レールメンテナンス研究室が発足しました

1.はじめに

 鉄道総研では、レールのメンテナンスに関する研究開発をより強力に推進するとともに新たな課題に取り組み、鉄道事業者のニーズに迅速に応えるとともに新たな技術を提案するため、軌道技術研究部に「レールメンテナンス研究室」を設置しました。

2.研究室設置の背景

 列車の車輪と直接接触するレールは、軌道を構成する部材の中でも特に重要な構成要素ですが、今後の熟練技術者の減少に備えて、レールの検査や交換・補修といったレールのメンテナンスに関する省力化や脱技能化といった研究開発や技術支援に対する鉄道事業者のニーズがさらに高まることが予想されます。

 そこで、鉄道総研の軌道技術研究部が主体となってこれまで取り組んできた、レールの探傷技術、損傷レールの補修技術、レールの腐食対策技術、ロングレールに不可欠なレール溶接技術等を担当する研究者を集結して、レールのメンテナンス技術を一元的に取り扱う「レールメンテナンス研究室」を設置することといたしました。

3.レールメンテナンス研究室が取り組む分野

 レールメンテナンス研究室では、「レールの探傷技術」、「レールの補修技術」、「レール溶接技術」の3つを主要な研究開発の柱として取り組んでまいります(図1)。これまで取り組んできた「レール溶接の品質向上と脱技能化」や「低コストなレール補修技術」については引き続き深度化を進めて参りますが、さらに、新たな検査手法やICT 等を活用して「レール検査の省力化・自動化に向けた技術開発」を重点課題として実施します。具体的には、高速非接触探傷技術や軌道回路によらないレール折損検知技術等の新たな研究開発にチャレンジします。

 図2に軌道技術研究部の構成の変更を示しますが、「レール溶接研究室」で行っていたレール溶接の技量検定試験や技術支援等の業務は「レールメンテナンス研究室」が担当し、これまで通り実施します。

 レールのメンテナンスやレール溶接に関する問題等があれば、当研究室にお気軽にご相談下さい。

(メンバー:山本隆一 [研究室長]、寺下善弘、伊藤太初、細田充、林亮輔、水谷淳、井筒宏樹)

  • 図1 レールメンテナンス研究室が取り組む技術開発の概要
    図1 レールメンテナンス研究室が取り組む技術開発の概要
  • 図2 軌道技術研究部の構成の変更
    図2 軌道技術研究部の構成の変更
  • 図3 レールメンテナンス研究室発足式 (10月2日)
    図3 レールメンテナンス研究室発足式 (10月2日)

(記事:軌道技術研究部 村本勝己)

推定脱線係数比を容易に算出するソフトウェア(QPEアプリ)の開発と活用

1.はじめに

 推定脱線係数比1)は、2000年3月に営団(当時)日比谷線中目黒駅構内で発生した乗り上がり脱線事故と同種事故の再発防止策の検討がなされた結果、主に旅客車の急曲線低速走行時の乗り上がり脱線に対する安全性を評価する指標として導入されました。今回、LABOCSに実装されている様々な演算機能を用いて、分析対象区間における推定脱線係数比を簡単に求めるためにアプリケーションソフトウェア(以下、「QPEアプリ」という。)を開発しましたので紹介します。

2.開発したソフトウェアの概要

 QPEアプリにおける推定脱線係数比の計算フローを図1に示します。本アプリでは、設計上の線形諸元に対する推定脱線係数比を求めることも可能ですが、線形諸元の代わりに、対象線区の軌道検測データを用いて、その線区・条件における実データに基づいた推定脱線係数比を算出することができます。具体的には、算定式中のカントの代わりに水準変位を、曲線半径の代わりに通り変位を、スラックの代わりに軌間変位(スラックを含む)を入力することで、実軌道における推定脱線係数比を算出します。

 また、LABOCSのチャート表示機能を用いて、軌道変位や曲線線形、勾配、構造物などの軌道環境データと並列に推定脱線係数比を表示することができ、推定脱線係数比が小さい箇所のキロ程や線路諸元、介在構造物等を容易に把握することができます。なお本アプリは、旅客車を対象とした低速走行時の検討に限り用いることができます。図2に、開発したソフトウェアのメイン画面を示します。本画面は、①軌道変位設定部、②車両諸元等設定部、③データ処理・表示内容設定部で構成されており、それぞれの概要は以下のとおりです。

