[クローズアップ]説明責任について

 私は,国鉄・鉄道技術研究所の時代から研究所生活の多くを,車軸の金属疲労の研究あるいは車軸強度に係わる業務に費やしてきました。
 今では日常語となった金属疲労の研究は,今からおよそ150 年前に,鉄道が開業した直後のドイツにて,まさに鉄道車両用車軸の折損原因を明らかにするために始まったものです。当時はドイツばかりでなく,イギリス,フランスなどにおいても車軸折損事故が相次ぎ,多くの人命や財産が奪われ鉄道技術者はその原因究明と対策に悩まされていました。以来,現在に至るまで車軸疲労に関して,内外の立派な研究者によって数多くの研究が行われてきました。
 ヨーロッパでは,昨年(2010 年)の暮れに,欧州連合(EU)の支援の元で「鉄道車軸の疲労折損リスクを最小化する」プロジェクト研究が開始されたばかりで,150 年たった現在でも車軸の金属疲労は大きな課題となっているのですが,日本では,幸いにも最近はほとんど車軸折損を聞かなくなりました。しかし,日本でも今から30 年ほど前は年1本程度は,原因は様々ですが,車軸折損が発生していました。これが,私が研究所で車軸の強度,特に疲労強度の研究を行うようになったきっかけですが,研究を進めていく中で,私のような鉄道総研の研究者には車軸の安全性について説明責任があり,そのためには理論的な,しかも多くの方に納得していただけるような定量的な裏付けが必要だと強く思うようになりました。
 「説明責任」という言葉は英語のaccountability(アカウンタビリティ)の訳で,本来は会計用語だそうですが,私は,今から15 年ほど前に出版されたカレル・ヴァン・ウォルフレン著「人間を幸福にしない日本というシステム(毎日新聞社,1994 年)」で知り,その言葉が頭から離れませんでした。
 私は車軸の安全性について説明責任を果たすために,鉄道総合技術研究所には,老朽化してはいるものの世界的にもあまり例のない軌条輪回転方式の実物車軸の疲労試験装置(図1)があるので,これを使って,実物の車軸にき裂を模擬した人工きずを入れて実際に折損させてみることにしました(図2)。この疲労試験の結果を破壊力学の手法により,定量的に説明,評価しようと試みたわけです。実物車軸を何本も使用して,繰返し数108 回(30 万km 走行に相当)までの疲労試験を行うという大変時間のかかる研究を実施した結果,疲労試験において車軸が折損したことは破壊力学により説明できました。ただし,それが実際に線路上を走行している車軸のき裂進展・折損にも破壊力学が正しく適用できるのか否かは,私は正しく適用できると考えていますが,日本での車軸折損事例が乏しく目下のところ不明です。
 本年3 月11 日の大震災以来連日,福島の原発事故に関して事故の経緯や放射性物質の危険性について様々な説明が各方面からなされています。しかし,私自身もそうですが,多くの方がどの説明を信用したらよいのか,納得できるのか,分からないのが実情ではないでしょうか?説明責任を果たす重要さと難しさを痛感します。

  • 図1 車軸の疲労試験装置
    図1 車軸の疲労試験装置
  • 図2 車軸の疲労破面
    図2 車軸の疲労破面

(車両構造技術研究部 石塚 弘道)

[研究&開発]車体の側面に荷重をかける

1 はじめに

 鉄道の安全対策として,事故を発生させないようにすることを目指して取り組みが行われてきましたが,時として甚大な被害を伴う事故が発生しています。平成17 年4 月に発生した福知山線の脱線衝突事故では,車両が側面方向から衝撃を受け,車体が大きく損壊しました。事故当時,車体側面からの荷重に対する車体強度に関する研究はほとんどなされていませんでした。
 そこで,実物大部分車体を用いた静的側面圧縮試験,衝撃圧縮試験および各試験と同様の条件で数値解析(以下,FEM解析)を行い,試験結果と比較して検証するとともに,FEM解析を用いた側面衝撃時の車体の挙動評価手法を構築しました1) ので,その結果について報告します。

  • 図1 変形形状例( 静的試験結果と解析結果の比較)
    図1 変形形状例( 静的試験結果と解析結果の比較)

