第207回 鉄道総研月例発表会:鉄道の安全性向上を目指すヒューマンファクタ研究

安全性向上を目指す最近のヒューマンファクタ研究

人間科学研究部 部長 鈴木 浩明

 人間科学に関する研究開発においては、鉄道をさらに安全で安心できる交通手段としていくために、ヒューマンファクタの観点からの研究開発に取り組んでいる。ここでは、鉄道従業員のヒューマンエラーが関与する事故の防止から、旅客にとってより安全な車内環境の確保まで、最近の主なヒューマンファクタ研究の課題と取組みを概説する。


安全意識向上を目的とした事故のグループ討議手法

人間科学研究部(安全心理)副主任研究員 重森 雅嘉

 作業者各自が持つ危険情報や経験、安全に関する工夫などを共有し、安全意識を高めることを目的とした事故の原因や対策についてのグループ討議手法を開発した。これは、事故場面や最悪の結果のイメージづくり、参加者の経験に基づいた原因の掘り下げ討議、対策に関する議論の3段階で構成し、簡便に実施できる手法であり、ここでは、この手法について紹介する。


職場安全管理の改善に向けたヒューマンファクタ事故分析手法

人間科学研究部(安全性解析) 副主任研究員 宮地 由芽子

   ヒューマンエラーに起因する事故の背景には組織の安全体制や安全風土の問題があると考えられ、組織的な取組みが求められている。そこで、職場安全管理を支援するツールとして、ヒューマンファクタ事故分析手法を開発した。これは、何が事故を発生させる事象(ヒューマンエラー)なのかを特定し、その発生に影響する要因(ヒューマンファクタ)を管理要因に至るまで分析するものである。ここでは、その概要について紹介する。


発話音声による乗務員の覚醒度評価技術

人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 佐藤  清

 ここ数年、鉄道総研では、発話音声をカオス論的に解析して得られる数値を用いて、作業者の覚醒状態を評価する技術に対して、列車運転士への適用可能性について、実験的に検討している。そこで、今回は、発話音声の解析技術に関する簡単な原理と発話音声の生理学およびこれまでの研究から判明したことを、実験例を交えながら紹介する。


踏切のリスク及び対策評価手法

人間科学研究部(安全性解析) 主任研究員 松本 真吾

 踏切の安全管理を支援するために、既存の事故情報と踏切設備情報を活用した事故発生頻度評価手法に対して、踏切事故による損害・輸送障害等の影響度評価を加えることにより、発生頻度評価と影響度評価の積として簡易的踏切リスクを導入し、これに基づいた安全性評価手法を開発した。また、この簡易的踏切リスクと事故進展分析に基づき、安全対策による個々の踏切環境毎の効果をリスク変化として算出する安全対策評価手法を開発したので紹介する。


通勤列車における立位客の安全性評価

人間科学研究部(人間工学) 主任研究員 大野 央人

 通勤列車内には立位客が多く,また混雑しているため,振動が乗客のふらつきを引き起こしたり,それが他の乗客に波及したりする。本発表では立位客のふらつきや転倒の観点から分岐器通過時,曲線通過時,加減速時の振動評価法を示すとともに,車内混雑の影響についても述べる。また,今後,通勤列車内に高齢旅客が増加すると見込まれるため,前述の振動評価法を高齢者に適用するための補正法についても述べる。


多様な利用者に使いやすい車内支持具の検討

人間科学研究部(人間工学) 副主任研究員 斎藤 綾乃

 通勤近郊車両をできるだけ多様な利用者に使いやすいものとするための課題を整理した。その中で、安全の観点から、身体を支える車内支持具の改善策に関し、のべ200人以上を対象とした実験により、つり革の高さ、縦手すりと座面との距離、水平手すりの高さ、手すりやつり革の径などについて、使いやすい寸法を明らかにしたので紹介する。


着座乗客の衝突事故時の挙動と被害の推定

人間科学研究部(人間工学) 研究室長 小美濃 幸司

 列車が衝突した場合の被害軽減対策の検討には、衝突時の乗客の挙動を解明することが重要なポイントとなる。今回は列車衝突事故時のロングシートに座った乗客にみられる傷害パターンを想定し,乗客挙動解析を行なった例を中心に報告する。具体的には、ロングシートのそで仕切りの形状等と傷害の可能性との関連について得られた知見などを報告する。



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