第159回 鉄道総研月例発表会:最近のヒューマンファクター研究

最近のヒューマンファクター研究の展開


人間科学研究部 部長 四ノ宮 章

 鉄道総研では、鉄道従業員のヒューマンエラー事故防止対策や鉄道利用者の顧客満足度向上対策など、鉄道におけるヒューマンファクターに関する様々な課題解決や対策提案を目指した研究にも取り組んでいる。ここでは、「列車運転シミュレータ」や「車内快適性シミュレータ」といった新たに開発した実験装置を活用した研究を始め、最近のヒューマンファクター研究の取り組みの背景や課題について概説する。


新しい運転適性検査の考え方


人間科学研究部(心理・生理) 主任研究員 井上 貴文

 運転適性検査制度が導入された50年前と比較すると、保安設備の向上等により運転関係従事員が担うべき役割が変化していると考えられる。そこで、我々は現状に則した新しい検査体系の提案に向けた研究に着手した。本発表では、新しい運転適性検査の基本的な考え方、新体系を構築するための研究手順、想定している新体系の概要について述べ、現在までに得られている中間的な成果について概説する。



列車運転シミュレータ上で発生するヒューマンエラー


人間科学研究部 主任研究員 深沢 伸幸

 運転場面においてしばしば発生するヒュ−マンエラ−の発生過程を解明するため、行動分析用の実験装置(列車運転シミュレ−タ)を開発した。この装置は、@作業者が何を見ていたのか、Aそこでどのような行動を取ったのか、Bその時の生理的な状態はどのようであったのかを測定することが出来るものである。今回は運転曲線の比較を通じ、正常な運転と大幅な過走事例とを取り上げ、エラ−の発生過程を行動面から報告する。



車内安全性評価のための乗客挙動シミュレーション


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 小美濃 幸司

 現在列車衝撃事故の乗客被害軽減を目的として,鉄道分野の安全性向上の研究に取り組んでいる。今回はロングシートを配した通勤列車を対象とし,その典型的な傷害パターンについて衝突時の乗客の人体挙動解析を実施した。その結果に基づき検討された,ロングシートに座っている乗客が胸部傷害を起こすパターン,およびつり手につかまって立っている乗客が頭部傷害を起こすパターンに対する被害軽減対策案について報告する。



安全性評価研究の現状と課題


人間科学研究部(安全性解析) 研究室長 柴田 徹

 私たちは鉄道の安全性の評価と事故の再発防止等を目的として、事故データの分析手法や安全管理支援システム、踏切の安全性評価手法等について研究を進めてきた。また、ソフトウェア工学を安全性分析に活用する取り組みも始めている。これらの研究とその成果とともに、原子力発電所の安全性評価に活用されている確率論的安全評価手法の鉄道への適用可能性等の今後の課題について報告する。



視覚障害者誘導用ブロックの駅ホームへの敷設方法


人間科学研究部(人間工学) 副主任研究員 藤浪 浩平

 駅ホーム上の視覚障害者誘導用ブロックについて、敷設幅、ホーム安全側を知らせる形状、構造物と干渉する際の敷設方法、ホームの線路側端部からの距離、島式ホーム上で対向するブロックの距離等について、白杖を使って単独で鉄道を利用している視覚障害者の協力を得て、実験、調査を実施した。また、その成果は、交通バリアフリー法に基づく施設整備の目安となる「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」に反映された。



高齢者のための通勤型車両設備について


人間科学研究部(人間工学) 副主任研究員 斉藤 綾乃

 高齢者を主な対象として、通勤型車両内での姿勢支持具の利用実態、車内設備の満足度等を調査し、以下を明らかにした。@高齢者は着席への期待から座席前に立ち、吊り手を利用している、A標準的な座席は身長が高い高齢者にとってやや低い、B次駅案内表示への要望が高い。これを受け、姿勢支持具および座面高さについて実験室内で検討を行ない、望ましい座面高さや姿勢支持具の特徴などを明らかにした。



鉄道サービスにおける顧客満足感


人間科学研究部(安全性解析) 副主任研究員 宮地 由芽子

 鉄道サービス全般について利用者を対象にアンケート調査を行い、顧客満足感の因子構造を分析した。また、各因子の相対的な重要度と現状の顧客の満足感を評価した。分析の結果、11の顧客満足感の因子が得られた。また、現状評価として"移動に関する手間・負担"、"事故や遅れ時の案内や誘導対応"および"運賃・料金"等については、利用者から十分な満足が得られていないことが分かった。



車内快適性シミュレータ


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 白戸 宏明

 鉄道を一層魅力的な交通手段とするには、利用者の立場からその快適性を評価し、改善に資するシステムづくりが必要となる。そのため、列車内の快適性に振動、騒音等の複合環境が及ぼす影響を検討するツールとして、最新のバーチャルリアリティ技術を使用して、振動、騒音、温度、視覚要因等の車内環境を模擬可能な車内快適性シミュレータを開発した。そのシステムの概要と、快適性評価のツールとして活用する方法について紹介する。



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