山下 主税

-先輩職員インタビュー-

試験機を自作し、試験結果を分析 アーク発生による摩耗のメカニズムを解明

プロフィール
山下 主税
集電管理研究室 主任研究員
平成14年入社

予想とはまったく異なる試験結果を前に
研究者魂が燃え上がる

鉄道総研に入社後、最初に与えられた研究テーマはトロリー線の疲労で、疲労試験や数値解析により疲労しづらいトロリー線の形状について考えていきました。数年に及ぶ研究により、現状の基準で疲労管理を行えば、疲労に対する安全率を保てることがわかったため、その後はトロリー線の摩耗研究にテーマをシフトしていきました。

電車の架線の中でも、トロリー線は「パンタグラフと接し、電車に給電する」という役割を果たしています。その様子を注意深く観察していくと、トロリー線とパンタグラフのすり板が接触する際に、火花が飛ぶ現象(アーク)がしばしば起こることに気づきます。この火花が飛び散る時、トロリー線やすり板が摩耗すると考えられていました。しかし、摩耗していない箇所もあることがわかり、この現象を解明することとなったのです。

通常、電気的な摩耗はアークにより発生すると考えられています。電流が流れている状況下での接触力と摩耗との関連性に関しては、過去の研究により、接触力が小さくなることで摩耗が徐々に減っていきますが、アークが発生しだすと、また摩耗が大きくなることがわかっていました。まずは摩耗の変化点を見つけようと思い、トロリー線直動摩耗試験機を自作し、新しい試験機で試験したところ、予想とはまったく異なる結果が出ました。アーク発生の直前に、大きな摩耗値を出したのです。

研究は長く地道な道のり
だからこそ成果が出た時の喜びは大きい

「これは何だろう」——驚いた私は数値解析により、トロリー線とすり板の温度分布を解析しました。すると、トロリー線だけが溶ける領域が一瞬あり、ここで摩耗することがわかったのです。その後、数カ月かけて、この現象を数式化。ようやくメカニズムがわかったため、今後は材料開発などに活用して行けたらと考えています。

想像もしなかった実験結果に戸惑いを感じながらも、実験結果を証明する理論を導き出していく。私はこの研究においていくつものブレイクスルーを経験しました。そのたびに試行錯誤が続きましたが、これもまた研究者冥利に尽きるというもの。何よりも今回の研究により、トロリー線とすり板の材料の組み合わせ次第では、摩耗を抑えられるとわかりました。研究は長く地道な道のりですが、興味あるテーマの研究に携われるのですから、これほど恵まれた環境はないと実感しています。

鉄道総研に入社して15年強。今後はこれまでの経験を生かして、後輩に有益なアドバイスをしていきたいです。私自身の研究に関しては、これまで行ってきた電気的な発熱による摩耗現象に関する研究からさらに一歩進み、機械的な発熱による摩耗現象を解明すべく、新しい試験機の製作に取り組んでいます。試験機ができ次第、新たなテーマに取り組む予定です。

コラム:研究設備について

研究に必要な試験機がなければ、自作すればいい
所内にある設計・試作課が力強い味方

自作したトロリー線直動摩耗試験機は、これまでのトロリー線とすり板の摩耗試験の考え方とはまったく違う方向に舵を切っています。これまではしゅう動の速度をいかに早くするか、トロリー線の動きを模擬するか、さらにはいかに実機を再現するかに重きを置いた試験機が多かったのですが、私は実機を模擬するのではなく、摩耗の形態を切り分ける方向に特化した摩耗試験機を作りました。

これまでの回転型試験機だと、接触力の変動が大きすぎる。これでは、いつどこで摩耗したのかがわかりづらい。ならば、各接触力の実験データをたくさん取っていき、摩耗の形態を切り分けていってはどうだろう。この考えにより、低速でも接触力の変動がとても小さい直動型試験機を思いついたのです。

鉄道総研には、所内に試験機を設計・製作する部署があります。研究者である私の要求をダイレクトに伝えられるので、試験機の製作も非常にスムーズに進みました。簡単な故障なら、自分で修理することもあります。トロリー線直動摩耗試験機を使って幾度となく試験を行ってきたので、振動や音の様子で機械のコンディションが推測できるまでになりました。

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