シートパイル補強工法の設計・施工マニュアルの改訂状況について

1.はじめに

 兵庫県南部地震以降,既設鉄道構造物では上部構造物の補強が優先的に進められてきました.一方で,既往の増し杭工法や地盤改良工法による基礎の耐震補強は,用地の大幅な拡幅や補強工事の大規模化に伴う高コストに加えて,近接構造物が多い都市部や桁下においては,施工が困難になる場合が多くありました.このため,鉄道総研では,狭隘地や空頭制限下における基礎構造物を対象とした,経済性に加えて施工性にも優れた耐震補強工法である「シートパイル補強工法」を開発してきました.

 2011年に,旧基礎標準に準拠した「シートパイルを用いた既設鉄道構造物基礎の耐震補強設計マニュアル(案)(第2版)」を発行しています.現在,鉄道総研・大林組・新日鐵住金との共同研究の成果を踏まえ,「鋼矢板を用いた既設鉄道構造物基礎の新標準に準拠した耐震補強設計・施工マニュアル(案)(第3版)」(以下,補強マニュアル)として改訂作業を進めておりますので,ここでは,その概要について紹介します.

2.シートパイル補強工法の特徴

 シートパイル補強工法は,既設フーチングを取り囲むように鋼矢板(シートパイル)を打設し,増しフーチングにより鋼矢板と既設フーチングを一体化させることで,耐震性・支持力性能を向上させる工法です(図1).主な特徴として次の項目が挙げられます.

 ①コスト縮減・工期短縮:掘削土留めに用いる鋼矢板を本体利用することにより,既往の耐震補強工法(増し杭工法や地盤改良工法)に対してコスト縮減・工期短縮が可能です.

 ②狭隘地での高い施工性:既設フーチングから最低で500mm程度の拡幅で済むため,用地制限のある狭隘箇所や,桁下空頭の制限箇所等,都市部や鉄道近接施工においても施工性に優れます.

 ③環境調和性:低騒音・低振動により施工可能であり,掘削汚泥や泥水等の産業廃棄物の排出が無く,建設発生土も少ないことから,環境にやさしい工法です.

  • 図1 シートパイル補強基礎の例
    図1 シートパイル補強基礎の例
  • 図2 施工概要図
    図2 施工概要図

3.改訂の概要

 主な改訂内容について,その概要を示します.

 ①性能照査型設計法への移行:「基礎標準」ならびに「耐震標準」が2012年に性能照査型の設計法に改訂され,「基礎標準」では新たに「17章 そのほかの基礎」において新しい基礎形式として「シートパイル基礎工法」が導入されました.補強マニュアルは,この鉄道標準の改訂に対応するとともに,より実務者向けに具体的な設計・施工の取り扱いをとりまとめたものです.  ②先端加工鋼矢板の適用:先端加工鋼矢板は,鉛直支持力の向上を目的に先端部を組合せ加工により閉塞断面を設けた鋼矢板です(写真1).実大急速載荷試験より,先端加工鋼矢板をN値20~30程度の中間層(非液状化層)に支持させた場合にも,地盤強度に応じた一定の支持力が確認されたことから,補強マニュアルでは中間層打ち止めにも適用できることとしました.

 ③接合部の設計方法の合理化:接合部の構造には孔あき鋼板ジベル(写真2)の使用を推奨しており,これまで作用するせん断力および曲げモーメントに対して安全側の設計としていました.しかしながら,鉛直支持力に優れた先端加工鋼矢板を用いる場合には,接合部に大きな荷重が作用するため,増しフーチング厚が大きくなる可能性があります.このため,接合部の合理化を目的に,接合部の模型載荷試験を実施し,組合せ荷重下における合理的な設計法を提案しました.

 ④液状化対応:模型振動実験および数値解析から,液状化に対応した構造解析モデルならびに設計応答値の算定は,「耐震標準」に準拠できることを確認しました.

  • 写真1 先端加工鋼矢板
    写真1 先端加工鋼矢板
  • 写真2 孔あき鋼板ジベルおよび施工例
    写真2 孔あき鋼板ジベルおよび施工例
  • 図3 補強マニュアルの目次
    図3 補強マニュアルの目次

4.おわりに

 本工法および設計法をより良く理解していただくことを目的として,シートパイル補強工法の設計・施工マニュアル(案)改訂に関する講習会の開催を10月以降に予定しており,更なる普及に努めてまいります.講習会にご参加の方には,補強マニュアルを配布いたします.また,補強マニュアルに基づき,既設杭基礎の耐震補強を対象として,「設計計算例」を作成しており,今年度末に公開の予定です.これにより設計実務での活用性が高まることが期待されます.

 なお,シートパイル補強工法は鉄道総研・大林組・新日鐵住金の共同研究の成果であり,特許取得済みです.また,地盤条件や補強対象の構造,用地制限等により,適切な補強形式が異なり,設計のモデル化にも注意が必要です.ご検討の際には,問い合わせ窓口である新日鐵住金または,基礎・土構造研究室まで必ず事前にご連絡・ご相談くださいますようお願いいたします.

