第172回 鉄道総研月例発表会:最近の人間科学研究

最近の人間科学の研究動向


人間科学研究部 部長 四ノ宮 章

 鉄道総研では、鉄道システムの安全性、快適性の向上に向けて、ヒューマンファクターに関する様々な課題解決や対策提案を目指した研究にも取り組んでいる。ここでは、ヒューマンエラーに起因する事故の低減対策や鉄道利用者の快適性向上対策に向けた最近の人間科学研究の成果や今後の課題について概説する。


新しい運転適性検査の開発


人間科学研究部(心理・生理) 研究室長 井上 貴文

 我々は、新しい検査体系の提案に向けた研究を進めている。本報告では、データ収集中のエラー実験結果と各検査結果との対応関係の分析結果、すなわち検査項目の妥当性評価結果を用いて、検査項目群を選択する具体的な考え方を説明し、新しい体系における検査項目群のイメージを紹介する。



ヒューマンファクター事故の分析手法


人間科学研究部(心理・生理) 副主任研究員 重森 雅嘉

 ヒヤリハットから重大事故までのすべてのヒューマンファクターが関わる鉄道事故の原因を、事故分析の専門家以外の者が簡便かつ正確に分析できる手法を考案した。これは、分析過程を、@あるべき姿からの逸脱の解明、A逸脱の発生原因であるヒューマンファクターの追究、B問題の多視点整理の3段階に分け、各段階に適した分析手法を新たに考案、または、既存のものを改良し適用することにより実現した。



組織・職場の安全風土の評価手法


人間科学研究部(安全性解析) 副主任研究員 宮地 由芽子

 安全風土は、組織や職場において、幾つかのトラブルに共通な、長期的に影響する背景要因として軽視できないものであり、未然にこれを捉えておくことは積極的な安全活動の一つである。そこで、鉄道設備の品質保証にかかわる組織・職場の安全風土評価手法を開発した。本発表では、調査項目の作成方法およびこれらの項目を用いた分析例について発表する。



列車内における歩行時の乗り心地評価


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 大野 央人

 我が国において今後ますます高齢者人口が増えることを考慮すると、列車内振動についてのバリアフリー化が必要である。そこで我々は、立位時の乗り心地評価法の適用範囲を歩行時にまで拡張する試みを行っている。そこでは、振動に起因する人体の動きを3次元的に定量化する技術も取り入れながら立位時と歩行時の乗り心地特性を比較し、立位時の乗り心地評価の延長上に歩行時の乗り心地評価を捉えるための方策を検証している。本発表ではその取り組みについて紹介する。



人間工学的観点からのブレーキ制御の評価方法


人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 小美濃 幸司

 鉄道の輸送力向上のため、高速高密度運転が進み、特に通勤列車では停車頻度が高く、かつ立ち席が多いなど、ブレーキの減速度は快適性にとって重要な要因となっている。そこで、立っている乗客の立場から、停車時のブレーキパターンを人間工学的に評価する方法、および適切なパターンについて検討している。今回は人間の感覚特性とこれまでの試験結果などから、ブレーキ減速度およびジャークの適切な設定について言及する。



自動券売機のユーザビリティ評価


人間科学研究部(人間工学) 副主任研究員 藤浪 浩平

 近郊列車の切符を販売する自動券売機のユーザビリティ評価の研究例として、切符購入時に困ることや戸惑うことに関するアンケート調査、および、タッチパネル式券売機の操作画面で駅名を入力して切符を買う方法(50音検索による方法)の有効性検証実験と利用実態調査等について紹介する。



鉄道利用者のマナー意識


人間科学研究部(心理・生理) 研究員 山内 香奈

 鉄道利用者のマナーに起因するトラブルや苦情が社会問題としてクローズアップされていることを踏まえ、各種調査から実態と要望の把握および新たな施策案の評価を行った。これにより、@鉄道における迷惑行為が5つに分類されること、Aポスターや放送を使った新たな対策案として、不快に感じる人の割合を示したデータや、迷惑を受けた体験を活用する方法などがより実効力の高い対策として期待できることなどを明らかにした。



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