2 静的条件下における車体側面強度評価

 標準的なステンレス鋼製車両を対象として,経年車両から切り出して,窓部およびドア部を中心とした2 種類の実物大部分試験体を製作し,試験体形状と荷重の載荷幅および載荷方向をパラメータとして,静的圧縮試験を実施しました。さらに,各試験に相当するFEM 解析を実施しました。
 変形形状に関する試験結果と相当するFEM 解析結果の例を図1 に示します。各試験条件において,FEM 解析結果は実物車体での変形形状や荷重-変形量特性等の試験結果の特徴をよく再現することができました。

3 動的条件下における車体側面強度評価

 静的試験で使用した試験体と同等の試験体で側面衝撃試験を実施するために,落錘試験装置を製作しました(図2)。台座の上に試験体を横向きに設置し,試験体側面からの距離が5m となるように載荷板を設置し,自由落下により,速度約10 m/s で試験体に衝撃させました。載荷板は試験体長手方向3m ×試験体高さ方向3.7m,重量約4.8 トンです。
 落錘試験における衝撃後80ms 経過時の変形状況を図3 に示します。試験体の変形形状について,台枠は主に載荷板寄りの横バリ端部が座屈し,側バリと横バリおよび横バリと床板を結合するスポット溶接部に破断が確認されました。屋根構体は図3 のように,屋根が上に膨らみ,タルキと長桁を結合するスポット溶接部に破断が確認されました。また,荷重と時間の関係は,試験体側面との衝突後,徐々に荷重が増加し,衝撃後24ms 程度で台枠と衝撃することにより1800kN 程度まで上昇し,荷重が低下した後,2 つ目のピークで最大荷重2000kN 程度となりました。
 次に,落錘試験に相当するFEM 解析を実施しました。 FEM解析モデルは静的圧縮試験により十分に検証された試験体モデルを対象とし,材料特性にひずみ速度依存性を考慮することで衝撃挙動に対応するように作成しました。
 衝撃後80ms 時の変形形状を図4 に示します。図のように,FEM 解析結果は台枠の座屈箇所や屋根構体の変形形状等,衝撃試験時の試験体の変形モードを再現しました。また,荷重の時間変化についても,ほぼ試験結果と一致しました。

  • 図2 落錘試験装置
    図2 落錘試験装置
    • 図3 衝撃後80ms 時の変形状況( 試験結果)
      図3 衝撃後80ms 時の変形状況( 試験結果)
    • 図4 衝撃後80ms 時の変形状況( 解析結果)
      図4 衝撃後80ms 時の変形状況( 解析結果)

4 FEM 解析による側面衝撃時の車体挙動評価

 静的側面圧縮試験結果および落錘式側面衝撃試験結果と比較検証することにより,各試験結果を再現できるFEM 解析モデルが作成できました。本モデルは長さ6.5m の部分車体モデルですが,1 車両の衝突挙動を評価する場合,衝突条件によっては,車体の両端部近傍にあるまくらばり等の重量物による慣性力の影響が重要となる場合があります。そこで,車端部の重心位置に相当質量を付加し,部分車体モデルの両端と結合して拘束することにより,部分車体を用いて1 両の挙動を模擬するモデル(以後,1 両相当モデル)を作成しました。
 1 両相当モデルは,1 両全体を詳細にモデル化した場合(以後,1 両モデル)と比較して,計算時間が大幅に減少し,多くの解析条件での結果を比較検証する目的には有利です。しかし,モデル長さが6.5m であるため,衝突対象物は限定され,1 両モデルと比較して解析精度が劣る可能性が考えられます。
 そのため,1 両相当モデルを拡張した1 両モデルとの解析精度の確認をしました。車体の側面衝撃時の挙動評価例として,1 両モデルが3m 幅の剛体壁に側面から速度30km/h で衝突する条件でFEM 解析を行いました。車体変形形状結果を図5 に示します。車端部の慣性による影響で,車体は剛体壁を巻き込むように変形した後,変形が少し戻る現象がみられました。また,ドアフレームの内側にある戸袋内柱間を室内幅と定義した場合,衝突により,室内幅は衝突前の90% 程度となりました。よって,今回解析した衝突条件では,衝突による生存空間の減少よりも,乗客が車内設備等に衝突(2 次衝突)する挙動評価が重要な検討課題になると考えられます。
 1両相当モデルを用いて同様の条件で解析を行った結果,車体変形形状,荷重の時間変化ともに,全体としての傾向は1両モデルによる結果と同等となりました。よって,車体の変形挙動についておおよその傾向を把握し,安全性評価および安全性向上策の検討を目的とする場合,1 両相当モデルを用いた解析の精度は,今回の解析条件では問題ないと考えられます。一方,衝突対象物が大きい場合や車体が横転するなど,車両端部の変形挙動が無視できない衝突シナリオに対する挙動評価は1 両モデルにより実施する必要があります。
 このように,衝突シナリオによって,車体モデルを使い分けることが効率的な挙動評価に有効となります。

