エレメント推進工法における地盤変位の予測法

1.はじめに

 トンネルの施工が既設構造物に近接する場合,既設構造物への影響を把握するため,周辺地盤変位量の事前予測が必要になることがあります.そのため,これまで実績の多いシールドトンネルや山岳トンネルでは,精緻な三次元逐次掘削解析のほか,図1のような二次元有限要素解析法1)(以下,二次元応力解放法)やPeckの方法1)等に代表される理論解などの簡易な方法も提案されています.一方,近年事例が増加しているエレメント推進工法では,現場計測との比較検証結果が公開されているのは三次元逐次掘削解析2)のみであり,簡易な方法の提案が要望されていました.そこで,エレメント推進工法に適用できる二次元異方応力解放法を紹介します.

  • 図1 二次元応力解放法の概念図
    図1 二次元応力解放法の概念図

2.二次元異方応力解放法

 二次元応力解放法で周辺の地盤変位量を精度よく予測するためには,掘削相当外力を適切に設定することが重要となります.掘削相当外力は,単純に①周辺地盤からの作用と,②掘削した土塊重量の合力とすればよいのではなく,切羽後方に施工される覆工による抵抗などの三次元的な拘束効果も考慮する必要があります.そのため,一般に,上記の①と②の合力に応力解放率αを乗じた値を掘削相当外力として作用させます.この応力解放率αは掘削面に対して一律の値を設定するのが一般的で,シールド工法では洪積層で8~15%程度,沖積層で15~30%程度,山岳工法の場合は40%程度がよいとされています.

 エレメント推進工法とは,図2のように開放切羽を用いて地盤内に小断面の角型鋼管を連続して推進してトンネルを構築する工法です.そのため,掘削方法の類似性から応力解放率の値は山岳工法に近いと考えられますが,掘削断面形状が矩形であるため,掘削面に対して一律の応力解放率を設定しない方法が必要となります.そのため,本研究では,応力解放率を一律に設定する場合(通常の二次元応力解放法)と異方設定する場合(二次元異方応力解放法)を比較しました.

 二次元異方応力解放法では式(1)のように,物体力gと掘削前の応力σ0に乗じる応力解放率をそれぞれα1α2に分離し,α2については掘削面ごとに設定することとしました.


 ここに,FE:掘削相当外力,α1α2:応力解放率,N:形状関数,g:物体力,B:節点変位-ひずみマトリックス,σ0:掘削前の応力,VE:掘削領域

  • 図2 エレメント推進工法
    図2 エレメント推進工法

3.三次元逐次掘削解析との精度比較

 二次元異方応力解放法の精度を検証した一例として,従来の三次元逐次掘削解析と比較した結果を紹介します.なお,エレメント推進工法は,掘削面変形後に覆工を構築する通常の掘削工法と違い,変形した掘削面を成形した後にエレメントが推進されるため,三次元逐次掘削解析の解析手順は図3のようになります.

 解析対象は砂質一様地盤(N値5相当)を,土被り1mで1m×1mの矩形のライニングが5m推進する場合としました.また,地盤のモデル化と特性値の算出方法は,比較的実績が多いシールド工法や山岳工法の方法を準用しました.具体的には,地盤は線形弾性体とし,地盤の変形係数Eは12500kN/m2(=2500N),ポアソン比νは0.3としました.

 図4に地表面上の鉛直変位分布を比較した結果を示します.「a)二次元応力解放法」の場合,最大変位量に着目すると応力解放率α=50%程度で両解析結果が概ね一致しており,小断面でありながら山岳トンネル工法よりも大きな応力解放率を設定しなければならないという不整合が生じていることが分かります.一方,「b)二次元異方応力解放法」では,上面の応力解放率は山岳トンネル工法の応力解放率の目安と同様の40%とし,下面の応力解放率α2の値を40%,20%,0%とした場合を示しています.下面の応力解放率が小さいほど変位量は大きくなり,下面の応力解放率α2の値が20%のケースで三次元逐次掘削解析と最大変位量が一致することが分かります.

