[クローズアップ]大規模並列計算による有限要素解析

 本年4 月1 日付で鉄道総研に計算力学研究室が発足しました。ご挨拶も兼ねまして,これから当研究室において取り組んでいく研究活動についてご紹介したいと思います。現在,鉄道シミュレータのコアシステムの構築に向け,大規模並列計算による解析手法の導入を行っております。大規模並列計算と聞くとプログラミングのできる解析技術者が,年々減少しているためか,抵抗感を持たれる方も少なくないように感じておりますが,並列計算を簡単に説明しますと,膨大な計算処理に対してネットワークを介して複数の計算機で分担して実行し,最終的に1 つの結果にまとめるというものです。最近では,プログラミングの助けとなるライブラリが数多くあり,専門家でなくともプログラム開発を行えるようになりつつあります。近年の計算機性能の飛躍的な向上により並列計算を取り入れた有限要素法(FEM)では,要素数が数千万以上の大規模モデルであっても現実的な解析が可能となっております。
 日本には,HPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)において世界トップクラスの「京」(残念ながら執筆中に首位陥落)や地球シミュレータなどの計算機があり,必要であれば産業界からの利用も可能です。そこまではと思われる方でもパソコンを数台並べてネットワークに接続すれば,中規模(もしかすると大規模)レベルの並列計算が実行できます。さらに,最近では大学の大規模並列解析に関するプロジェクト* により,構造,熱,流体解析,さらにはそれらの連成解析が扱えるオープンソースが公開されており,ハード,ソフトとも,より敷居が低くなってきております。
 さて,大規模並列計算により,従来,見えてこなかった現象が明らかにできると考えられますが,そこで重要となるのが,解析結果の検証,つまり解の品質がどれほどのものかを示す必要があります。数値解析では,もっともらしい結果が得られたとしてもそれが妥当なものなのか否かを解析者が判断しなければなりません。特に大規模モデルでは,モデルの複雑さゆえに得られた結果が物理現象なのか解析上の誤差なのかを見極める鋭い眼が欠かせません。この眼は,実際の“ もの” や現場をみて,実験などで自らの体を使った経験を積み重ることにより養われていくものでしょう。鉄道総研では,そのような経験を積むことが可能であり,解析に関わる技術者にとって常にモチベーションを高めていける環境がございます。
 現在,大規模並列計算の事例として車輪とレールの転がり接触解析(図1,2),一車両モデルを用いた空気流れの解析,さらに車両構体や台車などの全体モデルを用いた応力解析や振動解析について開発を行っております。今後,高度シミュレーション技術を適用して,これまでに評価が困難であった鉄道システムの事象等にも積極的に取り組み,自らの研究ツールはもとより鉄道分野全体課題の解決のためにシミュレーションに関する技術協力や成果の提供を行う活動を拡げていきたいと考えております。

  • 図1 解析モデル 図1 解析モデル 図1 解析モデル
    図1 解析モデル
  • 図2 車輪/ レール接触面の応力分布
    図2 車輪/ レール接触面の応力分布

(鉄道力学研究部 計算力学 室長 高垣昌和)

[研究&開発]平行カルダン方式歯車装置の振動放射音の解析

1 はじめに

 鉄道車両の駆動装置から発生する振動および騒音の近年の傾向として,密閉型主電動機が実用化され,その低騒音化が進んでいますが,相対的に歯車装置からの騒音の寄与度が大きくなる傾向にあります。図1 は,その一例であり,密閉型主電動機を搭載した電動車の力行時における音源分離予測手法1) に基づく走行速度と床下騒音の関係です。90km/h 以上の高速域においては,歯車騒音の割合が大きくなることがわかります。120km/h の主電動機および転動音の騒音レベルはほぼ等しくなりますが,歯車装置の騒音レベルは,これらより約2dB 高いことがわかります。歯車装置の低騒音化対策を進めるには,まずは振動や騒音の詳細なメカニズムの解明を行う必要があります。ここでは最も普及している平行カルダン方式の歯車装置を対象とした歯車噛合い解析や歯車箱の構造/音場解析により,これまでにわかった振動・音響特性のシミュレ-ション結果を中心に紹介いたします。

