[クローズアップ]新たな30年に向け,高知能な鉄道に向け新たな車両を創造しよう

 謹んで新年のお慶びを申し上げます。鉄道総研は昨年12月に創立30周年を迎えることができました。鉄道事業者をはじめとする鉄道車両の開発,設計,製作,保守等に関わる皆様の日ごろのご支援に感謝いたします。当所は本年も「鉄道のイノベーションを目指すダイナミックな研究開発,総合力の発揮,信頼される活動」などを方針として研究開発を進めます。

 さて,車両の役割は,運輸,軌道,電力,構造物,列車制御,サービスなどの個別システムと協調して,お客様や物資を安全に約束された時間で快適な輸送を提供することです。これを念頭に,鉄道総研はこれまで鉄道事業者と協力し,セミアクティブサスペンション,上下動制振機構,トンネル微気圧波車両対策,車体傾斜制御,車輪滑走制御,電食防止軸受けを始めとする多くの実用成果を世に出してきました。新たな技術の開発に取り組むにあたって,安全性,信頼性,保守性,経済性などがクリアされた結果と認識しています。

 今,技術トレンドの大きな変化として,モニタリングやセンシングによる現象のデジタル化や情報処理とIoTさらにはAI(人工知能)を実装する高度なシステムを創造する動きが顕著になりました。これらのシステムはネットワークという知的情報網とリンクされて想像を超える機能を発揮させることになるでしょう。また,AIが導入されるシステムとそれらを扱う人間の役割と責任について真摯に考えることが必要になってきます。

 この機に是非,鉄道車両にICT等先端技術の導入を進めましょう。一機関でなく事業者,メーカー等がベクトルを合わせて,各々が創造性を発揮するのです。取り組むべき車両技術のイメージを列挙してみましょう。例えば,鉄道車両の地震時の安全走行,脱線しない車両,耐横風安全,耐衝突安全,耐火災安全等の性能向上,燃料電池電源・バッテリー駆動車両,電力供給ネットによる省エネ自動運転,さらに軌道,電車線を劣化させない車両,故障に強靭な車両,軽量・低空力音車両,など多くの課題が見つかります。さらに,営業車両による自律的な進路制御や軌道,構造物,電車線などの状態監視機能を付加することにより,オペレーションや保守の軽減,並びにトラブルの回避に役に立たせることができます。

 海外においても,フランス国鉄SNCFではTECH4RAILと名付けた鉄道システムのデジタル化,AI導入プロジェクトを立ち上げて具体的な検討に入り,ドイツ鉄道技術会社DBSTが軸となり,ドイツ鉄道DBへ適用するための同様の検討を進めています。

 私たちは,最先端技術を導入した新たな車両を開発して,それらを系統ごとの個別情報ネットワークとリンクされた鉄道情報ネットワークシステムに組み込むことにより,信頼性,稼働性,保守性,安全性を高めた知能化された鉄道を形成することを目指そうではありませんか。

(理事長  熊谷 則道)

[研究&開発]センタリングシリンダによる左右乗り心地の向上

1.はじめに

 良好な乗り心地を確保しながら曲線通過速度の向上を実現するために,車体傾斜装置を有する車両が実用化されています。傾斜機構には従来は振子式が用いられてきましたが,近年では,台車構造を簡素化できる空気ばね式が導入される場合があります。しかし,空気ばね式により振子式と同等の曲線通過速度を実現しようとすると,振子式に比べて曲線走行時の車体左右(まくらぎ方向)移動量が大きく,台車枠に設けられている左右動ストッパに車体が接触(図1)する頻度が高まり乗り心地が低下します1)。この課題解決のために,車体左右変位を抑制するアクチュエータを適用する例について紹介します。