  • 図3 三次元逐次掘削解析の解析手順<sup>2)</sup>
    図3 三次元逐次掘削解析の解析手順2)
  • 図4 横断方向の鉛直変位分布(三次元逐次掘削解析と二次元応力解放法)の比較
    図4 横断方向の鉛直変位分布(三次元逐次掘削解析と二次元応力解放法)の比較

4.おわりに

 本稿では,エレメント推進工法における地盤変位の予測法として,二次元異方応力解放法を紹介しました.今後は,現場計測等との比較を行い,各掘削面の応力解放率の目安を提案する予定です.

参考文献

1)(公財)鉄道総合技術研究所:都市部鉄道構造物の近接施工対策マニュアル,2007.

2)仲山貴司,岡野法之,宇井仁将,高橋博樹,小宮一仁:エレメント推進けん引工法における下床版エレメント施工時の上床版変位の計測と解析,土木学会第65回年次学術講演会,2010.

(記事:基礎・土構造研究室 西山和宜)

突風の規模とその決め方

1.はじめに

 突風の規模を表す指標として日本国内ではこれまで「藤田スケール(以降,Fスケール)」が使用されてきました.Fスケールとは突風による被害を階級別に区分する指標です.しかしながら,このFスケールは,評定するときに必要となる被害を受けた対象が住家,非住家,ビニールハウス,列車,樹木など限られた9種類のみとなっているため,多様な被害に対応した評定が難しいことが指摘されていました1).さらに,Fスケールは日本の建築物等とは大きく異なる米国の建築物等の被害を対象として作成されているため,国内においてFスケールを用いて評価した場合に得られる風速の誤差が大きくなる可能性があることも課題として挙げられます1).そこで,突風の規模を評価する際に日本の被害に対応するようにFスケールが改良され,2016年4月1日に新たな「日本版改良藤田スケール(以降,JEFスケール)」が使用され始めました2).本稿では公開されている情報をもとに,今回新しく使用されることとなった,JEFスケールの決め方について例を取り上げながらご紹介します.

2.FスケールとJEFスケール

 Fスケールの各階級はF0,F1のように表され,数値が大きくなるほど突風の規模が大きいことを示します(表1).Fスケールの各階級に風速が対応づけられており,階級ごとに風速の平均化時間が異なります.JEFスケールもFスケールと同様に,JEF0,JEF1のように表され,数値が大きくなるほど突風の規模が大きいことを示しています(表2).FスケールとJEFスケールは継続性を持たせるため,FスケールでF1と評定された現象はJEFスケールでも基本的にはJEF1とするなど,突風の規模の評定結果が両方のスケールでできる限り同じ階級となるように定められています.

  • 表1 Fスケールの階級と風速(文献1)より抜粋)
    表1 Fスケールの階級と風速(文献<sup>1)</sup>より抜粋)
  • 表2 JEFスケールの階級と風速(文献1)より抜粋)
    表2 JEFスケールの階級と風速(文献<sup>1)</sup>より抜粋)

3.JEFスケールの決め方

 規模の小さい突風では小枝の折損や住宅の屋根瓦の飛散といった被害がみられます.また,規模が大きい突風では住家や自動車などに甚大な被害が出ることもあります.こうした突風が発生した際には,気象庁が被害調査を行って,JEFスケールを決めます.JEFスケールは,調査された詳細な被害を,被害を受けた対象(被害指標DI)とどのような被害を受けたか(被害度DOD)に当てはめます.DIは日本国内で広く見られる,木造の住宅又は店舗,自動販売機,普通自動車,広葉樹,針葉樹など30種類が選定されており,その中には鉄道車両も含まれています.DIが鉄道車両の場合,DODは通常走行時か運転規制時(走行速度が25km/h以下)かで分けられています.表3に例示する通り,DIおよびDODに対応する風速として代表値,下限値,上限値があり,そのいずれかを利用します.複数の被害が確認された場合はそれぞれの被害に対応する風速の最大値を評定風速とします.求められた評定風速を表2に当てはめて,JEFスケールを決めます.なおDIとDODの詳細は文献1)に記載されています.