  • 図1 電動車の床下騒音(密閉型主電動機:力行時)
    図1 電動車の床下騒音(密閉型主電動機:力行時)

2 歯車装置の振動・騒音の伝搬経路と解析手法

 図2 は,歯車振動・騒音の伝搬経路のイメ-ジです。主電動機トルク脈動などによるねじり振動(①)や,小歯車と大歯車回転時の噛合いによる変動力,さらには,はすば歯車によるスラスト力(②)などが発生しますが,これらが振動成分となり,小歯車や大歯車(③)から各軸受を介し,歯車箱に伝播して歯車箱振動を発生し(④),その表面より外部へ音響放射(⑤)することが考えられます。後述のように,これらを解析するために幾つかの手法があり,歯車の変動力には機構解析の一種である噛合い解析(赤点線枠部分)を用います。また,歯車箱振動を有限要素法(FEM)による振動解析(構造解析)により求め,さらに,この結果を入力条件にした歯車箱から周囲への音響放射の解析には境界要素法(BEM)による音場解析を用います。この2つの解析をあわせ,構造/ 音場解析と呼ぶ場合もあります(青点線枠部分)。これらの解析を組みあわせて歯車装置から発生する振動や騒音の解明を進めています。

  • 図2 歯車振動・騒音の伝搬経路と解析手法
    図2 歯車振動・騒音の伝搬経路と解析手法

3 歯車箱の振動特性

 実際に歯車箱の振動特性はどのようになっているのでしょうか。図3 は,実車加振により振動特性を評価する実験モ-ド解析と呼ばれる試験の概要です。主電動機および継手は取外し,歯車箱の振動モ-ドを励起するため,大歯車後部に動電型の加振器と加振棒により枕木方向の加振を加えています。さらに,スキャニング型レ-ザ-振動計により,歯車箱表面の振動速度を面状に計測して,カ-ブフィットと呼ばれる方法で各振動モ-ドを抽出する数値演算を行います。この歯車箱の例でも様々な振動モ-ドの解が得られますが,例えば578Hz で車軸の後部付近のリブとリブに囲まれた板部が枕木方向へ,818Hz で歯車箱下部の板部が枕木方向へ振動の腹を持つ振動モ-ドを持つことがわかります。これら振動モ-ドによる板部の変形が歯車箱各部位からの音響放射につながっていると推定できます。しかしながら,このような実験的な力加振による方法は,加振波形や加振器の種類,試験規模にもよりますが,歯車箱は鋳鋼であり材料減衰が比較的大きいこと,軸受や車軸による構造的な減衰要因があることもあり,高い周波数では加振エネルギ-が減衰され,精度の良い振動モ-ドを再現することが難しくなると言えます。図3 に示す程度の周波数が解析上の限度であり,それ以上高い周波数の解析は難しく,1 ~ 2kHz 帯域や,それ以上の帯域にも主要なピ-クをもつ歯車装置の振動及び騒音の解明には次章のような数値計算的な解析手法により解明を進めざるを得ません。

  • 図3 歯車箱の主な振動モ-ド(歯車箱大歯車付近の例)
    図3 歯車箱の主な振動モ-ド(歯車箱大歯車付近の例)