  • 図5 1 両モデルによる解析結果
    図5 1 両モデルによる解析結果

5 おわりに

 ステンレス鋼製中間車を模擬した実物大部分車体を用いて,静的圧縮試験,落錘式衝撃試験および各試験と同様の条件でFEM 解析を実施し,車体の変形形状や荷重-変形量特性等のステンレス鋼製車体の基本的な側面強度特性データを取得しました。また,FEM 解析は各試験結果を再現することを確認しました。これにより,作成したFEM 解析モデルは車体の側面からの荷重に対する精度の高い強度評価モデルとなっていることを確認しました。さらに,側面強度評価モデルを用いて,側面衝撃時の挙動評価例を示しました。今後は,本モデルを活用して,様々な衝突条件に対する側面強度評価を実施し,車体の衝突安全性向上のために活用する予定です。
 なお,本研究は国土交通省の補助金を受けて「車両の衝突安全性向上に関する研究」の一環として実施しました。

参考文献

1) 沖野,宇治田:「側面からの荷重に対する車体強度特性評価」,鉄道総研報告,Vol25,No8,2011

(車両強度 沖野 友洋)

[研究&開発]新幹線のブレーキシステム

1 はじめに

 新幹線は,1964 年開業当初の0 系で210km/h,1985 年に東北新幹線の200 系で240km/h,さらにJRに移行してから1992 年に300 系で270km/h,1997年に500 系で300km/h と最高速度を着実に向上してきました(図1)。鉄車輪と鉄レールを用いて走行する鉄道車両は,走行抵抗が小さいという利点がある反面,加速時やブレーキ時に過大な力を加えると車輪が大きく滑り,設定した加速度や減速度を得ることができなくなります。速度向上は車両を止める技術の向上でもあり,より厳しくなるブレーキ条件において,高速から安全・確実に列車を止めることが求められてきました。そのためブレーキ時の摩擦特性や車輪とレール間の粘着特性などを有効に活用していかなければなりません。新幹線のブレーキに関して,その時代とともに行われた研究開発の一端を紹介します。

  • 図1 新幹線の最高速度
    図1 新幹線の最高速度

2 新幹線のブレーキ方式

 新幹線のブレーキ方式として,車輪とレール間の粘着力を利用する粘着方式が採用されています。粘着方式は,電気ブレーキと機械ブレーキに分類されます(図2)。これらにより,列車の運動エネルギーを熱や電気等に変換して吸収しています。電気ブレーキが主体の車両でも,電気ブレーキがフェールした場合には,必ず機械ブレーキが作用するシステムとなっています。そのため,機械ブレーキは,電気ブレーキと同等のブレーキ容量を持つ必要があります。また,車輪が大きく滑った場合でも,車輪やレールに損傷を与えないための滑走制御や,列車の分離や機器の不具合にも対応するためのフェールセーフ機構を備えています。ブレーキ力は,車輪とレール間に働く粘着力を基に,種々の条件を考慮して減速度によるパターンで決められています(図3)。
 また,機械ブレーキ機構は,高速から列車を停止させるため車輪への影響などを考慮し,踏面ブレーキ方式ではなく,ディスクブレーキ方式が当初から採用されました。

  • 図2 新幹線のブレーキ方式
    図2 新幹線のブレーキ方式
  • 図3 粘着基準値と設定減速度
    図3 粘着基準値と設定減速度

3 ブレーキ性能の向上

3.1 粘着力の把握

 営業列車では,降雨等の厳しい条件下での高速走行や定時運転が必要になるため,粘着力の把握が必須となります。鉄道総研では,車輪とレール間の粘着力について,台上試験機を用いて湿潤条件時のすべり率と接線力の関係を調べ,理論値に合致することを検証するとともに,微小すべり領域から巨視すべりに至る時や、軸重変動時の粘着力を解明してきました。これらの台上試験機の結果を得て,より高速度領域(210km/h ~ 300km/h)の粘着力についても実車を用いて把握しました1)(図4)。その結果,先頭車よりも中間車の粘着係数が高いことが分かりました。