  • 表3 DIとDODに対応する風速の例(文献1)より一部を抜粋)
    表3 DIとDODに対応する風速の例(文献<sup>1)</sup>より一部を抜粋)

4.JEFスケールの決め方の具体例

 突風が発生し,図1に示す通り住家の屋根の飛散と広葉樹の幹折れの2つの被害が出たと想定して,文献1)に基づいてJEFスケールを求めた例を示します.木造2階建ての住宅のDIは1となり,被害の程度から屋根の被害が比較的狭い範囲で発生し,屋根ふき材がはく離しているため,DODは2となります.これらに加えて屋根ふき材が金属板ぶきで,被害箇所の接合方法が標準的であるため,この被害に対する風速は代表値の場合の40m/sとなります.一方の広葉樹の幹折れに対しては,根に腐朽がない広葉樹のDIは25となり,被害が幹折れであることからDODは3となります.ここで被害木の形状比(樹高と1.3m高の直径の比)が得られなかったことから,風速は代表値の60m/sとなります.この例では被害が複数あるため,被害に対応する風速の最大値である60m/sが評定風速となります.表2で評定風速が60m/sとなるのはJEFスケールでは「2」となることから,ここで示した例はJEF2となります.

  • 図1 JEFスケールの決め方の例(文献<sup>1)</sup>をもとに作成)
    図1 JEFスケールの決め方の例(文献1)をもとに作成)

5.おわりに

 気象庁のホームページ2)の「竜巻等の突風データベース」には過去の突風被害事例の発生日時,発生場所,JEFスケール,原因となった現象区別,被害の状況,範囲などの情報が掲載されています.鉄道での突風被害事例は多くないため,鉄道における突風対策を講じるうえでは鉄道以外で発生したこれらの被害事例が参考になるので,本稿でご紹介したJEFスケールの決め方もご参照ください.


1)気象庁:日本版改良藤田スケールに関するガイドライン,2015

2)気象庁:気象庁ホームページ,2017/03/07閲覧

(記事:気象防災研究室 谷本早紀)

道床バラスト石質試験

1.はじめに

 道床バラストは列車の走行を支えるための重要な材料です.しかし地質の変化に富む日本において,常に良好な砕石を得ることは大変難しいと言えます.このような観点と,軌道の主要な部材であるという重要性から,JR各社では3年に1度の石質試験が砕石生産者(原石山ごと)に義務付けられています.地質研究室では,砕石生産者各社からの委託を受け,道床バラストの石質試験を行っています.

2.試験の種類と方法

 道床バラスト石質試験は,国鉄時代に定められた試験項目と基準値を概ね踏襲しています.道床バラストの品質を確保するためには,良質な原石を使用することが重要です.このため本試験では,砕石に関する試験のほかに,原石(岩塊)に関する試験も実施しています(表1,図1).

  • 表1 道床バラスト石質試験の基準値
    表1 道床バラスト石質試験の基準値
  • 図1 試験のフロー
    図1 試験のフロー

2.1 砕石に関する試験

(1)単位容積質量

 自然乾燥状態の砕石を四分法で分割し,試験容器に入れて締め固め,重量を測定します.所定の粒度配合で砕石が十分な質量を有しているかを評価します.

(2)粒度

 単位容積質量を測定した試料を表1に示すフルイでフルイ分けします.それぞれのフルイに残存した砕石の質量を測定し,砕石が規定の粒度分布の範囲内にあるかを確認します.

(3)形状

 偏平や細長の砕石が多い場合には道床沈下等の原因となる可能性があるため,このような砕石が多量に混入しないよう,砕石の形状を評価します.粒度試験でフルイ分けした試料を用い,53.0,37.5,31.5,19.0mmの各フルイに残留した砕石について,専用のゲージを用いて形状を測定します.