4 小歯車と大歯車の噛合い解析

 図2 に示す噛合い解析モデルの小歯車軸に主電動機側から一定トルクを模擬した回転を与えると,初期擾乱が起きますが、境界条件を工夫することにより安定化を図ります2)。安定した回転に近くなったところところで,釣り合い状態を保つために主電動機と逆回転方向の負荷トルクを車輪圧入部に相当する位置に与えます。これにより定常的な回転状態を再現でき、歯車噛合いに起因する回転数変動や,歯車および軸受部等に発生する荷重,軸トルクの各数値を求めることができます。図4 は,この解析により得られた大歯車回転の変動履歴です。ここでの走行条件は300km/h であり,大歯車回転数は計算上1851rpm となりますが,小歯車との噛合いにより大歯車は1849 ~ 1853rpm の範囲で回転変動することがわかります。これら回転変動は振動成分となり,軸受から歯車箱に伝搬して騒音になると思われます。

  • 図4 噛合い解析による歯車の回転数変動
    図4 噛合い解析による歯車の回転数変動

5 歯車箱の構造/ 音場解析

 図5 は,歯車噛合い解析から得られた歯車の各軸受の振動を入力条件とした構造/ 音場解析を用い、歯車箱周りの音響パワ-を計算した解析結果の一例です。この歯車箱では610Hz 付近,950 ~ 1110Hz 付近および1980~ 2200Hz 付近の音響パワ-が大きくなる傾向をもつことがわかります。2200Hz 付近のピ-クは,歯車の歯数で決まる噛合い1 次周波数に相当し,歯車騒音の要因の一つです。また,走行試験の実測では噛合い1 次でなく,噛合い2 次以上のより高い周波数で振動のピ-クを持つ場合があります。また,噛合い1 次のほか610Hz 付近にもっとも大きなピ-クをもつことがわかります。図中央に610Hz 付近でのFEM 解析による歯車箱の振動解析結果を示しますが,歯車箱中央部の側面が大きく変形する振動モ-ドを持つことがわかりました。このことから歯車装置の騒音には歯車箱振動モードの特性が大きく影響することが考えられます。

  • 図5 構造/ 音場解析による歯車箱の音響パワ-
    図5 構造/ 音場解析による歯車箱の音響パワ-

6 おわりに

 これらの解析手法を組み合わせることにより,実験的には解明が難しい歯車箱の詳細な構造特性(振動特性)を把握し,さらに放射部位の特定や歯車や歯車箱の構造変更を行うことができます。有効な騒音低減対策を行うことが可能になると考えております。

参考文献

1) 清水康弘,近藤稔,川村淳也:主電動機騒音の音源と対策,鉄道総研報告,pp.27-32(2005.5)

2) 笹倉実,佐藤潔:平行カルダン方式歯車装置の振動放射音の解析,鉄道総研報告,pp.41-46(2012.3)

(車両制御技術研究部 動力システム 主任研究員 笹倉 実)

[研究&開発]新幹線用パンタグラフの開発における大型低騒音風洞の役割

1 はじめに

 1996年6月,滋賀県米原市( 当時は滋賀県坂田郡米原町)に鉄道総研の大型低騒音風洞が完成してから,はや16年が経過しました。1996年は東海道新幹線に300 系のぞみ号が毎時2 本運転されるようになった年であり,また,今日の新幹線最高速度記録である時速443kmが高速試験車300X により達成された年でもあります。以来16 年,新幹線の最高速度記録こそ更新されていませんが,新幹線各線区における平均走行速度は確実に向上し,国鉄時代とは一線を画した高速運転が実現しています。その背景には,騒音低減技術の着実な進化があります。この間,鉄道総研の大型低騒音風洞は常にその一翼を担ってきました。ここではパンタグラフの低騒音化について,大型低騒音風洞が果たしてきた役割について簡単にまとめてみます。

2 集電系音

 パンタグラフに起因する騒音,すなわち集電系音は複数の要因で発生する音が複合したものですが,そのなかで現在最も寄与の大きなものはパンタグラフ空力音です。
 空力音は,そのエネルギーが速度の6 乗に比例して増加するという性質があります。したがって,270km/h から約30km/h の速度向上を行うと,空力音のエネルギーは2 倍弱に増加します。空力音以外の騒音は,速度増加に対しこれほど急激なエネルギー増加を伴いません。そのため,高速になればなるほど空力音への対策が重要となるのです。空力音は,空気の非定常な運動により引き起こされますので,その低減には空気を極力乱さない部材形状の選択が重要です。

