ごあいさつ

(財)鉄道総合技術研究所 会長 松本 嘉司


 財団法人鉄道総合技術研究所は、1986年に創立されて以来、今年で20周年を迎えることができました。この20年間、鉄道技術に関する幅広い研究開発を通じて、わが国の鉄道の発展と学術・文化の振興に寄与することができたことは、ひとえに国土交通省、JRグループをはじめとする鉄道事業者、ならびに多くの方々のご支援・ご協力の賜物と深く感謝申し上げます。
 毎年恒例となった鉄道総研講演会も19回目を迎えましたが、今年は20周年にちなみ、「より安全な鉄道輸送をめざして−鉄道総研20年のあゆみと今後の取り組み−」をテーマとして、特別講演に東京理科大学・正田英介教授をお迎えし、「より安全で信頼される社会インフラとしての鉄道」と題したご講演をいただきます。また、鉄道総研がこれまでに取り組んできた鉄道の安全性に関する各分野の研究開発成果を振返るとともに、将来への展望を報告いたします。
 皆様のご来場をお待ち申し上げます。



より安全で信頼される社会インフラとしての鉄道

東京理科大学 理工学部 教授 正田 英介


 複雑化した高度技術社会の中で環境や生活の安全に対する一般の関心は高まっているが、その一方で自然災害の発生も後を絶たない。ライフスタイルや社会環境が変化し、いろいろな分野で事故やシステムの信頼性を損なう事象が顕在化する中で、社会のライフラインの中核を担う鉄道ネットワークも社会の求める安全と信頼に応えることが強く求められている。事業者・利用者・社会環境の相互の関わりを俯瞰しつつ、鉄道システムを支える技術力の維持が課題となっている状況の下で、情報通信ネットワークを中心とした新しい技術開発による対応、システムの安全を保証する仕組みの確立、それによって社会と利用者の安心と信頼を得るための啓蒙や広報などの視点から、鉄道事業者がより安全な鉄道を実現するための方策について述べる。


安全性、信頼性向上への取り組み

(財)鉄道総合技術研究所 研究開発推進室 室長 熊谷 則道


 鉄道の長い歴史の中で自然災害による事故、部品の破損等による事故、ヒューマンエラーによる事故など鉄道事故が発生した。鉄道関係者は、鉄道への信頼を損なわれることがないように事故防止に取り組んできた。事故防止対策を立てる上で、鉄道システムの安全性を高めるための研究開発の重要性はますます高まっている。本講演では、鉄道システムの安全と信頼性の向上の視点から、鉄道総研で実施した運輸、車両、構造物、軌道、電車線、信号通信、人間科学等の技術分野の研究開発の経緯と今後の展望について紹介する。安全とは「人への危害または損傷の危険性が、許容可能な水準以下に抑えられている状態」と定義されている。安全の確保のため、事故防止に体系的に取り組む方法の例として、手法の概念について紹介する。


車両の走行安全性を向上する

(財)鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 車両力学研究室 室長 石田 弘明


 過去の事故を貴重な経験として、鉄道車両の走行安全性向上が図られてきた。各種安全対策はすでに多くの実績を積んでいるが、高速化等により車両や鉄道システムが変化してきたとき、従前の対策で十分かどうかを再検討・評価することが重要となる。このような観点から、鉄道総研では、走り装置の信頼性向上や基本的な脱線現象の理解と安全性評価手法の研究を進めてきた。本講演では、走り装置の安全性・信頼性向上に関する研究成果を述べるとともに、乗り上がり脱線を中心とした通常走行時の脱線現象と地震時における振動軌道上での車両挙動を取り上げ、脱線シミュレーションや測定法などの車両運動解析ツールとその開発状況、走行安全性の評価手法等について報告する。


構造物の耐震性能を向上する

(財)鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 部長 市川 篤司


 鉄道構造物の耐震設計・耐震補強の技術は、過去の被災経験を基に少しずつ進歩してきたが、大きな被害を受けた兵庫県南部地震を契機に大きく変化した。すなわち、それまでの震度0.2レベルの地震動に対して弾性設計する方法から、地震動の規模に応じて要求性能を明確にし、大規模地震動に対しては損傷を制御する設計法に変わった。しかし、大規模地震動を考慮する故にこれらの技術には未だ多くの課題が残されている。ここでは、それらの課題を解決し構造物の耐震性能を高めるために鉄道総研がこれまで取り組んできた技術開発の内容と今後の取り組みを紹介する。


自然を知り安全を確保する

(財)鉄道総合技術研究所 防災技術研究部 部長 藤井 俊茂


 日本の鉄道が安全で安定した輸送を提供し続けていくためには、地震、台風、豪雨、豪雪など日本の自然環境や気象条件を知り、その変化を捉えて、自然災害の発生を防ぐ−あるいは被害を軽減する−ことが極めて重要である。 鉄道総研の発足から現在まで、自然災害に強い鉄道づくりを目指して行なってきた取り組みとその成果を災害種別ごとに総括する。また、最近の話題と取り組みの例として、強風対策や緊急地震速報などを取り上げ、今後の取り組むべき課題・方向性を紹介する。


より安全性の高い列車保安システムを実現する

(財)鉄道総合技術研究所 信号通信技術研究部 部長 平尾 裕司


 鉄道信号の分野では、マイクロエレクトロニクス化をいち早く実現するとともに、その成果をとりまとめた安全性技術指針の作成および新技術を適用したシステムの開発を行ってきた。安全性、信頼性を向上させるためには、リスク分析などの新たな手法も取り入れた研究開発が必要になってきていることを踏まえ、鉄道総研における列車保安システムの安全性・信頼性の向上に関する研究開発のこれまでの取り組みを紹介するとともに、リスクによる定量的安全性評価をベースとした研究開発の今後の方向について述べる。


ヒューマンファクターの観点から安全性を向上する

(財)鉄道総合技術研究所 人間科学研究部 人間工学研究室 室長 鈴木 浩明


 ヒューマンファクターの面における安全性の向上は、旧国鉄の鉄道労働科学研究所以来、一貫して人間科学分野の中心的な研究テーマであった。本講演では、鉄道従業員側と旅客側とに大別して、鉄道の安全性向上に関わるヒューマンファクター研究の現状と今後の課題について紹介する。主なトピックは、新しい運転適性検査体系、ヒューマンエラー事故の分析手法、職場の安全風土の定量的評価、衝突時の旅客被害の低減、異常時における旅客の避難・誘導等である。また、シミュレーション技術の発達等を受けて、人間科学分野における試験技法も大きく変化していることから、安全研究に活用している代表的な試験ツールとその特徴について紹介する。



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