,両者とも,構造物で考慮する地震作用のうち,慣性力の影響を評価する手法としては使用することができます.ただし,G0~G2地盤を除く地盤では,地震作用として地盤変位の影響も考慮する必要がありますので,設計応答値の算定では,別途,応答変位法などを行う必要があります.地盤変位と慣性力の両者の影響を考慮可能な方法としては,耐震標準に記載の一体解析を推奨します.
番号No.5質問対象の条文10章 橋梁および高架橋の応答値の算定と性能照査
質問ラーメン高架橋等で平成11年の耐震標準と改訂された耐震標準との違いがどれくらいあるのか試設計等の情報があれば教えて欲しい.
回答 事前の試計算では,平成11年の耐震標準と今回の標準では,構造型式や構造物の周期帯域などにより,多少の変動はあるものの,ほぼ同等の構造諸元になることを確認しています.
番号No.6質問対象の条文10.1 一般(橋梁および高架橋の応答値の算定と性能照査)
質問基礎が先行降伏した場合には,αf=2の検討が必要とあるが,基礎が先行降伏しなくても降伏~応答間で基礎が降伏する場合には,αf =2の検討が必要ではないか?
回答 支持力修正係数αf=2の検討は,基礎の損傷を過大に評価する可能性がある場合に実施します.上部構造物が先行降伏しても,最大応答変位までの間に基礎も降伏してしまうケースは考えられますが,H24年の基礎標準の改訂では,地盤抵抗の折れ点以降に2次勾配を持たせるなど,基礎のみで大きなエネルギー吸収が生じないように配慮されています.このため,一般的な設計条件であれば,上部構造物が先行降伏となればαf =2の検討は不要としてかまいません.なお,パイルベント構造など特殊な条件では,降伏震度のみの比較では基礎の損傷を過大に評価する懸念が残るため,αf=2の検討を行う必要があります.

(記事:豊岡亮洋)

地震により変状した盛土の降雨時不安定化メカニズム

1.はじめに

 大規模地震が発生した後には,地震動による盛土などの土構造物の降雨耐力の低下を考慮して,経験的に降雨時の運転規制の雨量規制値を一時的に低く設定することがあります.より合理的な運転規制値の設定を行うためには,地震動が作用した土構造物の降雨耐力を解明することが必要となります.そこで,地震動が作用した盛土の降雨耐力低減メカニズムを明らかにすることを目的として実施した実験の概要と結果を紹介します.

2.実験の概要

 大規模地震が発生した場合,盛土が大規模に崩壊する,あるいはクラック(き裂)のみなど小・中規模の変状が発生することがあります(図1).盛土が大規模に崩壊した場合,抜本的な対策を実施する必要があり,その結果として多くの場合降雨耐力が向上します.一方,盛土に小・中規模の変状が発生した場合,草木が繁茂して変状の発見が困難であるため,降雨耐力が低下したままの状態になる可能性があります.そこで,実験では大規模地震により盛土にクラックなどの小・中規模の変状が発生した場合を対象としました.

 実験に用いた模型盛土の概略図を図2に示します.模型盛土の寸法はのり面勾配1:1.5,盛土高さ600mmとし,盛土内には加速度計,間隙水圧計,土壌水分計を,盛土のり肩には変位計を設置しました.また,盛土底面の3箇所にマノメータを設置して盛土内の水位を観測しました.実験に用いた地盤材料は稲城砂であり,盛土部の密度は加振時に変状が発生しやすく,かつ散水時に水位上昇しやすい値に設定しました.

 表1に実験ケースを示します.Case1は加振をせずに降雨を模擬して散水したケースで,Case2,Case3は大規模地震発生後の盛土の状態を模擬するために加振を与え,その後散水したケースです.加振の規模は盛土ののり肩の鉛直変位を目安とし,Case2は小規模な変状,Case3は中規模な変状を模擬しました.

 加振を与えたケースにおいて,加振後に盛土上面で観測されたクラックのスケッチを図3に示します.のり肩の鉛直変位が大きいCase3の方が明らかに多くのクラックが発生していることがわかります.

  • 図1 大規模地震が発生した時の盛土の崩壊・変状
    図1 大規模地震が発生した時の盛土の崩壊・変状
    • 図2 模型盛土の概略図
      図2 模型盛土の概略図
    • 表1 実験ケース
      表1 実験ケース
  • 図3 加振後に盛土上面で観察されたクラックのスケッチ
    図3 加振後に盛土上面で観察されたクラックのスケッチ

3.実験の結果

 加振によるのり肩部の鉛直変位と散水によりのり面に初期変状が発生するまでの累積雨量との関係を図4に示します.なお,図中の曲線は2次曲線による近似線です.この関係から,加振によるのり肩部の鉛直変位が大きいほど散水により初期変状が発生するまでの累積雨量が少なくなる,すなわち加振により降雨耐力が低下することがわかります.

 散水によりのり面に初期変状が発生した時の盛内水位を図5に示します.この図より,初期変状が発生した時 の盛土内水位には差がないことがわかります.図5に示したとおり,初期変状が発生するまでの累積雨量は異なることから,加振によるのり肩部の垂直変位が大きい場合,少ない降雨量で早く地下水位が上昇しているといえます.

 図6は散水によりのり面に初期変状が発生した時の間隙水圧増分をCase1とCase3で比較したものです.なお,間隙水圧増分は散水開始直後を0とした増分値です.この図より加振を与えたCase3では,Case1よりも局所的に間隙水圧増分が大きい箇所があることがわかります.この要因は,加振によって発生したクラックが水みちとなり盛土底部への水の移動量が増加したためと推察されます.

 上記の図4~図6で得られたデータから本実験における加振による降雨耐力低減メカニズムは,1)加振によって盛土表層や内部にクラックが発生し,2)クラックが水みちの役割を果たして盛土底部に水が早く到達することにより,3)地下水位が早く上昇することで少ない雨量で初期変状が発生すなわち盛土の降雨耐力が低減する,と推察されます.

  • 図4 加振によるのり肩部の鉛直変位と散水によりのり面に初期変状が発生するまでの累積雨量との関係
    図4 加振によるのり肩部の鉛直変位と散水によりのり面に初期変状が発生するまでの累積雨量との関係
  • 図5 散水によりのり面に初期変状が発生した時の盛土内水位
    図5 散水によりのり面に初期変状が発生した時の盛土内水位
  • 図6 散水によりのり面に初期変状が発生した時の間隙水圧増分
    図6 散水によりのり面に初期変状が発生した時の
    間隙水圧増分

4.おわりに

 今後,本稿で紹介した結果をもとに地震動が作用した盛土の降雨耐力の低減程度を定量化する方法や,地震動が作用して発生したクラック等の変状の対策効果などについて検討を進めていく予定です.なお,本稿で紹介した実験条件や結果の詳細は文献1)を参照してください.

【参考文献】

1)川尻峻三,布川修,伊藤賀章,西田幹嗣,松丸貴樹,川口貴之,太田直之,杉山友康:実験的検討による地震後の降雨による盛土崩壊メカニズムについて,地盤工学ジャーナル,Vol.9,No.2,pp.153-168,2014.

(記事:布川 修)