  • 図1 車体傾斜方式と左右動ストッパ当たり
    図1 車体傾斜方式と左右動ストッパ当たり

2.左右動ストッパ当たり

 鉄道車両には,車体が左右方向に変位したときにも車両限界の範囲内にとどまるように,車体と台車間に左右動ストッパが設けられています。通常,台車側にストッパゴムが設けられ,車体が接触した際の緩衝が図られており,車体が中立位置にあるとき,ストッパゴムと車体の間には左右方向に10~30mm程度の隙間が設けられています。このため,直線走行中にストッパゴムと車体が接触することはありませんが,分岐器通過時や曲線区間高速走行時に接触することがあります。これを「左右動ストッパ当たり」と呼びます。曲線を走行する際にストッパゴムへの接触が継続すると,ストッパゴムが台車の振動を車体に伝達する要素として作用し,レール継ぎ目や踏切などの軌道変位に由来する台車振動が車体に伝達されることで乗り心地が低下します。左右動ストッパは,過大な車体左右変位を制限し,車体が車両限界内にとどまることを担保する装置であるため,ストッパゴムと車体の間の隙間を,乗り心地に配慮して過大に設定することはできません。左右動ストッパ当たりによる乗り心地の低下を防ぐためには,車体を中立位置近傍に保持して車体が左右動ストッパに接触しないようにする必要があります。

3.センタリングシリンダ

 曲線走行中の車体を中立位置近傍に保持(センタリング制御)し,左右動ストッパへの接触を軽減するためのアクチュエータを「センタリングシリンダ2)」と呼びます。センタリングシリンダは,その一端を車体に,他端を台車枠に結合するよう左右動ダンパと並列に配置し,台車に対する車体の左右相対変位に応じて反力を発生することで,曲線走行時の車体左右変位を抑制します。なお,直線区間走行時などに不要な反力の発生を避けるため,中立位置近傍における反力は小さく,また,台車振動の影響を避けるため,高い周波数で動作した場合の発生力も小さく設計しています。反力発生源には空気を用いており,図2に示すように,シリンダの給気ポートには微小絞りを介して圧縮空気が常時供給され,ピストン変位に応じて排気ポートの開閉を行うことで反力を制御します。直線区間を走行している場合や,曲線半径の大きな(緩い)曲線を走行している場合のようにピストンが中立位置近傍にあるとき(図2(B))は,ヘッド側とロッド側の両シリンダ室の排気ポートを連通させ,これと同時に,微小絞りを介して大気へ開放することで反力の発生を抑えます。一方,半径の小さな曲線を高速走行している場合のように,遠心力による車体左右変位が大きくなり,例えばピストンが縮み側に変位したとき(図2(A))は,ヘッド側シリンダ室の排気ポートを閉じ,かつ,ロッド側シリンダ室の排気ポートを大きく開口して両側のシリンダ室の差圧を大きくし,反力を発生させます。ピストンが伸び側に変位したとき(図2(C))は,開閉するポートが逆になり同様に反力を発生させます。これら排気ポートなどの開閉はピストンロッド部に構成した機械式制御弁により,ピストン変位に応じて行う仕組みとなっており,センサや電気的な制御は不要で,圧縮空気の供給のみで動作します。

  • 図2 センタリングシリンダの機構と動作原理
    図2 センタリングシリンダの機構と動作原理

4.走行試験による性能評価

4.1 車体の左右方向移動量の抑制

 供試車両にセンタリングシリンダを仮設し(図3),走行試験を行いました。なお,比較のための非制御条件での測定時には,シリンダへの空気供給を停止しました。台車に対する車体の左右変位を図4に示します。これは,半径300mの曲線を速度85km/h(本則+20km/h,カント不足量Cd97mm)にて走行した結果であり,センタリングシリンダを用いない場合に比べて車体左右変位を10mm程度抑制することができました。一般に,左右動ストッパに用いられるストッパゴムの内部には空隙があるため,車体中心ピンが左右動ストッパゴムに接触してから空隙が完全に潰されるまでの間は比較的柔らかく,空隙が完全に潰されてからは硬くなる特性を持っています。曲線走行中に車体を完全な中立位置に保つことができなくても,センタリングシリンダを用いることで,車体の左右変位を抑制し,左右動ストッパゴムの特性が柔らかい範囲内における接触にとどめることができれば,左右動ストッパゴムは大きな反力を発生しないため乗り心地の低下を防ぐことができます。

  • 図3 センタリングシリンダ仮設状況
    図3 センタリングシリンダ仮設状況
  • 図4 車体左右変位の抑制状況
    図4 車体左右変位の抑制状況

4.2 振動乗り心地の改善

 図5は,半径300mの曲線が多く存在する区間における短時間左右乗り心地レベルLT値です。短時間LT値とは,特定の短い区間の振動乗り心地を評価するために通常のLT値とは異なり評価時間を1分以下としたもので,ここでは評価時間を30秒としています。図5に示すように曲線が連続する区間において,センタリング制御を行った場合の短時間LT値は非制御時に比べて2~4dB程度低く抑えられ,センタリング制御による左右乗り心地改善効果が確認できました。

