施設研究ニュース

2018年3月号

車両着雪に影響する雪の舞い上がり

1.はじめに

 積雪した線路上を鉄道車両が走行すると、線路上の雪が舞い上げられて床下機器や台車部分へ付着し、着雪が成長します。そして、これが走行時に落下すると地上設備を破損したり、分岐器に挟まることで不転換事象を引き起こしたりすることがあります。このような被害を軽減するために、駅や車両基地で人手による雪落とし作業が実施されています。
 車両台車部等への着雪現象の発生過程として、①線路上への降雪→②積雪がある線路上の列車走行→③列車走行に伴う雪の舞い上がり→④台車部等への着雪、が考えられます(図1)。ここで、着雪量は、雪の舞い上がり量が多い区間を長時間走るほど多くなることが考えられます。本報告では、着雪量の多寡に影響する雪の舞い上がり量を決める因子について紹介します。

図1 着雪現象の発生過程

2.雪の舞い上がり量に影響する因子

 列車走行によって引き起こされる舞い上がりのメカニズムとしては、Ⅰ.列車走行によって生じる風のせん断力が雪面上の雪粒子を動かして発生する現象 1)、Ⅱ.列車通過時の気圧の急速降下に伴って雪面と積雪内部に発生した圧力差によって積雪内部に空気の移動が生じ、その結果雪粒子が飛散する現象、が考えられています 2)。ここで、車両形式が同じであれば、メカニズムⅠは走行速度に依存します。またⅠとⅡのいずれのメカニズムでも、降雪直後の新雪のような雪粒子間の結合力が弱い場合の舞い上がり量は多く、降雪後、時間が経過して、焼結 3)や融雪等によって積雪表層の雪密度が増加すると雪粒子間の結合力が増加して舞い上がり量は少なくなると考えられます。そこで、雪の舞い上がり量は走行速度と積雪表層の雪密度に影響されると考え、これらの影響を調べるための試験を実施しました。

3.雪の舞い上がり試験

 雪の舞い上がり試験には、鉄道総研 塩沢雪害防止実験所(新潟県南魚沼市)構内に設置されている排雪力測定試験装置を用いました。この装置は、全長60mのトラスビーム式ガイドレール上をワイヤロープで牽引される台車が走行することで、最高速度40m/sまでの直線運動が可能です。試験では、車両の床下機器箱を模擬した直方体の箱(長さ200mm、幅400mm、高さ400mm)を走行台車へ取り付け、様々な密度の雪試料上を通過させることで走行風を発生させて雪の舞い上がり現象を再現し、飛雪流量計SPCを用いて、雪の舞い上がり量(飛雪フラックス)を測定しました(図2)。
 図3に飛雪フラックスと積雪表層雪密度との関係を示します。雪密度が大きくなると、飛雪フラックスは減少することがわかります。また、同じ雪密度でも走行速度が大きな方が、飛雪フラックスは多いことがわかります。つまり、雪密度が小さく、走行速度が大きな列車(例えば新幹線)の方が、雪の舞い上がり量は多く、着雪が大きく成長する可能性があります。

図2 雪の舞い上がり試験状況

図3 飛雪フラックスと雪密度との関係

4. 雪密度に影響する気象条件

 積雪表層の雪密度は、降雪後に日射や気温によって積雪表面で融雪が起こり、層厚が縮むことで密度が増加します。そこで、日射量や気温から熱収支により融雪量を求めて密度の増加を計算するモデルを作成することで、積雪表層の雪密度を推定することができます(図4)。気温がマイナスであっても晴天時のように日射量が大きな時は表面融雪が発生し、特に50kg/m3程度の低密度の新雪では、密度が大きく増加すると考えられます。

図4 降雪後の経過時間と(a)気温と全天日射量、(b)雪密度の変化

5.おわりに

 飛雪フラックスと雪密度の関係を定式化し、気象条件(気温と日射)から雪密度を推定することで、雪の舞い上がり量(飛雪フラックス)の多寡を推定することができます。雪の舞い上がり量が多い時は着雪量も多いと考えられるので、雪の舞い上がり量が多くなる気象条件と着雪量が多くなる気象条件は共通すると考えられます。今回、報告した結果から、着雪量が多くなる条件としては、①氷点下での降雪により低密度の積雪があること、②走行速度が高い路線であること、③上記①と②の条件に当てはまる地域の走行時間が長いことが考えられます。ただし、気温上昇や晴れ(日射の増加)が続くと、雪密度が増加するため着雪量は減少すると推定されます。このように気象条件から着雪量を推定するためには、走行ルート沿線の雪の舞い上がり量を見積もることが重要となります。

