地下駅空間の大規模拡幅時の接続構造

1.はじめに

 都市部の既設地下駅では,複々線化,商業利用等の機能向上を目的として,地下空間を大規模拡幅する等のリニューアル工事が多く実施されています(図1).しかし,拡幅規模が大きくなると,供用中の既設トンネルの大規模な補強が必要となる場合もあり,工事費の増大や工事期間の長期化等が懸念されることから,合理的な接続工法の開発の要望が高まっています1).本稿では,開削トンネル拡幅時における既設トンネルの補強量低減を目的として,新たな新旧トンネル接続構造を考案し,実物大部材の載荷実験による検証と工事費の試算を行った結果を紹介します.

  • 図1 既設地下駅のリニューアル工事
    図1 既設地下駅のリニューアル工事

2.接続構造の概要

 接続構造の概要を図2に示します.既設トンネルを抱き込む逆梁を線路方向に配置することで既設トンネルの負担を低減し,既設床版の側面に設置する水平アンカーと上面に設置する鉛直アンカー(十字アンカー)により新旧トンネルの一体性を確保するものです.一方,従来は,新設構造物の設計に用いられる設計基準等2)を適用し,水平二段アンカーを配置して横断方向に新旧トンネルの一体性を確保し,別途,開口補強桁を設けて線路方向を補強する接続構造が多く用いられています.

 考案した工法には,①十字アンカーとすることで,既設トンネルの鉄筋と干渉しにくいアンカー配置が可能になり施工効率が向上する,②抱込式逆梁とすることで,既設と新設の一体化がより確実に可能になり,既設トンネルの断面力増加の抑止が期待できるという特徴があります.なお,既設トンネルの影響評価については,文献3)で報告しています.

  • 図2 接続構造の概要
    図2 接続構造の概要

3.載荷実験による接続構造の妥当性の検証

 接続構造について,新旧部材の一体性を確認するために実物大部材の載荷試験(三点曲げ試験,支点間距離7.0m)を実施しました(図3).その結果,接続構造は剛体挙動を示し,接続部よりもスラブが先行して曲げ破壊に至ることから,考案した接続構造がスラブと同等以上の部材耐力を有することを確認しました(図4,5).

    • 図3 実物大部材の載荷試験
      図3 実物大部材の載荷試験
    • 図4 接続部付近の破壊状況
      図4 接続部付近の破壊状況
  • 図5 荷重-変位関係
    図5 荷重-変位関係

4.接続構造の設計の考え方

 図6にアンカー部と逆梁部について,接続構造の設計の概念を示します.

  • 図6 補強構造の設計の概念図
    図6 補強構造の設計の概念図

(1)アンカー部の設計

 安全側に,水平アンカーのせん断耐力と鉛直アンカーの引張耐力のそれぞれが単独でも接続面のせん断力Sを負担するものとします.

(2)逆梁部の設計

 既設トンネルの補強が不要となるように,縦断方向の梁としての設計を行うとともに,コーベル部(既設床版上面にある突起)は,接続面の鉛直アンカーに作用するせん断力Sによる曲げモーメントM1と接続面の曲げモーメントM2との合力を負担するものとします.

5.工事費の試算

 2層2径間の地下駅の上層階に,開削方式によって1層1径間の新設トンネルを増築するリニューアル工事を想定して,提案した接続構造を用いた場合の施工手順を検討したうえで,工事費の試算を行いました.なお,本検討では,既設トンネルの負担増分が大きくなる箇所については鋼板接着工法で補強することを想定しました.

 考案した接続工法では,この補強工事が不要であること等から,従来の接続構造と比較して,直接工事費で約10%のコスト縮減が期待できることが分かりました(図7).

  • 図7 工事費の試算結果
    図7 工事費の試算結果

6.おわりに

 本稿では,開削トンネル拡幅時における既設トンネルの補強量低減を目的として,新たな新旧トンネル接続構造を考案し,実物大部材の載荷実験による検証と工事費の試算を行った結果を紹介しました.

