レールガス圧接の施工プロセス簡略化

1.はじめに

 ガス圧接法は,主要なレール溶接法として適用されていますが,接合面であるレール端面の研削作業工程やバーナーによるレール加熱作業工程において,熟練技能が必要とされています.そこで,両工程の簡略化・標準化の可能性について検討し,レール端面研削工程の簡略化,およびバーナー揺動工程の自動化を達成したレールガス圧接施工プロセスを提案しました.

2.レール端面研削工程の簡略化に関する検討

 レールガス圧接作業では,継手の品質を確保する上でレールの突合せ部に生じる隙間を極力小さくしなければならないため,レール端面に高い平面度(レール長手方向に対する垂直度)が要求されます.なお,現状では,取扱いに熟練を要する専用の研削機を用いて端面の研削作業が実施されており,未熟練者では平面度が却って低下する等の問題が生じています.一方,レール溶接工事におけるガス圧接の適用は,そのほとんどが仮設基地での一次溶接,および線路脇での二次溶接であり,この場合,新品レールの端面が接合対象となります.なお,レール製造メーカーでは,精密なレール切断が実施されているため,そのままの端面状態でガス圧接に供し得る平面度が確保されている可能性があります.そこで,新品レールどうしを接合する場合に,専用研削機による端面研削作業を省略し得るか検証するため,試作したレール端面平面度測定治具を用いて新品のJIS 60kg普通レールにおける端面の平面度を調査し,現行のガス圧接作業において専用研削機による端面研削を施したレール端面の平面度と比較しました.図1に,当治具を用いた平面度測定状況を示します.当治具前面の基準面(レール長手方向に垂直)には,貫通穴がレール横断面上の代表箇所に設けてあり,基準面からレール端面上の各点までの距離をデプスゲージで測定し,各点ごとの測定値の差を指標として平面度を評価しました.本検討では,特に,図2に示したレール鉛直方向(A⇔B),レール頭部水平方向(C⇔D),およびレール底部水平方向(E⇔F)の3領域における平面度に注目しています.

 調査の結果,新品レールの端面は,いずれの領域においても端面研削を施したレール端面と概ね同等の±0.4mmに収まる平面度を有していることが判明し,これより,端面に生成している錆を小型グラインダーで研削除去するのみで,ガス圧接作業に供し得ると判断するに至りました.

  • 図1 レール端面の平面度測定状況
    図1 レール端面の平面度測定状況
  • 図2 平面度の評価箇所
    図2 平面度の評価箇所

3.バーナー揺動工程の自動化に関する検討

 ガス圧接作業では,良好な継手品質を達成するため,バーナーにより突合せ部を集中加熱し圧接界面を速やかに昇温しなければなりません.その一方で,集中加熱によってレール表面が過熱され溶け落ちることを防ぐため,適当なタイミングでバーナーを圧接界面から移動させ,再度戻す操作(バーナー揺動操作)も必要となりますが,これらのバーナー操作手順は標準化されておらず,作業者によって施工にバラツキが生じているのが実状です.そこで,バーナー揺動操作の標準化を図る目的から,各揺動パターンで作製したガス圧接継手の品質を評価し,レールガス圧接施工に適用可能な一様な揺動パターンを提案しました.本研究では,さらに,揺動工程の自動化についても検討し,提案した揺動パターンを再現可能なバーナー自動揺動装置を試作しました.図3に,試作したバーナー自動揺動装置を用いたレールガス圧接作業の状況を示します.

  • 図3 バーナー自動揺動装置による圧接作業
    図3 バーナー自動揺動装置による圧接作業

4.脱技能化を達成したレールガス圧接施工プロセスの提案

 上述した検討により得られた成果をもとに,端面研削工程を簡略化し,かつバーナー揺動工程の自動化を達成したレールガス圧接施工プロセスを提案しました.表1に提案プロセスを従来のプロセスと比較して示します.