  • 図5  短時間左右乗り心地レベル(L<sub>T</sub>)の改善状況
    図5  短時間左右乗り心地レベル(LT)の改善状況

5.おわりに

 今回ご紹介したセンタリングシリンダは,左右乗り心地の改善効果が認められ,既に営業車両に採用されています。今後は,より厳しい走行条件についての適用を見据え,センタリングシリンダのさらなる性能向上に取り組んでいきます。

 なお、センタリングシリンダの開発にご尽力頂きましたピー・エス・シー株式会社の各位に謝意を表します。

参考文献

1)菅原重光ほか:空気ばねを利用した車体傾斜制御の最適化 空気ばね車体傾斜による曲線通過速度向上,第36回鉄道における国際サイバネティクス利用国内シンポジウム論文集,pp.168‒171,1999

2)ピー・エス・シー株式会社,住友金属工業株式会社:車体支持装置,特許第4839154 号,2011

(車両構造技術研究部 走り装置 副主任研究員  石栗 航太郎)

[解説]列車の走行抵抗を測定する

1.はじめに

 列車が平坦な直線の明かり区間を走行する際に,列車全体に働く,走行を妨げる向きの抵抗をまとめて走行抵抗と呼びます1)。図1に青矢印で示すように,走行抵抗としてまずは列車各部に働く空気抵抗が挙げられます。空気抵抗は列車速度の2乗で大きくなるため,高速列車では走行抵抗に対し空気抵抗の占める割合が大きくなります。また,新幹線電車のように編成内の車両数の多い列車では,先頭部ではなく車体側面もしくは車体間に働く空気抵抗が,列車全体の空気抵抗の大半を占めます。

 図1に赤矢印で示しているのは,列車各部に働く摩擦抵抗です。例えばレール/車輪間や軸受,歯車部等では,輪軸の回転を妨げる向きに摩擦抵抗が発生します。これら摩擦抵抗全体を総称して機械抵抗と呼びます。編成質量が大きいほど機械抵抗は大きくなるため,同じ列車でも空車と満車では値が異なります。一方,空気抵抗は編成質量の影響を受けず,車両形状で支配的に決まります。

 このように,空気抵抗と機械抵抗からなる走行抵抗は極めて複雑な現象ですが,過去の試験結果から式(1)に示すような列車速度の2次多項式で近似できることがわかっています。係数a,b,cは主に列車と線区で決まる係数であり,走行抵抗を求めることは,これら係数の値を求めることに等しくなります。



  F=av2+bv+c    (1)



 ここで

  F:走行抵抗[kN]  v:列車速度[km/h]  a,b,c:2次多項式の係数



 また,列車が勾配や曲線,トンネルを走行する場合には,走行抵抗の他に勾配抵抗,曲線抵抗,トンネル抵抗が加わります。走行抵抗にこれらの抵抗を加えたものは列車抵抗と呼ばれます。

  • 図1 列車に働く走行抵抗のイメージ
    図1 列車に働く走行抵抗のイメージ

2.走行抵抗を測定する目的

 近年,各鉄道事業者において,電車の消費電力量削減に対する取り組みが活発化してきています。走行抵抗によるエネルギー損失が電車の消費電力量に占める割合は高く2),消費電力量を削減するためには走行抵抗を小さくする(例えば形状変更による空気抵抗の低減)ことが重要です。空気抵抗低減策を施した場合,走行抵抗が小さくなったことを現車の測定試験で確認することが望まれます。空気抵抗低減効果が大きい場合は問題ないですが,数%の微小な改善効果を確認したい場合,それ相応の精度で測定しなければなりません。

 また,電車の構造を変更するのではなく,運転方法を見直すことで省エネ効果を得ることもでき,そのような運転方法を数値シミュレーションで探索するアルゴリズムも研究されています。しかし,数値シミュレーションの精度は計算に用いる走行抵抗の影響を受けるため,高精度なシミュレーションを実施するためには,当該列車の走行抵抗を事前に正確に測定しておくことが理想です。