3 パンタグラフの空気力特性

 前章において,パンタグラフ空力音の低減には部材形状の選択が重要であると述べました。しかしながら,パンタグラフの部材形状を空力音のことだけ考えて決定することはできません。なぜなら,パンタグラフの空気力特性もまた,非常に重要だからです。
 一般に物体に作用する空気力は風速の2 乗に比例して増加します。これはパンタグラフについても同様です。そのため,パンタグラフの押上力は図1 に示す速度特性となるのが一般的です。しかしながら,パンタグラフ形状によっては,動押上力が速度とともに減少する可能性があります。この場合,高速走行時に離線が頻発し,しゅう動材料の損耗やアーク音の発生を誘引してしまいます。一方,動押上力が大き過ぎても問題が生じます。図2 は接触力が常に一定(空気力の増減がない)と仮定してトロリ線に生じる応力を簡単なモデルにより評価した例です。これより,速度の増加に応じてパンタグラフ点近傍におけるトロリ線の変形が大きくなるため,たとえ接触力が一定であってもトロリ線に作用する応力は速度に応じて増加することがわかります。空気力により動押上力が速度とともに増加すると,トロリ線応力の速度増加特性はさらに急峻となります。トロリ線の応力が許容値を超えると疲労破断に至るリスクが生じますので,動押上力にはおのずと上限があることがご理解頂けると思います。
 動押上力の適正値は,架線種別,パンタグラフや車両の諸元,走行速度などを勘案して決められますが,その許容範囲はあまり広くありません。そのため,パンタグラフの空気力特性を調整する作業は,パンタグラフのスケールを勘案すると非常にシビアな作業です。

  • 図1 パンタグラフの動押上力特性の例
    図1 パンタグラフの動押上力特性の例
  • 図2 動押上力が54N 一定の場合のトロリ線応力
    図2 動押上力が54N 一定の場合のトロリ線応力

4 大型低騒音風洞の役割

 以上述べたように,新幹線用パンタグラフの開発には,空力音の低減と適正な空気力特性を同時に満足できる形状を見出すことが求められます。最近では数値計算によるパンタグラフまわりの流れ場評価も可能となっていますが,空力音や空気力を精度よく,なおかつ効率的に評価する手段として風洞は非常に有用なツールであり,鉄道総研の大型低騒音風洞はパンタグラフ開発に大きく寄与してきました。
 大型低騒音風洞の特徴をひとことでいえば,「実物パンタグラフの空力音と空気力を,最大風速400km/h までの速度域で評価可能な風洞」であるといえます。ただし,新幹線用パンタグラフには碍子オオイなど整流用フェアリングと一体で使用されるものが多くあります。この場合,実物を組合せた試験を行うことは困難ですので,図3(a) に示すようにパンタグラフ単体で試験を行うか,あるいは図3(b) に示すように縮尺模型を用いた試験を行います。ただし,空力音の評価が不要な場合には,図3(c) のように実物のパンタグラフと碍子オオイを組み合わせた試験も可能です。このように,実物のパンタグラフを用いた風洞試験が可能であるということは,パンタグラフ開発において非常に大きなメリットとなります。
 また,一般的な風洞ではその暗騒音レベルが非常に大きく,供試体の空力音を精度よく評価することができませんが,大型低騒音風洞には暗騒音レベルを低減する様々な工夫がなされており,世界最高レベルの低騒音性能を有しています。さらに,その優れた低騒音性を活かすため,空力音源を可視化することができる各種装置を備えています。その一つがマイクロホンアレイです。マイクロホンアレイとは,複数のマイクロホンを空間に配置し,各マイクロホンの出力に対しフィルタリング処理を施すことによって音源の強度と位置を同定する装置です( 図4)。この装置により,空力音の低減が必要な部位を容易に見極めることができますので,効率のよい開発が可能となります。

