施設研究ニュース

2018年4月号

変状トンネルにおけるモニタリングシステムの構築

1.はじめに

 トンネルに変状が発生した場合、十分な調査・計測を行い、その結果に基づいて最適な対策工を選定する必要があります。しかし、鉄道山岳トンネルは、線状に長い構造物であり、広範囲に多数存在しています。さらに、営業線におけるトンネル調査は夜間作業が中心となるため、変状監視には多大な労力と時間が必要であり、調査や計測の頻度が限定されるのが現状です。本稿では、地圧による変状が発生しているトンネル(営業線)を対象として、複数の計測機器を設置し、得られたデータをリアルタイムにモニタリングできるシステムを構築したので紹介します。

2.対象トンネルの変状と対策状況

 対象としたトンネルは全長615mの単線甲型れんが積み覆工のトンネルであり、トンネルの周辺地盤は流紋岩質凝灰岩で構成されています。このトンネルでは1901年のしゅん功より地圧による変状が発生しており、これまで2度の改築(図1)および裏込注入やロックボルトによる修繕が実施されているものの、現在も内空縮小の進行が確認されている区間があります。

3.雪の舞い上がり試験

 雪の舞い上がり試験には、鉄道総研 塩沢雪害防止実験所(新潟県南魚沼市)構内に設置されている排雪力測定試験装置を用いました。この装置は、全長60mのトラスビーム式ガイドレール上をワイヤロープで牽引される台車が走行することで、最高速度40m/sまでの直線運動が可能です。試験では、車両の床下機器箱を模擬した直方体の箱(長さ200mm、幅400mm、高さ400mm)を走行台車へ取り付け、様々な密度の雪試料上を通過させることで走行風を発生させて雪の舞い上がり現象を再現し、飛雪流量計SPCを用いて、雪の舞い上がり量(飛雪フラックス)を測定しました(図2)。
 図3に飛雪フラックスと積雪表層雪密度との関係を示します。雪密度が大きくなると、飛雪フラックスは減少することがわかります。また、同じ雪密度でも走行速度が大きな方が、飛雪フラックスは多いことがわかります。つまり、雪密度が小さく、走行速度が大きな列車(例えば新幹線)の方が、雪の舞い上がり量は多く、着雪が大きく成長する可能性があります。

図1 対象トンネルの縦断図
図1 対象トンネルの縦断図

3.モニタリングシステムの概要

 対象トンネルの挙動を把握するため、坑口から143mのA断面に、図2に示すような計測器および伝送装置を設置しました。計測器は、①地中変位計(左右1本ずつ、長さ6m、5測点/本)、②レーザー変位計(1測線)、③π ゲージ(目地部に1箇所)の3種類を設置しました。伝送装置は、計測器付近に温度計を内蔵した無線センサ子機を、トンネル坑口に親機一体型の収録装置を設置しました。計測器により得られたデータは、子機から親機まで無線にて伝送および収録され、さらに収録されたデータを携帯電話回線を用いてインターネットのサーバーにアップロードすることで、オフィス等でリアルタイムにデータを確認することができます。なお、子機1つにつき5測点まで測定が可能であり、今回は図3に示すように4台の子機を設置しました。

図2 構築したモニタリングシステム
図2 構築したモニタリングシステム
図3 計測機器等の設置状況(A断面付近)
図3 計測機器等の設置状況(A断面付近)

4.計測結果

 計測結果の一例として、それぞれの計測器で計測された初期値からの差分の結果を図4~図6に示します。なお、この期間にはロックボルトによる補強工事が行われており、施工の影響による変位の急変が見られたため、急変分を除いた結果を示しています。まず、地中変位計の結果(図4)より、微小ながら各測点とも地山側に変位していることが分かります。これは、側壁が内空側に変位することにより、各測点が相対的に地山側に変位したためであると考えられます。次に、内空変位の計測結果(図5)ですが、概ね気温とともに変動している傾向が確認できます。レーザー変位計の計測値は±0.8mm程度のばらつきが見られるため、移動平均の結果を示しています。同様に、ひび割れ幅の計測結果(図6)も、気温上昇とともにひび割れ幅が縮小していることが確認できます。