  • 図1 推定脱線係数比算出フロー
    図1 推定脱線係数比算出フロー
  • 図2 メイン画面および機能説明
    図2 メイン画面および機能説明

① 軌道変位設定部

 推定脱線係数比の算出に必要な水準、通り(左右)、軌間の軌道検測データまたは設計上の線形諸元を設定します。

② 車両諸元等設定部

 推定脱線係数比の算出に必要な車両パラメータ等をそれぞれ入力または選択します。ここでは外軌側フランジ部摩擦係数や走行速度などのパラメータを設定でき、塗油の有無や走行速度等を考慮した検討が容易に出来ます。

③ データ処理・表示内容設定部

 ここでは、チャートを表示するにあたって、指定した軌道環境データのうち必要な項目の選択と、表示・出力範囲のキロ程を指定します。軌道および車両諸元等を入力し、計算処理した後に表示されるチャート例を図3に示します。また、「超過箇所」ボタンを用いることで、脱線係数と推定脱線係数比の閾値を設定し、この閾値を超過または下回った箇所を一覧で出力できます。

  • 図3 QPE アプリ出力チャート例
    図3 QPE アプリ出力チャート例

3.ソフトウェア活用例

(1)脱線事故調査、入線検討

 実データに基づいた推定脱線係数比を算出した場合、図3に示す推定脱線係数比のチャートにおいては、矢印で示しているような箇所が「推定脱線係数比1.0以下」の箇所であり、乗り上がり脱線に対する余裕が小さい箇所です。また、車両諸元等を任意に変更した場合は、変更前後の推定脱線係数比を容易に比較することが可能です。図4は、内軌側横圧輪重比を変更した場合の比較例を示しており、パラメータ変更前後で推定脱線係数比の値が異なる様子を把握できます。

 以上のように、本アプリの活用により、脱線に対する余裕の小さな箇所を把握し、保守優先度を検討できる他、車種間での差異の把握や詳細な入線検討が可能となります。

  • 図4 パラメータ変更時の推定脱線係数比
    図4 パラメータ変更時の推定脱線係数比

(2)脱線防止ガードの設置箇所検討

 本アプリにおいても、設計上の線形諸元等を入力し、走行速度を10km/h、内軌側車輪の横圧輪重比を0.55に設定することで、従来の推定脱線係数比の活用法である線形改良時の安全性評価や脱線防止ガードの敷設対象箇所を検討できます。この際、LABOCSチャート上で軌道変位や介在構造物を並列に表示して確認することが可能です。

4.まとめ

 QPEアプリにより、脱線係数と推定脱線係数比の算出やチャート表示、および設定した閾値に対してその値を超過または下回る箇所一覧の出力等が容易になりました。また、線形改良時の安全性評価や脱線防止ガードの設置判定にも活用でき、LABOCSのデータ処理技能を有さない一般ユーザーでも、軌道状態の診断、安全性向上の検討が簡単にできるようになりました。現在システムの精度検証等を行っておりますので、興味をお持ちの方はご相談ください。

参考文献

1)国土交通省鉄道局監修:解説 鉄道に関する技術基準(土木編) 、日本鉄道施設協会、2002.3

(記事:軌道技術研究部 軌道管理研究室 松本麻美)

不整形地盤が鉄道振動に与える影響の検討

1.はじめに

 列車走行にともなって沿線に生じる振動(以下、鉄道振動と呼びます)は、新線の建設や既設線の大規模改良、新車両の導入の際などに変化することがあり、場合により環境問題となることがあります。

 そのため、鉄道沿線の環境への影響を評価する目的で事前予測が行われています。鉄道振動の予測手法にはいくつかの手法があります1)。それらの手法の中で数値シミュレーションを用いて予測を行う場合には、計算の簡略化のために、水平成層地盤(地層が水平に堆積している地盤)を仮定することが多くあります。しかし、実際の地盤では必ずしも水平成層となっているわけではなく、地層が一定の傾きで堆積している場合や、層境界に凹凸がある場合などがあります。そこで、水平成層地盤と水平成層でない地盤(以下、不整形地盤と呼びます)で鉄道振動の伝播特性の違いを比較するため、2次元FEM 解析を用いてそれぞれの地盤モデルを作成し、振動解析を行いました。ここでは、その解析結果の一例を紹介します。

