境界を超えた研究への挑戦 −分野融合研究の試み−
東京大学 生産技術研究所 教授  須田 義大

 科学技術の進展により、学問分野は、より細分化され、工学の現場においても専門性が強くなってきている。しかし鉄道システムは総合的な工学より成り立っており、境界領域への取り組み、さらには境界を超えた分野融合研究が重要である。東京大学生産技術研究所は、歴史的に産業界との連携のみならず分野融合研究を推進してきており、現在では、LRT などの軌道系交通システム、ITS、そしてパーソナルモビリティ・ビークルを融合した新たな都市交通について、千葉実験所において実践的な研究に取り組んでいる。これらの研究活動を通じて分野融合研究における重要な視点、手法、留意点などを紹介したい。

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より良い鉄道システムへのリサーチインテグレーション
(財)鉄道総合技術研究所 理 事  熊谷 則道

 鉄道は運転、車両、軌道、構造物、電力、信号通信などのサブシステムを集約した大規模なシステムである。鉄道システムには、技術分野相互の境界の他、実際の現象と理論との境界、自動車など他システムとの境界、各国相互のシステムの境界などが存在する。一方、鉄道利用者ならびに社会からは、安全の維持・向上、地球環境保全、業務の効率化、快適性向上などが鉄道に求められている。より良い鉄道システムを構築するために、多様な境界を含む鉄道システム全体で生じる課題の解決に向け、これまでの技術の蓄積と新たな研究開発による「知」の結集−リサーチインテグレーション−が必要である。本講演では、鉄道総研において実施してきた、多様な境界を超えて複数技術を融合した研究開発の例と、今後の取り組みについて紹介する。

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車両・軌道・構造物系のダイナミクス
(財)鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 部長  石田 弘明

 鉄道は構造物、軌道、車両、架線など多くの基盤設備から成り立つシステムである。車両のダイナミクス一つをとっても軌道と常に密接な関連を持ち、車両の走行が軌道、さらに構造物や地盤の振動に影響を及ぼす。本講演では、安全性、快適性、環境との調和をキーワードに、車両・軌道・構造物系のダイナミクスを取り上げ、相互作用の解析事例等を紹介する。特に乗り上がり脱線、高速車両の振動乗り心地、地震時の列車走行安全性などについて、これまでの研究の流れを解説し、安全性・快適性の向上を目指して鉄道総研が進めている更なる高性能化への取り組みを紹介する。また、バラスト劣化モデルの構築など、ダイナミクスに関連した省保守のための基礎研究にも触れる。

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架線・パンタグラフ系の境界技術
(財)鉄道総合技術研究所  鉄道力学研究部 集電力学研究室 室長  池田  充

 架線・パンタグラフ系に関する技術は、鉄道固有技術の代表例の一つであると同時に、力学的に強い相互作用が生じている境界技術でもある。架線・パンタグラフ系が担っている役割は地上設備から車両に安定した電力を供給することであるが、事故・故障の防止、沿線環境保全、保守コスト低減など多くの制約条件のなかで、これを実現することが求められることから、各構成要素を系として調和させることが重要である。本講演では、架線・パンタグラフ系の性能向上と集電系騒音低減に関わるこれまでの研究の流れを俯瞰しながら解説するとともに、現在、鉄道総研が進めている「高性能化」と「保守の高度化」をキーワードとする取り組みの成果について紹介する。

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車輪・レール系の境界技術
(財)鉄道総合技術研究所  鉄道力学研究部 軌道力学研究室 室長  名村  明

  車輪・レール系の境界技術は、鉄道システムの最も基本となる技術の一つである。車両の支持、案内、駆動および制動は、車輪とレールの接触部に働く力によってなされる。この接触部分で何が起きているのかを知ることは、そこから派生するレール損傷などの様々な問題を考える際の出発点となるものであり、これまでに安全、メンテナンス、快適性、環境などの観点から多くの研究がなされてきた。その際に重要なことは、車輪とレールについて別々に局所的な最適化を図るのではなく、システムとして全体の最適化を図ることである。本講演では、鉄道総研で行っている車輪・レール系の境界技術に関する研究開発の内容・成果と、今後の取り組みを紹介する。

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沿線環境との調和
(財)鉄道総合技術研究所  環境工学研究部 空気力学研究室 室長  飯田 雅宣

  鉄道は省エネルギー性に優れた地球環境に優しい交通機関であり、その利用促進が望まれるが、列車の速度・運行頻度を向上させると騒音・振動などによる沿線環境への影響が増大する。高速で走行する新幹線では、空気力学的原因により発生する空力音やトンネル微気圧波、一方、比較的低速の在来線では、車輪がレール上を転がることにより発生する転動音が重要な研究課題である。これらの現象は車両と地上構造物の境界で発生するため、車両・地上の両方を同時に考慮した取り扱いが欠かせない。ここでは、空力音、転動音、低周波音の諸現象に対して、分野の境界を超えて進めてきた鉄道総研の研究動向を紹介する。

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列車制御・信号通信系の境界技術
(財)鉄道総合技術研究所 信号通信技術研究部 部長  渡辺 郁夫

 鉄道車両の駆動制御へのパワーエレクトロニクスの導入等により、制御のスイッチングなどに起因する電磁的ノイズが放射されるため、沿線の電磁環境の把握やEMC(電磁環境適合性)が極めて重要になってきている。また、列車検知に広く使用されている軌道回路はレールを使用するため、車両、軌道、電力などの技術分野の影響を考慮した設備とする必要がある。本講演では、信号通信分野の境界技術を中心に、EMC、軌道回路列車検知性能の研究に関する取り組みについて紹介し、あわせて無線利用と列車の知能化により更なる安全性向上を目指した列車制御システムの研究開発に関する取り組みについて紹介する。

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人間とシステムの相互作用
(財)鉄道総合技術研究所 人間科学研究部 部長  鈴木 浩明

 鉄道システムには、様々な場面で「人」が関わっている。人を目的地まで輸送することは鉄道の使命であり、人の乗った列車の運行を司るのも人である。また、安全で快適な車両を開発し、駅の利用しやすさを向上させるために、多くの人が関わっている。本発表では、人とシステムの相互作用という観点から、安全で利用しやすい鉄道システムの実現に向けたヒューマンファクタ研究を紹介する。ヒューマンエラーの防止、異常時の安全性の向上、快適な移動空間の実現などの話題を中心とし、あわせて人の感性や行動を定量化するための最新の研究開発に触れる。

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