  • 図3 パンタグラフ風洞試験の様子
    図3 パンタグラフ風洞試験の様子
  • 図4 マイクロホンアレイによる空力音源の可視化
    図4 マイクロホンアレイによる空力音源の可視化

5 おわりに

 これまでの技術開発により,パンタグラフの空力音はかなり低いレベルに達しています。そのため,これまでと同じ方針で空力音低減を進めても,空力音の大幅低減は難しい状況です。こうした状況では,新しい発想に基づいた低減手法を積極的に試みながら,これを実用的な対策として構築していくことが求められます。そのためにも,空力音の本質をよく理解することが重要であり,風洞試験の重要性はますます増すものと考えます。今後も鉄道総研が新幹線用パンタグラフの開発に寄与できるよう,研鑽を積み重ねて参りたいと思います。

(鉄道力学研究部 集電力学 室長 池田 充)

[リポート]国際会議Railways2012に参加して - in スペイン-

1 はじめに

 2012 年4 月18 日から20 日にかけて,第1 回鉄道技術国際会議(Railways2012)が,スペイン・カナリア諸島のラスパルマス・デ・グランカナリアで開催されました。この会議に参加してきましたので,概要を報告します。

2 会議の概要

 Railways2012 は,英国の出版社「Civil-Comp Press」が主催する,車両,軌道,構造物等のインフラ,エネルギー,環境,信号・通信など鉄道技術全般に関する国際会議です。今回が1 回目の新しい会議ですが,欧州各国を中心に,日本,韓国,中国,米国,オーストラリア,ブラジルなど25 カ国もの国から参加があり,3 つの会場において,205 件(招待講演12 件を含む)の口頭発表がありました(図1)。発表者のうち,大学関係者が半数近くに達し,学術的な内容が多い印象を受けました。日本からは,東京大学,東京理科大学,JR 東日本,JR 東海,JR 西日本,鉄道総研から計12 名の参加がありました。

  • 図1 会議の様子
    図1 会議の様子

3 発表の内容

 発表テーマとしては,車両システムのモデリング・シミュレーション,橋梁のダイナミクス,軌道の状態監視・メンテナンスに関するものが多い傾向でした。その他にも騒音や空力関系など,幅広い分野の研究発表がありました。ここでは,車両に関する話題として,高速化への取り組みと,アクティブ制御技術の発表について紹介します。

  • 図2 ドイツ航空宇宙センターで開発中のNGT 車両1)
    図2 ドイツ航空宇宙センターで開発中のNGT 車両1)
  • 図3 プラハ工科大学の操舵台車回転試験装置2)
    図3 プラハ工科大学の操舵台車回転試験装置2)

3.1 高速化への取り組み

 近年,欧州各国は,高速鉄道網の整備と,さらなる高速化に力を入れています。本会議が開催されたスペインでも,高速鉄道AVE の350km/h 化に向けた車両開発が進められています。一例として,ドイツ航空宇宙センターから次世代高速車両NGT(図2)の紹介がありました1)。NGT は,ICE に代わる最高速度400km/h を目指した総2階建ての車両です。昨年のWCRR やその他の国際会議で進捗状況が報告されており,今回は,車内デザインの開発状況について報告がありました。運行を想定しているパリ~ウィーン間は,現行車両で約11 時間かかるところを4 時間弱で結ぶことができるようになるそうです。
 高速化には,軌道への負荷や車輪摩耗の低減対策が重要になります。これに資する操舵(車輪のステアリング)技術に関する基調講演が,東大・須田義大教授からなされ,参加者の強い関心を得ていました。プラハ工科大学では,操舵台車の回転試験装置(図3)が開発され,曲線走行を模擬した台上試験が可能になるとのことです2)。前述のNGT も,1 軸の独立車輪台車(図2)でアクティブ操舵制御を行います。
 欧州のほか,中国からの精力的な発表が目立ちました。主なものは,車両試験台を用いただ行動抑制に関する研究です。自国での鉄道車両の研究・開発を推進していこうという姿勢が強く感じられました。

