第152回 鉄道総研月例発表会:防災技術に関する最近の研究開発成果

鉄道総研における自然災害防止に関する最近の研究開発について


防災技術研究部 部長 藤井 俊茂

 鉄道総研防災技術研究部では雨、風、雪、地震などの自然現象が原因となって起こる鉄道分野において、災害をもたらす自然現象についてその解明と災害発生の防止を目的として、これらの現象や災害防止に関するテーマを設定して研究開発を進めてきた。ここでは、これらテーマのうちここ数年間実施してきたものについてその概略を紹介する。


列車からの落氷雪及びバラスト飛散の現象解明


防災技術研究部(気象防災) 主任研究員 飯倉 茂弘

 車両床下の着氷雪から落氷雪に伴うバラスト飛散までの一連現象解明を目的として着氷雪量と気象条件との関係、着氷雪の物理的性状の現地調査、落氷雪に伴うバラスト飛散現象の再現試験を行った。その結果、バラスト飛散をもたらす着氷雪量と気象条件、及び着氷雪塊の物理的性状を明らかにすることができた。
 また、バラスト飛散によって車両破損を引き起こす危険性が高い着氷雪の雪質と質量および列車速度を定量的に示した。



気温を用いた融雪量の評価方法の開発


防災技術研究部(気象防災) 主任研究員 河島 克久

 融雪期の斜面災害を防止する上での過大である融雪量を精度よく簡易に評価する方法について観測結果に基づいて検討した。融雪量の評価には気温のみを用いるディグリー・デー法を採用し、使用する気温とディグリー・デー・ファクターの与え方を見直した。その結果、日平均気温と融雪開始日を与えれば日融雪量を精度よく見積もることのできる新たな手法を提示することができた。また、融雪開始日の決定方法として気温を用いる方法を提案した。



豪雨後の小雨下における盛土の安定性に関する解析的評価


防災技術研究部(地盤防災) 副主任研究員 太田 直之

 降雨により盛土が不安定化する主な要員の一つに、盛土内水位の上昇があげられる。本発表では、豪雨により上昇した盛土内水位が降雨の終息(すなわち小雨になる)につれて水位低下傾向を示す段階に着目し、降雨終息時の1時間雨量と水位変動傾向との関係を解析的に検討した結果を報告する。豪雨パターンと豪雨終息時の1時間雨量とをパラメータとした不飽和浸透流解析を実施し、盛土の安定性が回復傾向を示す雨量を求めた。



盛土の安定性に対する排水パイプの効果の定量化


防災技術研究部(地盤防災) 研究員 布川 修

 鉄道盛土に数多く施工されている排水パイプの効果の評価は、経験的なものに留まっている。それは、地盤内の水の流れが3次元的な挙動を示すことから実験や解析が困難であり、このため打設ピッチ等が排水効果に及ぼす影響について定量化できていないことによるものである。そこで、本研究ではパイプによる地盤内の排水を2次元問題として扱う手法を確立し、この手法を用いて盛土の安定性に対する排水パイプの効果を定量的に評価した。



数値標高モデルを用いた地形計測と災害地形評価


防災技術研究部(生物工学) 主任研究員 太田 岳洋

 地形・地質条件は自然災害発生に関わる重要な要因であり、現在は主に空中写真判読等による定性的な調査・評価が行われている。そこで、自然災害に関与する不安定な地形条件を定量的に評価することを目的に、国土地理院発行の数値地図などの標高値の配列集合データ(DEM)を用いた地形計測を行った。その結果、いくつかの自然災害に係わる不安定地形の特徴が地形計測により抽出可能であることが分かったので報告する。



鉄道における早期地震警報の新たな試み


防災技術研究部(地震防災)副主任研究員 束田 進也

 大地震時、列車制御に用いる「地震早期警報システム」において、的確な警報を出すためには地震諸元を正しく推定することが重要となる。実際には警報を出すまでの早さとその推定精度はトレードオフの関係にあるため、「地震波(P波)到着後、きわめて初期の段階で地震の大小および遠近を判断」する本質的な原理に関しては今も検討の余地が残されている。本発表では地震波形の初動部の特徴から地震諸元を推定する新しい手法を紹介する。



地震時の被害状況の早期把握とその活用


防災技術研究部(地震防災)副主任研究員 室野 剛隆

 本研究では、多数の地震記録と多数の構造物組み合わせた地震応答解析を実施し、構造物の被害の発生は地震動の最大加速度と最大速度の組み合わせで支配されることを解明した。また、これらの結果から「被害推定曲線」を作成し、地震後細かく把握でき、運転再開支援に大きく貢献すると思われる。


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