 実物大部材の載荷実験により新旧トンネルの一体性を確認するとともに,従来の接続構造と比較して,直接工事費で約10%のコスト縮減が期待できることが分かりました.

 今後は,様々なトンネルの状態,部材寸法および拡幅パターンへの適用性について検証し,鉄道開削トンネル設計の性能照査型設計法への移行を見据えた設計手法を確立していく計画です.

 なお,本研究の一部は平成24,26年度国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて行ったものです.

参考文献

1) 牛田貴士,仲山貴司,津野究,福留和人,粥川幸司:地下拡幅工事における躯体接続部に関する実験的検討,トンネル工学報告集,Vol.22,pp.471-474,2012

2) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説 開削トンネル,2001

3) 仲山貴司,津野究,牛田貴士,焼田真司,室谷耕輔:既設開削トンネル側壁の開口に関する構造解析手法の検討,土木学会論文集,Vol.71,No.1,pp.29-40,2015

(記事:牛田貴士)

豪雨時の氾濫シミュレーションに適用する流出パラメータ

1.はじめに

 近年,局所的な短時間強雨に起因する中小河川の氾濫や沢地形からの流入などによる災害が増加する傾向にあります.そこで中山間地を対象に鉄道特有の排水設備を考慮した流出・氾濫モデルを作成し,氾濫水が鉄道施設に及ぼす影響を評価する手法の確立が求められています.流出・氾濫解析では流出パラメータの適切な設定により氾濫状況の再現性が高まると考えられますが,ハイドログラフ等のデータが不足する中山間地においてそれらを新たに設定することは困難です.そこで,小河川の氾濫事象の再現解析に基づいて,流出パラメータの簡易な設定手法について検討したのでその結果について述べます.

2.被災事例の概要

 対象とした被災事例は,未曾有の豪雨(図1)により鉄道沿線の小河川が氾濫し土砂流入や軌道冠水等が多数発生したものです.災害発生時の状況は被災後の痕跡調査等から,①豪雨に伴うA川の増水,②坑口から100,200m付近でA川が氾濫し雨水が線路に流入,③B橋りょう上流の沢から雨水がA川に流入し,B橋りょう付近から大量の水が線路に流入,④流入した雨水が両切土区間を終点方に流下し,C踏切付近とその終点方の平坦地形の路盤を侵食して線路外側の道路へ流下,と推定されました(図2).

  • 図1 被災時の降雨
    図1 被災時の降雨
  • 図2 被災概況
    図2 被災概況

3.流出・氾濫解析概要

 本検討では,分布型流出モデルとして地盤を三層構造化した手法1)を用いています.このモデルでは地盤を,毛管移動水の流れの場である毛管空隙部(不飽和層),重力水が発生する大空隙部(飽和層),地表層,の三層に分割し,各層の流量と水深を(1),(2)式で表現して雨水の流れを再現します.また,氾濫水は二次元不定流解析により地表面を流下します.これら一連の計算により降雨時の河川の氾濫および氾濫水の挙動を再現しています.

 表1に,再現解析における解析条件を示します.ケースaは,被災後にA川において実測された流況データから逆解析的に求めた流出パラメータを用いたものであり,当該小流域の流出特性を最も反映したケースです.ケースbは,災害発生時におけるA川下流域の中河川部において計測されたハイドログラフから逆解析的に求めたものであり,不飽和層の層厚dm=0となるのが特徴です.ケースcは,ケースbで対象としたA川下流域の中河川部とほぼ同じ流域面積を持ち,かつ氾濫により鉄道が被災した実績を持つ足羽川流域のパラメータ2)を用いたものです.一方,ケースdでは,降雨は全て地表層を流下すると仮定し表層の粗度係数のみケースaと同様の値としました.これは,いわゆるゲリラ豪雨と呼ばれる短時間集中豪雨が斜面中に降った場合,降雨量の大半は地盤に浸透することなく流出することが考えられるため,他のケースよりも短期間で大量の雨水が地表面を流下することを期待して設定しました.外力は,被災時のレーダーアメダス解析雨量(空間分解能1km)を流域に面的に与え,数値地形データはA川流域を対象に実施した航空写真測量ならびに現地測量により取得しました.

