「高温超電導磁石で世界最高記録の17テスラの磁場を捉えることに成功」

平 成 15 年 1 月 30 日
財団法人 鉄道総合技術研究所
財団法人 国際超電導産業技術研究センター

 財団法人鉄道総合技術研究所と財団法人国際超電導産業技術研究センターでは、新たな技術を採り入れた高温超電導体を使い、17テスラを超える磁場を捕捉することに成功しました。その成果を英国の科学誌「Nature」に投稿し、論文審査の結果、1月30日付けの本誌に掲載されることとなりましたので下記の通り、お知らせいたします。

 財団法人鉄道総合技術研究所(理事長:副島廣海)の富田優と超電導工学研究所*(所長:田中昭二東大名誉教授)の村上雅人は、高温超電導体を使って、高温超電導磁石としては世界最高である17テスラを超える磁場を捕捉することに成功し、その成果が「Nature」2003年1月30日号に掲載される。

 高温超電導体は大きな磁場を捕捉できれば、強力な磁石としてその応用が期待されている。なぜなら、永久磁石では磁場強度がせいぜい1テスラ(1万ガウス)程度であるのに対し、高温超電導バルク磁石は10テスラ以上の磁場発生が可能になるからである。

 しかし、このような強磁場では大きな電磁力と、超電導状態にするための冷却の際に発生する熱応力により、バルク体が破壊されることも分かってきた。それは、バルク体が陶器と同じセラミックス材料であるため、金属に比べて強度などの機械的特性が大きく劣るためである。

 著者らはバルク高温超電導体にエポキシ系樹脂を真空中で含浸するプロセスにより、その機械的特性が飛躍的に向上することを明らかにし、1998年以降、国際特許を含め、12件の特許を有している。既にその技術はフライホイール電力貯蔵装置、電流リードのほか、磁気分離装置、超電導モーター等に利用されて開発が進んでいるが、実用化の鍵となる高温超電導の発生磁場の向上が強く求められていた。

 実用化に向けて、頑強な強度を有する高温超電導体の研究を進め、2001年に国内最高の13テスラの強磁場捕捉に成功した(それまでは名古屋大の9テスラ)。しかし、その後、バルク体内部の温度上昇により、樹脂は熱伝導度が低いために放熱が進まず、バルク体が破壊してしまう現象に直面した。そこで、バルク体の中心に孔を空け、ウッドメタル含浸を施すことにより、熱伝導特性を飛躍的に向上させることに成功した。さらに、金属含浸する時に、孔に熱伝導性に優れたアルミニウムワイヤーを埋め込むことができることに気付き、機械的特性と熱安定性の両者に優れた超電導バルク磁石を作り出すことに成功した。

 今回、使用した高温バルク体はY-Ba-Cu-O系と呼ばれるもので、わずか直径2.6cm・高さ1.5cmの小さなものであるが、その2.6cmの空間に発生磁場17.24テスラ(絶対温度29ケルビン)という驚異的な磁場を捕捉した。

 これまでの世界記録はドイツIFWグループの14テスラ(2000年)である。ただし、破壊を防ぐため高温超電導体の周囲をスチールで完全に覆い固定しているため、外部で磁場を得ることが出来ない、また、熱安定性の技術が施されていないためこれ以上の強磁場が得られないという実用化への大きな欠点があった。

 今回の技術開発により、従来では考えられない10テスラを越える強磁場を、密閉空間ではない自由空間で利用できるようになり、新しい磁場科学が出現する。また、磁気分離装置、超電導モーター等の強磁場応用の実用化が期待される。

 本研究の一部は、新エネルギー産業技術総合開発機構からの援助を受けて実施したものである。


*)超電導工学研究所は国際超電導産業技術研究センター(理事長:荒木浩)の研究所である。




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