第273回 鉄道総研月例発表会:

防災技術に関する最近の研究開発

防災技術研究部 部長 太田 岳洋

日本の多様な自然環境条件を要因とし、また近年大規模な現象が顕著な地震、豪雨、豪雪などによる自然災害に対して、最近の鉄道総研での取り組みを対象分野ごとに概説する。また、今後進めるべき防災分野の技術開発項目についてその方向性や課題を解説した上で、現在進めているプロジェクト型テーマ「気象災害に対する安全性向上」の内容について解説する。


変動要素を考慮した強風時の車両安全性評価手法

防災技術研究部 気象防災研究室 主任研究員 荒木 啓司

これまでの横風に対する車両の安全性評価手法では、転覆限界風速の高低に大きな影響を及ぼし、かつ時間的に不規則な変動をする要素(変動要素)を「最悪値の組み合わせ」によって、転覆限界風速以上となる強風発生確率Pxを指標とした安全性の評価を行ってきた。本研究では、変動要素として車両の左右振動加速度と風向を抽出し、これらの発生確率を考慮してPxを算出する方法を構築した。また、本手法と変動要素を「最悪値の組み合わせ」にした場合とでPxを試算し、両者の違いを評価した。本発表では、これらの成果を報告する。


融雪水の積雪底面流出量の簡易推定方法

防災技術研究部 気象防災研究室 研究員 栗原 靖

融雪期に発生する全層雪崩は積雪底面へ浸透する融雪水が影響を及ぼすため、その発生危険度を評価するためには、融雪水の積雪底面流出量を把握することが重要となる。そこで本研究では、気象・融雪量観測結果に基づき、積雪底面流出量を推定する上で必要となる「積雪表面での融雪量」の推定モデル、ならびに「融雪水の浸透現象」を再現する浸透モデルを構築した。その結果、アメダス観測点等から入手可能な気象4要素が得られれば積雪底面流出量を時間単位で精度良く推定できるようになった。本発表では、これらの成果を報告する。


精度と即時性を高めたP波による震央推定手法

防災技術研究部 地震防災研究室 室長 山本 俊六

 新幹線の早期地震防災システムにおいてP波による運転制御の信頼性をさらに高めることは重要な課題である。ここではP波初動部の短い時間における振幅の成長が震央距離に強く依存すること、またこれらの波形成分が主に直達波から構成されることに着目し、現行より短い解析データ長を用いることにより、精度と即時性を高めた震央距離および震央方位推定手法を開発した。本発表では手法の概要と検証結果を報告する。


地震後の早期列車運転再開支援に関する技術開発

防災技術研究部 地震防災研究室 副主任研究員 岩田 直泰

地震発生時において揺れの程度により列車停止が発令された場合、観測された地震動に応じて安全確認が実施される。安全確認の適正化は、状況によっては早期運転再開につながると期待されるため、公的機関の地震や地盤の情報を活用して即時的に地表面の地震動や構造物被害の推定を行う早期運転再開支援システムを開発した。加えて、新たな地上設備を必要とせず高密度な地震観測を可能とする、簡易型地震観測装置を開発したのでこれらを報告する。


豪雨および地震による斜面崩壊に関与する地形・地質条件

防災技術研究部 地質研究室 研究員 西金 佑一郎

斜面崩壊の発生には地形・地質条件が深く関与しているが、こうした条件から斜面の安定性を評価するには詳細な調査や専門的な知識を必要とする。そのため斜面崩壊に関わる地形・地質条件を明確にし、斜面の安定性をより簡便に評価する手法が望まれている。本研究では豪雨および地震による斜面崩壊が多発した地域を対象に図面判読を行い、崩壊箇所と未崩壊箇所の地形・地質条件を抽出した上で、統計解析によって両者の特徴を整理した。本発表では、その内容および斜面の安定性を簡便に評価する手法についての検討結果を報告する。


地形条件を用いた土石流の危険度評価手法

防災技術研究部 地盤防災研究室 主任研究員 布川 修

 降雨時に鉄道沿線の渓流で土石流が発生することがある。土石流の発生には渓流流域の斜面の安定性と渓流の流量の変化が大きな影響を及ぼし、これらは斜面表層や表層土内における水の移動現象に大きく依存する。そこで、三次元的な地形の起伏を考慮して斜面における水の移動現象を計算し、この結果をもとに土石流の発生危険性を評価する方法について報告する。


既設盛土の安定性向上効果に着目した排水パイプの最適設計仕様

防災技術研究部 地盤防災研究室 副主任研究員 渡邉 諭

 盛土内の地下水排出を目的とした排水パイプ打設工法は、これまで多数の施工実績があるものの、その設計仕様は確立しておらず、過去の経験に基づき実施されている現状がある。本研究では、降雨時における盛土の立地条件別の不安定性を把握するとともに、各立地条件に対し排水パイプがどの程度の安定性向上効果を有するのか評価した。その結果、盛土の安定性は排水パイプの間隙水圧低減効果により向上するのを確認するとともに、各立地条件別にパイプピッチやパイプ長さ等を変えた場合の安定性向上効果を定量的に評価したので報告する。




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