開削トンネルにおける材料劣化の現状分析

1.はじめに

 開削トンネルは,鉄道の地下構造物に多く用いられている構造であり,建設後40年以上経過したものも多くあります.そのなかで,感潮河川や埋立地等の付近にある開削トンネルでは,塩分混じりの漏水による塩害(図1)が生じた事例があり,断面修復等の補修が必要となる場合もいくつか報告されています1)

 そこで,上記の環境に位置する開削トンネルを対象として,全国的な塩害の発生状況を調査するために,地下鉄事業者にヒアリングを行うとともに,躯体の塩化物イオン濃度の調査データ2)を提供いただいたので,その分析結果を報告します.また,中性化についても同様の分析を行った結果を紹介します.

  • 図1 地下構造物における塩害の発生機構
    図1 地下構造物における塩害の発生機構

2.塩害

 図2に塩害による変状の模式図を示します。塩害は,塩化物イオンによって生じる劣化現象です.塩化物イオンがコンクリート表面から拡散し,鉄筋の腐食を誘発すると考えられています.

 図3に収集した57の調査データを示します.塩化物イオン濃度は,コンクリート表面では0~50 kg/m3の範囲に分布しており,内空側のコンクリート表面に近い測定値ほど高くなる傾向が分かります.なお,調査対象トンネルは経年が14~54 年で,感潮河川や埋立地等の付近で地下水が塩分混じりとなる環境に位置していました.

  • 図2 塩害による変状の模式図
    図2 塩害による変状の模式図
  • 図3 塩化物イオン濃度の調査データ
    図3 塩化物イオン濃度の調査データ

 塩化物イオンの拡散は,一般に式(1)で予測されます.

  • 数式

 ここに,C(x,t):深度x[mm],経年t[年]における塩化物イオン濃度[kg/m3],C0:コンクリート表面の塩化物イオン濃度[kg/m3],Ci:初期塩化物イオン濃度[kg/m3],Dc:塩化物イオン拡散係数[mm2/年]

 コンクリート表面の塩化物イオン濃度C0は,構造物の環境条件に依存するパラメータです.

 図4に感潮河川付近で採取された調査データから得たコンクリート表面の塩化物イオン濃度C0のヒストグラムを示します.調査データは,漏水量の変動に伴う乾湿繰返し等の環境条件の影響でばらついていることが分かります.全体的に小さい値が多いですが,飛来塩分の設計値3)よりも大きい箇所もありました.なお,平均値は9.8 kg/m3でした.

 図5に鉄筋位置塩化物イオン濃度について調査データと予測値の関係を示します.調査データは,トンネルの環境条件が異なるためばらつきがあるものの,新設構造物の設計3)で制限値として一般的な1.2kg/m3よりも大きい傾向があります.そのため,塩害環境にある開削トンネルでは,調査でトンネルの現状を把握して,維持管理を行うことが重要と考えられます.

  • 図4 コンクリート表面の塩化物イオン濃度C0のヒストグラム
    図4 コンクリート表面の塩化物イオン濃度C0のヒストグラム
  • 図5 鉄筋位置塩化物イオン濃度の調査データと予測値
    図5 鉄筋位置塩化物イオン濃度の調査データと予測値

3.中性化

 図6に収集した138の調査データを示します.調査対象トンネルの経年は5~79 年で,中性化深さは概ね0~50 mmの範囲に分布していました.

  • 図6 中性化深さの調査データ
    図6 中性化深さの調査データ

 中性化深さは,一般に式(2)で予測されます.

  • 数式

 ここに,y:中性化深さ[mm],α:中性化速度係数[mm/√年],t:経年[年]

 図7に調査データを換算した中性化速度係数 のヒストグラムを示します.データの分布は正規分布に近いことが分かりました.なお,平均値は2.94 mm/√年で設計値3)の範囲内にあり,その下限に近い値でした.