2.不整形地盤の影響の検討

(1)解析モデル

 解析には、2次元FEM解析プログラムMFLUSH(基礎地盤コンサルタンツ(株))を用いました。解析モデルは、深さ方向60m、水平方向60mの領域で、その中を4層構造とし、S波速度が深さ方向に対して段階的に速くなるように設定しました。減衰定数は層によらず5%にしました。境界条件は左右面と底面に粘性境界を設定しました。作成した地盤モデルの物性値を表1に示します。

 解析モデルは4種類作成しました(図1)。Model-1とModel-2が水平成層地盤のモデルであり、Model-3とModel-4が不整形地盤のモデルです。それぞれのモデルの差は、第1層(表層)と第2層の境界の深さや形状です。Model-1は第1層と第2層の境界の深さを1mで、Model-2は3mに設定したモデルです。Model-3は、第1層と第2層の境界の深さがモデルの左側と右側で異なるモデルです。加振点付近から12mまでの範囲ではその深さが1mですが、加振点から14m以遠では3mとしています。Model-4は第1層と第2層の境界が一定の傾きを持っているモデルで、第1層と第2層の境界は観測範囲がある方向に加振点から離れるに従って深くなります。加振は、いずれのモデルでも、左端から20m地点の地表面を鉛直方向に点加振で行いました。

  • 表1 地盤モデルの物性値
    表1 地盤モデルの物性値
  • 図1 作成した解析モデル
    図1 作成した解析モデル

(2)解析結果

 図2に相対振動加速度レベルと振源距離の関係を示します。ここでの相対振動加速度レベルは振源距離が1mの地点を基準(0dB)とした相対値で、図2には1mから30m地点までの結果を示しています。

 図2をみると、振源距離に対する相対振動加速度レベルは、ボールが弾むような軌跡を示しており、値が両側の測定点と比べて小さくなる位置(以下、極小位置と呼びます)があります。水平成層地盤のModel-1とModel-2を比較すると、極小位置以外では、Model-1の相対振動加速度レベルがModel-2のそれより大きい値となっています。

 次に、水平成層地盤の結果と不整形地盤のModel-3、Model-4の結果を比較します。Model-3の結果では、いずれの周波数でも振源距離が12m未満でModel-1の結果に近い値を示しています。これは、Model-3の12m地点までの地下構造がModel-1と同一であるためです。一方、12m以遠では、Model-1とModel-2の結果とは異なる傾向を示しているように見えます。例えば、Model-2、Model-3の加振点から20mの地点でボーリング調査を行った場合、これらの地盤で得られる結果は同一のものになります。

 しかし、図2の結果より、加振点から20mの地点で測定される地盤振動は、例えば10Hz帯域では4dBの差があるなど、地盤により違いが生じています。

 以上より、個別の場所での詳細な鉄道振動の評価を行う場合には、測定点直下の地下構造情報だけでなく、加振点から測定点までの2次元または3次元的な地下構造情報が必要になると考えられます。

  • 図2 相対振動加速度レベルと振源距離の関係
    図2 相対振動加速度レベルと振源距離の関係

3.まとめ

 今回は、不整形地盤が鉄道振動に与える影響の一例を紹介しました。一概に不整形地盤と言っても、形や大きさなどにより様々な構造が考えられます。また、不整形地盤が鉄道振動に与える影響は、表層の厚さの影響が大きいなど定性的な傾向はありますが、個々の地盤でのばらつきが大きく距離減衰式等を作成することは困難です。したがって、従来の水平成層モデルによる評価よりも詳細なものとして、不整形地盤が鉄道振動に与える影響を考慮した評価を行いたい場合には、加振点から測定点までの2次元または3次元的な地下構造情報に基づく解析が必要になると言えます。

参考文献

1)野寄真徳、横山秀史:列車走行にもとなって沿線に生じる振動を予測する、RRR,Vol.74、No.10、pp24-27、2017.