  • 図4 速度と粘着係数の関係
    図4 速度と粘着係数の関係

3.2 増粘着方策

 営業列車では,常に一定以上の粘着力を確保する方策が求められます。新幹線には開業時から,車輪踏面の状態をできるだけ一定に保つことを目的として,弱い押付力で摩擦材を車輪踏面に作用させる踏面清掃子が採用されていました。さらに速度向上に合わせて粘着効果が最大になるとともに,高速からの使用に耐えられる増粘着研摩子を開発し,材質改良を行ってきました。また,粘着を向上させる別の方法として,粒径300 μ m のアルミナ粒子を車輪とレール間に噴射する増粘着材噴射装置(セラジェット)2) が開発されました。これは,アルミナ粒子が車輪に食い込むことによって水膜を破る効果が期待できるものです。

3.3 ブレーキパターン

 当初のブレーキ制御は,先頭車両の粘着力に合わせて全車両均一のブレーキ力を設定していました。しかし,編成後位になるに従って滑走件数が減少する現象や先頭車両に比べて中間車両の高い粘着力に着目し,車両毎に異なる減速度パターン1)を提案しました(図5)。編成内の車両毎にブレーキ力配分を変えることにより,滑走の発生を抑制しつつ所定の減速度を確保するようにしています。こうした考え方は,より高速で走行する列車の設計に役立てることができます。

  • 図5 減速度パターンのイメー
    図5 減速度パターンのイメー

3.4 増圧シリンダ

 新幹線の機械ブレーキ装置は高速列車を止める力を発生させるために,当初の油圧テコ式はさみ装置から,小型軽量化した油圧キャリパ装置が現在では搭載されており,ブレーキの空気圧を約10 倍以上の油圧に変換する増圧シリンダが採用されています。
 ブレーキ時に滑走が発生した際には,速やかにブレーキ力を制御する必要があることから,滑走防止弁が必要となります。滑走防止弁は,油圧を制御するもので,一般的に増圧シリンダに装備されています。そこで,鉄道総研では油圧よりも細やかなブレーキ力制御が可能な空圧式滑走防止弁を増圧シリンダに装備し,さらに質量を35%低減した3)。現在では,秋田新幹線などに搭載されています(図6)。

  • 図6 増圧シリンダ
    図6 増圧シリンダ

4 おわりに

 新幹線の発展とともに行われたブレーキに関する研究開発の一端を紹介しました。現在,当研究室では,空気圧だけで動作する新たな押付機構を用いた空圧式フローティングキャリパの開発を行っており,今年度内に現車試験を予定しています。さらに,車輪・レール間の粘着状態の改善や,高速走行時の滑走制御,ブレーキ時に発生するディスクとライニング間の熱影響の低減方策など各種ブレーキ性能の向上に取り組んでいます。

参考文献

1) 内田,小原:「粘着力有効利用による新幹線高速化のためのブレーキ制御」,鉄道総研報告,Vol7,No3,1993

2) 大野:鉄道技術アラカルト(23) 増粘着材噴射装置( セラジェット)その2 ,RRR,Vo63,No2,2006

3) 熊谷他,新幹線用すべり率滑走制御システムの開発,第4回鉄道技術連合シンポジウム講演会,1997

(ブレーキ制御 小林 秀之)

[リポート]第9回世界鉄道研究会議・WCRR2011に参加して

1 はじめに

 2011 年5 月,第9 回世界鉄道研究会議(WCRR:World Congress on Railway Research)がフランスのリールで開催されました。フランスでの開催は,1994 年の第1回に続き2 回目となります。今回,この会議に参加しましたので,概要を報告します。

2 会議の概要

 WCRR は,1992 年に鉄道総研が東京で開催した「鉄道総研国際講演会」をきっかけに,その後は2 ~ 3 年おきに開催されています。会場の様子を図1 に,開催概要を表1 に示します。会議期間中は毎朝,個別の発表が始まる前に大ホールにてプレナリーセッションが行われました。ここでは,「もっとサービスを,もっと列車を」,「経済性と環境を考えた鉄道」,「未来交通に向けた挑戦」の3 つのテーマについて講演,議論が行われました。