 これら複数の計測器によるモニタリングにより、内空変位やひび割れ幅といったトンネル覆工の計測結果は坑内気温に追従するように変化していることが分かりました。また、地中変位計の結果も含めてトンネル内の情報をリアルタイムにモニタリングできることが確認できました。

図4 地中変位計の計測結果(右側壁)
図4 地中変位計の計測結果(右側壁)
図5 レーザー変位計による内空変位の計測結果
図5 レーザー変位計による内空変位の計測結果
図6 πゲージによるひび割れ幅の計測結果
図6 πゲージによるひび割れ幅の計測結果

5.おわりに

 今回ご紹介したモニタリングシステムは、大規模な配線作業が不要であり、設置・撤去を従来に比べて容易に行うことができます。また、高頻度な計測データをリアルタイムに把握することで、変状対策工の選定に役立てることができます。

<参考文献>

1)森瀬喬士ら:地圧を受ける変状トンネルにおけるモニタリングシステムの構築,土木学会年次講演会,No.72,2017.

2)中根利貴ら:地圧を受ける供用中の山岳トンネルのモニタリング計測,トンネル工学研究報告集,No.27,2017.

(記事:構造物技術研究部 トンネル研究室  板谷 創平)

既存バラストを活用したSFCてん充道床軌道の開発

1.はじめに

 これまでに、様々なてん充道床軌道や舗装軌道が開発・実用化されており、それらは主に輸送量が多い都市部で採用されています。一方、閑散線区では適用事例があまり見られませんが、その要因として、バラスト注入用のグラウト材が高価であることや、経年した細粒分の多いバラスト道床内に従来のグラウト材を十分に充てんできず、道床交換を行う必要があり施工費が高くなることなどが挙げられます。そこで、グラウト材として既存のバラストに注入可能な「超微粒子セメントミルク」を採用し、道床交換が不要となる低コストなてん充道床軌道(以下、SFCてん充道床軌道)を開発しました。本稿では、SFCてん充道床軌道の特徴と営業線における試験施工の概要について報告します。

2.SFCてん充道床軌道の特徴

 営業線(トンネル区間:700万t/年)における経年したバラスト道床の例を図1に示します。同図より、特にまくらぎ下部において細粒分が多く、バラストが固結している様子が確認できます。また、図2に示すバラストの粒度分布からも、営業線の経年したバラストは新品バラストと比較して粒径40mm以下の砕石の含有率が高く、非常に締め固まりやすい状態にあるといえます(試験用バラストは営業線バラストを再現したもの)。そこで、このような経年したバラスト道床に対して種々のグラウト材の注入試験を行い、超微粒子セメントミルクが高い充てん性を示すことを確認しました。超微粒子セメントミルクは主に地盤改良などに用いられ、長期的に強度を発現する材料ですが、軌道工事は夜間の限られた作業間合いで行われるため、早期に強度を発現する軌道注入用の配合を検討しました(超微粒子セメントミルクの圧縮強度:材齢2時間で0.8N/mm2以上、材齢28日で25N/mm2以上)。

 図3にSFCてん充道床軌道の概要を示します。SFCてん充道床軌道の特徴は以下の通りです。

① 既存のバラスト道床内に超微粒子セメントミルクを注入するため、道床交換が不要である。(※噴泥箇所は細粒分が多いため対象外。)

② 超微粒子セメントミルクの注入範囲はまくらぎ肩部に設置する遮水シートにより管理する。

③ まくらぎ側面のバラストを固めないため、施工後の軌道整備(高低・通り)やまくらぎ交換が可能である。(※タイタンパによる軌道整備は不可。高低変位の整正は、超微粒子セメントミルクを再注入することにより行う。)

④ 敷設可能な路盤条件としてK30値≧110MN/m3とする。

 ②については、超微粒子セメントミルクが路盤材に浸透しないことを確認した場合、路盤面に遮水シートを設置する必要はありません。また、④については省力化軌道を敷設可能な路床に対する条件ですが(「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物」)、SFCてん充道床軌道では同条件を路盤に対する目安値としています。なお、地下水位が高い箇所など将来的に路盤の変状が懸念される区間においては、従来の省力化軌道と同様に敷設は難しいと考えています。

