第114回 鉄道総研月例発表会:電力関係技術

電気鉄道におけるパワーエレクトロニクスの応用と動向


電力技術開発推進部 部長 持永 芳文

 パワーエレクトロニクスとは、電力用半導体素子を応用し、電力の変換制御や開閉を行う技術である。直流電気鉄道では、変電所のシリコン整流器に始まり、サイリスタ整流器、高速度ターンオフ遮断機や、回生失効対策としてのサイリスタインバータなどに応用されている。交流電気鉄道では、電源の電圧変動や線路の電圧降下対策として、無効電力補償装置などが積極的に導入されている。これらの地上変電設備への応用と動向について、概要を紹介する。



不平衡補償単相き電装置の開発


電力技術開発推進部(き電システム) 技師(係長) 兎束 哲夫

 交流電鉄においては、電力会社から三相を受電して二組の単相に変換してき電している。今回、三相から一組の単相に交換する、不平衡補償単相き電装置SFC(Single Phase Feeding Power Conditioner)を開発した。これは、不等辺スコット結線変圧器の斜座から単相を取り出すとともに、自励式電力変換器をM座とT座に挿入して、無効電力補償を行いつつ直流連糸させることにより、三相側の電圧変動を軽減するのである。
 このSFCは、長野(北陸)新幹線長野車両基地変電所で実用化された。



異周波混触保護継電器の開発


電力技術開発推進部(き電システム) 主任技師 長谷 伸一

 北陸新幹線においては、50Hzと60Hzの電力会社が存在する。このため、き電回路で異周波の電力が混蝕するとビート状の大電流が流れ、直ちに故障検出を行う必要があるが、従来の保護断電器はこのビート状の波形では動作しない。このため、混蝕電流特有の周波数を検出する方法、および相手方変電所の周波数成分を検出する方法による異周波混蝕保護断電器を開発し、北陸新幹線の異周波境界の変電所等で実用化した。



交流用ベクトルΔ形保護継電器の開発


電力技術開発推進部(き電システム) 技師(主席) 久水 泰司

 交流電気鉄道では電車線路で故障が発生した場合、距離断電器および△T形故障断電器を用いて故障を検出している。従来の△Tは電気車の高調波を検出して、故障検出感度を高くしている。しかし、PWM制御車は高調波電流が小さいため、従来方式では故障検出感度が低下する。このため、PWM制御車の高力率負荷電流と故障電流の力率角が大きく異なることを利用し、ベクトル的に電流変化分を検出する△形故障断電器を開発した。



軌陸車を用いた電車線検測装置の開発


電力技術開発推進部(集電管理) 主任技師 久須美 俊一

 鉄道総研で開発した軌陸車検測装置は従来の電気検測車に対し、低廉で機動性に優れ、異常箇所で停止して作業を行うことができる等の特徴を有している。この検測装置はナトリウムランプ式摩耗測定装置と小型パンダグラフを作業台に搭載することでトロリ線の摩耗・偏位・高さ及び支障物等の測定が可能である。現地試験を行った結果、昼間でも測定可能であることを確認し、実用化できる見通しを得たので報告する。



鋼心アルミより線腐食劣化判定装置の開発


電力技術開発推進部(電車線構造) 技師(主席) 佐藤 勇輔

 新幹線のトンネル内のき電線等に主に使用されている鋼心アルミより線(ACSR)は目視検査等によって取替時期を推定している。しかし、この種の方法では劣化による寿命推定を誤り、断線事故や素線切れが時々発生している。そこで、ACSRの事故分析を行い、ACSRの腐食劣化判定法を見いだし、ACSR腐食劣化判定装置を試作、判定基準の作成、現地試験を行った。その結果、本装置がACSRの腐食劣化判定に有効であることが確認できた。



電車線路設備の新しい耐震設計指針


電力技術開発推進部(電車線構造) 技師(主席) 清水 政利

 従来、電車線路支持物の耐震設計には、昭和53年の宮城県沖地震を契機として作成され「電車線路の耐震設計指針(案)」が適用されてきた。しかし、平成5年の北海道南西沖地震および平成7年の阪神・淡路大震災における被害状況により、指針の見直しが指摘されるとともに、支持物設計の基礎となる鉄道高架橋の耐震設計法も改定された。これらに対応するため新しく改定した「電車線路設備耐震設計指針(案)」の概要を紹介する。



変電設備の耐震設計


電力技術開発推進部(き電システム) 技師 川原 敬治

 阪神・淡路大震災では、現行の設計指針である170kV超過の機器を対象とした、「変電所における電気設備の耐震対策指針」に基づいて設計した設備運転に支障のない軽微な被害にとどまっていたが、電鉄用変電設備の多くは、この指針の適用外であり、大きな被害を受けた。被害状況を調査し、今後の耐震設計の考え方について検討した結果、この指針を準用したり、機器の固有振動数等を考慮して個別設計する必要があることが分かった。


第114回 鉄道総研月例発表会

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