[クローズアップ]海外の各種ゲージ直通運転用”軌間可変台車”について

 日本では新幹線と在来線の直通運転を目指してフリーゲージトレインの開発が進められ,最近ではJR 四国の予讃線での耐久走行試験開始の新聞報道をご覧になった方も多いと思います。一方,海外では軌間の異なる国へ乗り入れる国際列車等で,様々な軌間可変台車が実用化もしくは開発が進められています。ここでは,海外の軌間可変台車を概観します。
 まず,最も有名なのはスペインの“Talgo列車”です。Talgoとはスペイン国鉄の連接・軽量車両の総称で,特に軌間可変台車(図1)を備えた車両をTalgo-RDと呼びます。Talgo社が開発し,1969年5月にはバルセロナ~ジュネーブ間の特急列車“CATALAN TALGO”に採用され実用化されました。軌間はスペイン国内の広軌1668mmと標準軌1435mmに対応しています。しかし,軌間可変台車は客車部分のみに装備されているため,機関車は各国それぞれの軌間に対応して交換する必要がありました。これを解消するために軌間可変台車を装備した機関車や,さらには貨車の開発が進められています。
 スペインでは近年CAF社も,Alstom社と組んで,“BRAVA方式”の軌間可変台車(図2)を開発しています。この台車は,旅客車用として動台車・付随台車があります。対応する軌間はスペイン国内の広軌1668mmと標準軌1435mmです。2004年に,サラゴサ~ウェスカ~ハカ間で,気動車による営業が開始され,その後新しい車両が次々と開発されています。
 ポーランドの鉄道は標準軌ですが,隣のリトアニアの軌間は1520mmのため,直通運転を行うために“SUW2000”と呼ばれる軌間可変台車( 図3) を実用化しています。この台車は,軌間は1435mm・1520mm・1668mm の3種類に対応可能で,1本の輪軸で3軌間に対するものもあります。2000 年10 月からリトアニアとの間で旅客車および貨車による営業運転に使用されています。
 ドイツでも旧ソ連の各国との鉄道貨物輸送を促進するために,1950年代初期から種々の軌間可変台車が研究され,ドイツ鉄道貨物会社はドイツ鉄道ミンデン研究所などと共同で“DR-Ⅴ”型軌間可変輪軸(図4)を開発し,貨車に装架して営業列車に組み込み,約1000km毎に軌間変換を行いながら開発を進めています。
 このように,世界各国では多くの軌間可変台車が使われています。また,これらの軌間可変台車は,いずれも走行中に地上にある軌間変換用の特殊な軌道で軌間を変換します。
 冒頭に記しました日本のフリーゲージトレイン用の軌間可変台車は,これら海外の台車とは構造が異なる方式で開発が進められていますが,一日も早い実用化が望まれています。

  • 図1 Talgo*
    図1 Talgo*
  • 図2 CAF*
    図2 CAF*
  • 図3 SUW2000*
    図3 SUW2000*
  • 図4 DR-V*
    図4 DR-V*

*図1~図4 出典:Eurail Forum 2004 資料

(研究開発推進室 GCT担当部長 徳田 憲暁)

[研究&開発]車輪踏面の削正痕が接線力に及ぼす影響

1 はじめに

 鉄道車両の走行性能は,走行距離の増加により車輪踏面が摩耗して変化します。このため,これを維持するため,定期的に車輪踏面を削って元の設計形状に戻す作業を行っています。この作業を車輪削正と呼び,車輪旋盤の性能によっては車輪踏面に円周方向のスジ状の削正痕が残ることがあります。この削正痕は,高さ数μ m ~数十μ m 程度の非常に小さい凹凸ですが,例えば,車輪削正後の比較的少ない距離で発生することがある乗り上がり脱線では,フランジ部に転削痕があることで接線力(車輪とレールの接触点に作用する接線方向の力)の特性が変化して脱線に至ったと疑われることもある,目立たないですが注目されている部分です。しかし,車輪とレール間の接触状態を精密に計測することが困難である事,未解明な摩擦現象が関与している等の理由から,凹凸のある接触面に作用する接線力特性を明快に説く文献はあまり見られません。このため鉄道総研では,接触面形状に着目して,車輪とレール間の接線力特性を解明するための基礎的研究を行っています。本報では,実車輪とレール間の接触面形状を示すとともに,車輪踏面に削正痕がある場合について,その接触面に作用する接線力の特性についてご紹介します。

