浮上式鉄道は、実用化技術の確立を目指し、『信頼性・耐久性能の検証』『コスト低減のための技術開発』、および『車両の空力的特性の改善』を課題として、2000年度から設定された5ヶ年間計画に基づき、技術開発を続けています。2002年度は、車両・地上設備に関わる性能や特性の検証を進めるとともに、新型車両や新方式ガイドウェイ等の諸設備の製作と導入を行い、その特性を確認しました。
 また国立研究所においては、地上コイルや超電導磁石等についての、基礎技術開発を進めました。
 なお、以下の技術開発は、国土交通省の補助金を受けて実施しました。

1.山梨実験線における技術開発
(1)実験線走行試験の推移
 2002年度は、7月から新型車両、高効率電力変換器、新方式ガイドウェイ等の各設備を順次山梨実験線に投入し、その特性確認を行いました。
 新型車両では、速度向上およびすれ違い試験を行い、走行性能を確認するとともに、走行抵抗や微気圧波等の空力的特性、乗り心地や車内騒音等の車内環境特性を確認しました。また、コスト低減を目的に技術開発を進めてきた電力変換器では、変換器としての基本特性や電力損失特性を、同じく新方式ガイドウェイでは、走行時の動的応答特性や走行抵抗(渦電流損失)特性等を確認しました。
 これまでの計画は順調に進み、2002年度の全走行日数は150日、年間走行距離は62,600kmであり、走行開始からの累積走行距離は271,000kmとなりました。また、すでに42,400人の方が試乗されています。実験線における走行試験の推移を、図1 に示します。

(2)新型車両の開発
 空力的特性の改善を目的に技術開発を進めてきた新型車両(先頭車と中間車各1両)は、2002年7月中旬より実験線の実走行試験に供されています(図2)。設計最高速度の550km/hまでの速度向上とすれ違い試験を行うとともに、以下に示す諸特性の確認を行いました。
@ 空力的特性の改善
 新型車両では、台車付近における空気の乱れを抑制するために、車体底部の基本断面形状を台車部分と同じ『角形形状』としました。そしてそれを主要因として、空気抵抗を約1割減少させることができました。また、先頭車のノーズ部分を最大限長くしたことにより、トンネル微気圧波を低減させることができました。
A 乗り心地の改善
 これまでの中間車体では、その1次曲げの固有振動数が、地上から受ける浮上力の脈動周波数と近く、乗り心地の面で改善の余地がありました。そこで新製した中間車においては、上下・左右曲げ剛性を従来車両の約1.7倍とし、これにより左右乗心地レベルが約3dB改善されることを確認しました。
B 車内騒音低減
 これまでの測定解析から、従来車両では、側窓からの騒音侵入が大きいことがわかっていました。このため、複層ガラス内の空気層の厚さを従来の6mmから75mmに拡大し、側窓から透過してくる音に対して300Hz以上帯域での透過損失を増加させることとしました。また、側窓や内装材の取り付け部の防振特性を向上させ、客室への放射音を小さくするなどの騒音対策を図りました。この結果、車内騒音を約3dB低減させることができました。

(3)新方式ガイドウェイの開発
 コスト低減を目的として開発した新方式ガイドウェイを山梨実験線の一部区間に敷設し、走行試験により諸特性を確認しました。
 既設の3方式の評価を基に、施工性の向上と軽量化にポイントを置いて、新しいガイドウェイ側壁を開発しました。施工性に関しては、ガイドウェイの据付け、位置整正および交換などの作業効率を上げるため、断面を逆T型形状にして自立できる安定した構造のプレキャスト鉄筋コンクリート製とし、かつ路盤への締結も簡単にできる構造としました。また側壁の厚さを低減するとともに、基礎部も最小限必要な形状とし、軽量化を図りました(図3)。

 路盤との充填材には、共振の回避と据付け精度の確保のため、CA(セメントアスファルト)モルタルを採用しました。このCAモルタルでは、営業線における位置整正作業を想定し、1時間で所定の強度を確保できる新配合の材料を開発しました。さらに側壁の位置整正が必要となっ場合に ±20mmの移動を可能にするため、基礎締結部に用いる高強度モルタル製の特殊スペーサーを開発しました。
 新しい地上コイルは従来二層に配置していた推進コイルを単層配置としてコイルを小型化するとともに、コイル取付ボルトの浮上コイルとの共有化等により取付構成を簡素化して、製作コストや敷設コストの低減を図りました。さらに、ランニングコスト低減のため、推進コイル・浮上コイルの導体の低渦電流損失化を図りました。また信頼性向上のため、推進コイルコネクタの構造や、浮上・案内コイルの上下力支持構造に改良を加えました。

(4)電力変換器の高性能化
 直流電力をリニアモータに供給する交流電力に変換する電力変換器のコスト低減を目的として、新しい半導体素子を用いた高効率電力変換器の開発、および従来と比較して小容量の設備でも必要な出力を得ることができる変換器制御方式の開発を行いました。
 新しい電力変換器のエネルギー損失は、従来の1/3程度になり、運営コストの低減が可能となります(図4)。2002年度は、山梨実験線の電力変換器の一部を、開発した装置に置き換えて走行試験を行い、損失低減が計算通りであることを確認しました。なお、装置寸法は容積比で従来の4割程度になり、設置スペースの縮小化も可能となっています。
 また電力変換器において、ハードを変更することなく、制御ソフトにより出力電圧を増加させることが可能な新しい方法の一つとして、'順次段飽和制御方式'を開発し、山梨実験線において検証試験を行いました。この制御方式を採用することにより、インバータの見かけ上の容量が増大し、必要な出力を得るための設備容量を低減することができます。山梨実験線のインバータ構成を例にとると、設備容量を現状より約15%低減することが可能となり、その結果建設コストの削減が期待されます。更に、1999年度に開発した中性点バイアス制御と組み合わせることにより、最大で約27%の設備容量低減を見込むことができます(図5)。




HOME
RTRI ホームページ

Copyright(c) 2003 Railway Technical Research Institute, Tokyo Japan, All rights reserved.