レール頭部横裂探傷について

1.はじめに

 レールには車輪との転がり接触によって頭部表層にシェリングと呼ばれるき裂を生じることが知られています.このシェリングは図1に示すように主に直線区間で連続あるいは単発的にレール頭頂面に観察されるもので,レール探傷車による検査が実施されています.また,レール探傷車できずを検知した場合には,きずの状態を詳細に把握するため,手押し式の超音波探傷装置や手探傷による再検査が実施されています.

 ここでは,シェリングなどから進展したレール頭部横裂の探傷方法について,基礎的なことから実際の探傷検査に役立つ情報を紹介します.

  • 図1 連続して発生したシェリング
    図1 連続して発生したシェリング

2.シェリングの探傷方法

 レール探傷車によるシェリングの探傷は,超音波をレール鉛直方向に送受信する垂直探触子によって水平裂の長さを,斜め70°方向に送受信する斜角探触子によって鉛直方向に進展したき裂(以下,「横裂」と記す)を検出します.しかしながら,シェリングから発生するき裂の形態は様々であり,図2に示すように水平に進展するき裂(以下,「水平裂」と記す)の進展範囲が広いと水平裂から分岐した横裂が70°斜角探傷では検知できないことがあるとともに,水平裂内から反射したエコーが得られることもあり,検査判定が難しい場合があります.このような理由から頭部横裂測定器(以下,「横裂測定器」と略記する)が開発され,現在ではシェリングの横裂深さを評価する方法として定着しています.横裂測定器は,頭部側面から超音波を送受信するため,頭頂面下5~10mm深さで進展する水平裂の影響を受けずに横裂の有無およびその深さを判定することができます.さらに,曲線部などでレール頭部側面が摩耗した場合でも超音波が適切に送受信できる仕組みになっています.

  • 図2 水平裂長さが長い場合のイメージ
    図2 水平裂長さが長い場合のイメージ

3.横裂測定器による横裂深さの測定方法

 横裂測定器は,図3に示すようにレール頭部側面から反対側の頭部側面まで斜め45°に超音波を送信します.探傷感度は,シェリング発生箇所付近の健全部で透過エコー高さが80%前後になるよう調整します.この状態で横裂発生箇所を探傷すると,横裂で超音波の一部が反射し,受信する透過エコー高さが低くなる機構となっています.

 図4は,実際に横裂が発生したシェリング箇所を探傷した際の透過エコー高さの変化と強制破断により現出した横裂破面です.このように,横裂が存在していると(a)図に示すように健全部で感度調整した透過エコー高さが低下し,横裂の存在を検知することができます.また,(b)図に示すように透過エコー高さがちょうど半減した際の探触子位置が横裂の深さを示しており,探触子の位置を調整しながら横裂深さを測定します.なお,以下に横裂の有無および深さをより効率的に評価できる手順を示します.

① 探触子位置を10mmに設定し,健全部で透過エコー高さを80%前後に調整して横裂の有無を確認する

② 横裂が存在して40%(健全部で調整した透過エコー高さの1/2)を大きく下回った場合には,透過エコー高さが最も低くなる箇所で探触子位置を透過エコー高さが40%程度になるまで下げる

③ 下げた探触子位置のまま健全部に移動して再度透過エコー高さが80%前後になるよう探傷感度を調整した後,横裂存在箇所を通過させて低減する透過エコー高さを確認する

④ ②→③の手順を繰返し,透過エコー高さがちょうど半減する探触子位置を測定する

  • 図3 頭部横裂測定器の探傷イメージ
    図3 頭部横裂測定器の探傷イメージ
  • 図4 透過エコー高さと検出した横裂の破断面
    図4 透過エコー高さと検出した横裂の破断面

4.頭頂面からの70°斜角探傷における横裂深さの評価方法

 手押し式の超音波探傷装置などによる頭頂面からの70°斜角探傷では,標準試験レールの頭頂面下15mm深さに加工されたφ5mm貫通穴からの反射エコー高さを50%に調整した探傷感度が適用されています.しかしながら,図5に横裂を検知したBスコープ画像を示すように,この探傷感度では横裂深さを正確に測定できず,実際の横裂深さ(横裂測定器の測定結果)より過大評価することになります.

 鉄道総研では,70°斜角探傷における探傷感度を深さ15mm位置に加工したφ2mm貫通穴から,80%の反射エコー高さが得られるように調整し,図6に示すように横裂から反射したエコー高さが50%を下回る位置での深さを読み取ることで,横裂深さを評価することを提案しています.なお,本方法では横裂測定器より若干深く評価される傾向があることに留意するとともに,前述したように水平裂の進展範囲を避けて超音波が送受信されていることが前提となります.

