鉄道総研講演会

ごあいさつ

(財)鉄道総合技術研究所 会長 松本 嘉司


 (財)鉄道総合技術研究所は、鉄道の発展と学術・文化の振興に寄与する事を目的として1986年に創立されました。
 それ以来、鉄道に関する幅広い研究開発活動を行うとともに、毎年鉄道技術に関する講演会を開催してまいりましたが、早いもので今年で第15回を迎える事が出来ました。
 これもひとえに国土交通省・JRグループをはじめとする多くの方々のご支援の賜物と深く感謝しております。
 今回の講演会は、「環境と鉄道−地球環境保全に貢献する鉄道−」と題し、鉄道における地球環境保全への取組みをご紹介いたします。鉄道は地球環境の保全に適した交通機関ですが、その利点を生かして前向きの努力を続けております。
 皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。

エコサービスとしての鉄道

東京大学教授 国際・産学共同研究センター長 山本 良一


 環境省は昨年の「環の国づくり」会議に続いて今年は「環の国くらし」会議を開催し、私達の目指すべき豊かなエコライフのイメージとその実現の方策を取りまとめている。その中でエコサービスとしての鉄道は今後ますます積極的に活用すべきであるとされている。本講演では、まず地球限界について述べ、限界に到達してしまった工業文明をいかに持続可能な文明に転換させるか、そのための思想転換、技術革新、社会制度変革について紹介する。そして近年におけるエコサービス概念と新しいビジネス形態の発展について述べ、鉄道もその一つとして論じてみたい。

持続可能な大都市圏の交通体系及び都市構造

株式会社 価値総合研究所 戦略調査事業部長 村林 正次


 我が国が持続可能な発展をはかるためには、我が国の人口の25%以上、GDPの約30%を占める首都圏の分析が不可欠である。首都圏は我が国の経済社会の発展を牽引する役割が期待されているが、活力を引き出すための交通基盤整備や都市施策が CO2排出量の増大を招く結果となると、我が国として今後果たしていかなければならない地球温暖化防止の観点からは逆行することとなり、持続可能な首都再生の実現が困難となる。このような観点から、交通・土地利用モデルを用い実施した2030年までの首都圏における主要な交通基盤の整備及び業務核都市の展開が CO2排出量に及ぼす影響の分析結果を紹介する。

鉄道におけるLCAへの取組み

(財)鉄道総研 材料技術研究部 摩擦材料 研究室長 辻村 太郎


 鉄道総研では、鉄道の環境負荷を把握し、今後の技術開発の指針を得、さらに改善の効果を評価するため、「鉄道のLCA(ライフサイクルアセスメント)」に取り組んでいる。LCAには産業連関分析法と積上げ法があるが、ここでは鉄道を対象として行った結果に基づいた両者の得失の比較を行う。さらに、産業連関分析法による各種交通機関の比較、積上げ法によるインフラも含めた検討例を紹介する。LCAは、現時点において完成されたものではなく、評価の表現方法や基本となるデータベースの整備が国レベル及び国際的に進められているので、その状況について紹介し、最後に鉄道分野におけるLCAの活用方法、今後に残された課題について考察する。

鉄道を他輸送機関と比較する

(財)鉄道総研 浮上式鉄道開発本部 技師長 澤田 一夫


 石油等化石燃料の世界的規模での消費拡大に伴い、大気中に放出される温室効果ガスが急激に増加し、地球温暖化が大きな問題となっている。我が国においては、CO2の地球温暖化への寄与度は温室効果ガス全体の約9割を占めており、その削減が強く求められている。運輸部門の CO2排出量は全体の2割強を占め、年々その割合は増加している。ここでは旅客及び貨物輸送機関のそれぞれについて、輸送原単位あたりの消費エネルギー、CO2排出量等を示し、鉄道が地球環境保全に優れた交通機関であることを示す。さらに、航空機と浮上式鉄道のエネルギー消費、CO2排出量を比較し、特に中距離域までにおける後者の優位性を示す。

さらなる省エネルギー・クリーンエネルギ−化を
目指して

(財)鉄道総研 車両制御技術研究部 駆動制御 研究室長 秦  広


 鉄道はエネルギー効率のよい交通機関であるが、地球環境時代である21世紀に入り、環境への負荷をさらに小さくする努力が求められる。さらなる省エネルギー・クリーンエネルギー化をめざして鉄道総研で進めている最近の研究開発について報告する。省エネルギーについては、ブレーキ時に発生するエネルギーを蓄積、再利用するさまざまな方式の研究、車両用電気機器の損失を低減するためのさまざまな研究を紹介する。クリーンエネルギー化については、ディーゼル車両の排気ガスをなくすための燃料電池の研究に触れる。

材料リサイクルの鉄道への適用

(財)鉄道総研 材料技術研究部 部長 上山 且芳


 循環型社会の実現、地球温暖化の抑制、環境汚染物質の削減など、地球環境問題への対応が求められるなか、リサイクル化の推進および廃棄物処理適正化の推進は鉄道事業者にとっても重要な課題である。ここでは鉄道で利用している材料のリサイクルならびに廃棄物などから鉄道で使用する材料へのリサイクルについて、鉄道総研で検討した事例を中心に紹介する。建設発生土、コンクリート塊を破砕した再生砕石や再生骨材、車両用ブレーキ材やすり板などの複合材料製消耗部材、ならびに床材、空気ホース材およびFRPなどの車両用高分子材料に関するリサイクル技術を紹介する。

鉄道における環境への取組みの現状

(財)鉄道総研 企画室 室長 小山 幸則


 地球環境問題に対して優位性のある鉄道が、さらなる貢献を果たす方途は2通りある。一つは現状の鉄道システムの、一層の効率化、省エネルギーやクリーンエネルギー化を図ることであり、もう一つは交通需要をより多く担うことである。前者については、既に各鉄道事業者が様々な活動を行っているので、これを概括的に述べる。一方、後者については、鉄道事業者自らが鉄道をより使い易く魅力的なものとする努力のみでは難しく、地球環境に対する影響を含めたより広い視点から各交通機関を評価することも必要である。そのための一手法として、UIC(世界鉄道連合)では、これを「輸送の外部不経済」の一要素として評価する手法を提案しているので、その概要を紹介する。



Copyright(c) 2002 Railway Technical Research Institute