第158回 鉄道総研月例発表会:沿線環境技術に関する最近の取組み

鉄道総研における沿線環境問題に関する研究開発の動向


環境工学研究部 部長 前田 達夫

 環境問題は、21世紀の重要課題の一つであり、鉄道においても、環境に及ぼす負荷を小さくし、環境に優しい鉄道の実現をはかることが求められている。鉄道における環境問題には、列車走行に伴う騒音、振動、低周波空気振動の問題、潤滑油や重金属の飛散の問題、PCB(ポリ塩化ビフェニル)の廃油・廃材の処理、電磁場の生物的影響、沿線整備に伴う農薬散布の問題などがある。ここでは、現在、鉄道総研が取り組んでいる環境問題に関する研究の動向を紹介する。


転動音の主音源の解明


環境工学研究部(騒音解析) 研究室長 善田 康雄

 転動音の主音源はレールか車輪か?古くて新しい問題である。一昔前、日本の新幹線ではレール主音源説が、ヨーロッパでは車輪主音源説が唱えられた。その後日本では、沿線騒音に占める寄与は、新幹線では空力騒音が、在来線では主電動機ファン騒音が主と考えられ、その問題解明の緊急性が薄れていた。しかし近年、それらの騒音に対する低減対策が施されたことから、再び転動音がクローズアップされつつある。その低減は、転動音の主音源を明らかにすることから始まる。



新幹線用防音壁形状の最適化


環境工学研究部(騒音解析) 主任研究員 長倉 清

 新幹線用の防音壁として効果的な形状を探るため、34種類の形状の防音壁について、1/20縮尺模型を用いた実験を実施した。新幹線の主要音源である車両下部騒音および集電系騒音に対する低減効果を評価した結果、Y型に類する防音壁形状が、車両下部騒音に対して二重回折による効果増を見込むことができるのに加え、集電系騒音に対する遮蔽効果も大きく、新幹線騒音を低減するのに効果的な形状であることが明らかになった。



列車通過時圧力変動の低減方法


環境工学研究部(空気力学) 主任研究員 菊地 勝浩

 明かり区間を列車が高速で移動すると、低周波の圧力変動が観測され、線路沿線の家屋や建具ががたつくという苦情が寄せられるようになってきた。この現象は、列車通過時圧力変動と呼ばれる。本発表では、列車通過時圧力変動の低減方法を地上側からのアプローチと車上側からのアプローチに分けて検討し、その結果について報告する。



振動遮断工の防振効果算定手法


防災技術研究部(地震防災) 研究室長 芦谷 公稔

 地盤振動対策として比較的大きな効果が期待できる振動遮断工について、その防振効果の定量的な評価手法を開発した。この手法は、地盤構造、地中壁の規模(深さ、厚さ、施工延長)および材質(密度、弾性定数、減衰定数)等をパラメータとして防振効果を定量的に算定することができ、また、有限要素法などの数値シミュレーションに比べるとはるかに簡便なので、振動対策として振動遮断工を計画・設計する際に有用な手法になる。



環境への配慮と経費の削減を目指した雑草防除技術


環境工学研究部(生物工学) 主任研究員 早川 敏雄

 日本は、世界的に見ても雑草の種類や発生量が最も多い国の一つであると言われている。鉄道沿線も例外ではなく、保線や美観上の問題から対策がなされている。ただし、雑草対策は労多く、経費もかかるため、除草剤の使用など省力化が要求されている。その一方、環境汚染や周辺住民との軋轢などの問題も多い。本報告では、除草剤と環境問題に関する知見と、環境に配慮した雑草管理技術について述べる。



鉄道車両の空気抵抗低減方法


環境工学研究部(熱・空気流動) 主任研究員 井門 敦志

 鉄道は他の輸送システムと比較し環境にやさしいシステムと言われるが、今後、環境問題の重要性が増してくることを考えると、さらなる車両の省エネルギー化が必要になる。車両の省エネルギー化のためには、列車速度の2乗に比例して増加する空気抵抗(200km/hの100系新幹線では走行抵抗の7割)の低減が重要である。本研究では、鉄道車両の空気抵抗低減方法を提案し、風洞実験によりその低減効果を定量的に評価した。



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