5.提案プロセスにより作製した継手の性能

 提案した施工プロセスにより作製したJIS 60kg普通レール試験継手を対象に実施した組織観察試験,静的曲げ試験,曲げ疲労試験等の結果,当試験継手は従来プロセスによる継手と同等の性能を有しており,提案プロセスは実用に供し得ると判断されました.図4に,試験継手を頭部上向姿勢(HU)および頭部下向姿勢(HD)の静的曲げ試験(支点間距離1m,中央集中荷重)にそれぞれ3本ずつ供した結果を示しますが,いずれの継手もJIS 60kg普通レールガス圧接部の曲げ基準値を十分に上回っています.

  • 表1 提案したガス圧接施工プロセス(60kg普通レール)
    表1 提案したガス圧接施工プロセス(60kg普通レール)
  • 図4 静的曲げ試験結果
    図4 静的曲げ試験結果

6.おわりに

 本研究で提案したレール端面研削工程を簡略化し,かつバーナー揺動工程を自動化したレールガス圧接施工プロセスは,実用に供し得ると判断されました.これら両工程は,レールガス圧接作業に従事する作業者の育成過程においても,相当の指導時間を要しており,当施工プロセスの適用を前提とした場合には,レールガス圧接作業者の育成期間の短縮も見込めます.

(記事:レール溶接研究室 山本隆一)

腹付盛土を対象とした軟弱地盤対策技術

1.はじめに

 線路拡幅工事のため既設盛土に対して腹付盛土を行う際に軟弱地盤対策が必要となる場合,一般に既設盛土直下の改良は困難であるため,既設盛土のり尻部分の対策が行われます.ここで,軟弱地盤が比較的厚い場合の対策として,深層混合処理工法により地盤改良体を離散的に造成する杭式改良(図1)があります.

 腹付盛土施工に杭式改良を採用する場合,改良体には水平荷重が作用しますが,杭式改良体の水平荷重に対する抵抗機構は十分に解明されていないため,経験的に改良率の下限値を設定することで,安定性を担保してきました.

 そこで,鉄道総研では,より安定性の高い対策工の提案と,合理的に改良率を設定するための設計法整備を目的とした研究を行ってきました.本稿では,遠心模型実験に対策効果の確認と,提案工法の設計法について紹介します.

  • 図1 杭式改良の概要図
    図1 杭式改良の概要図
  • 図2 提案工法の概要図
    図2 提案工法の概要図

2.提案工法の概要

 提案工法の概要を図2に示します.水平荷重に対する安定性に優れる対策工として,対策範囲全面を改良するブロック式改良がありますが,ブロック式改良を線路延長に渡って施工する場合,工費が高くなることが懸念されます.そこで,図2に示すように,地盤改良体を柱列状に配置した壁式改良を用いることで,安定性を高めることにしました.また,粒度調整砕石をセメント安定処理した材料と面状補強材(ジオテキスタイル)で構成されるセメント改良礫土スラブを地盤改良体上に設置することで,地盤改良体間における腹付盛土の不同沈下を抑制することとしました.

3.遠心模型実験による対策効果の検証

 提案工法による対策効果を確認するため,実験模型を用いて遠心模型実験を実施しました1).実験は最大50G場で実施するため,模型は実際の寸法の1/50で作成し,模型の改良率は,杭式改良で一般的用いられている30%程度としました.

 腹付盛土施工時における提案工法模型の変形状況を図3に,別ケースで実施した無対策模型の変形状況を図4に示します.また,両者の変位量について比較した結果を図5に示します.なお,標点変位量については実験模型内に設置した標点を用いて画像解析により算出しています.提案工法と無対策の標点22,標点62の変位量を比較すると,提案工法が水平変位を大きく低減していることから,水平荷重に対する安定性に優れた工法であることを確認しました.また,提案工法が既設盛土天端の沈下や前面地盤の隆起量を抑制する効果も確認しました.さらに,実験終了後の提案工法において腹付盛土の局所的な沈下は見られなかったことから,セメント改良礫土スラブの有効性を確認しました.