  • 図7 中性化速度係数のヒストグラム
    図7 中性化速度係数のヒストグラム

4.おわりに

 開削トンネルにおける調査データを分析して,塩害環境では,全国的な傾向として,早期に鉄筋腐食が発生する可能性があることが分かり,調査によって構造物の状況を把握することが重要であることが分かりました.

 今後もデータの蓄積を図るとともに,詳細な検討を進めていくことを計画しています.

参考文献

1)武藤義彦,小西真治,諸橋由治,仲山貴司,牛田貴士:地下鉄箱型トンネルの塩害範囲に関する研究,土木学会論文集F1,Vol.70,No.3,I_75-I_82.2014.

2)牛田貴士,仲山貴司,津野究,焼田真司:開削トンネルの性能設計に関する一検討,トンネル工学報告集,Vol.24,III-1,2014.

3)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物,2004.

4)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 開削トンネル,2001.

(記事:牛田貴士)

平地区間における地盤振動シミュレーション

1.はじめに

 地盤振動の予測シミュレーションは振動の発生・伝播のメカニズムを解明し,予測や対策を検討する上で重要なツールです。鉄道総研においてもトンネルや盛土,高架橋区間などを対象にシミュレーション手法の開発と精度向上に取り組んできました1)2)3).これらの解析では,走行車両~軌道・土木構造物のモデル(加振力解析モデル)と振動の伝播解析を行うための土木構造物~地盤・沿線建物のモデル(振動伝播解析モデル)の2つの動的解析モデルを,軌道の底面と高架スラブ等の間での加振力の受け渡し(図1)により連携させ,地盤や建物の振動を計算しています.トンネルや高架橋等の振動伝播解析では路盤から下をモデル化の対象とし,加振力はレールの締結間隔で与えるという方法により,地盤振動や建物振動の測定結果をある程度再現できる1)2)3)ことが確認されています.通常はレールは離散的に支持されていますので,締結間隔での加振には妥当性があると考えられます.

 一方,平地区間の場合には軌道以外に剛性の高い構造がないため,軌道の剛性による振動伝播への影響が無視できません.図2にレールを衝撃加振したときの地盤振動の伝播解析例を示します.この図に示すとおり,軌道や路盤等の線路方向の剛性の違いにより振動の伝播性状が大きく異なるため,平地区間においてはレールなどの軌道構造を含めた振動伝播解析が必要と考えられます.しかし,車両はレールを連続的に加振しながら走行していますので,レールを加振する場合にはモデルに設定する加振点の間隔などモデルの離散化方法が解析結果に影響すると考えられます.本稿では,新幹線の平地区間を対象とした地盤振動シミュレーションの検討結果4)を紹介します.

  • 図1 シミュレーションの基本構成
    図1 シミュレーションの基本構成
  • 図2 平地区間の振動伝播解析の例
    図2 平地区間の振動伝播解析の例

2.解析の流れ

 解析の流れを図3に示します.まず,車両・軌道系をモデル化した加振力解析モデル(図3(a))により車両が走行する際のレールへの加振力を求めます.次に,求めた加振力に100Hzのローパスフィルタをかけた波形(図3(b))を入力として,振動伝播解析モデル(図3(c))により沿線地盤での応答を求めました.地盤の物性値を表1に示します.車両は車両長25mの新幹線車両8両編成で,走行速度は243km/hです.

 加振力解析に用いる軌道モデルは全長約100mでレール,道床,路盤を梁要素,まくらぎを集中質量とし,各々をばね,ダッシュポットで支持するモデルとしました.レールは左右2本分を1本の梁要素とし,締結間を4等分するように節点を設けました.締結間隔は0.585mです.路盤は砕石路盤としました.軌道パッドのばね定数や路盤下の地盤ばね等の物性値は,既往の文献例えば4)や設計標準5)をもとに決定しました.シミュレーションにより得られた,線路方向の各位置での車両からレールへの加振力(図3(b))を振動伝播解析モデルに入力しました.伝播解析に用いる軌道モデルの全長は410mでレールの端部には減衰定数の大きい線形ばねを設けました.地盤は水平成層地盤として薄層法で深さ200m 程度までモデル化しました.移動加振を行う範囲は加振力解析にあわせて80mとし,着目する振動方向成分は鉛直方向成分としました.