 このように,近年は消費電力の観点から走行抵抗が重要視され,その正確な把握が求められるようになってきています。

3.走行抵抗の測定方法

 走行抵抗を測定するには,列車を直線の一定勾配区間で惰行させます。特に平坦区間では,惰行中,列車は走行抵抗により減速します。走行抵抗が小さければ速度はすぐには低下せず,反対に走行抵抗が大きければ速度はすぐに低下します。列車の質量が得られていれば,これらより惰行時の減速度から走行抵抗を求めることができます。図2は鉄道総研が所有する走行抵抗測定解析システムです。車軸端の速度発電機が出力する信号から,分解能の高い減速度波形をリアルタイムに算出します(図3)。力行・ブレーキ信号と,あらかじめ入力しておいた線路データを頼りに,直線の一定勾配区間を惰行中の減速度を抽出します。これに列車質量,慣性係数を乗じることで,惰行速度域における走行抵抗のプロットが得られます。直線で一定勾配が何十キロと続く場合は,列車を高速域から低速域まで惰行させ,広い速度域に対する走行抵抗の変化を測定できます。しかし一般に,直線で一定勾配はあまり長く続かないため,列車を1回惰行させただけでは取得されたデータの速度域が狭く,走行抵抗の速度依存性は掴めません。そこで,惰行速度を変えて同様の試験を実施することで,最終的に全速度域に渡って図4に模式的に示すようなプロットが得られます。これらの点に対し,2次多項式を最小二乗法で求めれば,式(1)の各係数値が得られ,列車の走行抵抗が求まります。こうして得られた式(1)は,列車の走行抵抗式と呼ばれます。

 走行抵抗は基本的に惰行中の減速度からのみ算出できるため,近年では走行試験でなく,車両情報記録装置に記録された営業中の走行データから走行抵抗を推定する試みも始まっています3)。数日で終了する走行試験と違い,営業データの蓄積が必要ですが,列車質量(乗車率)の違い等,さまざまな条件下での走行抵抗を把握するうえで,その有効性に期待がもたれます。

  • 図2 走行抵抗測定解析システム
    図2 走行抵抗測定解析システム
  • 図3 測定画面一例
    図3 測定画面一例
  • 図4 走行抵抗測定結果の模式図
    図4 走行抵抗測定結果の模式図

4.おわりに

 列車の走行抵抗を求める方法について簡単に紹介させて頂きました。走行抵抗は,列車の消費電力量を把握する上で重要な要素となります。また,空気抵抗低減のために車両形状を変更した場合や,安全性や利便性・快適性向上のために車両に新規設備を増設した場合にも,これらが走行抵抗の増減にどの程度影響を与えるかを把握することは重要です。どのような因子がどの程度,走行抵抗に寄与するかを知ることで,今後の設計指針に活かし,消費電力量の更なる低減に資することが期待されます。

参考文献

1)日本鉄道運転協会:運転理論,2010

2)近藤稔,小川知行,村上浩一:鉄道車両の消費エネルギー簡易計算法,鉄道総研報告,Vol.25,No.8,2011.08

3)真鍋慎一,小川知行,今村洋一,美濃部晋吾,川村淳也,影山真佐富:営業車両における車両情報記録装置を活用した走行抵抗の推定法について,電気学会 交通・電気鉄道研究会,TER-14-048,2014

(車両制御技術研究部 駆動制御 研究員  吉川 岳)

[解説]車軸軸受(下)

※前号では,車軸軸受の変遷について,鉄道の初期に使われていた平軸受に替わって転がり軸受(円すいころ軸受)が普及していく最初の段階について述べました。本号では,円筒ころ軸受の導入,そして再び円すいころ軸受の普及に至る移り変わりについて述べ,さらに新幹線電車用車軸軸受の開発経緯や変遷について触れます。

4.円筒ころ軸受の導入3) 4) 5)

 1948年,平軸受をころ軸受に改造する際に円筒ころ軸受が初めて試験的に使用され,1951年に44000形気動車に導入されました(図8)。その後の車両のほとんどに円筒ころ軸受が用いられるようになります。この理由として,外径を小さくして軽量化できる,負荷容量を大きくできる,高速化に対応できる,車輪のフランジ摩耗を抑制できるなどが挙げられています。

