[クローズアップ] 基本計画 RESEARCH2020 と車両技術

 鉄道総研は,2015年度から5年間の基本計画 RESEARCH2020 に則って研究開発事業を進めています。2015年度も残りわずかですが,本稿では RESEARCH2020 で取り組んでいく車両関連の研究開発をご紹介します。

 RESEARCH2020 では,安全性の向上,低コスト化,環境との調和,利便性の向上の4つを「研究開発の方向」に定め,効率的に研究開発を進めるために3つの「研究開発の柱」を置いて取り組みます(図1)。

  • 図1 研究開発の方向と柱
    図1 研究開発の方向と柱

 鉄道の将来に向けた研究開発は,十数年先の実用化を念頭に設定するもので,鉄道事業者のニーズに応え,先行的な技術開発で実用化したときの波及効果が大きい課題を厳選して行います(図2)。車両関連の課題には,「鉄道利用者の安全性向上」として,衝突安全性の評価手法,衝突安全性に関する車両設計指針,「列車走行の安全性向上」として,乗り上がり脱線評価手法, 脱線しにくい台車の開発,「エネルギーネットワークによる省エネルギー化」として,消費エネルギー予測に基づく運転用電力制御手法,高機能運転電力シミュレータによる省エネ効果の評価などに取り組みます。また,新幹線の速度向上を大課題の一つに取り上げ,速度向上での基盤技術の開発として,減速度制御則,耐熱ディスク・ライニング,高出力キャリパ,速度向上対応空力ブレーキ,リニアレールブレーキ,パンタグラフの揚力推定・補償手法,速度向上対応パンタグラフなどに取り組みます。これら実物の研究開発に並行し,シミュレーション技術の研究開発を強力に推進し,車両詳細振動解析,架線・パンタグラフ,一台車モデルによる転がり接触解析などをコンピュータ上のシミュレータとして実現することを目指します。

  • 図2 鉄道の将来に向けた研究開発
    図2 鉄道の将来に向けた研究開発

 一方,鉄道の将来に向けた研究開発に加え,実用的な成果を適時,的確に提供するための「実用的な技術開発」,革新的な技術の源泉と鉄道の諸問題の解決のための「鉄道の基礎研究」にも継続して取り組みます。

 実用的な技術開発では,JR各社からの具体的な指定を受け現場での問題解決のための様々な技術開発や,鉄道総研がニーズを把握し自主的に行う技術開発に取り組みます。鉄道の基礎研究では,列車走行現象の解明,劣化損傷メカニズムや沿線環境の改善につながる課題に取り組みます(図1)。

 これらに加え,研究開発活動に直結した独創的な試験設備として,車両関連ではパンタグラフ総合試験装置と台車・輪軸載荷試験装置を新設する計画です。

 RESEARCH2020 では鉄道のイノベーションを目指したダイナミックな研究開発を進めてまいりますので,各位のご指導,ご協力をいただければ幸いです。

(研究開発推進部 部長 久保 俊一)


[研究&開発] 台車枠溶接部の疲労強度評価方法

1 はじめに

 台車枠の損傷は脱線につながる可能性があり,損傷防止は重要な課題です。過去の損傷では,台車枠の溶接部からの疲労破壊が多くありました。今後の損傷防止のためには,現在の疲労強度評価方法の根拠を確認し,新しい方法の検討が必要になると考えています。

 ここでは,台車枠に用いられている溶接部の疲労強度評価方法と今後の展望について述べます。

2 従来の疲労強度評価方法

 台車枠の疲労強度評価にはJIS E 4207:2004「鉄道車両-台車-台車枠設計通則」(以下,設計通則)が使われています。設計通則は,台車枠の設計に対する共通的な条件を規定しており,JIS E 4208:2004「鉄道車両-台車-荷重試験方法」(以下,荷重試験方法)とともに,日本国内で広く用いられています。以下にその課題を示します。

 まず,これらによる強度評価では,強度設計条件として,静荷重による平均応力と動荷重による変動応力を求め,応力限界図(図1)の限界内を許容応力としています。応力限界図による強度評価はわかりやすいことに加え,1984年の制定以来,日本国内の多くの台車枠の強度評価に用いられてきた実績があります。ただし,この方法では許容限界内にあるかどうか,つまり,台車枠として○か×かの評価であり,使用期間を考慮したような寿命評価はできません。