【参考文献】

1) 荘田幹夫:飛雪防止の基礎的研究,雪氷,Vol.33,No.3,79-88,1971.
2) 河島克久,遠藤徹,藤井俊茂:新幹線の雪の舞い上がり防止に関する基礎的研究,鉄道総研報告,Vol.8,No.7,7-12,1994.
3) 日本雪氷学会編:雪氷辞典,古今書院,1991.
(記事:防災技術研究部 気象防災研究室  鎌田 慈)

掘削残土からなる盛土からの浸出水の水質予測手法

1.はじめに

 岩盤を対象としたトンネル建設などに伴って発生する岩石(以下,掘削残土と呼びます)を,盛土材として利活用する場合があります.この際,岩盤中に含まれている自然由来の物質に起因して,掘削残土からなる盛土から出てくる水(以下,浸出水と呼びます)が酸性水となることや,浸出水中に重金属等が含まれることがあります(図1).そのため、浸出水の水質が周辺環境に影響を及ぼすおそれがある場合には適切な対応が求められています 1)。たとえば東北新幹線・八甲田トンネルの建設においては、事前の検討により一部の掘削残土から酸性水が発生する可能性が確認されました。そのような掘削残土は、掘削時に都度判定され、遮水シート等により降雨や地下水などと遮断する対応がなされました 2)
 掘削残土からの浸出水への対応方法を検討するためには、計画時に掘削残土からなる盛土からの浸出水の水質を予測することが求められます。水質は、水に含まれている成分とそれらの濃度で定まります。そのため、岩石からの水への化学成分の溶出を考慮した数値解析により水質を予測することができます。数値解析を行う上では、実際の盛土がおかれる環境を考慮する必要があります。特に降雨は、盛土内の水分状態や水の流れに影響を与えるため、重要な要素です。そこで、本稿では、降雨の条件を考慮した溶出実験と、この結果に基づいた数値予測手法を紹介します。

図1 掘削残土からなる盛土からの浸出水の水質

2.掘削残土が受ける降雨の条件を考慮した溶出実験

 降雨の有無によって、自然環境におかれた盛土中の水分状態や水の流れは強く影響を受けますが、盛土からの浸出水の濃度はどのように変化するのでしょうか。このことを検討するために、降雨のある時(降雨)と降雨のない時(無降雨)の繰り返しを再現した室内実験を行いました(図2)。掘削残土からなる盛土を模擬するために岩石試料を詰めた円筒形の実験装置(以下、試験カラムと呼びます)を作成し、その上端から、①降雨を模擬した注水を行いました。その後、②無降雨の状態を模擬するために試験カラムを数日間保持しました。さらに①、②を複数回繰り返しました。この実験中に試験カラム下端から得られた浸出水を採水し、その水質を分析しました。
 実験の結果(図2)、注水直後に採水された浸出水は高濃度で、その後に採水された浸出水は低濃度でした。さらに、注水の繰り返しに対応して、浸出水の濃度変化が繰り返し認められました。このように、浸出水の水質変化が、降雨パターンに依存することが分かりました。また、このような水質変化が発生するメカニズムを図3のように推定しました。無降雨の状態の間、試験カラム内(実現象では盛土内)には水が残存しています。この水と岩石が反応し、化学成分が溶出して高濃度となります。その後、次の注水時に化学成分を含む水が試験カラム外(実現象では盛土外)に流出します。

図2 室内実験の概要と実験結果の例

図3 溶出メカニズムと数値解析手法

3.降雨条件を考慮した浸出水の水質予測解析

 実験で得られた結果を再現するための数値解析モデルを図3に示します。盛土内の水を、無降雨時に盛土内に残存している「動かない水」と、降雨時に浸透する「動く水」とに分けてモデル化しました。これらのうち「動かない水」については、化学反応解析により、岩石からの化学成分の溶出を解析します。また「動く水」については、浸透流解析により、水の流れを解析します。さらに「動かない水」と「動く水」との間の化学成分の交換を解析します。解析にあたっては、降雨パターンと、岩石中の鉱物の種類や量、化学反応の速さ、盛土の透水係数などのパラメータを入力します。
 図2の実験を対象とした解析結果の例を図4に示します。濃度の解析結果から、解析値が実験値の変化の傾向をよく再現していることが分かります。また、化学成分の流出量の解析結果から、この例では、外部に化学成分が流出するピークは、注水直後であることが分かります。

図4 解析結果の例

4.おわりに

 掘削残土からなる盛土からの浸出水の水質予測手法を紹介しました。解析で得られる化学成分の濃度や盛土外への化学成分の流出量は、掘削残土を盛土として利活用する際に、浸出水の水質の観点から対応すべき課題の把握に活用できます。また高濃度な化学成分を含む浸出水の発生が予測された場合には、本数値解析手法に遮水などの対応方法を組み込んで解析することで、対応方法の検討に活用できます。