3.2 アクティブ制御技術

 高速化が進むと,車両の振動対策が重要になります。鉄道車両の振動制御技術の実用化は,実は新幹線を始めとした日本が世界をリードしています。本会議では,ミラノ工科大学のS. Bruni 教授から,アクティブ制御技術の基調講演がありました。その中には,新幹線のアクティブ動揺防止制御や,空気ばね車体傾斜(アクティブロール制御と説明されていました)も含まれていました。Bruni 教授によると,車両の2次ばね系(車体~台車間のばね系)のアクティブ制御技術はすでに実用化が進んでおり,今後は,1 次ばね系(台車~軸箱間のばね系)制御の期待が大きいとのことでした。また,パンタグラフの押し上げ力や位置制御などのアクティブ制御も各国で研究が進められており,非常に強い市場が期待できるということです。

4 欧州の強制振子車両

 会議の終了後,筆者が取り組んでいる振子車両の情報収集のため,2種類の車両に乗車しました。欧州の振子車両は,日本のような遠心力を利用した自然振子方式ではなく,強大なアクチュエータで車体を傾ける強制振子方式が採用されています。その乗り心地を体感すべく,最初にペンドリーノ型車両(ETR610,ミラノ→ローザンヌ)(図4)に乗車しました。ペンドリーノは欧州標準とも言える代表的な振子車両です。乗車した区間はそれほど急曲線も多くなく,車窓の美しい景色と相まって良好な乗り心地でした。次に,スイスの振子車両ICN(ジュネーブ→チューリッヒ)(図5)に乗車しました。ICNは,台車の中央に1個だけ配置された空気ばねで車体を支持し,ロール荷重はアンチローリング装置で受け持つという世界的に見ても特殊な構造を持つ振子車両です。ジュネーブ近郊の湖畔地域は非常にカーブが多く,最大8度の振子性能を存分に発揮しているように感じました。イタリアもスイスも軌道の整備状態が非常に良く,不快な振動はほとんど感じられません。一方,曲線が連続する区間では,大きな振子角度と相まって,景色が大きく上下に動くことが気になりました。また,振子してカーブを走行する際には,遠心加速度を完全に相殺する設定とはしていないようで,比較的大きな横Gを感じました。そのためか,席を立って移動する際には,若干の歩きにくさを感じました。

  • 図4 ペンドリーノ型振子車両(ETR610)
    図4 ペンドリーノ型振子車両(ETR610)
  • 図5 スイス国鉄の振子車両ICN
    図5 スイス国鉄の振子車両ICN

6 おわりに

 会議が行われたグラン・カナリア島は,アフリカ北西部のモロッコと西サハラの沖合約100km のところにあり,温暖な気候で欧州の人々の観光保養地として親しまれています(図6)。かつてはコロンブスが航海に出かける際に何度も立ち寄った記録が残されています。鉄道のない島ではありますが,このような魅力的な場所であったため,多くの研究者が集まり,有意義な意見交換,懇親を図ることができました。次回は,2014 年4 月にフランスのコルシカ島での開催が予定されています。

  • 図6 ラスパルマス・デ・グランカナリア
    図6 ラスパルマス・デ・グランカナリア

参考文献

1) J. Winter, “Novel Rail Vehicle Concepts for a High Speed Train: The Next Generaiotn Train”, Proceedings of the First Internaitonal Conference on Railway Technology (Railways2012).

2) J. Kalivoda, “Roller Rig Implementation of Active Wheelset Steering”,Proceedings of the First Internaitonal Conference on Railway Technology (Railways2012).

(車両構造技術研究部 走り装置 主任研究員 風戸 昭人)