第182回 鉄道総研月例発表会:鉄道の将来に向けた研究開発〜信頼性の高い鉄道、低コストの鉄道、魅力的な鉄道

鉄道の将来に向けた研究開発(総論)


企画室 室長 上山 且芳

 鉄道の将来に向けた研究開発(将来指向課題)は、前基本計画(RESEARCH21―平成12〜16年度)で初めて設定された。将来指向課題は、数年から十数年後に実用化されることを念頭に置き、鉄道事業者のニーズ、社会動向を踏まえて、技術分野の垣根を越えた横断的な課題として進められてきた。ここでは、将来指向課題の設定の経緯や推進体制と評価、ならびに今回の発表件名以外の課題とその成果概要を紹介する。


走行安全性向上のために


鉄道力学研究部 部長 鈴木 康文

 車両の走行安全性向上の観点から、乗り上がり脱線のメカニズムを解明し、その知見に基づいて走行安全性評価法を提案した。さらに車両・軌道の設計、保守に関する基準を再検討して効果的な乗り上がり脱線防止対策を提案した。また、地震時の走行安全性を考慮した地上構造物の設計基準の検討に資するため、車両走行シミュレーションプログラムを改良し、解析の精度向上を図った。



強風対策と運転規制の最適化


防災技術研究部(気象防災) 研究室長 今井 俊昭

 鉄道車両に働く空気力評価のため、屋外での実物大模型試験と乱流境界層を用いた風洞試験により転覆限界風速を推定し、これらの値と従来の一様流中の風洞試験に基づく推定値との比較を行った。また、強風対策工の効果的な設置を目的として、線路構造物等の要素が転覆限界風速に及ぼす影響を調べた。さらに、転覆限界風速の低い区間に対して適切な規制速度で徐行を行う弾力的な運転規制の考え方を提案した。



インテリジェント列車制御


信号通信技術研究部 部長 平尾 裕司

 先行列車の運転状況を予測することで省エネ運転やダイヤ乱れの早期回復を実現する「予測制御」、車上から直接前方の障害物を監視する「列車前方監視システム」、保守作業の安全を確保するための「保守作業防護」を柱とするインテリジェント列車制御システムの開発を2000年から5年間実施した。この様な情報を活用することによって新たな機能を付加するインテリジェント列車制御の検討結果について述べる。



新しい運転適性検査項目


人間科学研究部(安全心理) 研究室長 井上 貴文

 鉄道の安全対策の1つとして、運転に直接関わる作業を行う係員に対して運転適性検査が行われている。一般被験者に対するエラー模擬実験による妥当性検証に基づいて、作業の現状に対応した新しい運転適性検査項目の候補を、職種(運転士、輸送指令員、駅係員、車掌、保線係員)・設備条件(在来線や新幹線など)別に提案した。



軌道の強度評価と保守低減策


軌道技術研究部 部長 高井 秀之

 列車の安全・快適な走行を支える軌道において、レール継目部と分岐器は最弱点箇所であり、メンテナンスコストの削減が望まれている。そこで、レール寿命評価法、レール継目部の沈下対策工法、継目形状矯正法、軌道検測データを用いた継目部形状測定法などの改良案を提案した。また、構造が複雑なためこれまで解析が困難だった分岐器の構造解析モデルの構築により、部材の変位や応力の照査が可能となった。



ユニバーサルデザイン化された快適な鉄道空間を目指して


構造物技術研究部(建築) 研究室長 青木 俊幸

 高齢化の急激な進展や意識構造の変化から、全ての人に使いやすいものをというユニバーサルデザインの考え方や、安全・正確だけでなくより快適な移動を実現することが他の交通手段との競争力を高める上でも重要となってきている。そこで鉄道利用時のバリアを抽出し、それらの評価法や対策法を開発した。具体的には、駅施設・設備をユニバーサルデザイン化する計画手法、車内・駅空間の快適性の評価・向上手法の開発を行った。



曲線を快適に走行する


車両構造技術研究部(走り装置) 研究室長 徳田 憲暁

 在来線の制御付き振子車両の曲線通過性能向上を目的として、人間工学に基づいた車体傾斜パターンを開発し、これを実現するためにGPSを用いた新しい高精度の地点検出システムと、応答性の高い電動油圧式振子アクチュエータを統合した次世代振子制御システムを開発した。また、高速振子車両に適した曲線での新しい軌道管理手法について検討した。ここでは、曲線での乗り心地向上を中心として、それぞれの概要について報告する。




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