(記事:基礎・土構造研究室 戸田和秀)

レールガス圧接バーナー自動揺動装置の開発

1.はじめに

 ガス圧接法は,主要なレール溶接法として適用されていますが,接合面であるレール端面の研削作業工程やバーナーによるレール加熱作業工程において,熟練技能が必要とされています.特に加熱作業工程では,バーナーによる加熱位置が圧接界面に合致するように作業を実施する必要があり,集中加熱を継続した場合,レール表面が過剰に溶融し滴下します(以下,溶融滴下と記す).よって,これを防ぐため,加熱作業工程の中盤から終盤にかけて,図1に示すようにバーナーを圧接界面を中心としてレール長手方向に往復運動(バーナー揺動操作)させることが不可欠となります.なお,本バーナー操作に標準となるマニュアル等は存在しません.そこで,加熱工程の脱技能化を図る目的から,バーナー揺動操作の標準化・機械化に関する検討を実施しました.

  • 図1 バーナーの揺動操作
    図1 バーナーの揺動操作

2.バーナー揺動工程の標準化に関する検討

 バーナー揺動操作の標準化を図るため,『揺動開始タイミング』,『揺動幅』,および『揺動速度』をパラメータとした各揺動パターンで作製したガス圧接継手の品質を評価し,レールガス圧接施工に適用可能な一様な揺動パターンを提案しました.表1に,本検討で提案したJIS60kg普通レールガス圧接作業時のバーナー揺動パターンを示します.なお,当揺動パターンを適用することで,加熱作業中のレールの溶融滴下を回避可能であることも確認しています.

  • 表1 提案したバーナー揺動パターン(対象:JIS60kg普通レール)
    表1 提案したバーナー揺動パターン(対象:JIS60kg普通レール)

3.バーナー自動揺動装置の試作

 上述したように,バーナー揺動操作の標準化について検討し,実作業に適用可能な揺動パターンを提案しました.揺動操作の標準化を図ることで継手品質のばらつきを縮小することは可能ですが,一様な揺動操作であっても,手動操作である限り少なからずばらつきが生じます.そこで,揺動操作の完全な脱技能化を図る目的から,提案した揺動パターンを再現可能な揺動機構について検討し,量産タイプのTGP-V型レールガス圧接機用のバーナー自動揺動装置を試作しました.図2に,当装置の外観および構造を示します.

 当装置は,バーナーと揺動ブロックを連結棒で接続する構造であり,揺動ブロックをボールネジ機構で往復運動させ,バーナーの揺動を達成します.また,ガス圧接工程では,圧縮変形に伴い圧接界面が移動します(圧接界面の移動距離は,圧縮フレーム移動距離の1/2)が,当揺動装置は,圧接界面の移動に追随してバーナーの揺動中心を移動させる機構も有しています.

  • 図2 バーナー自動揺動装置
    図2 バーナー自動揺動装置

4.試作したバーナー自動揺動装置の実作業への適用性評価

 試作した揺動装置の実作業への適用性を評価するため,当揺動装置を用いたレールガス圧接試験継手作製作業,および作製した継手の性能評価試験を実施しました.供試レールとして,長さ0.75mのJIS60kg普通レールを12本準備し,バーナー自動揺動装置を用いて長さ1.5mのガス圧接試験継手を6体作製しました.この際,表1に示したガス圧接条件およびバーナー揺動条件を適用し,試験継手作製作業を実施したところ,作業上の問題は生じませんでした.

 作製した6体の試験継手に対する磁粉探傷試験の結果,いずれも割れ等の欠陥は検出されませんでした.また,これらの試験継手を対象に,支点間距離1m,中央集中荷重による静的曲げ試験を実施しました.なお,破断姿勢は,頭部上向姿勢(HU),頭部下向姿勢(HD)それぞれ3本ずつとしました.試験結果を図3に示すように,全試験継手の破断荷重,たわみ量とも,JIS60kg普通レールガス圧接部の曲げ破断基準値を十分に上回っています.また,図4に試験継手における破断面の一例を示しますが,いずれも良好な破面性状を呈しています.

  • 図3 静的曲げ試験結果
    図3 静的曲げ試験結果
  • 図4 試験継手における破断面の一例
    図4 試験継手における破断面の一例

5.おわりに

 現行レールガス圧接作業において熟練技能が必要となっている加熱作業工程の脱技能化を図る目的から,バーナー揺動操作の標準化を図り,さらに,バーナー揺動操作を自動で行えるバーナー自動揺動装置を開発しました.

 また,バーナーによる加熱工程は,レールガス圧接作業に従事する作業者の育成過程においても,相当の指導時間を要しています.したがって,当揺動装置の適用を前提とした場合には,作業者育成期間の短縮も見込めます.