    • 式(1)
      式(1)
    • 式(2)
      式(2)
  • 表1 解析条件
    表1 解析条件

4.再現解析結果

 いずれの解析ケースにおいても再現解析の結果として,(1)B橋りょう付近からの氾濫,(2)坑口から100m付近におけるA川からの氾濫,(3)同様に坑口から200m付近におけるA川から氾濫,(4)線路を流下した氾濫水が平坦地のC踏切付近から線路外に拡散,が代表的な氾濫事象として得られました.また,いずれのケースでも氾濫事象の時系列的な順序は上述の記載順どおりとなりました.図3に一例としてケースaにおける氾濫事象(2),(4)の概況を示します.これらの氾濫現象は上述の被災時の推定状況と一致する結果となりました.ただし,実現象において(1)から(4)の事象がどのような順序で発生したかは不明です.

 表2に,各氾濫事象の発生時刻の比較を示しますが,ケースb~dはケースaと比較して氾濫現象がいずれも早い時刻から発生しています.ケースaは他のケースと比較して保水性が高くなるよう設定されていますが,ケースaと他のケースとの時間差は最大30分程度にとどまっています.なお,今回の災害事象では,C踏切において信号が途絶した実時刻,すなわち浸水による故障検知時刻が20時19分と記録されており,各解析ケースでの氾濫事象(4)の発生時刻とほぼ一致する結果となりました.

  • 図3 再現解析による氾濫事象の一例
    図3 再現解析による氾濫事象の一例
  • 表2 氾濫事象の時間的差
    表2 氾濫事象の時間的差

5.まとめと今後の課題

 今回の対象事例では,地盤への浸透の有無によらず,代表的な氾濫事象の発生時刻はほぼ一致する結果となりました.紙面の関係から記載していませんが,氾濫規模についてもほぼ同様の結果が得られています.また,実際の踏切故障検知時刻との比較からも,概略的ではありますが実際の氾濫現象を再現していることが確認できました.このことから,小河川流域において局所的な短時間強雨による氾濫現象を再現する場合には,表層流のみを考慮した流出・氾濫解析で再現可能であることが示唆されました.しかしながら,本検討で対象とした河川の氾濫現象は,一般的な大河川の氾濫現象と比較して非常に小さい流域を対象としていたため,今回設定した解析条件が,どの程度の流域規模の氾濫現象にまで適用可能かは更なる検証が必要となります.

【参考文献】

1) 立川康人,永谷言,寶馨:飽和・不飽和流れの機構を導入した流量流積関係式の開発,水工学論文集,第48巻,pp.7-12,2004

2)立川康人,田窪遼一,佐山敬洋,寶馨:平成16年福井豪雨における洪水流量の推定と中小河川流域の治水計画に関する考察,京都大学防災研究所年報,第48号B,p.1-13,2005

(記事:渡邉 諭)

木まくらぎ曲線保守・改良計画システムの開発

1.はじめに

 一般に、木まくらぎ構造の軌道は、横圧による軌間内脱線に対する安全性がPCまくらぎ構造に比べて低いこと、軌きょうの横抵抗力が小さいため大きな通り変位が発生する可能性が高いこと等が特徴として挙げられます。しかし、PCまくらぎ化(以下、PC化という)には多くの費用や手間を伴うため、投資効果の高い箇所から優先的に施工を行うことが望まれます。そこで、主に地域鉄道の信頼性を向上し、メンテナンスコスト削減に資するため、曲線半径や軌道構造,走行車両や運転等の条件,軌道やまくらぎの不良状態を考慮して各曲線のまくらぎ交換の優先度を評価するシステムを開発しました(図1)。本システムでは、軌間内脱線や著大な通り変位の発生等に対してどれ程の余裕があるか、曲線別に評価でき、PC化を検討する際に予算や施工量の制約下で最も安全性向上に効果がある曲線を選択できます。