 実物大軌道に対する実列車荷重相当の繰返し載荷試験を行った結果、初期材齢における沈下量は0.5mm以下(材齢2時間以降に1500回載荷、700万t/年の約1日分に相当)、材齢3日以降の100万回載荷(700万t/年の約2年分に相当)における沈下量は1.0mm以下といずれも微小であり、省力化軌道として十分な支持性能を有していることを確認しています。

図1 営業線のバラスト道床の状況
図1 営業線のバラスト道床の状況
図2 バラストの粒度分布
図2 バラストの粒度分布
図3 SFCてん充道床軌道の概要
図3 SFCてん充道床軌道の概要

3.営業線における試験施工

 前章に示したバラスト道床の状態を調査した箇所において、SFCてん充道床軌道の試験施工(延長:7m)を行いました。図4に施工手順、図5に施工平面図を示します。はじめに、施工区間とその前後の軌道整備(総つき固め)を行います。続いて、まくらぎ肩部と施工境界部のバラスト道床を掘削して遮水シートを設置し、バラストを埋め戻します。次に、グラウト材の注入孔としてレール下・まくらぎ間のバラストをまくらぎ底面の深さまで掘削します。最後に、超微粒子セメントミルクを撹拌・注入し、まくらぎ底面付近まで液面が上昇したことを確認したらバラストを埋め戻します(図6参照)。

 図7に施工前後の軌道検測データを示します。同図より、施工後の沈下は見られず、良好な軌道状態を維持していることを確認しています。

図4 施工手順
図4 施工手順
図5 施工平面図
図5 施工平面図
図6 超微粒子セメントミルクの注入状況
図6 超微粒子セメントミルクの注入状況
図7 施工箇所の軌道検測データ
図7 施工箇所の軌道検測データ

4.おわりに

 本試験施工はトンネル内のバラスト軌道で実施しており、同トンネル内における道床交換工事と同等の施工費でSFCてん充道床軌道へと改良することができました。現在は、明かり区間での適用へ向けた検討を行っています。

 (記事:軌道技術研究部 軌道・路盤研究室  渕上 翔太)

ドローンを用いたかぶり厚さと弾性波速度の測定手法

1.はじめに

 インフラ構造物の検査に、マルチコプタドローンなどのUAV(無人航空機)の適用が検討されていますが、鉄道橋に用いる場合、線路への侵入・墜落による事故を防ぐ工夫が必要です。そこで、UAVの上昇力を利用して桁下面や床版裏に付着し、機体上部に搭載した電動式の無限軌道やタイヤで走行して変状調査を行う「付着走行用ドローン」を開発しました1)。気流の乱れやGPS信号途絶が生じる橋の桁下部でも安定移動でき、UAVが橋の上部に侵入するリスクも低減します。ここでは、この付着走行用UAVをコンクリート橋のかぶり厚さや弾性波速度の測定に応用する手法を紹介します。

2.かぶり厚さ測定手法

 コンクリート橋の鉄筋のかぶりコンクリートの厚さの不足は、コンクリート片の剥落や鉄筋腐食の原因となります。かぶり厚さは、コンクリート橋の劣化予測の重要な影響因子で、変状危険個所の抽出に役立ちますが、高所の桁下面や床版裏の調査には面倒な足場架設や高所作業車が不可欠です。

 提案手法では、図1の鉄筋探査プローブを搭載した付着走行用UAVで、下面を走行することで(図2)、プローブが通過した測線上の鉄筋のかぶり厚さを測定します。付着走行用UAVは、機体上部と下面との離隔を一定距離に保って移動できるので、機体に弾性支持されたプローブの上面を常に構造物下面に接触させられます。プローブは、非金属の支持材でUAVの金属部材と極力離して設置されており、測定前のプローブの初期化は機体に設置した状態で行います。