(4)圧縮粉砕率

 砕石同士,または砕石とまくらぎ等との押し合いに対する強さを評価します.規定量の試料を作製して四分法により分割し,容器に締め固めながら詰め,載荷試験機で載荷します(図2).載荷後の試料をフルイ分けし,試験前の粒度と比較します.

(5)摩損率

 砕石同士,または砕石とまくらぎのたたき合いに対する強さを評価します.乾燥させた砕石を規定量で混合し,ロサンゼルス式摩損試験機で鋼球とともに回転させ(図2),細片化した岩片を除いた質量を測定します.

2.2 岩塊に関する試験

 岩塊に関する試験では,人頭大の岩石試料をボーリングして作製する,直径約25mm,長さが50mmないしは60mmの供試体を用います.

(1)硬度

 砕石同士のこすりあいに対する強さを評価します.回転する円盤(ドリーの硬度試験機)の上に供試体を設置して珪砂を散布し,供試体が珪砂との摩擦でどの程度磨耗するかを測定します(図2).

(2)吸水耐圧強度

 吸水状態の岩石の強度を評価します.吸水した岩石は乾燥した岩石よりも低い強度を示すことが多く,道床で吸水状態となりやすい砕石の環境を考慮したものです.96時間水浸させた供試体の吸水率を測定(吸水率試験)後,一軸圧縮試験を行います(図2).

  • 図2 近年の試験結果
    図2 近年の試験結果

3.近年の試験結果

 近年の試験結果を図2に示します.ほとんどのケースで基準値を満たしていますが,摩損率で2.6%,圧縮粉砕率で4.9%,吸水耐圧強度で3.5%,硬度で1%が不合格と判定されています.原石を採取する山は必ずしも良好な岩盤のみで構成されているわけではなく,割れ目が多い部分や相対的に軟質な岩盤も含まれます.試験用の試料にこのような部分が多く含まれると,いずれかの試験で基準値を満たすことができない傾向があります.

4.おわりに

 地質研究室では,年間30~40件の石質試験を受託しています.また,道床バラストの品質等に関する各種ご相談もお受けしておりますので,何かお困りのことがございましたらお気軽にご連絡ください.

(記事:地質研究室 長谷川淳)

鉄道構造物等の3次元耐震性能照査プログラムDARSの複合標準への対応のお知らせ

1.はじめに

 現在,鉄道総研では,(株)構造計画研究所と共同開発した,3次元耐震性能照査プログラム「DARS」を販売しています.DARSは鉄道RCラーメン高架橋等を3次元の骨組にモデル化し,動的または静的解析法による構造物の地震時の応答値を算定するとともに,構造物の線路方向,線路直角方向の耐震性能の照査を行うことができるプログラムであり,不整形な形状等に対応することも可能です(図1).

 今回,平成28年1月に発刊された「鉄道構造物等設計標準・同解説 鋼とコンクリートの複合構造物1)」(以下,複合標準)へ対応する等のバージョンアップをしましたのでお知らせします.

  • 図1 DARSの概要
    図1 DARSの概要

2.複合標準への主な対応

 DARSに複合構造物の性能照査プログラムの変形性能算定モジュールを組み込むことで,複合標準に準拠した鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)部材の矩形柱断面,矩形梁断面,T形梁断面,および,コンクリート充填鋼管(CFT)部材の円形柱断面を有する構造物の性能照査が可能となりました(図2).なお,複合標準の改訂では,部材の非線形モデルの適用範囲の拡大が図られましたがこれにも対応しました(表1).

  • 図2 複合標準への対応
    図2 複合標準への対応
  • 表1 非線形モデルの適用範囲拡大の例(CFT)
    表1 非線形モデルの適用範囲拡大の例(CFT)

3.おわりに

 バージョンアップ版は5月末にリリース予定です.本プログラムの鉄道構造物の設計業務のお役に立てれば幸いです.

参考文献

1)鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼とコンクリートの複合構造物),丸善,2016

(記事:鋼・複合構造研究室 秋山慎一郎)