 次に,荷重試験方法によれば,応力限界図に用いる応力は,主に長さ5mmのひずみゲージで測定することになっています。特に,溶接止端部(非仕上げ部)の応力測定では,半径3mm程度の曲面に仕上げて,ひずみゲージを貼付します(図2)。これは,応力集中を含む局所的な応力を強度評価の対象とすることになり,他分野や海外と比べても,特殊な評価方法です。

    • 図1 応力限界図 (JIS E4207 より作成)
      図1 応力限界図 (JIS E4207 より作成)
    • 図2 ひずみゲージの貼付位置の例(JIS E4208 より作成)
      図2 ひずみゲージの貼付位置の例(JIS E4208 より作成)

 また, 設計通則に示されている材料はSM400,SM490等であり,これらの許容応力のみが示されています。一方,最近の台車枠ではいろいろな材料を使うことが考えられていますが,例示されていない新材料等を適用して台車枠を設計するためには,それぞれの許容応力を求めておく必要があります。

 さらに,溶接止端部(非仕上げ部)の許容応力については,その根拠が明確ではありません。

 そこで,本研究では非仕上げ部の許容応力を検証することから始めました。

3 応力限界図の検証

 疲労強度評価は,試験片に一定繰返し応力振幅Sを与え,破断に至るまでの繰返し数Nとの関係であるS-N曲線を求め,これに基づいて行うことが一般的です。一方,すでに述べたように,応力限界図による溶接止端部(非仕上げ部)の強度評価においては,半径3mm程度に仕上げた溶接止端部の応力をひずみゲージにより測定していますので,その応力振幅Sを用いたひずみゲージ応力S-N曲線を求めることにより,応力限界図の許容応力の根拠や応力限界図の有効性を示すことができると考えました。

 そこで,台車枠溶接継手構造を模擬した小型疲労試験片を製作し,統計的疲労試験方法の14S-N試験法に準拠して疲労試験を行いました。本試験では,当該試験片の疲労特性を得るため,疲労破壊が起こらないとされる疲労限度を求めるよりも,S-N曲線の傾斜部(有限寿命領域)を決定することを目的としました。

 用いた試験片はSM400材の荷重伝達十字すみ肉溶接継手(図3)で,溶接品質,脚長,溶接止端部形状等は実台車枠と同等のものです。試験片の4箇所の溶接止端部の一部を半径3mmに仕上げ,溶接止端部がひずみゲージ中央になるように貼付しました(図4)。

 疲労試験結果を図5に示します。図中の点線がひずみゲージ応力による非仕上げ部のS-N曲線であり,破壊確率は50%を示しています。図5より,200万回強度は96MPaとなりました。大雑把に言ってしまうと,破壊確率50%は,すべての台車枠に対し,半数の台車枠にき裂が発生することを意味しており,とても恐ろしいことです。

    • 図3 溶接継手小型疲労試験片
      図3 溶接継手小型疲労試験片

      図5 疲労試験結果
      図5 疲労試験結果
    • 図4 溶接止端部に貼付したひずみゲージ
      図4 溶接止端部に貼付したひずみゲージ

4 今後の展望 -応力限界図の作成方法および寿命評価方法の提案-

 設計通則における溶接止端部の許容応力の根拠は明確にされていませんでしたが,この許容応力はひずみゲージ応力S-N曲線の200万回強度の75%程度であったことがわかりました。

 したがって,新材料等を適用する場合に溶接止端部(非仕上げ部)の許容応力を簡易的に求めるには,当該材料の溶接継手疲労試験片に対し,ひずみゲージ応力S-N曲線の傾斜部を求め,200万回強度の75%等を許容応力とすればよいのではないかと考えています。これにより,応力限界図の現在までの膨大な評価適用例と矛盾することなく,新材料等の適用も可能になります。

 また,設計通則の応力限界図は,許容応力による疲労限度設計とも考えられ,過去の実績から,累積走行距離500万km程度以上の使用に耐えることが明らかになっています。一方,他分野では疲労設計線を用いた寿命評価の方法もあることから,今後,軽量化等を検討する場合に,疲労限度設計から寿命評価(損傷許容設計)に移行する可能性もあります。その場合には,本研究で検討したようなひずみゲージ応力S-N曲線の75%線や統計的な考え方による破壊確率曲線等を疲労設計線(図5)として利用できると考えています。