(記事:防災技術研究部 地質研究室 野寄真徳)

歩行速度とパーソナルスペースの計測手法の開発

1.はじめに

 駅構内などの不特定多数の人が移動する空間においては,群集流動が滞らないように適なスペースを提供する必要があります。動線が複雑な駅などでは、必要なスペースを把握するために数値シミュレーションを用いて検討する場合がありますが、シミュレーション内で移動する旅客の行動モデルが正確でないと、計算結果の誤差が大きなものとなってしまいます。そこで、シミュレーション内の旅客の行動モデルの一つとして重要となる、歩行速度を計測する手法を提案しました。

 歩行速度については、設計のためのデータ収集として1970年代頃まで調査研究(図1)がなされていましたが、その後、定量的にまとめられているものがない現状があります。そのひとつの要因として、計測手法が確立されていないことが挙げられます。

 従来、歩行速度や周辺人物との距離を表すパーソナルスペースを計測する場合は、ビデオカメラ等で撮影された俯瞰映像を解析する手法(図2)が一般的でしたが、対象となる群集流動の計測範囲の設定(何m2で計測すればよいか)や、カメラの画角などの計測方法にルールがありませんでした。また、不特定多数の人が混在するような流動では、斜めから撮影された映像の場合、対象となる人の身長が未知であるため、正確な人の座標位置が算出できないといった課題がありました。

 本稿ではこれらの課題を解決するために開発した、歩行速度とパーソナルスペースの計測手法の概要について報告します。

  • 図1 歩行速度と密度の関係<sup>1)2)3)</sup>
    図1 歩行速度と密度の関係1)2)3)
  • 図2 俯瞰画像による流動解析の例
    図2 俯瞰画像による流動解析の例

2.計測手法の概要

2.1 計測装置

 本計測手法は、従来のような俯瞰映像の解析ではなく、センサーを装着した計測者が、群集の代表者として群集内から歩行速度等を計測するものです。

 計測に使用するセンサーは、計測者の腰の位置でベルトによって固定され、歩行速度を解析するための足元撮影用のカメラと、周囲180°の物体までの距離をレーザーで計測するLIDAR(Light Detection and Ranging)で構成されています(図3)。

  • 図3 本計測手法概要
    図3 本計測手法概要

2.2 歩行速度の計測

 人の歩行動作の特徴として、必ずどちらかの足が地面と接していることが知られています。足元撮影用のカメラで撮影された画像内で、地面と接している側の足の位置は、動画の中の不動点として扱うことができます。この性質を利用して、地面と接している側の足(不動点)を連続的にトレースし歩行軌跡を作成するプログラムを作成しました(図4)。歩行軌跡を作成する際に使用した画像の枚数が移動時間を、軌跡の長さが移動距離を表すことから、歩行速度を算出することができます。本計測手法では、計測者の靴に感圧センサーを取り付けることで地面と接している側の足を判定しています。

 実距離と歩行軌跡の解析結果の比較より、水平路の場合で歩行速度の誤差が最大で約5%(速度では約0.04m/s)と良好な結果が得られました。

  • 図4 歩行速度の計測
    図4 歩行速度の計測

2.3 パーソナルスペースの計測

 パーソナルスペースとは、他人が近接した際に不快に感じる距離などとして知られていますが、本稿では、LIDARによって得られる周辺人物までの距離から算出される占有面積をパーソナルスペースとしています(図5)。

 実距離と周辺人物までの距離を計測した検証実験では、計測者の歩行時の体の揺れ等の影響から水平路歩行時で最大約8%程度距離が長く計測されることがわかりました。そのため、既往研究のような群集密度(パーソナルスペースの逆数)に変換する場合には、実際の密度が1人/m2の場合に-0.13人/m2、3人/m2の場合に-0.50人/m2程度の誤差が発生することを把握しました。

 一方、物体同士の相互作用によって挙動するソーシャルフォースモデルなどのシミュレーションの場合、密度に変換せず、歩行速度に与える影響が大きい方向の人物までの距離と、歩行速度の関係性を直接用いることができるため、より高精度に旅客流動の解析を行うことが可能となります。

  • 図5 計測に用いたLIDARと計測状況の例
    図5 計測に用いたLIDARと計測状況の例

3.おわりに

 本稿では、歩行速度とパーソナルスペースの新しい計測手法について概要を紹介しました。本手法は、従来のようなビデオカメラ設置の制約がなく、計測者が歩行できる場所であればどこでも計測が可能であることら、今後は駅構内におけるさまざまな場所の歩行速度とパーソナルスペース(周辺人物までの距離)を計測し、旅客流動シミュレーションの精度向上に必要となる行動モデルを作成していきます。

参考文献

1)J.J.フルーイン:歩行者の空間、鹿島出版会、1974

2)戸川喜久二:群集流の観測に基く避難施設の研究、建築研究報告、No14、1955

3)打田富雄:電車駅の乗降場及び階段幅員、鉄道技術研究所中間報告、1957

(記事:構造物技術研究部 建築研究室 石突光隆)