  • 図1 会場の様子
    図1 会場の様子
  • 表1 WCRR2011 の開催概要
    表1 WCRR2011 の開催概要

3 発表の内訳

 発表の内訳を図2 に示します。地域別では,開催地がフランスだったこともあり,ヨーロッパの発表者が過半数を占めました。アジアからの発表件数は,日本,韓国,台湾の順でした。一方で,内容別の内訳は今回の会議の特徴を表していると言えます。今回の会議は,単なる技術開発競争だけでなく,「経営的にもたくましい鉄道」を目指したものだったので,「安全」や「競争力・収益性」といった,鉄道経営に重要かつ根本に関わる内容が多かったのではないかと考えられます。

  • 図2 発表の内訳
    図2 発表の内訳

4 発表の内容

 車両関係では,高速鉄道やハイブリッド車両,省エネ運転等についての発表がありました。ここでは,海外のハイブリッド車両に関する内容を2件紹介します。なお,日本のハイブリッド車両に関しては,JR 東日本,JR 西日本,JR 貨物,鉄道総研から発表がありました。

4.1 ハイブリッド機関車のエネルギー効率の評価1)

 フランス国鉄(SNCF)による発表です。走行試験による排ガス排出量や燃料消費量の削減率について述べています。車両は,既存の電気式ディーゼル機関車の改造で,バイオ燃料ディーゼルエンジン,燃料電池,ニッカドバッテリ,ウルトラキャパシタで構成されています(図3)。入換作業では,燃料消費量42.3%,NOx 排出量63.1%,PM 排出量98.4%,本線走行では,燃料消費量19.4%,NOx 排出量67.6%,PM 排出量97.1% の削減になったとのことです(いずれも出力電力量あたりの数値)。なお,今回の試験は,燃料電池は取り外された状態で行われたとのことです。

4.2 燃料電池搭載の入換機関車2)

 アメリカの車両プロジェクトチーム,陸軍の建築技術研究所,鉄道会社(BNSF)による共同発表です。入換作業での水素消費率や,燃料電池の効率などについて述べています。車両の動力源は,燃料電池とバッテリで構成されています(図4)。走行結果として,機関車の平均出力87kW,水素消費率5.6kg/h,燃料電池の熱効率50 ~ 51% とのことです。また,この機関車は水素タンクを14 シリンダ備えており,最大で68kg と大量の水素を貯蔵可能なので,11 時間以上は連続稼働できるとのことです。さらに,スマートグリッドや,軍事用の移動電源としての応用も考えているようです。

  • 図3 フランスのハイブリッド機関車
    図3 フランスのハイブリッド機関車
  • 図4 アメリカのハイブリッド機関車
    図4 アメリカのハイブリッド機関車

5 テクニカルビジット

 最終日にはテクニカルビジットが設定されており,様々なコースから事前に選択することができました。今回,リール近郊にあるSNCF のメンテナンス工場を見学しました。業務内容は,日本での車両工場や総合車両センターと同等で,TGVやユーロスター車両の検修を見ることができました。工場の雰囲気は,少しのんびりしていましたが,電子基板の修理を行う専門チームがあり,1 編成分の電子機器の動作をチェックできるシミュレータが設置されていることなど,電子機器を自分達でメンテナンスする姿勢が伺えました(図5)。

  • 図5 テクニカルビジット
    図5 テクニカルビジット

6 現地について

 実は,フランスの入国審査で,リールに行くと言った途端に色々と質問され,「会議に行くだけです」と宣誓までさせられました。いきなり不安になりましたが,真相は,我々が到着した日にリールのサッカーチームが57 季ぶりに優勝したことにあったようです。その夜の駅前は,車のクラクションが鳴り止まない賑わいでした。リールは,イギリスやベルギーに向かう列車が集まる交通の要所であり,工業都市でもあります。夜は少し危険を感じる町でしたが,複数人で歩けば問題はなく,ラテンの雰囲気を楽しむことができました。

7 おわりに

 今回,WCRR2011 の概要を報告させていただきました。WCRR2011は,国際会議として初めての参加でしたが,国際会議とはどういうものなのか,その雰囲気を体験させていただくことができました。次回のWCRR は,2013年11月にオーストラリアのシドニーで開催が予定されています。

参考文献

1) Marina THIOUNN-GUERMEUR,“Evaluation of the hybrid locomotive "PLATHEE"-A Platform for Energy Effi ciency and Environmentally Friendly Hybrid Trains”, WCRR2011

2) Arnold R. Miller, "HYDROGEN FUEL-CELL LOCOMOTIVE: SWITCHING AND POWER-TO-GRID DEMONSTRATIONS", WCRR2011

(動力システム 長石 晋太朗)