2 車輪とレール間の接触面形状

 接触面形状とは,車輪とレールの接触点に車両の質量が加わった時にできる弾性変形形状のことです(図1)。鉄道車両では1 箇所の車輪とレール間に約30 ~ 60kN(普通自動車3~ 6 台分)の大荷重が加わり,10mm 程度の小さい楕円に似た形状になります。この部分の接触圧は非常に高く,精密に測定することが困難です。そこで本研究では,車輪削正後のJR 在来線通勤形車両から測定した車輪踏面形状(車輪の断面形状)を使って接触面形状を計算で求めました(図1)。
 図1(a) と(b) は,同じ車輪踏面形状ですが,表面が滑らかな設計形状を使った結果(図1(a))と比べて,測定した形状を使った結果(図1(b))は,接触面形状の外形寸法は同様の大きさですが,まくら木方向に幅の狭い細長い筋が集合した形状となっており,図1(a) とは明確に異なります。これは車輪削正作業で生じた高さ数μ m 程度の車輪旋盤の削正痕(微小凹凸)によるものです1)

  • 図1 車輪/レール間の接触面形状(計算結果)
    図1 車輪/レール間の接触面形状(計算結果)

3 接線力測定実験結果

 実車輪とレール間の接触面の微小凹凸が接線力に与える影響を調べるため,鉄道総研が所有する転がり-すべり摩擦力試験機(図2)を使って接線力測定実験を行いました2)。実験では,直径30mm の2 個の試験片を僅かに異なる回転数で転動させ,両者間に作用する接線力を測定して接線力係数(=接線力を荷重で割った値:大きいほど強い力が作用する)の大小で評価しました。車輪に相当する試験片の接触面は,① 山型の微小凹凸(高さ70 μ m /ピッチ1mm)を付けた条件と,② 滑らかな平坦形状の条件の2 通りとし,レールに相当する試験片の接触面は平坦形状としました。

  • 図2 転がりーすべり摩擦力試験機の外観と試験片断面形状
    図2 転がりーすべり摩擦力試験機の外観と試験片断面形状

3.1 接触面形状と接線力係数の関係

 荷重195N,すべり率0.3%,外気の環境温度20℃,相対湿度30%の条件での実験結果を図3に示します。
 接触面に微小凹凸がある条件(青線)の方が,滑らかな条件(緑線)より接線力係数が小さく,同じ直径の試験片で同じすべり率であっても,接触面形状により接線力の大きさが異なることがわかります。前述した実車輪とレール間の接線力も同様の傾向があると推察されます。

  • 図3 接触面形状の違いと接線力係数の関係
    図3 接触面形状の違いと接線力係数の関係

3.2 外気の環境条件と接線力係数の関係

 外気の環境条件(温度と相対湿度)と接線力係数の関係を調べるため,図2 に示す環境コントロール装置を動作させて同様に接線力測定実験を行いました(図4)。
 接触面に微小凹凸がある条件(青点)では,温度と相対湿度を変えても接線力係数はほとんど変化しません。しかし,接触面が滑らかな条件(緑点)では,相対湿度30% の条件で接線力係数が大きく,微小凹凸ありの条件と比較すると約2 倍大きいことがわかります。これは,大気中の水分量が減少して接触面の潤滑効果が低下したことが原因で,接触面が滑らかな形状の方が影響を受けやすいことを示しています。実車輪でも同様に,接触面が滑らかな場合には,相対湿度が低い条件で接線力が大きくなると考えられます。

  • 図4 環境条件と接線力係数の関係( すべり率0.3% の場合)
    図4 環境条件と接線力係数の関係( すべり率0.3% の場合)

3.3 すべり率と接線力係数の関係

 すべり率と接線力係数の関係を図5 に示します。なお,この実験では,実車輪とレール間の接触に近づけるため,レール側試験片の接触面形状を半径300mm の円弧形状とし,荷重を450N に増やして接触面圧を大きくしました。
 図5 から,すべり率が小さい0.5% 以下では,接触面に微小凹凸がある方が接線力係数が小さく,図4 と同様に微小凹凸による接線力の低減効果が認められます。一方,すべり率が大きい0.8%(赤矢印)では,明確な差が認められません。 この実験結果を実車両の運動に置き換えて考えると,すべり率が小さい条件は直線走行時の車輪とレール間や急曲線走行中の内軌側の車輪とレール間の接触状態,すべり率が大きい条件は曲線走行時の外軌側フランジとレール間の接触状態を,それぞれ模擬していると考えることができます。この場合,意図的に車輪踏面に微小凹凸を付けた条件で,数値計算による車両運動シミュレーションを行うと,曲線走行時では横圧低減効果が期待できる反面,直線走行時では走行安定性を低下させる結果となりました。一方,乗り上がり脱線に影響すると疑われている,フランジの微小凹凸については,フランジとレール間のすべり率が数% オーダーと大きいため,微小凹凸の有無による接線力の差異は実験結果から小さいと考えられます。いずれも微小凹凸の有無のみで急激に車両の運動特性が変わることは無いと考えられますが,少なくとも微小凹凸は車輪とレール間の接線力特性を変える方法の1 つとしては期待できそうです。

