第274回 鉄道総研月例発表会:

軌道の効率的な維持管理を目指した最近の研究開発

軌道技術研究部長 古川 敦

我が国における軌道の総延長は約40,000kmであり、かつ整備新幹線や一部の都市内路線を除いて、今後大きく増えることは見込まれない。したがって、軌道の技術開発においてはこれら40,000kmの軌道を今後とも維持・発展させることが重要となる。鉄道総研は、サステナブルな軌道の実現に向けて様々な研究開発を行っているが、ここでは「保守の効率化」「軌道の延命化」をキーワードに、つき固め作業後の仕上がり状態評価やレールの延命化といった、最近の成果を紹介する。


分岐器の弾性支持化に対する評価手法

軌道技術研究部 軌道構造研究室 副主任研究員 及川 祐也

分岐器は、構造が複雑であることや様々な長さのまくらぎが敷設されていることなどから、軌道変位が生じやすい弱点箇所の一つとなっており、さらに一般に分岐器は弾性構造となっていない。よって、まくらぎパッドや弾性式レール締結装置の使用などによって分岐器を弾性支持することが、道床沈下量を減らし軌道変位への有効な対策になると考えられる。そこで、分岐器を対象とした車両の走行シミュレーションモデルを構築し、分岐器の支持条件が車両や軌道の挙動に与える影響を把握したので紹介する。


本設利用工事桁用レール締結装置の開発

軌道技術研究部 軌道構造研究室 副主任研究員 弟子丸 将

主桁に合成まくらぎを設置した横桁を取り付けて工事桁とした後、それらの下にコンクリートを注入して本設化する本設利用工事桁に適用する目的で、本設化の際の高低および通り調整を可能としたレール締結装置を開発した。本報告では、この締結装置の合成まくらぎへのタイプレート定着方式やレールの通り調整方式等の構造と、開発品の性能確認を行った結果について、概要を報告する。


貫入試験によるCAモルタル劣化範囲の評価方法

軌道技術研究部 軌道・路盤研究室 副主任研究員 高橋 貴蔵

スラブ軌道のてん充層にはCAモルタルが用いられているが、寒冷地の一部では、凍害による劣化が発生している。凍害による劣化はCAモルタルの周囲から内部に進行していくことから、維持管理を行う上で内部の劣化状況を評価する必要がある。ここでは、CAモルタルの内部の劣化状況を新たに開発した貫入試験によって評価する方法について報告する。


テルミット溶接を用いたレール頭部補修方法

軌道技術研究部 レール溶接研究室 研究員 伊藤太初

シェリング等のレール頭部損傷を補修するため、テルミット頭部補修溶接法を採用し、予熱条件および注湯方式の適正化に取組んだ。本方法は、長さ90mm、深さ25mmの部分円状の範囲に存在する損傷箇所を補修することができ、レールのテルミット溶接法と同様の手順での施工が可能なものである。検討の結果、実用上十分な性能を有する補修溶接部を実現する施工条件を提案するに至った。また、施工後の仕上り検査方法および判定基準を提案したので紹介する。


個別要素法による普通継目部の道床沈下シミュレーション

鉄道力学研究部 軌道力学研究室 主任研究員 河野昭子

普通継目部における列車通過時の衝撃荷重が道床バラスト層の沈下傾向に与える影響を把握するために、レール継目部動的応答解析モデルと離散体バラスト軌道モデルを用いたシミュレーションを行った。同時に、普通継目部付近の軌道パッドおよびまくらぎ下を弾性化した条件におけるシミュレーションを行なった。ここでは、継目部の段差や継目落ちが残留沈下に及ぼす影響や、軌道弾性化による残留沈下抑制効果について紹介する。


60kgレール頭頂面の形状変更が走行特性に及ぼす影響の評価

軌道技術研究部 軌道管理研究室 研究員 清水 惇

60kgレールは、東海道新幹線の重軌条化の際に導入され、現在の新幹線軌道において用いられている標準的なレールである。この60kgレールの導入時には、新幹線車両の車輪形状は円錐踏面が主流であったが、近年投入されている新型車両では円弧踏面が採用されている。そこで、営業線に敷設されたレール頭頂面の形状や車輪形状の実態調査を行った上で、走行安全性や安定性の観点からより適切と考えられる新たなレール頭頂面形状を検討し、提案した。本発表では、これらの調査結果と検討結果について報告する。


脱線リスクを考慮した軌道変位保守計画モデル

軌道技術研究部 軌道管理研究室 室長 三和雅史

これまでに構築した軌道変位保守計画モデルでは、年間保守延長の上限制約下での軌道状態の最良化を目的関数として計画を作成していたが、軌道状態の悪化に伴って高まる脱線事故に関するリスクも考慮して、保守計画を検討する必要がある。そこで、軌道・車両・運転条件等を考慮して脱線事故発生確率と事故時の被害を推計し、リスクを算出するモデルを構築した。そして、リスクを考慮した保守計画モデルを構築し、得られる計画の有効性を試算により検証した。本発表では、モデルの概要と有効性の検証結果を報告する。




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