【参考文献】

1)環境省 水・大気環境局 土壌環境課:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第2版)平成24年8月,Appendix-18,2012.
2)太田岳洋・木谷日出夫・服部修一:掘削残土からの酸性水溶出に関する岩石特性評価,鉄道総研報告,Vol.18,No.9,2004.
(記事:防災技術研究部 地質研究室  浦越 拓野)

S型弾性まくらぎ直結軌道の施工方法

1.はじめに

 弾性まくらぎ直結軌道(以下、弾直軌道)は、まくらぎを弾性材を介してコンクリート道床で支持する直結系軌道です。1998年に鉄道総研で開発され、すでに広く使われているD型弾直軌道は、コンクリート道床が鉄筋コンクリート製であったため(図1)、施工時の配筋・型枠作業に手間がかかり、施工コストも比較的高い状況にありました。
 そこで、鉄道総研では、弾直軌道の施工性の改善と低コスト化を目指し、まくらぎ側面のせん断キー耐荷機構の適用と道床への短繊維補強コンクリートの適用によって、コンクリート道床をスリム化・無筋化したS型弾直軌道を開発しました1)(図2)。本稿では、S型弾直軌道の具体的な施工方法や材料数量について紹介します。

図1 従来のD型弾直軌道の構造

図2 S型弾直軌道の構造

2.施工手順①軌きょう構築

 はじめに、S型弾直用まくらぎを配列し、レールに締結して軌きょうを構築します。その後、軌きょう支承装置で仕上がり位置に保持します。S型弾直専用に試作した軌きょう支承装置 2)は、コンクリート道床の型枠押さえ機能も有しており(図3)、コンクリート道床の型枠を外側から押さえて容易に型枠を固定できるため、さらなる施工性の向上が期待できます。従来の一般的な軌きょう支承装置も問題なく使用できますが、その場合は従来と同様、コンクリート道床打込み後に生じる支持柱跡の孔埋め作業が必要となります。
 なお、S型弾直軌道のコンクリート道床は無配筋であることから、まくらぎ下のコンクリート道床の最小厚さを100→80mmとすることができます。すなわち、レールレベルを従来のD型弾直軌道よりも20mm低くすることができます。

図3 軌きょう支承装置による仕上がり位置の保持

3.施工手順②コンクリート道床の型枠構築

 次に、コンクリート道床の型枠を構築します。図4に示すように、型枠の構築面積は、D型弾直軌道と比較して、6~13%小さくなります。さらに、図2に示したように、まくらぎ端面とせん断キー部に型枠を当てるだけで自然に仕上がり位置へ設置できることから、施工性も向上しています。

図4 コンクリート道床の型枠面積(板ばね座面式締結装置の場合の計算結果)

4.施工手順③コンクリート道床の打込み

 型枠構築後、短繊維補強コンクリートを打込みます。短繊維補強コンクリートは、JIS規格レディーミクストコンクリート(普通-27-18-20N)を積載したアジテータ車に、ポリビニルアルコール繊維(クラテックRF4000×30、0.375vol%)またはポリプロピレン繊維(バルチップMK、0.5vol%)を現場で混入・高速撹拌して製作します。混入後のスランプロスは2cm程度で、水平換算距離156.5mの条件でも良好にポンプ圧送できることを確認しています 2)
 図5に、コンクリート道床の打込み量を示します。D型弾直軌道と比較して、打込み量を60%程度少なくすることができます。さらに、型枠内には、ずれ止め筋以外の鉄筋がないことから(図6)、打込み速度が速く、振動締固めもスムーズに行うことができます。試験線施工(図7)や現地施工も行い 1) 2)、コンクリート道床の施工コストはD型弾直軌道と比較して60%削減できることを確認しています(軌道全体の敷設コストも20%削減)。また、従来は75mを施工単位として施工していましたが、人工・工数の削減効果により、施工単位を少なくとも125mに延長できます(敷設速度1.7倍)。

図5 コンクリート道床の打込み量(板ばね座面式締結装置の場合の計算結果)

図6 コンクリート道床の型枠内の状況

図7 試験線急曲線部に敷設されたS型弾直軌道

5.おわりに

 S型弾直軌道の当面の設計・施工の技術指導は鉄道総研が行っており、すでに実施工もされていますが、さらなる実用展開を図るため、設計・施工の手引きを作成しています。手引きには、ノモグラム活用によるコンクリート道床の簡易な設計方法や本稿で示した材料数量、施工方法などを記載し、平成30年度前半には発行できる予定です。

【参考文献】

1) 谷川,高橋,桃谷,吉川:施工が容易で低コストなS型弾性まくらぎ直結軌道の開発,鉄道総研報告,2017.12
2) 谷川,吉川,高橋,桃谷:せん断キーで横荷重に抵抗するS型弾性まくらぎ直結軌道の試験線急曲線部における施工性の確認,日本鉄道施設協会誌,2018.1
(記事:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室  谷川 光)