 ところで,円すいころ軸受ではラジアル荷重とアキシアル荷重を軸受自体で受けられるのですが,円筒ころ軸受を車軸軸受として用いるには,アキシアル荷重の受け方が課題になります。前号図2(b)に示す現在の円筒ころ軸受に至るまでには多くの工夫が見られます。図8は,車軸端のスラスト受金と前ぶたの耐摩レジンでアキシアル荷重を受ける構造です。両者の間には若干すきまがあり,車軸が軸方向に移動すると接触してアキシアル荷重を受けます。1954年以降標準形となった電車・客車用の円筒ころ軸受では,スラスト受金と硬質弾性フェルトの組合せが採用されましたが,フェルトの焼付きが多発しました。そこで,図9のように前ぶたに皿ばねと玉軸受が組み込まれた構造に改造されました。アキシアル荷重が作用すると,皿ばねで衝撃力を緩衝しつつ,玉軸受が回転する仕組みになっています。1956年には玉軸受の内輪を直接軸端に,外輪組立品を皿ばねとともに前ぶたにそれぞれ取り付ける構造が考案され,その後皿ばねを耐油性の緩衝ゴムに変えた構造が大部分の電車や客車に用いられました(図106))。

 このように円筒ころ軸受と玉軸受を組み合せた構造が主流となる一方で,軽量化や構造の簡略化のために玉軸受を用いずに,内外輪のつばでアキシアル荷重を受けるつば付き円筒ころ軸受が導入されていきます。1958年に,これまで平軸受が使われていた貨車に初めて転がり軸受が導入され,コンテナ貨車につば付き円筒ころ軸受が初めて使われました(図116))。1960年代半ば以降,気動車や電車などでこのタイプの軸受が多く採用されました。電車で初めてのものは外輪の両端にオイルシールを設けてグリースが封入され,前号図2(b)に示す現在の密封形つば付き円筒ころ軸受とほぼ同じ構造になっています。つば付き円筒ころ軸受は内外輪のつばところの端面がすべり接触しながらアキシアル荷重を受けます。そのため,当初高速域での使用が問題視されましたが,内外輪のつば部やころ端面の設計上の工夫や加工精度の向上によりアキシアル負荷能力が増大したことや,貨車などでの使用実績から信頼が得られたことが普及した理由として考えられます。

  • 図8 耐摩レジンを備えた円筒ころ軸受
    図8 耐摩レジンを備えた円筒ころ軸受
  • 図9 玉軸受と皿ばねを備えた円筒ころ軸受
    図9 玉軸受と皿ばねを備えた円筒ころ軸受
  • 図10 玉軸受と緩衝ゴムを備えた円筒ころ軸受<sup>6)</sup>
    図10 玉軸受と緩衝ゴムを備えた円筒ころ軸受6)
  • 図11 つば付円筒ころ軸受<sup>6)</sup>
    図11 つば付円筒ころ軸受6)

図10及び図11の出典:柏原良伸, 高速鉄道車両の軸受, Koyo Engineering Journal No.129, p.40(元図に加筆)

5.再び円すいころ軸受の普及7)

 1950年頃から円筒ころ軸受の使用が拡大しましたが,貨車では1966年にグリースを予め封入した密封形円すいころ軸受が採用され,現在でもこのタイプの軸受が使われています。電車では20年以上も後の1988年に651系特急電車に初めて密封形円すいころ軸受が導入されました。初期の円すいころ軸受で課題であった内輪と車軸のしめしろ管理は,加工精度が著しく向上したことにより解決しました。このタイプの軸受は各部品が組み立てられてユニット化されているので取り扱いやすく,軸受すきまを小さくして走行安定性を向上できるなどの理由で多用され,現在でも主流になっています(前号図2(a)参照)。その一方で,つば付き円筒ころ軸受も継続して使用されて現在に至ります。

6.新幹線電車用車軸軸受の開発経緯8) 9) 10)

 1964年に開業した東海道新幹線の計画で設定された最高速度250km/hは未知の高速度域であったため,車軸軸受の構造や潤滑方式,密封装置などについて,台上試験や現車試験を実施して慎重に検討されました。