5 おわりに

 台車枠に用いられている溶接部の疲労強度評価方法について述べました。現状を理解することで,次のステップへ進む準備ができました。今後も,台車枠の強度上の安全性向上に貢献していきたいと考えています。

(車両構造技術研究部 車両強度 研究室長 八木 毅)


[研究&開発] 車両単位でのブレーキ力推定手法

1 はじめに

 ブレーキは列車を減速・停止させる極めて重要な装置であり,その性能を十分に把握しておく必要があります。ブレーキ性能は列車の停止距離や減速度によって評価されることが多く,特に在来線では,営業最高速度からの非常ブレーキ扱いの停止距離を評価することが一般的です。

 一方で,停止距離や減速度が示しているのは編成全体のブレーキ性能であり,編成内各車両のブレーキ性能を切り分けて把握することはできません。例えば,編成内各車両のブレーキ性能が均等に低下した場合と,ある車両のブレーキ性能のみが極端に低下した場合とを比較したとき,両者で停止距離が等しければその違いを検出することはできません。編成内では,異なる車両形式や基礎ブレーキ装置の混在,空気ブレーキと電気ブレーキの協調等,性質の異なる装置や動作が複合しています。多様なブレーキ使用状況が想定されるなかで,実際に各装置が発揮しているブレーキ性能を把握することは,ブレーキシステムの機能や信頼性を高める一助となります。

 編成内のブレーキ性能を部分的に把握する取り組みとして,基礎ブレーキ装置の制輪子吊りに加わる力を計測する手法1)や,車体と台車を接続する一本リンクに加わる力から台車あたりのブレーキ力を求める手法2)が試みられています。本稿では,車両間の連結器を力センサとして利用し,そこに働く力(以後,自連力と呼ぶ)と車両の加速度を用いて,編成内における任意の車両のブレーキ力を推定する手法3)を説明し,貨物列車に適用した際の現車走行試験の結果について紹介します。

2 編成内の各車両に働くブレーキ力

 n 両で組成された列車において,前後方向の運動のみを考慮した場合の,減速中の各車両に働く力について考えます。減速中,編成内の各車両は個々にブレーキ力を発揮し,自車を減速させる働きをするとともに,緩衝器と接続された連結器を介して隣接する車両と力を伝達し合います。これは,各車両がばねおよびダンパ要素で接続された多自由度系のモデルで表されます(表1および図1(a))。ここで解析的な検討を試みると,広く用いられているゴム緩衝器の緩衝ゴムでは変位とともに剛性が漸増する非線形性を持つため,それを記述する詳細なモデルと数値解析が必要となります。

    • 表1 各記号の意味
      表1 各記号の意味
    • 図1 各車両に働く力の模式図
      図1 各車両に働く力の模式図

 そこで,次のような前提に基づき,モデルの簡素化を考えます。もし各車両に働くブレーキ力が定常値をもつなら(このとき各車両の定常値には差があってもよい),一定時間が経過すると各車両の相対運動が収束しそれぞれの加速度は等しくなるはずです。このとき,編成全体の加速度をαとおき,さらに隣接する車両間で伝達される自連力をR とおくと,各車両のブレーキ力は図1(b)のように表すことができます。

 さらに,図1(c)のように先頭車を機関車,後続を貨車j 両とする貨物列車を考えます。機関車と貨車の記号を区別するため,機関車の質量とブレーキ力をそれぞれMF に改めると式(1),(2) のように表せます。

  • 式1,2

ここで,添字ij は1 ≦ ij を満たす自然数であり,式(1),(2)は上から順に先頭車両,中間車両,後尾車両を意味しています。なお,加速度αには減速度として負の値が入ります。また,すべての貨車の式について総和をとり,Σf を貨車の合計ブレーキ力,Σm を貨車の合計質量とすると式(3)が得られます。

  • 式3

以上より,機関車のブレーキ力は,その質量と加速度,隣接する一つの自連力によって求まり,貨車の合計ブレーキ力も同様に求めることができます。また,中間車両のブレーキ力は,その車両の質量と加速度および隣接する前後の自連力から求められます。

3 現車試験による検証

3. 1 試験方法

 機関車と貨車17両からなる貨物列車に考案手法を適用し現車走行試験を行いました。試験列車の概要を図2に示します。各貨車の質量はデッドウェイトを積載することで積車状態となるように調整し,自連力はあらかじめひずみゲージを貼付して荷重較正した連結器を用いて測定しました。速度は機関車の車輪回転数から算出し,加速度は機関車と貨車1号車(編成内2号車)に加速度センサを設置して測定しました。