(記事:レール溶接研究室 山本隆一)

走行車両と地上設備の簡易な接触解析手法

1.はじめに

 2004年の新潟県中越地震において走行中の新幹線が脱線し,それ以降,各所で地震時列車走行性に関する様々な研究が進められています.このうち,脱線後の車両挙動に関しては,実験的検討が困難であることから数値解析的検討が進められ,その基本特性が明らかにされつつありますが,脱線後に車両の各部位が軌道や構造物といった地上設備に接触する影響については未解明な点が多い現状にあります.そこで本研究では,走行車両と地上設備の接触を表現可能な解析手法を構築し,本手法の実用性を検討するためにギアケース等の輪軸部材とレールの接触に関する試計算を実施しましたので紹介します.

2.走行車両と地上設備の接触解析手法

 図1に走行車両と地上設備の接触モデルの概念図を示します.本研究では走行中の車両が地震動等の外力によって脱線し,地上設備に接触するような数十秒単位の長時間の現象を実用的な計算時間で評価するために,マルチボディー車両モデル上に配置する接触検知点と,3次元FEMでモデル化した地上設備上に定義する接触面とで接触を表現する手法を構築しました.車両側の接触検知点は任意箇所に配置可能であり,例えば,脱線後にレールや下路桁等の地上設備との接触が想定されるギアケース位置や車体位置に接触検知点を配置することで様々なパターンの接触現象を表現可能となります.接触力計算にはペナルティ法を用い,その接触ばね特性は接触検知点と接触面の仮想食い込み量と接触力の関係により,マルチリニアモデルとして区分的に定義するものとしました.この接触ばね特性は要素実験または詳細なFEM解析により別途求めます.

 さらに,本提案モデルを,脱線前後の車両挙動を解析可能な,新幹線と鉄道構造物との動的相互作用解析プログラムDIASTARS III1)に組み込み,地上設備との接触を考慮した脱線後の車両挙動の解析手法を構築しました.

  • 図1 走行車両と地上設備の接触モデルの概念図
    図1 走行車両と地上設備の接触モデルの概念図

3.解析手法の実用性の検討

 上記解析手法を用いて走行車両と地上設備の接触に関する試計算を行いました.具体的にはギアケースを想定した輪軸部材と軌道部材であるレールの接触に関する試計算を実施し,走行車両と地上設備の接触現象を表現可能であるかを検討しました.

 図2にレール等の地上設備の解析モデルを示します.レールは車輪の走行ラインとしても取り扱う剛な梁要素でモデル化し,その両端に加速度入力用の巨大質点を設けました.巨大質点には正弦波上の加速度を入力しました.また,輪軸部材との接触を考慮するために,レール側面2箇所および上面1箇所の計3箇所に接触面を構成し,レール形状を簡易に表現しました.車両は1両のみとし,その諸元は近年の新幹線車両を参考に仮定しました.図3に輪軸部材の配置を示します.接触検知点はレールとの接触が想定されるギアケース下面位置に配置しました.輪軸部材とレール間の接触ばねはレールの小返りばねに相当する30kN/mmの線形モデルを仮定しました.

 図4および図5に試計算結果の例を示します.図4は図6に示すようにギアケースがレールに引っ掛かることで脱線後の車両の水平変位が抑制される場合の結果であり,図4(c)に示すように接触時には約480kNの著大な接触力が発生しているのが分かります.また,図5は脱線後に逸脱する場合の結果であり,図4に示すギアケースがレール側面に接触するような単純な場合に加え,ギアケースがレールを飛び越えていくような複雑な現象についても表現可能であることが分かります.また,上記の解析は鉄道総研のスーパーコンピュータにより10秒程度で計算可能であるため,十分実用的な計算手法であると言えます.

  • 図2 地上設備の解析モデル
    図2 地上設備の解析モデル
  • 図3 輪軸部材の配置(単位:mm)
    図3 輪軸部材の配置(単位:mm)
  • 図4 試計算結果の例1(加振振動数:0.5Hz,加振振幅:0.56m)
    図4 試計算結果の例1(加振振動数:0.5Hz,加振振幅:0.56m)
  • 図5 試計算結果の例2(加振振動数:1.0Hz,加振振幅:0.20m)
    図5 試計算結果の例2(加振振動数:1.0Hz,加振振幅:0.20m)
  • 図6 接触状況(試計算例1)
    図6 接触状況(試計算例1)

4.まとめ

 走行車両と地上設備の接触を表現可能な解析手法を構築しました.今後は,接触検知点の適切な配置方法や接触ばねの与え方を検討することで,より精緻な脱線後の車両挙動評価を行っていく予定です.

参考文献

1)後藤恵一,曽我部正道,田辺誠,浅沼潔:脱線後の車輪と軌道の接触モデルに関する研究,鉄道力学論文集,No.15,pp.132-139,2011.

(記事:構造力学研究室 後藤恵一)