  • 図3 腹付盛土施工時の変形状況(提案工法)
    図3 腹付盛土施工時の変形状況(提案工法)
  • 図4 腹付盛土施工時の変形状況(無対策)
    図4 腹付盛土施工時の変形状況(無対策)
  • 図5 変位量の比較
    図5 変位量の比較
    (上段:標点変位,下段:鉛直変位)

4.提案工法の設計手法

 遠心模型実験結果を踏まえて,提案工法の設計フローを作成しました(図6).実験では,腹付盛土の荷重によって,地盤改良体底面端部に大きな地盤反力(以下,端趾圧)が作用することが確認されたため,設計では,支持地盤が破壊しないことを前提に端趾圧の照査を実施することとしました.また,地盤改良体と未改良地盤からなる複合地盤として,滑動安定,転倒安定および円弧すべり法による安定の照査を実施します.なお,複合地盤とみなす条件として,地盤改良体間の未改良地盤の中抜け(抜け出し)が生じないことを事前に照査することとしました.図7に提案工法における複合地盤へ作用する土圧分布の模式図を示します.土圧算定時に考慮する上載荷重については,壁式改良体が既設盛土のり尻付近に構築され,既設盛土荷重が複合地盤に与える影響が少ないと考えられることから,腹付盛土荷重のみを考慮します.また,腹付盛土による土圧は,ハッチング部と等面積の荷重として考慮するものとします2)

  • 図6 提案工法の設計フロー
    図6 提案工法の設計フロー
  • 図7 複合地盤に作用する土圧分布
    図7 複合地盤に作用する土圧分布

5.まとめ

 提案工法の遠心模型実験結果から,杭式改良と同程度の改良率でも,変形抑制効果が高いことを確認しました.また,提案工法を用いて合理的に改良率を算定できる設計法を整備しました.なお,本稿には国立研究開発法人 港湾空港技術研究所との共同研究成果が含まれています.

【参考文献】

1) 工藤敦弘,渡辺健治,佐藤武斗,島田貴文,森川嘉之,高橋英紀,森誠二:壁式改良を併用した軟弱地盤対策工の偏荷重下における対策効果について, 第50回地盤工学研究発表会, 2015

2) 島田貴文,渡辺健治,工藤敦弘,佐藤武斗,森川嘉之,高橋英紀:軟弱地盤上の腹付け盛土施工における対策工の試計算, 第50回地盤工学研究発表会, 2015

(記事:基礎・土構造研究室 島田貴文)

火山活動における鉄道の被災事例および対策事例

1.はじめに

 国内には110もの活火山が存在しています(図1).近年,西之島や御嶽山などの噴火により,火山災害に備えることの重要性が改めて認識されるようになってきました.火山活動は降灰や火山泥流,地盤変位など多様な現象を発生させ,それらが社会に与える影響も多岐にわたります.しかし,火山活動が鉄道に及ぼす影響についてこれまで体系的には整理されていませんでした.そこで,火山活動における鉄道の被災事例および対策事例を対象とした文献調査1)を行い,それらを現象ごと,および鉄道の系統ごとに整理しました.

  • 図1 わが国の活火山分布
    図1 わが国の活火山分布
    *本文中に登場する活火山の名称と位置を示している

2.鉄道の被災事例および対策事例

2.1 降灰による被災と対策

 1943~1945年に発生した有珠山の噴火では,大量の降灰により線路の一部が埋没しました2).また,雨によってレールや締結装置に固結した火山灰が腐食を著しく進行させました2).比較的少量の降灰であっても,火山灰の介在により転てつ機の転換不良が発生したことがあります3)

 降灰による電気系の影響には,レールに堆積した火山灰が短絡不良を引き起こし,信号機や踏切が動作不良を起こした事例(雲仙岳4),霧島山3),桜島5))があります.こうした場合には除灰作業を行いますが,1991年以降の雲仙岳の噴火では,島原鉄道は散水装置とブラシを備え付けた保線用モーターカーを作成・活用しました4)

