第142回 鉄道総研月例発表会:材料技術の最近の成果

最近の材料技術開発


材料技術研究部 部長 上山 且芳

 材料技術は、車両、構造物、電車線、軌道等、鉄道の各分野に共通的で基礎的な技術である。従来、特にメンテナンスに関連して、主に既存の材料および材料評価手法を改良し長寿命化や保守省力化を図る技術開発を重点的に進めてきた。しかし、最近では、新しい機能や地球環境問題に役立つ新材料および新材料技術への期待が大きい。ここでは、鉄道総研で最近取り組んでいる材料技術に関する研究開発の現状とその動向を概説する。


電車線ビーム等の劣化した溶融亜鉛めっき鋼の延命化


材料技術研究部(有機材料) 主任研究員 田中 誠

 長期間の防食を期待し、1960年代後半から溶融亜鉛めっき鋼が電車線ビームに用いられている。しかし、当初の予想と異なり、早期の亜鉛めっき層消失による鋼の腐食が見られるようになってきた。このような場合に、溶融亜鉛めっき鋼を 60年間使用することを目的に、塗装による延命化対策を検討してきた。ここでは、延命化対策の要否判定法、亜鉛残存面に塗装し 20年以上の耐久性が期待できる塗装系などの検討結果を報告する。



大集電容量カーボン系すり板の開発


材料技術研究部(トライボロジー) 主任研究員 久保 俊一

 カーボン系すり板の使用拡大に伴い、すり板1列あたりの集電電流が従来の2倍以上の条件に対する要望も出てきている。このような条件では、現用カーボン系すり板は、離線アークより激しく損傷し、すり板の異常摩耗や、停車時のすり板とトロリ線の接触点でのトロリ線の温度上昇が基準を超える恐れがある。そこで、すり板の開発目標値を見直し、従来の想定より大きな集電電流条件でも使用できるすり板を開発した。



誘導電動機のころがり軸受におけるグリースの潤滑挙動


材料技術研究部(有機材料) 副主任研究員 日比野 澄子

 車両の誘導電動機において軸受の潤滑グリースが現状では最も寿命が短く早期の解体を必要とするため、封入グリースをいかに長く交換せずに使用するかが重要な課題となっている。その一方で、現状での解体時にはグリースには未劣化の部分が残っており、有効に使われていない懸念があった。今回は、現行の主電動機構造を用いて軸受回転試験を行った結果のグリースの挙動、特に軸受とふたの間のグリースの移動について報告する。



レール横裂の成長の推定動


材料技術研究部 主任研究員 柏谷 賢治

 実験・実測で得られた、列車荷重による曲げ応力、レール内部の残留応力、レール鋼のき裂進展速度、レール軸力を採用して、横裂の成長速度を破面解析から決定した破壊力学モデルで計算した。頭部横裂は深さ 25mmまでレール内部の引張残留応力の助けにより成長し、その後の成長はレール軸力に依存することがわかった。他方、底部横裂の成長は曲げ応力のみに依存することがわかった。



損傷力学によるボルトの疲労損傷シミュレーション


材料技術研究部(トライボロジー) 研究員 森本 文子

 損傷力学は、材料の損傷状態を表す新たな変数を導入することにより、材料中に空隙等の微視的損傷が発生し、それらが発達してマクロなき裂進展あるいは破断に至る過程を連続体力学の枠組みの中で解析する手法である。本発表では、弾性限度内の繰り返し応力で生じる疲労損傷解析に関して、損傷力学解析の概要を紹介するとともに、この手法をボルト首下丸み部に適用した基礎的な解析例を示す。



廃コンクリートからの再生骨材の利用方法の検討


材料技術研究部(無機材料) 研究室長 佐々木 孝彦

 建造物の解体時に発生するコンクリート廃材を骨材として再利用するために、これを破砕、分級して得られる再生骨材を用いたコンクリート性状を調べた。その結果、再生骨材中にはモルタルが含まれるため力学性状は低下するが、圧縮強度や静弾性係数に与える影響は小さいことが判った。一方、乾燥収縮量は天然骨材を用いた場合に比べ大きくなり、これは混和材としてフライアッシュを用いることで改善可能と考えられる。



骨材の反応によるコンクリートの劣化解析


材料技術研究部(無機材料) 副主任研究員 上原 元樹

 珪酸塩鉱物はコンクリート中で反応する可能性が指摘されていたが、その詳細は不明であった。そこで、骨材として使われ珪酸塩鉱物を含む緑色片岩と角閃岩の反応性を検討した。その結果、骨材中の黒雲母が反応性に富み、膨潤性粘土鉱物に変化することが明らかになった。また、これらの骨材を用いたコンクリートは、生じた膨潤性粘土鉱物の影響により膨張量が小さくても日数の増大とともに引張強度が低下する傾向があることがわかった。

              
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