  • 図1 木まくらぎ曲線保守・改良計画システム画面
    図1 木まくらぎ曲線保守・改良計画システム画面

2.本システムの機能

(1) 軌道における安全性能の評価機能

 本システムに用いる、木まくらぎ交換箇所を選択するモデルを図2 に示します。線形諸元,軌道構造条件,軌道状態,車両・運転条件を入力データとして、輪重および横圧を算定します。ここで、各曲線における安全性能の評価として、軌道構造設計標準によるバラスト軌道の設計における以下の4項目の性能照査項目を検討します。

①輪軸横圧による軌きょうの横変形に対する照査

②軌間拡大による走行安全性の照査

③犬くぎ押し出しに対する安全性の照査

④犬くぎの抜け上がりに対する安全性の照査

 本モデルでは、これらの照査項目について応答値と限界値を求め、この応答値と限界値の比(応答 / 限界値比)が1項目でも1を超過した曲線を、最優先でまくらぎ交換する曲線として選択します。一方で、いずれの項目も1を超過しない曲線については、各項目の応答 / 限界値比の平均値を評価指標値とし、この評価指標値が大きな曲線についてはまくらぎ交換の優先度が高く、交換の効果が大きいと考えます。実線区を模擬したデータに本システムを適用し、まくらぎ状態の評価を行った結果を図3に示します。ランクAは応答/限界値比が1を超えた項目がある場合、B-Eは順位の上位25, 25-50, 50-75, 75-100%に対応しています。本図においてランクが高い(Aに近い)曲線については、優先順位を高めてPC化を行うことが考えられます。

  • 図2 木まくらぎ交換箇所選択モデル
    図2 木まくらぎ交換箇所選択モデル
  • 図3 まくらぎ状態評価結果
    図3 まくらぎ状態評価結果

(2) PC化曲線の選択機能

 PC化曲線選択の優先度算定における評価指標として、(ⅰ)応答/限界値比の4項目の平均(平均応答/限界値比)、(ⅱ)(平均応答/限界値比)×曲線延長、の2通りを設定できるようにしています。また、制約条件には、①PC化必須箇所(各項目の応答 / 限界値比が1を超える項目がある曲線については必ずPC化する),②PC化総延長上限(PC化する曲線の総延長は上限値以下とする),③PC化費用上限(PC化に使うことができる費用は上限値以下とする)を設定します。これらの制約条件を満たし、評価指標の総和が最大となる最も安全性向上効果が高くなる曲線を最適化計算により選択します。各評価指標を用いた場合の、各曲線の延長と平均応答/限界値比の関係について選択/非選択の判定結果を分けて図4 ,図5 に示します。(ⅰ)の場合には、平均応答/限界値比が比較的大きい曲線を選択していますが、平均応答/限界値比が0.7を超える曲線が残ってしまっています。一方、(ⅱ)の場合には、曲線延長が長くても平均応答/限界値比の大きな箇所がPC化対象箇所として選択され、本試算においては、評価指標としては(ⅱ)の方が適当と考えられます。

  • 図4 モデルの適用結果(ⅰ)
    図4 モデルの適用結果(ⅰ)
  • 図5 モデルの適用結果(ⅱ)
    図5 モデルの適用結果(ⅱ)

3.まとめ

 線区条件を考慮して、木まくらぎ交換箇所の優先度を評価し、制約条件下で最適なPCまくらぎ化箇所を選択するシステムについて紹介しました。本システムは国土交通省の鉄道技術開発補助金を受けて開発しました。

【参考文献】

水野真敏,三和雅史:軌間データに基づく木まくらぎの締結状態評価法とPC化曲線選択支援システム, 土木学会第67回年次学術講演会論文集,pp.1094-1096, 2012.9

(記事:片山雄一朗)