 試験台車の軸受には,在来線車両で実績のある円筒ころ軸受と玉軸受の組合せが考えられました。供試軸受の構造として,円筒ころ軸受:2列/4列,玉軸受:深溝/4点接触,潤滑:油浴/グリース,密封装置:ラビリンス(微小なすきま構造)/オイルシールが考えられました。そして,これらを組み合せた各種供試軸受について,荷重や回転速度を変えて実施された試験機による室内試験に加え,現車による性能試験や速度向上試験を実施し,軸受外輪などの温度上昇や密封装置の性能などが評価されました。その結果,円筒ころ軸受と玉軸受の組合せで,皿ばねで玉軸受に与圧を加える構造が採用されました(図12(a))。潤滑方式は室内試験中の温度上昇が比較的小さかった油浴潤滑が高速度域では信頼性が高いと判断されました。油浴潤滑の採用は在来線車両とは大きく異なる点といえます。密封装置はオイルシールとラビリンスの併用とすることが決定されました。オイルシールはいずれの試験でも摩耗や変質などが発生したため,オイルシール専用の試験機を利用して耐摩耗性,耐熱性などが改良されました。

  • 図12 新幹線電車用車軸軸受
    図12 新幹線電車用車軸軸受

7.新幹線電車用車軸軸受の変遷

 0系新幹線電車以降,1982年に開業した東北・上越新幹線の200系,1985年に東海道・山陽新幹線に投入された100系でも,寸法の変更はありますが,0系と同じ構造が踏襲されました。降雪の多い地域を走行する200系では軸箱のオイルシールを二重にして浸水対策が講じられました。

 JR発足後の1992年に東海道新幹線で営業を開始した最高速度270km/hで走行する300系では,在来線でみたように玉軸受を用いない,油浴潤滑のつば付き円筒ころ軸受(図12(b))が採用され,大幅な小型・軽量化が実現されました。その後400系やE1~E4系にも同様に油浴潤滑のつば付き円筒ころ軸受が採用されました。

 1997年,最高速度300km/h の営業運転を開始した500系では,日本の新幹線で初めてグリース潤滑の密封形円すいころ軸受が採用されたことにより,潤滑方式と軸受の構造がこれまでと大幅に変更されました。その後,700系やN700系にも円すいころ軸受(図12(c))が用いられていますが,潤滑方式は油浴とグリースの両方があります。現在国内最高の320km/hで走行するE5系のほか,E6系やE7(W7)系でも油浴潤滑のつば付き円筒ころ軸受が採用されています。

8.おわりに

 以上、車軸軸受について、鉄道初期から現在に至るまでの変遷を大まかに述べました。車軸軸受は加減速が広範囲な回転数で繰り返され,作用荷重が常に変動するうえに様々な気象条件で使用されます。このような過酷な条件のもと,分解検査や潤滑剤交換を行うメンテナンス周期の間,損傷せずにその機能を維持しなくてはなりません。したがって,軽量化や高速化に対する技術に加え,関連部品を含めた,さらなる信頼性や耐久性向上のほか,メンテナンスの省力化に寄与する技術が今後も求められると思います。

注) 本稿は「RRR Vol.72 8月号」(2015.08発行)より「鉄道技術来し方行く末」の内容を一部編集したものである。

参考文献(前号からの続き)

3) 車両用コロ軸受研究会:国有鉄道における車両用コロ軸受,車両技術,No.27,pp.3-14,1956

4) 堀井:ころがり軸受の鉄道車両への応用(1),NSK Bearing Journal,No.632,pp.1-6,1973

5) 大山,平沢:鉄道車両用軸受の変遷(1),鉄道車両と技術,Vol.2-9,No.14,pp.3-9,1996

6) 柏原:高速鉄道車両の軸受,KOYO Engineering Journal,No.129,pp.38-48,1986

7) 大山,平沢:鉄道車両用軸受の変遷(2),鉄道車両と技術,Vol.2-10,No.15,pp.30-36,1996

8) 赤岡:国鉄新幹線車両用軸受(1),機械の研究,Vol.15,No.8,pp.1031-1035,1963

9) 鉄道技術研究所:東海道新幹線に関する研究(第2冊),1961

10) 鉄道技術研究所:高速鉄道の研究,研友社,1967

(材料技術研究部 潤滑材料 研究室長  永友 貴史)