第269回 鉄道総研月例発表会:構造物に関する最近の実験技術

構造物に関する最近の実験技術

構造物技術研究部 部長 舘山 勝

 近年、鉄道構造物に関しては性能規定化が進展し、要求性能に応じた合理的設計や、新材料・新工法の導入が容易となっている。一方、性能設計においては、部材性能や材料特性、各種応答値や限界値などを精緻に求める必要があることから、これまでにも増して実験による性能の検証が重要となっている。
 そこで本報告では、鉄道総研が所有する構造物に関するユニークな実験装置、実験技術について紹介する。


鉄筋コンクリート部材の経時変化を捉える実験技術

構造物技術研究部 コンクリート構造研究室 副主任研究員 渡辺 健

 供用中の鉄筋コンクリート部材では、時間の経過とともに鋼材が腐食し、その結果、かぶりのはく落や、構造物としての機能が低下する可能性が問題となっている。鉄道総研では、鉄筋の押抜実験や引抜実験により、かぶりのはく落や腐食鉄筋とコンクリートの付着特性について明らかにしてきた。発表では、このようなRC部材の問題を実験的に捉え、評価する研究に焦点をあてた内容を紹介する。


橋梁支承部の地震時挙動を捉える実験技術

構造物技術研究部 鋼・複合構造研究室 主任研究員 池田 学

 過去の大地震において橋梁の支承部に多くの損傷が生じている。一方、支承部は種々の形式があり、その地震時の挙動については未だ不明な点も多い。本発表では、支承部の地震時の挙動を明らかにするために実施した各種支承の載荷実験として、既設鋼橋梁の支承(線支承、ピボット支承)の載荷実験、ゴム支承を用いた支承部の振動台実験等を紹介する。さらに、実験結果をもとに復元力モデルを提案し、構造全体系での解析により地震時の評価を行った事例を紹介する。


動的な地盤の変形・破壊挙動を捉える実験技術

構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 主任研究員 渡辺 健治

 鉄道総研ではこれまでに高速度カメラを用いた画像解析システムを振動台模型実験に適用してきた。これにより、例えば地震時に盛土内に発生するすべり面の発生過程や、液状化による地中構造物の浮上がり挙動の詳細検討が可能となり、得られた知見は最新の設計標準に反映されている。今回の発表では、解析精度向上のために実施したシステム改修を紹介し、大型斜面模型の振動実験における画像解析システムの適用事例、得られた知見を示す。


地盤変位作用を受ける杭基礎の変形挙動を捉える実験技術

構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 主任研究員 西岡 英俊

 地震時の杭基礎の設計においては,周囲の地盤がせん断変形することで杭が強制的に変形させられる影響(地盤変位作用)を考慮する必要がある。鉄道総研が保有する基礎の動・静的載荷実験装置は,深さ3mのせん断土槽に3本の水平ジャッキが設置されており,地震時の地盤変位作用を再現することができる。本発表では,鋼管杭に対して地盤変位および慣性力をそれぞれ載荷させて杭体の変形挙動を評価する実験技術について紹介し,地盤変位載荷時と慣性力載荷時での地盤反力係数の違いを明らかとした研究事例を紹介する。


トンネル覆工の力学挙動を捉える実験技術

構造物技術研究部 トンネル研究室 主任研究員 岡野 法之

 トンネルはその周囲を地山に囲まれており、覆工の力学挙動の解明には,周辺地山との相互作用を考慮する必要がある。鉄道総研では、新幹線複線標準断面を想定した縮尺1/30の小型および縮尺1/5の大型覆工模型載荷実験装置を開発し、覆工の材質,補強対策工等をパラメータとした数々の実験を通して、トンネル覆工の力学挙動を明らかにし,健全度評価法や変状対策工の設計法の確立に役立ててきた。ここでは,それぞれの実験装置を紹介するとともに、研究成果の一例を報告する。


駅シミュレータを用いた駅の安全性・快適性主観評価実験

構造物技術研究部 建築研究室 室長 伊積 康彦

 駅をより良くするには、安全性、利便性、快適性などを向上させる必要がある。これらの性能を評価するには実駅での調査や実験が有効であるが、実駅でこのような実験等を実施するのは不可能なことが多い。そこで、鉄道総研では駅に関わる様々な実験を行うための実物大駅舎模型(駅シミュレータ)を用いて、駅の安全性や快適性に関する実験を行っている。ここでは、そのなかから駅の混雑評価実験、駅案内放送の聴き取りにくさ実験などの主観評価実験について紹介する。


構造物における高密度かつ高精度な地震観測システム

構造物技術研究部 耐震構造研究室 研究員 本山 紘希

 鉄道構造物の地震応答特性について、部材や地盤などの物性の影響は部材実験や要素実験により確認されているが、構造物全体の3次元的な挙動や隣接する構造物間の相互作用の影響については未解明な部分も残っている。これらを検討するには、高精度な計測器を高密度に配置した観測システムにより、構造物の地震応答を計測する必要がある。ここでは、連続する数スパンのラーメン高架橋において、多数の地震計を設置した地震観測システムを開発したので、そのシステムと観測事例について紹介する。




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