  • 図5 70°斜角探傷で横裂を検知したBスコープ画像
    図5 70°斜角探傷で横裂を検知したBスコープ画像
  • 図6 70°斜角探傷での横裂深さ
    図6 70°斜角探傷での横裂深さ

(記事:レール溶接研究室 寺下善弘)

列車風荷重を想定したホーム柵の疲労試験

1.はじめに

 ホームからの旅客の転落事故防止を主な目的として,ホームドア等の設置が進められています.一方,ホームドア等の機器の設計やホームドア等を支持するホーム構造の設計に係わる,風荷重等の様々な外力や影響の実態については,明確ではない部分もあります.既報「在来線ホームのホーム柵近傍における圧力変動の測定」(施設研究ニュース, No.296, 2015.4.1)では,ホームドア等が設置されるホーム端部近傍における,在来線の列車(通勤型列車)が通過する際に生じる圧力変動の測定結果について報告しました.今回は,在来線の列車でも,駅部の通過速度が120km/h近くに達する場合の圧力変動を測定するとともに,長年の度重なる列車の通過によって,ホームドア等に大きな圧力が繰り返し作用した場合を想定した疲労試験を実施したので,その結果を報告します.

2.圧力変動の測定について

 圧力変動の測定は,図1に示すように既設の安全柵の内側から行いました.既報で紹介したa駅と今回測定をおこなったb駅,c駅における,測定点のホーム端からの離れは,概ね0.4m~0.6mの範囲にあります.この違いは安全柵が設置されている位置の違いによるものです.次に,測定点のホーム床面からの高さは,a~c駅とも約0.1m,0.6m,1.1mの3種類としましたが,ここでは,最も大きな圧力が計測された,高さ0.6mの測定点P2の結果について紹介します.

 a~c駅の測定点P2における,列車の通過速度と圧力の関係を図2に示します.測定対象とした列車は全て先頭形状が流線型ではない通勤型車両としています.測定点P2における圧力の値(0-P値)は,概ね列車速度の2乗と比例関係にあり,ホームドア等の近傍における圧力が,列車速度から推定可能であることがわかります.また,今回測定された最大の圧力は,列車速度が約127km/hのときの約258Paであり,既報で示した列車速度が約72km/hのときの約100Paを大きく上回る結果となりました.

 以上のことから,例えば,標準的な可動式ホーム柵の扉(片側分)を1.1m2(=幅1.0m×高さ1.1m)と仮定した場合,約127km/hの列車が通過するときにホーム柵の扉(片側分)に作用する圧力は約284Nに達する可能性があります.圧力の逃げ場が少ないトンネル区間では,更に大きな圧力が作用する可能性もありますが,今回は明り区間において,通勤型車両が通過するホームに設置されたホームドア等に作用する可能性がある圧力の大きさを把握することができました.

  • 図1 通過列車と測定点の位置関係
    図1 通過列車と測定点の位置関係
  • 図2 列車速度と圧力のピーク値注1)(0-P値)の関係
    図2 列車速度と圧力のピーク値注1)(0-P値)の関係
    注1) 正圧,負圧の絶対値のピーク値を意味する。

3.可動式ホーム柵の疲労試験

3.1 試験方法

 前節の測定結果を荷重条件とした可動式ホーム柵の疲労試験を行いました.疲労試験状況を図3および写真1に示します.試験箇所は可動式ホーム柵の扉と戸袋の接合部(扉を支持し開閉する部分で,以降は摺動部と呼びます)としました.摺動部以外の扉や戸袋部分は疲労破壊しないように剛性を十分高く設定し,扉の自重により摺動部に作用するモーメントが実際と同程度になるように重量を設定しました.想定する可動式ホーム柵は,多様な車両扉位置に対応した,持ち出し幅の長いロングストロークタイプ(幅1.7m×高さ1.1m=1.87m2)とし,荷重は扉中心位置に1点集中荷重として作用させました.荷重は実測結果から推定した列車速度130~140km/h(ホーム端から40cm地点)に相当する圧力561N(300Pa)と,その1.5倍の841N(450Pa)の2パターンとしました.繰返し回数は通過列車本数を180本/日とした場合に30年間となる200万回を最大としました(450Paは100万回まで).

  • 図3 疲労試験状況
    図3 疲労試験状況
  • 写真1 疲労試験状況
    写真1 疲労試験状況

3.2 試験結果

 疲労試験回数1万,10万,50万,100万,200万回経過後の90サイクル分の荷重-扉先端水平変位関係を図4に示します.疲労試験回数が増大しても荷重-変形関係に大きな変化が見られないことが分かります.また,各疲労試験回数経過後に扉開閉に伴う摺動抵抗や摺動部のガタつき量の試験も別途実施しましたが,規定値範囲であることが分かりました.以上より,特定の1機種ではありますが,長期に亘る列車風圧が作用しても現行機が耐えうることが分かりました.

  • 図4 荷重-扉先端水平変形関係
    図4 荷重-扉先端水平変形関係

4.おわりに

 在来線において列車が高速で通過する場合にホームドア等に作用する圧力を実測により把握しました.また,可動式ホーム柵に圧力が繰り返し作用した場合のホーム柵扉摺動部の疲労試験を実施し,扉開閉に対して問題が無いことを確認しました.