  • 図3 解析の流れ
    図3 解析の流れ
  • 表1 地盤の物性値
    表1 地盤の物性値

4.沿線地盤の応答の計算結果

 締結装置の位置でレールを加振したときの移動加振解析結果を,レール全体を同位相で加振する線加振解析,レールの中心の1点のみを加振した点加振解析と合わせて図4に示します.この図より,いずれの解析も地盤振動の周波数特性はある程度再現できていることや,移動加振解析の結果が他の加振モデルよりも小さいことなどがわかりました.それに対し,締結装置間の節点も加振した結果(図5)では振動が大きくなり,より実測に近い結果が得られていることがわかります.

  • 図4 移動加振解析結果1(締結装置の位置のみを加振)
    図4 移動加振解析結果1(締結装置の位置のみを加振)
  • 図5 移動加振解析結果2(締結装置間も加振)
    図5 移動加振解析結果2(締結装置間も加振)

5.おわりに

 本稿では新幹線の平地区間を対象に加振力解析と振動伝播解析を連携させたシミュレーションを行い,加振点の設定方法による解析結果への影響を検討した例を紹介しました.レールなど連続的に加振されている部位で2つの解析を連携させる場合,加振位置の離散化が解析結果に大きく影響する場合があることが確認されたことから,今後は適切なモデル化方法についてより詳細な検討が必要と考えています.なお,本研究の一部は国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました.

参考文献

(1)渡辺ら:高速鉄道トンネル上の地盤振動に関する解析的検討,鉄道工学シンポジウム論文集,No.18,pp.107-114,2014

(2)加藤ら:架道橋付近における軌道支持剛性変化が地盤振動に及ぼす影響,鉄道総研報告,Vol.28,No.3,pp.17-22,2014

(3)伊積ら:高速鉄道の3 次元振動解析に関する研究 その1,その2,2014年度日本建築学会大会学術講演梗概集(環境工学I),pp.345-348,2014

(4)蒲原ら:平地区間における列車走行時の地盤振動シミュレーションの基礎検討,土木学会第69回年次学術講演会講演概要集(7),Vol.69,pp.65-66,2014

(5)守田ら:低ばね定数軌道パッド施設に対する影響,土木学会第60回年次学術講演会講演概要集(4),Vol.61,pp.221-222,2005

(6)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造、2012

(記事:横山秀史)

低ばね定数型締結装置による波状摩耗抑制効果の検証

1.はじめに

 急曲線の内軌に発生する波状摩耗は騒音・振動の発生源となるだけでなく,そのレール凹凸によって高周波の輪重変動が励起され,軌道部材の劣化や軌道変位進みを助長することにより軌道保守量増大の要因にもなっています.しかしながら,有効な抑制手法が存在しないことから,現状では波状摩耗発生後にレール削正によって凹凸を除去するという事後的な保守が一般に行われています.本稿では,バラスト軌道において内軌に波状摩耗が発生している区間を対象として,波状摩耗抑制効果があるとされる「低ばね定数型締結装置」を試験敷設し,その後の定期的なレール凹凸測定によって,その波状摩耗抑制効果を検証したのでご報告します1)

2.低ばね定数型締結装置の概要

 低ばね定数型締結装置は,図1に示すように,一般的なPCまくらぎ用の締結装置とは異なり,タイプレートの上下に設けられた2枚の弾性材で列車荷重を受ける構造となっています.これにより,主として上下方向の軌道支持剛性を低ばね化しながらも,単純にレール直下の弾性材(レールパッド)のみで低ばね化した場合と比べて,レールをまくらぎに締結する板ばねに作用する変動応力が小さくなるように設計されています.また,本締結装置は,既に敷設されているPCまくらぎを交換することなく,締結装置のみの交換によって敷設が可能です.その一方で,既存の締結装置と比較してタイプレートおよびタイプレートパッドが付加されているため,交換後のレール面が20mm程度こう上されることに注意を要します.

