第213回 鉄道総研月例発表会:信号通信技術に関する最近の研究開発

信号通信の研究開発に関する最近の取り組み

信号通信技術研究部 部長 渡辺 郁夫

鉄道総研の信号通信分野では、汎用無線利用の閑散線区用列車制御システムや車上速度照査機能をもつ低コストATS等の新しい列車制御システムの開発、列車走行に伴う電波雑音放射や雷害などのEMC問題や軌道回路の短絡不良等の問題解決、信号システムの安全性解析・評価技術の研究、画像処理技術の鉄道への適用等の研究開発に取り組んでいる。これらに関する最近の取り組みを紹介する。


RAMS指標に基づく信号システム評価法

信号通信技術研究部(信号)研究室長 平栗 滋人

RAMS規格の発行以来、その考え方の重要性や影響が指摘されているが、システム評価への具体的な適用方法は明らかになっていない。RAMS規格では、A(アベイラビリティ)による評価を重視しており、その要素としてR(信頼性)とM(保守性)があると位置づけている。そこで、RやMを評価するデータに基づいたアベイラビリティにより、改善を要する機器の抽出、対策の効果を評価する手法を検討した他、故障発生時に見込まれる損失を考慮してシステム構成を評価する手法についても検討した。本発表ではこれら手法の概要と適用事例について紹介する。


電子連動装置のリスク評価

信号通信技術研究部(列車制御) 主任研究員 岩田 浩司

国際的にシステムの安全性を確率論的に議論されつつあり、故障発生時の安全性への影響とその発生確率を乗じたリスクで評価する議論もなされている。そこで、高い安全性が要求される電子連動装置を対象に、これまで可能な限り適用されてきたハードウェアの自己診断などのフェールセーフを基本とした安全性・安定性技術をリスク(発生頻度と影響度)の観点から評価した。ここでは障害管理表をもとに、障害の発生頻度と列車運行への影響解析結果、ならびに、安全性・安定性技術の使用実績の推定とその効果によるこれら技術の有効性の解析結果について紹介する。


段階的詳細化に基づく鉄道信号へのフォーマルメソッド適用法

信号通信技術研究部(信号) 副主任研究員 寺田 夏樹

ソフトウェアの高信頼化を図る手法として、システムの仕様をフォーマルメソッドで形式的に記述する試みが行われているが、実時間で動作する信号システムを記述する場合には、仕様が複雑になり理解が困難になるという課題があった。そこで、段階的詳細化と呼ばれる技法に着目し、ATCブレーキパターン計算への応用を例として適用を試みた結果、複雑な制約を満たす理解しやすい記述が得られた。本発表では、フォーマルメソッド及び段階的詳細化技法の概要を述べ、この技法に基づく実際の記述例について紹介する。


信号保安設備の雷害発生メカニズムと対策

信号通信技術研究部(信号) 主任研究員 新井 英樹

信号保安設備に電子機器が導入されるに従い、多くの雷害が発生するようになった。そのため、効果的な雷害対策の確立が求められているが、信号保安設備の雷害発生メカニズムに関して未解明な部分は多い。本研究では、落雷に伴い生ずるレールやレール近傍大地の電位上昇が信号設備に被害をもたらすメカニズムについて検討を行った。ここでは、そのメカニズムについて紹介するとともに、対策および効果の検証結果について発表する。


電気鉄道が放射する電波雑音のシミュレーション手法の検討

信号通信技術研究部(通信) 主任研究員 川ア 邦弘

電気鉄道から沿線に放射される電波雑音については、列車走行に伴う強度変化特性や周波数特性などの推定法が確立されておらず、EMC規格との整合性や放射防止対策の効果などを確認するためにはコストのかかる実測に拠らざるを得ない。そこで、鉄道総研では、沿線への電波雑音の放射をシミュレーションする手法の検討を行っている。本発表では、放射モデルの基礎検討を行った結果と、基本的なモデルに基づく放射シミュレーションの試行結果を紹介する。


鉄道沿線の簡易な通信システム構築手法の実験的評価

信号通信技術研究部(通信) 研究室長 関  清隆

災害時や事故時等に現場の状況を把握する場合や、異常の予兆が見られたときにセンサを仮設してセンシング情報を収集する場合等、十分な通信品質を保証するよりは簡便に臨時通信回線を鉄道沿線に構築することが求められる場合がある。そこで、事前の設定をほとんど行わずに通信ノードを沿線に配置するだけでネットワークを構築するシステムの伝送特性を実験的に評価するとともに、伝送品質向上のために有線ネットワークを併用する方式を試作した。ここでは、伝送特性の評価結果や応用可能性の検討結果を紹介する。


鉄道用異常検知・情報配信システムの開発

信号通信技術研究部(信号) 主任研究員 鵜飼 正人

駅構内等への監視カメラの設置が進んでいる。その使われ方はモニタリングと証拠目的の録画という使われ方が一般的であるが、我々は監視映像から何らかの異常を自動的に検知し、適切にアラームを出力する、知的な画像認識技術を開発してきた。人の交差や物の隠れに強いカルマンフィルタによる追跡アルゴリズム等を適用して、不自然な人の姿勢や手足の動き等から、けんか等の異常なシーンを検知する画像処理手法、その検知情報をシーンの内容に応じて、監視センターや必要箇所に的確に配信するシステムについて紹介する。



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