3.簡易な地震被害予測手法

 鉄道路線の耐震対策を実施するにあたっては、対策の実施箇所や優先順位、補強レベルを決定するために、広域にわたる鉄道路線の地震リスクを、構造物被害や走行安全性の観点から評価する手法が必要となります。本研究では、地震の規模と発生確率、地盤による地震動の増幅特性(最大加速度PGA、最大速度PGV)を用い、対象路線に影響を及ぼす全ての地震の影響を評価するとともに、構造物の非線形特性(固有周期T、降伏震度Khy)と被害確率の関係を表す被害率曲線(図1)、車両の動的応答を考慮した被害率曲線を組み合わせ、従来手法よりも高精度かつ簡易に鉄道路線の地震被害確率を評価可能な手法を開発しました。
 この手法によれば、4つのパラメータ(PGA、PGV、T、Khy)のみを与えることで、事前に設定した応答レベルを超過して地震被害を受ける確率の高い構造物、および車両の走行安全性が低下する領域を、複雑な地震応答解析を実施することなく抽出することが可能となります。また、被害率曲線に必要なT、Khyは詳細計算や実測により与えますが、これらの情報が無い場合でも、設計図書から構造高さを読み取り簡易に推定する手法を提案しており、広域路線内の多数の構造物の被害率曲線を効率的に算定することが可能です。
 以上の手法を、仮想新幹線路線に適用しました。その結果、地震動が大きい地点 (図2、0〜10km付近)や地震動が小さくても構造物の耐力が小さい地点(図2、15、26、45、55km付近)で地震被害確率が高い構造物として抽出できることを確認しました。