  • 図1 締結装置の軌道支持ばね構造の模式図
    図1 締結装置の軌道支持ばね構造の模式図

3.現地敷設による波状摩耗抑制効果の検証

 図2に,試験敷設箇所のレール削正前後のレール凹凸を示します.敷設区間は半径350mのバラスト軌道の曲線とし,6号PCまくらぎ区間の9形レール締結装置と交換しました.また,レール凹凸は鉄道総研で開発した「レール凹凸連続測定装置2)」を用いて測定しました.同図に示すように,削正前は0.2~0.4mm程度の波状摩耗が発生していましたが,6頭式レール削正車で無道床橋りょうより終点方を削正して凹凸を除去し,延長50mに渡って低ばね定数型締結装置を試験敷設しました.

 図3に,試験敷設区間(図2の点線内)のレール削正前後のレール凹凸のパワースペクトルを示します.同図より,レール削正前は空間周波数6[1/m]付近にピークがあり,波長約17cmの波状摩耗が発生していましたが,レール削正後にはそのピークが消失し,凹凸が除去されたことがわかります.

 図4に,試験曲線において定期的に実施したレール凹凸の測定結果を示します.同図より,レール削正から約1300万トンまでは従来型締結装置が敷設されている未削正の区間においてレール凹凸の成長が見られますが,レール削正を実施した区間では締結装置種別によらず顕著なレール凹凸の成長は見られませんでした.

 一方,図5に,レール削正から約1300万トン後のレール凹凸のパワースペクトルを示します.同図より,従来型締結装置敷設区間では削正前とほぼ同じ周波数帯域にピークが再発しているのに対し,低ばね定数型締結装置敷設区間ではピークの再発は見られませんでした.この結果より,従来型締結装置敷設区間では徐々に波状摩耗が再発生していることが確認されましたが,低ばね定数型締結装置敷設区間ではこの時点では波状摩耗の再発生を抑制できていることがわかりました.

  • 図2 レール削正前後のレール凹凸
    図2 レール削正前後のレール凹凸
  • 図3 試験敷設区間のレール削正前後のレール凹凸のスペクトル
    図3 試験敷設区間のレール削正前後のレール凹凸のスペクトル
  • 図4 レール凹凸の推移
    図4 レール凹凸の推移
  • 図5 レール凹凸のパワースペクトル(レール削正から約1300万トン後)
    図5 レール凹凸のパワースペクトル(レール削正から約1300万トン後)

4.おわりに

 波状摩耗が発生していた曲線に低ばね定数型締結装置を試験敷設し,定期的にレール凹凸測定を実施しました.その結果,レール削正から約1300万トン経過後に従来型の締結装置敷設区間では波状摩耗の再発生が確認されたのに対し,低ばね定数型締結装置敷設区間では波状摩耗の再発生は確認されなかったことから,低ばね定数型締結装置には波状摩耗抑制効果があることがわかりました.しかしながらその差は僅かであることから,今後も継続して調査を続け,波状摩耗の成長過程を把握するとともに,本締結装置による波状摩耗抑制メカニズムの検証を行う予定です.

 最後に,本締結装置の試験敷設にご協力頂いた九州旅客鉄道株式会社の関係各位に感謝の意を表します.

参考文献

1) 田中博文,清水惇,佐野弘典,辻江正裕:低ばね定数型レール締結装置の試験敷設と波状摩耗抑制効果の検証,鉄道工学シンポジウム論文集,Vol.18,pp.15-22,2014.

2) 田中博文,清水惇:効率的な波状摩耗管理のための可搬型レール凹凸連続測定装置の開発と活用法,鉄道工学シンポジウム論文集,Vol.17,pp.19-26,2013.

(記事:田中博文)