  • 図2 試験列車の概要
    図2 試験列車の概要

3. 2 推定値と理論値の比較

 図2の測定項目から,機関車,貨車17両合計,貨車1号車単体のブレーキ力をそれぞれ推定することができます。非常ブレーキ扱いをした際の推定ブレーキ力と理論値を図3に示します。ここで理論値とは設計上想定されるブレーキ力を表したもので,1両あたりのブレーキシリンダ個数,テコ比,機械効率,ブレーキシリンダ面積,BC圧力,車輪・制輪子間の摩擦係数から算出されます。機械効率は事前の調査結果から求めた値とし,車輪・制輪子間の摩擦係数は一般に速度,押付力,温度,乾湿条件等に依存する特性を持つため,速度の関数として近似しました。

  • 図3 推定値と理論値の比較
    図3 推定値と理論値の比較

 ブレーキ時間の経過にともなって上昇する理論値に対し,推定ブレーキ力は振動的な挙動を示すものの,平均的には理論値に沿って推移する良好な結果が得られました。また,車両の組成を変えて試験した場合も妥当な結果が得られており,本手法は編成内のブレーキ力を車両単位で切り分けて評価可能であることを確認できました。

4 おわりに

 車両間の相対運動が収束した状態を前提とすることで,編成内の各車両に働くブレーキ力を自連力と加速度によって推定する手法を考案し,貨物列車を用いた現車試験に適用した結果をご紹介しました。この手法は,編成内の任意の車両のブレーキ力を妥当な精度で評価できることが特長です。これにより,編成内における車両形式毎のブレーキ性能やブレーキ力の分布などを把握する活用法が考えられます。今後は,計測作業の省力化や推定精度の向上等の課題に取り組み,より使いやすい手法となるよう検討を行う予定です。

参考文献

1)内田清五,小原孝則:粘着力有効利用による新幹線高速化のためのブレーキ制御,鉄道総研報告,Vol.7, No.3, pp.41-48,1993

2)嵯峨信一,宮部実,川村淳也,杉田裕伸,竹間克俊:一本リンク牽引力を用いたブレーキ性能評価手法,鉄道総研報告,Vol.29, No.2, pp.23-28, 2015

3)土方大輔:編成における任意車両群のブレーキ力推定手法,日本機械学会,第23 回交通・物流部門大会講演論文集,pp.111-114, 2014

(車両制御技術研究部 ブレーキ制御 研究員 土方 大輔)


[研究&開発] 圧電ゴムによる側引戸戸先の異物挟み込み検知

1 はじめに

 当研究室では,ゴムやプラスチックなどの各種高分子材料の研究・開発に取り組んでいます。材料の高機能化は,研究・開発の重要な課題の一つであり,柔軟性や成型加工性の良さを活かすことで,従来の材料では適用できなかった箇所や様々な用途において,高分子材料の新たな適用の可能性が期待されます。

 こうした材料開発の一つの例が圧電ゴムです。ここでは,異物を検知するセンサへの圧電ゴムの適用に向けた取組みについて紹介します。

2 圧電ゴム

 圧電ゴムは,圧電性能を付加したゴムです。圧電性能とは,圧電材料に加わった機械エネルギー(ひずみや力)の一部を電気エネルギー(電圧や電流)に変換でき,その逆に,圧電材料に加わった電気エネルギーの一部を機械エネルギーにも変換できる性能です(図1)。

  • 図1 圧電材料の概念図
    図1 圧電材料の概念図

 圧電材料として最も一般的な材料は,圧電セラミックスと言われる材料です。圧電セラミックスは,圧電材料の中でもエネルギーの変換効率が高いことから,加速度センサや超音波振動子などに多く利用されています。一方,圧電セラミックスは,衝撃や大きな変形によって割れてしまうほか,大面積や複雑な形状への成形が難しいなどの課題があります。そのため,適用箇所も限定されてしまいます。このような圧電セラミックスの課題を克服し,幅広い場所での利用が期待される材料が圧電ゴムです。

 圧電ゴムは,ゴム材中に圧電セラミックス粒子を混合した材料です。圧電性能は圧電セラミックスに劣りますが,ゴム材の柔軟性および成形性の良さと圧電性能とを併せ持っています(図2)。そのため,衝撃的な力や大きな変形が生じる箇所や,大面積や複雑な形状での利用が求められる箇所においてセンサなどへの利用が期待されます。