  • 図5 微小凹凸の有無によるすべり率と接線力係数の関係
    図5 微小凹凸の有無によるすべり率と接線力係数の関係

4 おわりに

 車輪削正時に生じる程度の大きさの微小凹凸でも,車輪とレール間に作用する接線力特性が変化する可能性があることを示しました。現在,本研究の深度化を進めるとともに,車両の走行性能向上のために微小凹凸を積極的に付ける方法の検討を行っています。本報により,車輪とレール間の接触に関係する研究の可能性を感じ取って頂ければ幸いです。

参考文献

1) 山本:「車輪踏面の実測形状に基づく車輪/レール接触特性解析」,鉄道総研報告,Vol.25,No.1,(2011),pp.27-32

2) 山本,陳:「鉄道車両の車輪踏面の微小凹凸と接線力に関する基礎的研究」,日本機械学会論文集C編,Vol.77,No.781,(2011), pp.3211-3222

(車両振動 山本 大輔)

[研究&開発]車輪径差による主電動機トルク差とその影響を解析する

1 はじめに

 剛体や弾性体の運動シミュレーションと機構解析をコンピュータによる数値計算で行う技術的手法に,マルチボディダイナミクス(MBD)解析があります。任意の対象についてMBD 解析を実行するための汎用MBD 解析ツールが主に欧米で開発されており,パッケージプログラムとして市販されています1)
 MBD 解析ツールを用いた研究は,これまでにロボット,建設機械,自動車,航空など幅広い分野で行われており,この10 年ほどで日本国内の鉄道分野でも大学,メーカー,研究機関で実施されるようになっています。鉄道におけるこれまでの研究として,車両の運動解析そのものを主眼とするものや,弾性体解析と連成させた事例などが報告されています2)
 今回,車両の電気系に着目してMBD 解析ツールと主電動機制御系ツールの連成によるシミュレーション手法を構築しました。最近の多くの通勤電車に採用されている1 インバータで複数台誘導電動機を駆動する主回路方式で,同一車両内で車輪径が生じた場合に,どの程度の主電動機トルク差が生じるのかを定量的に捉えるとともに,そのトルク差が車両運動特性にどのような影響を及ぼすかについて解析を行った連成シミュレーション結果を報告します3)

2 解析対象のモデル化

2.1 車両のモデル化

 M車1両分に換算したモデルで解析を行います。対象とした車両諸元を表1 に示します。軌道条件は,軌間1067mm で50N レール(新品形状)としました。これらの条件でMBD 解析ツールSIMPACK® 上に図1 に示すモデルを構成しました。あわせてシミュレーションで仮定した車輪径(径差)も同図中に示します。このモデルでは,2次ばねは空気ばねで構成され,主電動機の回転子から輪軸への駆動装置も減速機能のみを有する構造体でモデル化されています。また,250% 乗車の満車状態を想定して荷重は20t とします。

  • 表1 車両諸元
    表1 車両諸元
  • 図1 仮定した車輪径とM車モデル
    図1 仮定した車輪径とM車モデル

2.2 主電動機制御系のモデル化

 1 つのインバータで4 台の誘導電動機を駆動する1C4M 主回路構成を対象とします。シミュレーションでは誘導電動機の一般的な状態方程式を用いた,インバータの周波数で回転するモデルとしました。ここで,一次抵抗,二次抵抗,一次インダクタンス,二次インダクタンス,漏れ係数といった誘導電動機固有の電気的定数は最近の通勤電車に用いられている100kW 級の誘導電動機と同等の値を用いました。また,ベクトル制御器へのフィードバック速度は4 台の誘導電動機の平均速度を用いています。