 雲仙岳の噴火では,火山灰がフロントガラスに付着することによる視界不良も問題となりました4).この対応として,駅に水タンクを準備し,列車が到着した際に駅員が灰を洗い流しました4).また,火山灰がエンジンに吸い込まれることによってエンジン不調やオーバーヒートが発生しやすい状態になりました4)

2.2 火山泥流による被災と対策

 火山泥流は,火砕物(火山灰や火山礫など)が大量の水とともに流下する現象で,土石流と呼ばれることもあります.1926年の十勝岳の噴火では,高温の火砕物が積雪を溶かすことにより融雪型火山泥流が発生しました.火山泥流は噴火後約25分で火口から約25km離れた上富良野に達し,国鉄富良野線のレールや盛土が埋没,流出しました6).また,雲仙岳の噴火では,降雨によって火山灰等が流下する火山泥流が度々発生しました.それにより島原鉄道は踏切保安設備の倒壊,線路流失,線路埋没,信号ケーブルの切断といった被害を受けました4).その度に復旧工事が繰り返されましたが,1993年4月の大規模な火山泥流によって線路延長700mが埋没したことにより長期の区間運休となりました4).その後は恒久的な対策として,当該区間を含む2,646mの区間が高架化されました4)

2.3 地盤変位による被災と対策

 火山活動に伴う地盤変位による鉄道の被災は,1943~1945年および2000年の有珠山の噴火時に起こりました.前者の噴火では溶岩ドームの成長によって地盤が隆起し,国鉄胆振線の軌道や構造物に変状が発生しました7).その結果,約5kmにわたり隆起部を迂回するように線形が変更されました2).2000年の噴火では室蘭本線に線路の湾曲および橋台の破損が発生しました8), 9).復旧工事が完了し運転が再開されてからしばらくは,運行時間帯を午前9時~午後4時(目視で有珠山の状況が確認可能)に限定したり,非常時の後退運転のため旅客用ディーゼルカーの前後に運転士を配置したりするなどの対策が取られました8)

3.被災事例および対策事例の整理

 火山活動における鉄道の被災事例,対策事例を施設系,電気系,車両系,運輸系に整理しました(表1).火山活動に伴う様々な現象の中でも,降灰は各系統に被害を及ぼしていることがわかりました.その理由として,降灰は他の現象に比べて広範囲に影響が及ぶことや,降灰があっても鉄道運行が可能な場合もあるため,各系統での被害が顕在化しうることが考えられます.降灰の対策としては,付着した火山灰の除去が各系統で実施されていました.火山泥流や地盤変位は線路の埋没や変状を引き起こすことがあり,被災規模によっては線形変更を実施することもあるなど,復旧に時間がかかります.

  • 表1 国内の火山活動による鉄道の被災事例とその対応事例(文献1)を改定)
    表1 国内の火山活動による鉄道の被災事例とその対応事例(文献1)を改定)

参考文献

1) 浦越拓野,西金佑一郎,川越健:国内の火山活動における鉄道の被災及び対策事例,鉄道総研報告,Vol.29,No.1,pp.47-53.2015.

2) 本多賢治:有珠山噴火による胆振線の災害,鉄道線路,Vol.25,No.12,pp.643-646,1977

3) 井口智裕:新燃岳噴火の鉄道電気設備への影響とその対応,鉄道と電気技術,Vol.22,No.9,pp.33-37,2011

4) 葦書房編:噴火と闘った島原鉄道,葦書房,145p,1998

5) 内倉恵文,佐々木健之:降灰検知装置で事故防止,第25回鉄道電気テクニカルフォーラム論文集,pp271-272,2012

6) 中央防災会議災害教訓の継承に関する専門調査会:1926十勝岳噴火報告書,2007

7) 日本鉄道施設協会:航空写真判読法の研究委員会報告書,189p,1978

8) 北海道旅客鉄道株式会社:有珠山噴火鉄道輸送の挑戦,北海道旅客鉄道株式会社,111p,2001

9) 白川秀則,海原卓也:有珠山噴火による鉄道への影響とその対策,日本鉄道施設協会誌,Vol.39,No.1,43-45,2001

(記事:地質研究室 西金佑一郎)