  • 図2 圧電ゴムの外観
    図2 圧電ゴムの外観

 筆者らは,圧電ゴムをセンサとして利用する取組みの一例として,側引戸戸先における異物の挟み込み検知に取り組んでいます。

3 圧電ゴムによる側引戸戸先での異物検知

3. 1 圧電ゴムを内部に設置した戸先ゴム

 側引戸が閉じる際に荷物や指先などの異物が側引戸戸先に挟み込まれることがあります。挟み込まれた異物が大きければ車両に搭載されている異物検知システムで挟み込みを検知できますが,異物が小さいと挟み込みの検知が困難な場合があります。そこで,現在の異物検知システムでは検知が困難な大きさの異物を検知するセンサとして,圧電ゴムの利用を検討しました。

 側引戸戸先には,挟み込みの緩衝材として戸先ゴムが利用されています。さらに,挟み込みによって発生する力を低減させるため,多くの場合,内部が中空となっています。戸先ゴムの内部の形状にはいくつかの種類がありますが,図3左図に示すような形状のものが一般的です。そこで,圧電ゴムを戸先ゴム内に設置し(図3右図),異物の挟み込みによって戸先ゴムが圧電ゴムに接触した際に発生する力を電気信号に変換する仕組みとしました。ここで,戸先ゴム内部の形状および設置状態を考慮すると,圧電ゴムに求められる形状は,長さ約1500mm,幅約5mm,厚さ約1mmです。圧電セラミックスでは,このような形状で成形することが困難ですが,圧電ゴムであれば,容易にこのような形状に成形することができます。

  • 図3 戸先ゴム内部
    図3 戸先ゴム内部

3. 2 異物検知の評価試験

 圧電ゴムによる異物の挟み込み検知性能は,鉄道総研所有の試験車体を用いて評価しました。試験の状況を図4 に示します。

  • 図4 所内試験の状況
    図4 所内試験の状況

 既存の異物検知システムと併用することによって,既存のシステムでは検知できない大きさの異物のみを検知対象とするため,圧電ゴムを設置する戸先ゴムは一方のみとすることができます。

 圧電ゴムを内部に設置した戸先ゴムに加え,圧電ゴムで異物を検知した際に,側引戸を自動で再開させる制御装置も製作しました。制御装置は,車両からの戸閉信号を受信してから数秒を非検知時間,その後の数秒を検知時間とし,検知時間内に圧電ゴムから規定値以上の電気信号を受信した場合に側引戸を再開させる信号を送信します。検知時間を設けたのは,既存の異物検知システムに支障しないようにするためです。ただし,圧電ゴムから発生する電気信号は微弱であるため,信号を増幅するチャージアンプを介する必要があります。

 試験結果の例として,直径5mmの異物を下端部から1200mmの位置に挟み込ませた場合の結果を図5に示します。ここでは,非検知時間を3.2s,検知時間を2.2sに設定しました。さらに,チャージアンプの設定は250pC/V,異物検知の規定値は8Vに設定しました。

  • 図5 異物検知の評価試験結果例
    図5 異物検知の評価試験結果例

 異物が無い場合には,検知信号が規定値に達しませんが,直径5mmの異物を挟み込んだ場合には規定値以上の信号が発生し,異物として検知することができました。ただし,直径5mmの異物の場合は,異物が無い場合との差が小さく,誤検知の可能性もあることや,5mm程度であれば引き抜くことも可能と考えられるため,実用としては,約10mm以上の異物が対象になると考えられます。直径10mm程度でも,従来の異物検知システムでは,検知が困難な大きさです。

4 まとめ

 高機能な高分子材料として圧電ゴムに着目し,これを側引戸戸先に利用される戸先ゴムに内蔵した異物の挟み込み検知センサとしての適用を検討しました。試験車体において異物の挟み込み検知の評価試験を実施した結果,従来の異物検知システムでは検知が困難であった小さい異物の挟み込みの検知が可能であることがわかりました。

 今後も,戸先ゴムへの圧電ゴム適用に向けた取組みを進めるとともに,側引戸戸先以外の箇所での圧電ゴムの適用可能性についても検討を進める予定です。

(材料技術研究部 防振材料 副主任研究員 間々田 祥吾)