 提案手法の検証を目的として、実橋りょうの桁下面の測定試験を実施しました。図3にUAVによるかぶり厚さ測定状況と比較のため実施した熟練者による測定状況を示します。

 対象橋りょう下面は、検査対象鉄筋に直交する鉄筋の間隔が密で、熟練者が手動で同一測線上の検査を試みてもわずかな位置ずれで結果にばらつきが生じる状況で、UAV測定と熟練者測定の結果の比較に苦労しましたが、ほぼ同一測線上を走査できれば、図4に示すようにかぶり厚さの分布傾向を捉えることができ、熟練者測定との誤差の標準偏差(3.6mm)も熟練者による複数の手動測定データ間の誤差の標準偏差(3.8mm)と同程度であることが確認できました。

図1 鉄筋探査装置を搭載したUAV
図1 鉄筋探査装置を搭載したUAV
図2 UAVによるかぶり厚さ測定
図2 UAVによるかぶり厚さ測定
図3 測定状況
図3 測定状況
図4 かぶり厚さの測定結果UAV
図4 かぶり厚さの測定結果UAV

3.弾性波速度測定手法

 コンクリート構造物の損傷・劣化による振動特性の変化や健全度は、コンクリートの剛性や強度と密接な関係にあります。そこで、コンクリートの剛性や強度の評価指標となりうる弾性波速度2)の遠隔非接触測定手法を提案しました。

 図5は付着走行用UAVを小型化して打音検査の機能を付加した装置です。提案手法では、この小型UAVで加振して発生させた衝撃弾性波を、構造物診断用非接触振動測定システム「Uドップラー1)」で測定することで弾性波速度を推定します。図6に提案手法の概要を示します。UAVで構造物下面を加振し、加振点を含めて一直線上に位置する2点(点間距離 L)の振動を、2台のUドップラーで同期測定し、弾性波の到達時間の差から弾性波速度を推定します。

 実橋りょうの桁下面を対象として、弾性波速度推定手法の検証試験を実施しました。図7に対象橋りょうと測定・加振状況を示します。比較のため、人力加振による調査も行いました。発生させた衝撃弾性波を2台のUドップラー(速度レンジ2mm/sec/V、サンプリング周波数100kHz)で測定し、測定点間の距離を順次10cmずつ遠ざけて、UAV、人力加振ともに計10ケースの測定を実施しました。

 図8に提案手法による衝撃弾性波の測定波形例を、人力加振結果と合わせて示します。UAV加振による弾性波は、人力加振と比較してその振幅が小さく、ばらつきもみられますが、その微小な弾性波を長距離型Uドップラーで非接触かつノンターゲットで計測でき、2点間距離10cm~100cmの測定点の2点同期計測で得られた走時から2点間の到達時間差を検出できました。図9に2点間の距離と弾性波到達時間差の関係を示します。2点間距離と弾性波動の到達時間差は正比例関係にあり、その傾きから推定した実橋りょうの桁下面コンクリートの弾性波速度は1.85km/secで、人力ハンマー加振による測定結果との誤差は2.2%でした。

図5 加振装置を搭載した小型UAV
図5 加振装置を搭載した小型UAV
図6 弾性波速度の非接触測定手法
図6 弾性波速度の非接触測定手法
図7 測定・加振状況
図7 測定・加振状況
図8 衝撃弾性波の測定結果
図8 衝撃弾性波の測定結果
図9 2点間距離と弾性波到達時間差の関係
図9 2点間距離と弾性波到達時間差の関係

4.おわりに

 今後は、より実用的な測定システムの開発と現地検証データの蓄積に取り組みます。なお、本研究の一部は、国土交通省の鉄道技術開発費補助金を受けて実施しました。

<参考文献>

1) 上半文昭:鉄道橋検査を目的とした遠隔非接触測定技術の開発,鉄道総研報告,Vol.31,No.4,pp.53-58,2017.

2) 岩野聡史,森濱和正,渡部 正:衝撃弾性波法と微破壊試験の併用による構造体コンクリートの圧縮強度推定方法の提案,土木学会論文集E2,Vol.69-,No.2,pp.138-153,2013.

(記事:鉄道力学研究部 構造力学研究室  上半 文昭)

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