3 シミュレーション結果

3.1 直線走行シミュレーション

 構築したモデルで計算機シミュレーションを行いました。シミュレーションでは,図1 に示す通り第4 軸を先頭に第1軸を最後尾とする方向に走行させます。はじめに,直線軌道における走行シミュレーション結果を示します。
 図2は1C4Mの場合に起動加速した結果です。速度の上昇とともにトルク差が拡大していく様子が確認できます。第4軸は車輪径が小さいことから他軸よりも高い回転数で回転することになります。インバータ角速度ω1,回転子角速度ωre,すべり角速度ωsとすれば,ω1=ωre+ωsの関係にあることから,ω1が一定でωreが大きくなればωsは小さくなります。すべりとトルクはほぼ比例関係にあることから第4軸のトルクが小さくなってしまうのです。解析の結果では,速度20km/hにおいて最大76Nm程度の差となり,指令したトルクに対して約± 5% の値となりました。なお,主電動機1台に対して1個のインバータで構成される1C1Mの場合には,全ての電動機に既定の電動機トルクが出力されました。このことから,台車内3mm,車両内6mmの車輪径差で生じるトルクは約±5%程度の値で済むといえます。

  • 図2 1C4M直線走行
    図2 1C4M直線走行

3.2 曲線走行シミュレーション

 次に,曲線軌道における走行シミュレーション結果を,図3に示します。線路形状は最初の20mを直線,次の36m区間を緩和曲線,以後はR300mの右曲線とし,曲線部のカント量は90mmとしました。
 図3 は1C4M の場合の起動から定トルク域終端速度までの加速結果です。速度の上昇とともに電動機トルク差が乖離していき,直線走行のシミュレーション結果と同様の傾向を示しました。速度20km/hにおけるトルク差は,最大で約70Nm程度の差であり,指令したトルクに対して約±5%の値で収まっており直線走行時と同等です。図4 は,1C1M と1C4Mの先頭第4軸と後方台車の先頭軸となる第2 軸の外軌側である左側車輪位置での脱線係数Q/P と横圧Q を表しています。1C4M の場合,図3に示す通り各軸で電動機トルクが異なり電動機間で最大約10% の差異が生じるものの,この差は脱線係数,横圧ともに殆ど影響しないことが確認できました。

  • 図3 1C4M 曲線走行
    図3 1C4M 曲線走行
  • 図4 第2・第4 軸外軌側車輪の脱線係数・横圧比較
    図4 第2・第4 軸外軌側車輪の脱線係数・横圧比較

4 おわりに

 MBD 解析ツールと制御系設計ツールを用いて力学系と制御系の連成シミュレーションを実施し,1C4M 主回路構成で同一車両内の車輪径差によって生じる主電動機トルク差,及びその影響を調べました。その結果,最大6mm の車輪径差ならば,速度20km/h で約10% 程度のトルク差が生じることが分かりました。同条件における曲線走行シミュレーションの結果では,1C1M でも1C4M でも脱線係数や横圧に大きな差異は見られず,走行性能に大きな影響がないことも確認しました。
 導入実績から課題が無いとされている対象であっても,新たな解析ツールを活用することで,詳細かつ定量的な評価が可能となります。今回構築した連成シミュレーション手法を活用することで,実車における新たな課題発見や整理につなげていきたいと考えています。

参考文献

1) 宮本:「マルチボディダイナミクスによる車両運動シミュレーション」,RRR,2008年10月号,p.2-5,2008

2) 柳川,綱島,丸茂,松本,佐藤,大野:「マルチボディダイナミクスを用いたライトレール車両の運動に関する研究」,J-RAIL2006,p.333-336,2006

3) 門脇:「MBD シミュレーションに基づく車輪径差による電動機トルクの把握」,J-Rail2011 講演論文集,p.199-202,2011

(駆動制御 門脇 悟志)

[研究&開発]地震時に大きく動く空気ばねの性能試験

1 はじめに

 地震時の車両運動シミュレーションを高い精度で実行するためには,大変位時のばね・ダンパ特性を把握することが重要です。一方で,台車組立状態での実際に大きく揺れているときの各部品の振動性能を知りたいのですが,これはとても難しいものがあります。そこで,鉄道総研では,大変位時の車体-台車間の2次サスペンションの挙動調査に特化した,大型振動台により運用する車両2次サスペンション試験装置を開発しました。