(記事:建築研究室 山本昌和)

仮設型の雪崩検知装置の開発

1.はじめに

 鉄道沿線において,過去に雪崩が発生した斜面や雪崩危険度の高い要注意斜面(雪崩危険斜面)の多くには雪崩対策工が整備されています.しかし大雪時には,これらの対策工が積雪に埋没する場合があり,その際には雪崩の発生抑止効果や線路設備や列車への防護効果が小さくなることが懸念されます.

 このような場合においても安全かつ安定的な輸送を確保するためには,斜面積雪や雪庇などを除去するとともに,巡回や固定警備を行うことが重要となります.しかし,全ての雪崩危険斜面について除雪などを行い,さらに巡回や固定警備を配置することは難しいと考えられます.そこで,沿線巡回や固定警備などの補助として役立てることができる仮設型の雪崩検知装置の開発に取り組みました.

2.雪崩検知装置の開発コンセプト

 既存の対策工は大雪時にその背面が埋没したとしても対策工の前面の支柱などは露出していることが多いため,開発する雪崩検知装置はこのような鋼材を利用して設置することを想定します.考案した雪崩検知装置は,棒状の雪崩受圧部が既存の対策工よりも上に出るように仮設することで,埋没した対策工の上を通過する雪崩を検知可能なものとします(図1).また,本装置は雪崩の発生情報とともにその規模に関する情報を伝送できるものとします.ここで雪崩規模に関する情報とは,雪崩の衝撃力の大小や流下質量の多寡であり,これらの情報は設備の破損や線路への支障判断に用いることを視野に入れたものです.これらの開発コンセプトをまとめると以下のようになります.

(1)山間部においても人力で運搬および設置が可能なように,小型でかつ軽量であること.

(2)雪崩危険斜面は無電源地域が多いため,商用電源を必要とせず,極力省電力で稼働すること.

(3)検知装置の機構および検知アルゴリズムは単純であり,検知した雪崩情報を伝送できること.

(4)複数地点に仮設することも考慮し,比較的安価で製作できること.

  • 図1 検知装置設置のイメージ
    図1 検知装置設置のイメージ

3.雪崩検知装置の開発

3.1 雪崩受圧部

 雪崩受圧部はポリウレタン製の棒(軽量,強靱でかつ安価なポリウレタン製の道路視線誘導標:長さ約80cm)と2枚のステンレスプレート(水平プレートと鉛直プレート)および圧電素子で構成されます(図2).棒状の雪崩受圧部に雪崩の衝撃が加わると,棒と水平プレートの接合点に大きなひずみが生じるため,この接合点付近に圧電素子を接着し,そこに生じるひずみを電圧信号に変換して出力する機構としました.   

 雪崩受圧部からの電圧信号と,雪崩規模を表す指標である衝撃荷重と流下質量との関係について調べた結果,雪崩の最大衝撃荷重は最大出力電圧と良い相関があることが確認できました.また,雪崩の流下質量は,出力電圧の積算値と正の相関があることがわかりました.

  • 図2 雪崩受圧部の機構と検知の仕組み
    図2 雪崩受圧部の機構と検知の仕組み

3.2 データ処理部

 開発した雪崩検知装置のデータ処理部は20cm四方の筐体に格納されており,①電圧入力部,②処理部,③伝送部,および電源から構成されます(図3).

 データ処理部では,圧電素子からの電圧信号とこれに対してあらかじめ設定したしきい値とを比較することで雪崩の発生を検知するとともに,出力電圧の最大値と積算値(それぞれ,雪崩の衝撃力,雪崩の流下質量に対応)が,これらに対して設定したしきい値を超えているかどうかを判定します.その結果から,図4に示す判定種別に従って雪崩フラグを作成し,雪崩規模を表す情報として伝送します.例えば,出力電圧の最大値がしきい値m(図4中)を超え,かつ出力電圧の積算値がしきい値n(図4中)を超えた場合には,衝撃荷重,流下質量ともに大きな雪崩(雪崩フラグは4:図4中,星印)と判定されます.

  • 図3 雪崩検知装置(試験器)
    図3 雪崩検知装置(試験器)
  • 図4 雪崩規模の判定種別
    図4 雪崩規模の判定種別

3.3 消費電力

 本装置は,雪崩判定手順を単純化することで低消費電力の8ビットのPIC(コントローラ)を用いることができるとともに,待機時のA/D変換レートを小さくし、さらにスリープ機能を組み込むことで待機時の消費電流を1.1mA以下に抑えています.また、雪崩が発生した際の情報配信時には消費電流が約15mAとなるものの,処理時間などを短くするなどで省電力化を実現しました.上記の稼働時の消費電流をもとに机上で計算した結果,市販の大容量リチウム電池8本で2ヶ月以上使用できることがわかりました.

4.動作確認試験

 試作した雪崩検知装置の動作確認試験を塩沢雪害防止実験所で行った結果,雪崩検知後,4分以内で雪崩情報(表1)をメールで送信できることを確認しました.今後は自然環境下における長期試験によって検知性能や誤動作の有無など信頼性を確認する試験を実施していく計画です.

  • 表1 雪崩情報の一例
    表1 雪崩情報の一例

(記事:気象防災研究室 佐藤亮太)