2 車両2 次サスペンション試験装置の構成

 図1 に車両2 次サスペンション試験装置を示します。本装置は実物の新幹線用台車を基に製作しました。基礎部,台車枠部,荷重枠部で構成され,すべてを大型振動試験装置に搭載し加振します。この台車枠部と荷重枠部の間に供試空気ばねおよびダンパ類を配置し加振試験を実施します。この際,供試体の形状に合わせた取り付け用アダプタを製作することにより,様々な種類のものに対応が可能です。なお,2 次サスペンションの特性を把握しやすくするため,輪軸を振動台に直接固定し,軸ばね・軸ダンパなど1 次ばね系で台車枠を支持しています。本装置は1 台車半車体モデルで,半車体に相当する荷重枠は1 対の空気ばねで支持しているため,荷重枠の転倒を防止するために基礎部を介して振動台と荷重枠との間に転倒防止リンクを設けました。この転倒防止リンクにより,車体相当の荷重枠は前後・ヨー・ピッチ方向の運動を拘束され,上下・左右・ロール方向の平面内の運動のみが可能となっています。本試験装置の主な諸元を表1 に示します。

  • 図1 車両2次サスペンション試験装置
    図1 車両2次サスペンション試験装置
  • 表1 主な諸元
    表1 主な諸元要

3 空気ばねの性能試験

3.1 空気ばね力測定法

 本試験では複数の空気ばね発生力の測定方法を検討しました。その結果,圧電型フォースセンサを用いた測定方法を採用し,以後の実験に用いました。このセンサは厚さ20mm 程度のセンサで,空気ばね座下に挟むように簡易な治具(スペーサ)で空気ばねと台車枠間で発生力を測定する事ができます。また,三成分フォースセンサとなっており,一つのセンサで上下力,左右力,前後力を測定することができます。なお,このセンサは容量が小さいため図2 に示すように,3 つを一組として用い,それぞれのセンサ出力を合計して上下力,左右力(今回は前後力を測定せず)としました。

  • 図2 圧電型三成分フォースセンサを用いた空気ばね力測定
    図2 圧電型三成分フォースセンサを用いた空気ばね力測定

3.2 空気ばね力測定結果

 空気ばね変位および発生力の測定結果の一例を図3 に示します。図中,変位については空気ばね上面板の積層ゴム上面に対する相対変位を示し,力については台車枠が空気ばねより受ける力を示します。図3(a) より,加振周波数が0.5Hz の場合には,上下・左右方向とも力と変位がほぼ同相であること,図3(b) より,加振周波数が1.8Hz の場合には,上下方向についてはほぼ同相,左右方向については位相差が約90 度であることがわかります。このように,左右方向については,力と変位の位相差が周波数により大きく変化します。また,加振周波数0.5Hz において,上下力にやや鋭いピークが見られますが,これは空気ばね上面板が積層ゴム上面に接触したことによるものです。

  • 図3 空気ばね変位および発生力の測定結果
    図3 空気ばね変位および発生力の測定結果

3.3 空気ばね力計算モデル

 測定結果をもとに大変位するときの空気ばね力の計算モデルを作成しました。空気ばね定数や減衰係数は,厳密には加振周波数や振幅によって変化するものと考えられますが,地震のようにランダムな振動に対し応答するときには例えば周波数依存性の強い空気ばね定数を用いると誤差が発生します。地震時の車両運動シミュレーションのために,解析上必要となる振動周波数帯(およそ0.3 ~ 3.0Hz)で適切に空気ばね力,特に左右力を計算できるモデルを考案し,その定数を求めました。変位および速度の測定結果と求めたばね定数・減衰係数を用いて計算した左右力と実際の左右力測定結果の比較を左右変位-左右力のリサージュ線図として図4 に示します。図4 より,十分な精度で空気ばねの左右力を表現できていることがわかります。

  • 図4 空気ばねの左右力-左右変位のリサージュ線図(左右動ダンパ無し条件)
    図4 空気ばねの左右力-左右変位のリサージュ線図(左右動ダンパ無し条件)

4 まとめ

 本報告で紹介した車両2 次サスペンション試験装置は空気ばねや左右動ダンパなどの供試体を実車と同等に取り付けた状態で試験できます。また,台車が大きく左右に振動したときの試験結果をもとに,周波数依存性が無く,かつ大きな左右・ロール変位で精度が高い,地震時の車両挙動解析に使いやすい空気ばねモデルを提案しました。
 なお,この試験装置を搭載する大型振動試験装置では,地震に限らず,通常の走行中の左右振動を模擬することも可能です。つまり,左右振動に対する車両の応答あるいは空気ばねなど台車部品の挙動と特性を丁寧に調べることができます。ご活用頂ければ幸いです。

(車両力学 飯田 浩平)